宋詞鑑賞・李清照・朱淑真  下の●●目次●●からどうぞ。

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49-瑞鷓鴣・雙銀杏


 瑞鷓鴣
  雙銀杏    李清照

風韻雍容未甚都
尊前甘橘可為奴。
誰憐流落江湖上
玉骨冰肌未肯枯。

誰教並蒂連枝摘
醉後明皇倚太真。
居士擘開真有意
要吟風味兩家新。


《和訓》   
風韻雍容として未だ都に甚(すぐ)れざるも
尊前の甘橘は 奴と為すべし。
誰ぞ江湖の上(ほとり)に流落するを憐れむ
玉骨氷肌 未だ枯るるを肯(がへん)ぜず。

誰ぞ蒂(たい)の並びし連枝を摘ましむや
酔ひし後の明皇は太真に倚りしに。
居士 擘(つみさ)き開けば真に意有り
風味を吟じ両家新たなるを要(たの)む。


この詞は七言絶句に似ている二首からなっているようにみえ、しかも詞意が連貫していないとも言われる。副題に「雙銀杏」とあるから「銀杏(いちょう・ぎんなん)」の二つの様態(樹と実)を詠ったものか。ちなみに公孫樹は雌雄異株で、実は雌株になる。並ぶ樹に寄せて詠んだものか。
李清照作が疑われている詞のひとつである。

《語釈》
・風韻:すぐれた趣(おもむき)。風趣。雅趣。
・雍容:おうような、おっとりした。
・都:京。都会風の。盛んな美しさの意。・甚:勝る、上回る。きわめて。
・尊前:貴人の前。おんまえ。
・甘橘:みかん。 ・橘:たちばな。ミカン類の総称。
・奴:しもべ。都に対する鄙(田舎者)の意か。己を卑下する語でもある。
・憐:哀れむ。いとおしむ、愛する。
・流落:うらぶれて流浪する。
・江湖:川と湖。長江と洞庭湖。天下各地、広い世間。
・肯:自分の意志で…すること、…する気になる。
・玉骨冰肌:美人の形容。梅の形容。「冰肌玉骨」・冰肌:氷のような罎美くしいはだ。
・蔕:ね、もと、草木の根。へた、ほぞ、果實が枝又莖と結びつく所。
・連枝:「長恨歌」に「在天願作比翼鳥 在地願為連理枝」とある。
・明皇:唐の玄宗皇帝。・太真:楊貴妃。唐の玄宗の愛妃。
・倚:もたれる、よりかかる。「玉樓宴罷醉和春」(長恨歌)
・居士(こじ):仕官せず民間にある高い学徳の人。処士。
・擘:つみさく。手や爪の先で植物などを裂く。両手で割る。
・要:求める、頼む。ねだる。…したい、…するつもりだ。


《詩意》
風趣には和やかなうるわしさがあり都風の美しさには勝りませんが
貴方の御前にある蜜柑はこれより田舎びたものと思います。
だれが都を遠く離れて江湖のほとりを流浪するのを憐れむでしょう
美しい樹肌はまだ枯れてしまったとは言えませんのに。(はたまた私も)

誰が酔った後に玄宗皇帝が楊貴妃に身を寄せていたように
並び連なりあっている枝を摘ませたでしょう。
学徳ある人が実を摘み割き開けばまことに心あるもの
その香りや味わいを吟じて両家(二つの樹)の新たなることを願います。



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
48-減字木蘭花・雲鬢斜簪

 減字木蘭花     李清照

賣花擔上
買得一枝春欲放。
淚染輕勻     (染=點)
猶帶彤霞曉露痕。

怕郎猜道
奴面不如花面好。
雲鬢斜簪
徒要教郎比並看。

      ( )内は異本

《和訓》
(にな)ひ上げ花売るに
一枝(ひとえだ)買い得しが春の放たれんと欲す。
涙の染めて軽く(あまね)く   
猶ほ彤(あか)き霞帯びたる曉の露の痕のごとし。

郎の猜(うたが)ひ道(い)ふを怕(おそ)
(わ)が面(おも)の花の面の好ろしきに如かずと。
雲なす鬢(びん)斜めにさしし簪(はなかざし)
(いたづ)らに要(もと)むは郎に比べ並べて看せしむること。



《語釈》
・賣:売る。・花:梅の花。
・擔:肩に担ぐ、担う。朝の花売りの様子。各戸を回ったようである。
・春欲放:蕾が将に開こうとするさま。春を迎えた喜びと、自分の生き生きした春(新婚)の喜びがあふれ出る。
・淚:露の滴。
・勻:むらのない。均等にする。ととのう、すくなし、あまねし。ひとし。
・猶:なお、いまだに。…のようだ、…のごとし。・彤:赤色。
・怕:恐れる、怖がる。 耐えられない、禁物である。 心配する、案じる。
・郎:女性から夫や恋人に対する旧時の呼称。
・猜:推量する、見当をつける。猜疑(さいぎ)心をいだく、疑う。
・奴:《旧》わたくし(若い女性の自称)。奴隷、しもべ。
・不如:及ばない。かなわない。それにこしたことはない。…がいちばんだ。
・雲鬢:美女の雲なす髪の毛。女性の髪の毛の譬え。・鬢(びん):耳際の髪の毛。もみあげ。「長恨歌」(白居易)に「雲鬢花顔金歩揺」とある。
・斜簪:ななめにさしたかんざし。花を簪のように挿す。
・徒:ただ。むなしい、何もない、ただ…だけ。あだ。むだ。たわむれる。ふざける。することもなく、手もちぶさたなさま。
・要:求める、ねがう。・教:(使役動詞)…させる。・比並:対比する。

《詩意》
朝の街に花売りが出て肩に花を担って売っているという
その一枝(ひとえだ)を求めました。
今にも咲き出しそうな蕾。
涙のような露がしっとりと全体を染めて   
いまだに、朝焼けに色ずく霞や露の痕を残しているよう。

私の容姿が花の美しい姿にかなわないと
あなたがお疑いになるのを案じるばかり。
豊かな美しい髪に斜めに挿した花簪(はなかんざし)と
比べ並べてみてください、「ねえ、私のほうが綺麗でしょ」



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
47-長壽樂・南昌生日


 長壽樂
  南昌生日    李清照

微寒應候
望日邊六葉 階蓂初秀。
愛景欲掛扶桑 漏殘銀箭
杓回搖斗。
慶高閎此際 掌上一顆明珠剖。
有令容淑質 歸逢佳偶。
到如今 晝錦滿堂貴冑。

榮耀 文步紫禁
一一金章兌。
更值棠棣連陰 虎符熊軾
夾河分守。
況青雲咫尺 朝暮入承明後。
看彩衣爭獻 蘭羞玉酎。
祝千齡 借指松椿比壽。


《和訓》
  南昌の生れし日に
寒さ微(おとろ)えて候(季節)に応へ
日辺を望む六葉の
階の蓂(瑞草)初めて秀(ほいだ)す。
愛景の扶桑に掛からんと欲し
漏れ残る銀の箭(や)
杓斗回り搖ぐ。
高閎の此の際を慶し
掌上の一顆明珠を剖(ひら)く。
(かんばせ)の淑なる質有ら令(し)
佳偶に帰り逢はむ。
如今(いま)に到り
昼錦 貴冑堂に満つ。

(は)え耀やき
(はなやか)に紫禁を歩むは
一一の金章兌。
更に棠棣の陰に連なれるに値ひし
虎符に熊の軾
河を夾みて分け守る。
(ま)して青雲咫尺
朝に暮に承明に入りて後。
彩衣を看て争ひ獻ずるは
蘭羞玉酎。
千齡を祝ひ
寿に比ぶるに松椿を借り指す。


この詞は李清照の撰したものという説があり、風格の異なるところから李清照作ではないと疑われている。
題からすると、韓肖冑の母文氏の作か。あるいは李清照は韓肖冑に詩を送ったことがあるというから、詞を記し韓肖冑を讃えたのだろうか。

《語釈》
・南昌:韓肖冑(1075〜1150)のこと。 韓肖冑、字は似夫。相州安陽の人。韓治の子。蔭官により承務郎となり、開封府司録をつとめる。徽宗により同上舍出身を賜り、衛尉少卿に任ぜられる。給事中として遼に使いし、宣和元年(1119)、知相州となる。建炎二年(1128)、知江州に転じ、召されて祠部郎となり、左司にうつる。紹興二年(1132)、吏部侍郎に進み、翌年、端明殿学士・同簽書枢密院事に任ぜられる。通問使として金に使いする。のちに知温州・知紹興府をつとめる。死後、元穆と諡された。
・日辺:太陽のあたり。天上。また、遠い所。
・蓂:蓂莢(メイケフ)は堯の時生じたりといふ瑞草 メデタキクサ の名。月の一日より十五日まで日每に一莢を生じ十六日より晦日まで日每に一莢を落す、之によりて曆を作ったという。
・愛景欲掛扶桑:朝日が昇る。・愛景:日の光、冬の太陽。 ・扶桑:神話で東海の日の出る所にあるという神木。
・漏殘銀箭:夜が明けようとするとき。
・杓回搖斗:北斗星が東に回る。春が来る。春が来ようとしている。・杓:星の名、北斗星の第五より第七に至るをいう ・斗:南北に在る星宿 ホシノヤドリ の名。北斗星。
・高閎:名門。高い門。・閎:ひろくす。門。
・際:めぐり合わせ、運。時。
・明珠:透明で曇りのない玉。また、すぐれた人物、貴重な人物のたとえ。
・掌上明珠:《成》掌中の玉、愛嬢。《転》非常に大切にしているもの。
・容:顔、容貌、様子。・淑:善良な、しとやかな。
・歸:…に属する,…(の所有)に帰する
・佳偶:よきつれあい。琴瑟(きんしつ)相和した夫婦、幸せなカップル。
・晝錦:錦を飾る、偉くなって故郷に帰る。「富貴にして故郷に帰らざるは錦を衣て夜行くが如し」『史記・項羽本紀』による。・貴冑:貴族の子弟。貴族の末裔。
・堂:正殿。
・榮耀:大いに栄えて、はぶりのよいこと。
・文:あや、はなやか。礼儀作法などになれて優雅なる意。かざる、うわべをかざりつくろう。
・紫禁:〔「紫」は紫微垣(しびえん)で、天帝の座の意〕皇居。内裏。
・一一:一つ一つ、いちいち、一人一人。
・金章:黄金製の印章。(美しくすぐれた文章。)
・兌:みどり色の印綬〔官吏がその身分や地位を示すしるしとして天子から賜った、印およびそれを下げるための組み紐(ひも)〕共に高官をいう。
・值:相当する、値する、それだけのねうちがある。出会う、当たる。
・棠棣:常棣 ニハザクラ、 ニワウメの古名。好い兄弟の情の比喩。
・連陰:木のかげの茂りて連る。
・棠陰:周の宰相召公噎が甘棠樹の下で民の訴訟を聞き、公平に裁断したので、民が召公の徳を慕い甘棠の詩(「蔽芾甘棠、勿剪勿伐、召伯所茇」「詩経−召南」)を作り詠(うた)った故事による。善治者。
・虎符(こふ):虎の形をした銅製の割符(わりふ)で、片方を君主,片方を現地司令官が所持する。徴兵する際、その印として用いられた。
・軾(ひざつき):宮中の儀式などで、地面にひざまずく時に地上に敷く半畳ほどの敷物。布や薄縁(うすべり)で作る。あるいは熊の模られた軾(車の横木)。・熊軾:地方長官を指す。
・夾河分守:武帝に仕えた杜周は廷尉、執金吾(中尉)を歴任し、最終的には御史大夫まで昇り、天寿を全うした。二子を川を挟んで郡守とした。
・況:なおいっそう。さらに。
・青雲:青色の雲、晴れた高い空。地位・学徳などが高いこと。世を避けて送る超然とした生活、また、高尚な志操。
・咫尺(しせき):近い距離。「咫尺の間」のように使う。
・承明:承明殿。
・彩衣:種々の色で模様を施した衣。
・蘭羞:美味佳肴をいう。
・玉酎:貴重な酒。

《詩意》
  南昌が生れた日に
季節の移ろいに応えるように寒さが衰えて
日当たりのよいところの六葉の
庭の瑞草が初めて穂を見せる頃、
冬の太陽が神木にかかろうとし
星のきらめきを薄れさせ夜は明けようとして
北斗星は東に回り、春が来ようとしていた。
名門のこのめぐり合わせを祝って
掌の上に一粒の曇りのない玉(優れた人)をもたらした。
容貌も美しく徳のある善良な気質もあって
よきつれあいにめぐり逢い、
今に到り
偉くなって 貴族の子は正殿を満たしている。

栄え耀やき
はなやかに内裏を歩むのは
それぞれ金章兌の高官。
更に好い兄弟の情厚き善治者の
虎符熊軾の地方長官は
河を夾んて郡守として分け守る。
朝に暮に内裏に入りて後は
なおいっそう地位・学徳は高くに近づいている。
彩衣をつけた姿を見て争うように獻じたのは
美味しい食べ物に美味しい酒。
千齡を祝って
松椿にたとえて寿を述べる。



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
46-多麗・白菊


 多麗
  詠白菊    李清照
小樓寒
夜長帘幕低垂。
恨瀟瀟 無情風雨
夜來揉損瓊肌。    (揉=摻)
也不似 貴妃醉臉
也不似 孫壽愁眉。
韓令偷香       (香=眅)
徐娘傅粉
莫將比擬未新奇
細看取 屈平陶令
風韻正相宜。
微風起
清芬醞藉
不減酴醾。      (醾=噌)

漸秋闌
雪清玉瘦
向人無限依依。
似愁凝 漢阜解佩
似淚灑 紈扇題詩。
朗月清風       (朗=明)
濃煙暗雨
天教憔悴瘦芳姿。   (瘦=度)
縱愛惜 不知從此
留得幾多時。
人情好
何須更憶
澤畔東籬。

       ( )内は異本
       (「蘭菊」と題するもある)

《和訓》
小楼の寒くして
夜の長きに帘幕(とばり)低く垂らして
瀟瀟(せうせう)たるを恨む 無情なるかな風に雨
夜来(よごろ)(さす)り損ふは瓊(たま)の肌(はだえ)。  
似ざるや 貴妃の酔ひし臉(かんばせ)
似ざるや 孫寿の愁ひの眉に。
韓令は香を盗み
徐娘(じょじょう)は粉(おしろい)に傅(かしづ)くも
比擬(なぞらふる)を将(もっ)て未だ新奇ならずとする莫(なか)
屈平陶令を細かに看取るや
風韻正に相宜ろし。
微風(そよかぜ)の起ちて
清らかなる芬(かをり)ただよひ 醞藉(あぢはひ)ふかくして
酴醾(にごれるささ)の減らざり。      

(やうやく)く秋闌(た)
雪清く玉痩せて
人に向かひて依依として限り無し。
愁ひ凝(こご)るは 漢の阜(おか)に佩(おびだま)を解くに似て
涙の麗しきは 紈扇(きぬのあふぎ)に詩を題するに似たり。
月朗らかにして風清(すが)しく      
煙濃くして雨暗く
天は教ふ、憔悴(やつれは)てて瘦(やせ)しに芳(かんば)しき姿を。  
(よし)や愛惜むも 此従(よ)りは知ざり
留め得たるや 幾多の時。
人の情(なさけ)好しきや
何ぞ須(すべから)く更に憶ふべし
沢の畔(ほとり) 東の籬(まがき)に。


《語釈》
・小楼:西楼。女性の居室。彼女の居る部屋。
・夜来:昨夜以来。
・瀟瀟:風雨が激しいさま。 もの寂しく感じられるさま
・瓊:玉のように美しい。・瓊肌(けいき):白菊をいう。
・揉:こする、もむ、さする。・損:損なう,傷つける
・貴妃:楊貴妃。唐の玄宗皇帝の妃。絶世の美女。
・臉:顔。表情。・貴妃醉臉:牡丹の花をいう。
・孫壽:梁冀の妻。容色は美しく而して善く妖態を為し愁眉を作り、齲歯笑をして以って媚惑を為すと後漢書【梁冀伝】にある。
・愁眉:眉が細く而して曲折しているもの。心痛の面持ちで憂いに沈んだ眉。
・新奇:目新しくて珍しいこと。
・韓令:韓弘。節度使として軍功がある。長安に邸を賜ったとき、庭にみごとな牡丹があったがそれをよろこぶのは女子供と、「吾、豈に児女子に効(なら)わんや」と、すべて切りすてた。晩唐の羅隠の七言律詩「牡丹花」に「可憐韓令功成後 辜負穠華過此身(哀れな事にかの大手柄を挙げた韓公は咲き誇る牡丹の美しさに目を向けず、つまらない人生を送ってしまった)とある。
・偷:盗む。掠める。
・徐娘:梁元帝蕭繹の妃徐昭佩。帝が片目だったので顔の半分だけ厚化粧して迎えると帝は憤然として帰ったという。また、「徐娘半老、风韵犹存」(年増だけれどまだけっこう色っぽい)という成語があるところから、女盛りを過ぎても美しさや魅力がまだ残っている女性という意味か。   
・粉:おしろい。・傅:傅(かしづ)く。傅(いつ)く。・傅粉:半面化粧の故事による。
・莫將:…をもって…とするなかれ。…を…としないでほしい。 ・莫:禁止、否定の辞。 
・將:ある物事、特に並列または対立する物事をとりあげて、推理・判断する気持ちを表す。あるいはまた。もしくは。さりとて。思っていたとおり。
・比擬:他のものとくらべる。なぞらえる。比較。
・屈平:楚の政治家・詩人である屈原。憂国の情のあまり、汨羅(べきら)で自殺した。自身の高潔な気節と心情を秋菊に託している。「夕餐秋菊之落英」(「楚辞・離騒」)。
・陶令:陶淵明(陶潜)、東晋の詩人。役人生活の束縛を嫌い故郷で酒と菊を愛する自適の生活を送る。「帰去来辞」「桃花源記」などが有名。「飲酒二十首」に「採菊東籬下 悠然見南山」(「其五」)「秋菊有佳色」(其七)とある。
・屈平陶令:屈原陶潜の愛した菊。
・看取:われを忘れて見つめる。心を奪われて見入る。見ほれる。
・風韻:風流なおもむき。風趣。風情のある味わい。風雅なおもむき。
・芬:よいかおりのする。匂いただよう。芳香。
・醞藉(うんしゃ):蘊藉と同じ。おくゆかしくおだやか。酣遒砲靴突召△蝓4淬澆ある。味わいがある。・醞:かもす、醸造する。
・酴醾(とび):にごりざけ、麥酒のカスを去らざるもの(濁醪)。また、蔓生の落葉灌木(白山吹)の名(夏初白花を開き色酴醾酒に似る故に名づく)でもある。
・闌:いちばん盛んな時。最盛時。季節が深まる。(時の区切りの)終わりに近い、遅い。
・玉瘦:李清照の「臨江仙 梅」や「殢人嬌」に同様の表現があり、玉は梅や栴檀をさしている。玉は美称で、ここでは白菊をいう。。
・向人:人に向かって。花が人に対して咲いていることを擬人化していう。
・依依:名残おしく離れがたいさま。恋い慕うさま。名残りが尽きぬさま。
・漢阜:山の名。・阜:丘
・佩(はい):おびだま。腰帯とそれにつりさげた玉(ぎよく)・金属器などの総称。
・漢阜解佩:故事による。「誓いし人の帰らざる怨み」をいう。
・紈扇:絹張りのうちわ。
・題:書き記す。
・紈扇題詩:これも「恩情の途中で途絶えた女の慨嘆」をいう。「古詩源」に漢代宮中の女官班桜韻痢岷絏旅圈廚搬蠅垢觧蹐法己を扇に見立てながら、夏の間は微風を発して喜ばれても、やがて秋風とともに棄捐されるように、自分も捨てられる身であったことを嘆いたものがある。能の「班女」の典拠でもある。
・煙:霞(かすみ)。靄(もや)。
・縱:たとえ…でも、よしんば。
・何須:なんぞすべからく。する必要がない。なんぞもちゐん。 ・須:当然。すべからく…べし。
・澤畔:「楚辞・漁父」に「屈原既放、游於江潭、行吟澤畔」とある。
・東籬:陶潛の「飮酒二十首 其五」に「采菊東籬下、悠然見南山」とある。
・籬:竹・柴などを粗く編んで作った垣。まがき。ませ。ませがき。

《詩意》
私の居る部屋は秋も深まり涼しさをまして
夜の長さにとばりを低く垂らしています。
激しく無情な風や雨にひたすらもの寂ししくなるのを恨むばかりです。 
昨夜来(寒さで私は・雨風が白菊の)艶やかな肌をさすり続けています。  
牡丹のごとき楊貴妃のほのかに酔った表情に思い比べ
妖しくも艶かしいといわれた孫寿の愁ひの眉に思い比べます。
節度使の韓弘は庭の見事な牡丹を皆掠め取り
梁元帝蕭繹の妃の徐昭佩は半面の化粧で仕えましたが
これに譬えるのは少しも新奇でないと言わないでください。
屈原や陶潜の愛した白菊の花を細かに心を奪われて見入りますと
その風情のある味わいは本当にすばらしいものです。
そよかぜが吹くと
清らかな香りがただよい おくゆかしい味わいが増しますから
お酒も減らないほどに この白菊をじっと眺めています。      

しだいに秋が深まり
清らかな雪が降り 白菊はやつれやせてほっそりとしてしまいましたが
私に対していつまでも名残りが尽きない風情です。
その愁いにじっと思いをこらす姿は 漢阜で腰の飾りを解いた娘の怨み似て
その涙の露の麗しさは 女官班桜韻絹の扇に詩を題した嘆きに似ています。
月が晴れ晴れと明るいく 風のさわやかで気持ちがよい日にも      
また、霧が濃く 雨の暗く降る日にも
やつれはてやせてはいても 心引かれる芳しい姿を見せています。  
よしんばどれだけ名残惜しく思っても これからのことは判りません
どれほどの時間 引きとどめることができるでしょう。
人(屈原陶潛また私)の菊へのいつくしみがどれほどのものでも
どうしてこれ以上に菊に心をかければいいのでしょう
屈原や陶潛に倣い、沢のほとり 東のまがきのもとに佇んだままに。

(李清照の詞には古詩に拠るものが多く見られるが、語釈に一通りは記したがこの詞は特に多くの故事を踏まえている。)




| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
45-永遇樂・春意


 永遇樂    李清照
落日熔金
暮雲合璧
人在何處?
染柳煙濃     (濃=輕)
吹梅笛怨
春意知幾許?
元宵佳節
融和天氣
次第豈無風雨?
來相召 香車寶馬  (香車=眅車)
謝他酒朋詩侶。

中州盛日
閨門多暇
記得偏重三五。
鋪翠冠兒
拈金雪柳     (拈=捻、撚)
簇帶爭濟楚。
如今憔悴
風鬟霜鬢     (霜=霧)
怕見夜間出去。  (見=向)(=怕向花間重去)
不如向 帘兒底下
聽人笑語。

       ( )内は異本
       (「元宵」と題するもある)

《和訓》

落つる日の 金を熔かし
暮るる雲は 璧を合はすも
人 何処(いづく)にや在る。
柳を染むる(かすみ)濃く
「梅」を吹く笛を怨みて
春の(おもひ) 知るは幾許(いくばく)か。
元宵の佳節
天気 融和すれど
次第(たちまち)に (あに)風雨の無からんや
来りて相ひ召くは
香車 宝馬なれど
()の酒朋詩侶を謝したり。


中州の盛んなる日
閨門 (いとま)多く
記し得たるは 三五を(ひと)へに重んぜしこと。
(かわせみ)()きし冠兒(かんむり)
()りし雪柳
()ぶる(かざり)濟楚(うるはし)きを争ひき。
如今(いま) 憔悴(やつれ)はてて
風の(まげ) 霜の(びん)となりては
夜さりに出去(いづ)るを怕見(ためら)ふ。
簾兒(みす)底下(もと)()りて
人の笑ひ語れるを聴くに()かざり。


《語釈》
・熔金:金を溶かしたように。夕陽が、金を溶かしたように美しいさま。
・合璧:璧を合わせたような美しい味わい。第一句と第二句は対句。
・人:李清照自身のこと。自然に比べ変わってしまった我が身。
・染柳:柳が色づき、夕日に染まるっている。
・煙:もや、霞んでいるさま。また、柳の枝の茂るさまの形容。
・梅笛:笛による「落梅花」という曲。漢代の「横笛曲」にある「梅花落」。
・怨:女性の心の奥に秘められた、愛情に関する恨み。・「吹梅笛怨」と「染柳煙濃」とは、対。
・春意:春の気配。春情(夫の肌を求める心)の意も含まれようか。 
・幾許:いくばく。いかばかりか。どれほど。少し。
・元宵:上元(陰暦正月十五日)の夜。その年の初めての満月の夜。元夕。元夜。元宵節には、豊年を祈願して、提灯や飾りを掲げるという。月夜の祭りなので、宵に外出する。
・融和:気候が穏和になる。 
・次第:たちまちのうちに。だんだんと。
・豈無:どうして…ないだろうか。いや、絶対に…である。反語。
・風雨:風と雨。また、好ましくない状況。ここは、身に降りかかった災難、あるいは亡国の難を指す。
・來相召:(友人が)招待にやって来る。
・香車寶馬:すばらしい車と立派な馬。人の車馬への美称。お車。
・謝:謝絶する。お断りする。 
・他:その。 
・酒朋詩侶:風雅交際の友人。
・中州:汴州(べんしゅう)。北宋の首都汴京(開封府)は豫州(現・河南省)にあり、九州(中華)の中央に位置していたことにより中州という。
・盛日:(北宋の首都汴京時代の)華やかだった日々。
・閨門:婦人の居室の入り口。また内室。ここでは、李清照の居室。
・多暇:ゆとりがある。暇が十分にある。
・記得:(過去の)…を覚えている。記憶している。
・偏重:もっぱら重視する。
・三五:陰暦正月十五日の元宵節のこと。
・鋪翠冠兒:翠(カワセミ)の羽をあしらった冠。・鋪:ならべる。敷きつめる ・児:接尾辞でかわいい感じのものに付く。
・撚金雪柳:宋代の婦人が元宵節につけた金糸と絹紙で作る髪飾り。
・簇帶:髪に飾った装飾の品々。 ・簇:群がる。一かたまりになる。 ・帯:身に着ける。
・爭:競う。装いの美しさを競う。 
・濟楚:澄んで整った。端正で麗しいこと。
・如今:いま。現在。 ・憔悴:やせおとろえる。やつれる。
・風鬟霜鬢:苦労心痛のために鬟(まげ)は乱れ、鬢(びん)は霜の如き白髪になる。
・怕見:気が進まない。おっくうである。 
・出去:出かける。外出する。
・不如:しかず。…に及ばない。…の方がよい。 
・向:ちかづく(近)。
・簾兒:みす、すだれ。児は、接尾辞。 
・底下:…の下で。…の後ろで。・底:とどまる(止)。いたる(至)。
・聽人笑語:人が楽しげに談笑するのを聴く。

《詩意》
落ちる夕陽が、金を溶かしたように美しく
璧を合わせたような美しい雲が暮れ行く空に浮かんでいます。
昔の私は一体どこへ行ってしまったのでしょう。この自然に比べて変わってしまった我が身を愁うるばかりです。
色づいた柳の濃くたなびく霞に
「梅花の落つる」と怨みの色を奏でる笛の音に
いかほどかの春の気配を感じます。
正月十五日の元宵の節句をむかえ
天気は穏和になりましたが
だんだんと好ましくない状況が迫っているよう。
友人が立派な馬車で元宵のお祭りを観ようと誘いやってきましたが
その酒や詩の友のを招待をお断りいたしました。

かつて都が華やかだった日々
私にはのどかなゆとりがあって
元宵節を特にいとおしみ重んじていたことを好く覚えています。
かわせみの羽をあしらった冠に
金を撚り合わせた髪飾りなど
身にまとった飾りの美しさを競い合ったことでした。
今は やつれはてて
心痛のために鬟(まげ)は乱れ、鬢(びん)は霜のように白くなってしまいました。
夜の提灯の並ぶ華やかな街に出かけるのはためらわれます。
家にいて外と隔てる簾の後に座って
外を行く人々の笑い語る様子を聴くことにいたしましょう。


《鑑賞》
最晩年の作でしょうか。
「人何処(いづく)にや在る」の「人」を清照自身と読みましたが、亡き夫をしのんでいるとも読めます。一説には中年のころの作とし不在の夫を嘆いての詞ともいいます。
 まず目の前の情景を詠い、次いで昔の懐憶に移り、再び過去の思いでの上に立った現在の心境を詠っています。出歩くよりも、むしろ、御簾の後ろにいて、他の人の楽しむ声を聴いていた方がいいとは、この時の李清照の正直な気持ちなのでしょう。
 晩年は臨安(浙江杭州)に住んでいました、当時南宋時代も既に比較的安定し、元宵節の日、臨安の街はにぎわっていて繁栄する光景を呈していたのでしょう。


《訳詩》
  宵の祭りに
燃える夕日に
彩る雲に
あなたはどこにと偲べども
かすむ柳に
笛もかなしく
湧きし思いは知れるほど
新らしき望を讃えて
春の空穏やかなれど
雨風のいつに吹くやら
友の招きの
懇ろなれど
いずる気もなく断りぬ

華やぐ都
のどけき心
昔を今に偲べるは
羽根の冠り
黄金の飾り
競ひしことの懐かしき
今やつれはて
髪白く
外行くこともためらはれ
外と隔つる部屋にいて
外行く笑い聞くばかり


(追加更新09/10/8)

| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
44-念奴嬌・春のこころ


 念奴嬌
   春情    李清照

蕭條庭院
又斜風細雨    (又=有)
重門須閉。    (須=深)
寵柳嬌花寒食近  (花=鶯)
種種惱人天氣。
險韻詩成
扶頭酒醒
別是閑滋味。
征鴻過盡     (征=飛)
萬千心事難寄。  (難=誰) 

樓上幾日春寒   (春寒=寒濃)
簾垂四面     (四=三)
玉欄干慵倚。
被冷香消新夢覺  (新夢覺=清夢斷)
不許愁人不起。
清露晨流
新桐初引     (新=疏)
多少游春意
日高煙斂     (日=雲)
更看今日晴未?
  (今=明)
      ( )内は異本
      (詞牌を「壺中天慢」「滿庭芳」とするもある)

《和訓》 
蕭條たる庭院に
又風斜めに吹き 雨細くして
重門須(すべか)らく閉ざさるべし。
柳花を寵嬌するも寒食近く
種種に人を悩ます天気なり。
韻険(むづか)しき詩成りて
扶頭の酒の醒めしが
別に是れ滋味の閑たり。
(かへりゆ)く鴻(おほかり)の過ぎ尽くして
万千の心事は寄せ難し。

楼上幾日か春寒く
(みす)は四面に垂れて
玉の欄干(おばしま)に慵(ものう)く倚(もた)る。
(ふすま)の冷めて香も消え 新しき夢さへ覺めて
愁ふる人の起きざるを許さず。
清き露は晨(あした)に流れ
新しき桐 初めて引(ひら)けば
多少(いくばく)か春の意を遊ぶ
日高くして煙(かすみ)(おさ)まりて
更に看るに 今日晴るるや未(いま)だしや。


《語釈》
・蕭條:ものさびしいさま。
・庭院:庭。前庭や中庭。 庭:前庭。院:中庭。   
・重門:家々の門。
・須:すべからく…べし。当然。する必要がある。せねばならぬ。
・寵:偏愛する。特別にかわいがる。君主などが特別に目をかけてかわいがる。
・嬌:甘やかす。猫かわいがりにかわいがる。
・柳花:柳の花。ここは柳絮(りゅうじょ・やなぎのわた)か。
・寒食:寒食節。清明節の前日で,陽暦の4月3日から5日頃に当たる。冬至後一〇五日目の日は風雨が激しいとして、この日には火を断ち、煮たきしない物を食べた風習。また、その日。冷食。かんじき。
・種種:いろいろ。さまざま。副詞的にも用いる。
・險韻詩:険韻を使った詩。・險韻:詩を作るに用いるべき文字の少い韻。又、まれな韻字。
・扶頭酒:頭を抱えるほどに強い酒。・扶:力をかして支へる。
・滋味:深い味わい。・閑:しずか、ひま。ふせぐ。とづ。
・鴻(おおかり):大雁。ひしくい。大形のガン。
・楼上:2階、階上。高い建物の上。ここは「西楼=女性の部屋」のあたり。
・簾:カーテン、すだれ、みす。
・慵:ものうい、だるい。
・倚:もたれる、よりかかる。
・被:衾。ふすま、掛け布団。
・晨:あさ。夜明け。
・桐:桐の花。柳絮と桐の花に春光(春景色)をみる。
・多少:どれほど多くの。わずか。すこし。
・游春:郊外まで外出して春景色を楽しむこと。寒食節の翌日の清明節には「踏青節」の名もあり、訪れた春を楽しみ野山を散策した。
・煙:かすみ。もや。詩詞ではカスミを「霞」は別として、煙、烟、靄(もや)の字で表すことも多い。
・斂:おさまる。引っ込める。おさめる。
・晴未:晴れるのだろうか。未は、文末で、疑問を表す。…かどうか。

《詩意》
ものさびしい庭に
また風が斜めに吹き 小雨も降っていて
幾重にも重なる門はみな閉じられていることでしょう。
柳の花を格別にいとおしんでみますが 寒食の節の近いこの頃は
さまざまに人を悩ましくするいらだたしい天気です。
韻を踏むのが難しい詩を作って
まわりのよい酒も覚めてしまいましたが
これもまた別の味わいがあって静かなものです。
北へ帰る雁はみな帰り尽くしたのでしょう
心にたまるたくさんの思いを伝えることは難しくなってしまいました。(いったい誰に伝えればよいのでしょう)

私のいる部屋はこの何日かの春の冷え込みに
カーテンが四方に垂れていて
美しい欄干にものうく寄りかかります。
夜具は冷め香も消えてしまい 新しい夢からも覚めてしまいましたから
世を憂えている人(私)が起き上がらずにいることは許されないのでした。
清らかな露が朝になって流れおち
新しく芽吹いた桐の花が初めて開ききますと
いくらかの春らしい心に楽しみ遊べます。
日が高く上って 霞が消え
さらに空を眺めてみます、今日は晴れるのかしら? それともまだ?と。 


《訳詩》
  春のこころ
寂しき庭に風吹きて
雨さえ混じる春の朝
門を閉ざせる庭深く
柳いとしき寒食の
定めぬ空ぞ恨めしき。
作るに難き詩の成れば
深き酔ひさへ覚めゆきて
深き味わひ静もりぬ。
雁行き去りて術もなく
積もる思ひを何処(いづこ)にや。

独りの部屋に春寒く
四方(よも)に垂れ衣(ぎぬ)廻らせて
寄るも物憂きおばしまや
香消へ果ててしとね冷め
起きるに如かず夢覚めて。
朝に清らの露のこぼれ
芽吹きし桐の花咲けば
春の心の目覚めけり。
はや靄消えて眺めいる
今日晴るるやと春の空。


(追加更新09/10/5)

| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
43-慶清朝慢・春の宴


 慶清朝慢    李清照

禁幄低張
雕欄巧護     (雕=彤)
就中獨佔殘春。  (佔=占)
客華淡佇     (客=容)(淡佇=澹沱)
綽約俱見天真。
待得群花過後
一番風露曉妝新。 (妝=粧)
妖嬈艷態     (=妖嬈態)
妒風笑月     (妒=妬)
長殢東君。

東城邊
南陌上
正日烘池館
競走香輪。    (競=竟)
綺筵散日
誰人可繼芳塵?
更好明光宮殿   (殿=裏=裡)
幾枝先近日邊勻  (近=向)
金尊倒
拚了盡燭    (盡=畫)
不管黃昏。
    (管=愛)
       ( )内は異本
     
《和訓》
禁幄(きんあく) 低く張り
雕欄(ちょうらん) 巧みに護りて
なかんずく残春を独占す。
客 華やかにして 淡佇し
綽約(しゃくやく)として 倶(とも)に見ゆるは天真なり。
群花の過ぎし後を待ち得るに
一番の風露に 暁の粧(よそおい) 新たなり
妖嬈(ようぜう)たる艶態
風を妬み 月に笑ひ
長く東君に殢(しなだ)る。

東城の辺(ほとり)
南陌(なんぱく)の上
正に日は池館を烘(てら)
競って香輪を走らす
綺筵の散ずる日
誰が人か芳塵を継ぐ可き
更に明光宮殿の好しきに
幾枝か先ず日近き辺り(ととの)
金樽 倒れ
(ま)ひ了(をは)り 燭尽きしが
黄昏るるも管(かま)わず。


《語釈》
・禁幄:禁裏(宮中)の帷(とばり、カーテン)。・幄(あく):とばり
・雕欄:彫り物を施した立派な欄干。転じて、立派な御殿。これらは牡丹の花を守る囲いを表わす。
・就中:なかんずく。中でも、多くの物事の中でとりわけ。特に。
・客:牡丹の花。(訪れ来る人。彼女自身をもさすか。)
・華:つややかに華やぐ。
・淡佇:あっさりしていて品のあるさまにたたずむ。
・綽約:姿がしなやかでやさしいさま。しとやか。たおやか。
・天真:自然のままで飾りけのないこと。無邪気な、単純な。
・妖嬈:あでやかでなまめかしいさま。
・妒=妬:ねたむ、嫉妬する。
・殢:つかれくるしむ。まとわりつく。とどまる。「恋」に同じともいう。
・東君:春の神。(日神、太陽。亭主、主人。) 
・陌:街道。
・池館:庭苑の池のほとりの休息所。
・烘:てらす、あきらか。火をたく。
・香輪:香車。車の美称。
・綺筵:綺麗なむしろ。酒宴の席。
・芳塵:散る花びら。春の芳しい気配。
・明光宮殿:長安にある武帝の時代に造営された明光宮。ここは汴京の宮殿を指す。
・近日邊:皇帝の身辺。陽射しのあたっている所。
・勻-諭Г箸箸里奸ひとし。「匂」とよむか。
・金樽:金の盃。酒杯。
・拚:まふ(舞)。てをうつ。ひるがへる、ひらひらと飛ぶ。塵を掃ふ。
・不管:構わない。気にかけない。・管:つかさどる。とりしきる。かまう。

《詩意》
宮殿の帳は低く張り巡らされ
彫り深い欄干が 巧みにその周りを護るように囲んで
ひときわ名残の春を独り占めしているようです。
花は つややかに華やぎ 品あるさまにたたずみ
しなやかな優しさ中にもあどけなさをみせています。
群れ咲く花の盛りを過ぎるのは待って
一番の風が吹いて 暁の露に濡れて よそおいを新たにしています。
そのあでやかでなまめかしい姿は
吹く風をうらみ 月に笑いかけ
春の陽射しをながく浴びて疲れさせるのです。

東のお城の周りにも
南の大通りにも
また苑の池のほとりの日に照らされる館のあたりにも
みな競うように花見の車を走らせていました。
あちらこちらに華やかな酒宴の席が見えましたが
芳しく散る花びらを誰が引き継ぐことが出来るでしょう。
それに比べいっそう御殿はすばらしく
幾枝か先ず陽射しのあたる(帝の)辺りがととのっていました。
金の盃は空になって倒れ
舞うことも終わり 燭火が尽きてしまっても
黄昏になったことを気にもかけないほどの楽しさです。


《鑑賞》
 隋から唐の時代に牡丹が尊ばれ、寺院などに牡丹園が造られ、それ以降、牡丹は花の王様としての地位を確立し、「看遍花無勝此花(あまねく花を看るも此の花に勝るものなし)、萬萬花中第一流(徐夤)」と絶賛されています。
白居易も「買花」や「牡丹芳」で長安の人々が牡丹の時期を待ちわび、都をあげて芳しい牡丹花の話題に熱中したことを書き残しています。当時は、牡丹の見ごろとされた3月の15日前後に花見が盛んにおこなわれ、宮廷では「花くらべ」(闘花)が催され、「皆千金を以て名花をかい、庭苑の中に植え、以て春時の闘に備えた」といいます。
「花開き花落つ二十日。一城の人皆狂うが如し(白居易)」「三条九陌花時の節、万馬千車牡丹を看る(徐凝)」と花見に狂奔したのでしょう。
《賞牡丹》劉禹錫
庭前芍藥妖無格,池上芙蕖淨少情。
唯有牡丹真國色,花開時節動京城。


《訳詩》

 牡丹を愛でて
懇ろに囲われた垣の中
牡丹花は遅き春日を一人占め
華やかにほんのりと
なよやかにおもいのままに
春の花終るを待ちて
風に揺れ露置いて咲き誇る
妖しくも艶やかに
風妬み月笑い
春の日を包み込む

東の街も南の路も
春のうららに競い合う
花見の宴の賑やかさ
引継ぎ行くは何処の人
帝の宮は好もしく
幾枝の花が咲き匂う
いざ飲まんかな
ともし火尽きて
黄昏れるともかまわずに


(追加更新09/9/30)

| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
42-聲聲慢・秋情


 聲聲慢    李清照

尋尋覓覓
冷冷清清
淒悽慘慘戚戚。
乍暖還寒時候
最難將息。     (最=正)
三杯兩盞淡酒
怎敵他 晚來風急?  (晚=曉)
雁過也
正傷心       (正=縱)
卻是舊時相識。   (卻=却)

滿地黃花堆積。
憔悴損
如今有誰堪摘?
守著窗兒      (守著=守着)
獨自怎生得遏
梧桐更兼細雨
到黃昏 點點滴滴。
這次第
怎一個 愁字了得!

         ( )内は異本
        (「秋情」と題するもある)

《和訓》
尋ね尋ね 覓(もと)め覓めて
冷冷(ひえびえ)と 清清(ひややか)にして
悽悽(いたま)しく 惨惨(むご)かれば 戚戚(うれ)うるばかり。
(あたた)かなれど いまだ寒きに還(かえ)る時候(ころおい)
将息(いこ)うには はなはだ 難(かた)かり。
三杯(さんばい)両盞(にはい)の淡酒(うすざけ)にては
(いか)でか 敵(かな)はむ 
  他(か)の晩来(たそがれ)の風 急(はげ)しきに。
(かり)の飛びゆくや
げに 心 傷(いた)ましむるは
さてこそ 是(こ)れ 旧時(むかし)の相識(なじみ)なればか。

地に満ちし黄菊の花も堆積(つみかさな)りて
憔悴(やつれ)はて 損(そこ)なふなるに
如今(いま)(なん)の 摘(つ)むに堪(た)へうる有(あ)らんや。
窓児(まどべ)にありて 守著(まも)りいて
独自(ひとり) 怎生(いか)でか黒(くる)るを得(まちえ)ん。
梧桐(あおぎり)に更(さら)に細雨(こさめ)の兼(ふりかか)
黄昏(たそがれ)に到(いた)りては
点点滴滴(しとしと ぽつぽつ)しずくしたたる
(こ)の次第(ありさま)
(いかで)(うれひ)の一字(ひともじ)にて了(つく)し得(え)んや。


《語釈》
・この詞は「秋情」と題される本もある。
・尋尋覓覓:「尋覓」(たずね、さがす)を畳字とした表現。以下畳字を多用している。
・冷清:物寂しい。ひっそりしているさま。人けのない、さびれた。
・凄慘:痛ましい。悲痛である。目もあてられないほどむごたらしい。
・戚:憂える。悲しむ。愁い。
・乍:なったと思ったら、…たばかり。 ・還:まだ、なお。
・將息:休息する。休養する。
・盞:小さくて平べったい杯。
・淡酒:手軽な酒。肴もない酒。
・怎敵他:いかんぞ、それに、かなはんや。・怎:=いかでか、如何、何如。どのように。 ・敵:かなう。あたる。
・雁過:雁が北へ帰る。彼女は北へは帰れない状況にある。
・卻是:かえって、どちらかといえば、むしろ、予想などとは反対に、逆に。
・滿地:あたり一面。 ・黄花:菊の花。
・如今:(過去と比べて)いま。現在。 ・有誰:誰が…するか(誰もしない)。反語表現。
・守著窗兒:窓辺にじっと寄り添う。 ・守著:守は見守る。じっと見つめている。著は動詞の後に付き動作の持続を表わす助字。・窗兒:窓。児は接尾辞。かわいいものに付く。
・獨自:一人で、自分だけで。ひとりぼっちで、ただひとりで。
・怎生:どんなにしたら=如何。
・遏夜になる。暗くなる。
・更兼:更にその上。 ・細雨:しとしとと降る雨。こまかい雨。
・點點滴滴:ぽつぽつ ぽたぽた(雨音)。擬声語。
・這:これ、この。「此」と似た働き。 ・次第:しだい。なりゆき。事情。
・怎一個、愁字了得:どうして「愁」の一字だけで表現しつくせようか。
・了得:納得することが出来る。 ・了:《可能補語として》動作、状態が完成段階まで達しうるか否かを表わす。

《詩意》
どんなに尋ねもとめても 失ったものは戻らず
ひえびえとした ひややかな境涯にあって
いたましく むごい想いばかりが蘇って 愁いを深くするばかりです。
暖かくはなってきたものの いまだ寒さの戻る時候でもあって
なかなかに安らいだ気持ちにはなれないのです。
お酒で憂さを紛らすにも 三杯二杯の淡いお酒では
どうして安らげましよう
その上 たそがれに吹き始めた風は激しさをましているのです。
雁が北へ飛びゆくのでしょうか
その声にまた 心 傷みます
雁も昔を偲ばせるなじみあるものだからこそでしようか。

あたり一面に咲き乱れた黄菊の花も
やつれはて そこなわれて
今は 摘むにたえるものもなく 贈る人もいないのです。
窓べにすわり じっと物思いにふけるしかありません。
ただひとり どのようにして暗くなるのを待てばいいのでしょう。
梧桐(あおぎり)にまた小雨が降りかかり 
夕暮れの中 しとしと ぽつぽつと 雫くが滴り落ちています。
この景色心情を
どうして「愁」の一字で言い尽くせましょう。

 (建炎三年(1129)八月十八日、病の夫明誠が亡くなり、李清照も病を得、また金兵の南下がいよいよ迫まるなか、独り建康に留まっていた折の作。この詞にはその悲傷愁苦の心情がせつせつと詠まれています。)


《付録》



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
41-鳳凰臺上憶吹簫・千万遍の陽関


 鳳凰臺上憶吹簫    李清照

香冷金猊
被翻紅浪
起來慵自梳頭。   (慵自=人未)
任寶奩塵滿     (塵滿=閑掩)
日上帘鉤。
生怕離懷別苦    (離懷別苦=閑愁暗恨)
多少事 欲說還休。
新來瘦       (新來=今年)
非干病酒
不是悲秋。

休休!       (=明朝)
這回去也
千萬遍陽關
也則難留。
念武陵人遠   (人=春)(人遠=春晚)
煙鎖秦樓。     (=雲鎖重樓)
惟有樓前流水    (惟有=記取)(流=僉
應念我 終日凝眸。
凝眸處
從今又添      (又添=更數)
一段新愁。 
   (一段=幾段)
     ( )内は異本
     (「閨情」「離別」と題するもある)

《和訓》
くゆりし香も金猊(ひとり)に冷めて
(しとね)は紅き浪かとばかり翻(ひるが)へり
起きあがるにも 髪梳(くしけず)るをも物憂けり。
宝奩(ほうれん)の塵の満つるもそのままに
日はのぼりて、簾鈎(すだれつりかぎ)の上にあり。
離別の懐(おも)ひに苦しむを怕(おそ)れては、
説かんと欲して、なほ止むこと多し。
近頃の痩せ衰へしは
(ささ)に病みしにはあらず、また
秋を悲しむにしもあらぎりき。

(や)めむ、やめむ、
この度 出で行くは、と
千万遍の陽関(別れ歌)
また則(すなは)ち留め難かかりき。
武陵の人の遠きを念(おも)ひ、
秦楼の 霧に閉ざせる。
惟だあるは 楼前に水の流るるのみ
(まさ)に我を念ふべし、
我は終日(ひねもす)(ひとみ)(こ)らさんに。
眸凝らす処
今従(よ)り又 添ふるは
一段の新たなる愁ひ。


《語釈》
・香:香炉で焚く香。 ・冷:香炉の火が消えて。
・金猊(きんげい・ひとり):黄金づくりの唐獅子の香炉。
・被:掛け布団。・翻:掛け布団が乱れた様子。・紅浪:乱れた掛け布団。金猊の対。
・慵:物憂い。おっくう。 ・梳頭:あたまをすく。
・任:まかせる。塵の積もるがままに放置しておく。・寶奩(ほうれん):化粧箱。
・任寶奩塵滿:夫が側にいないため、身だしなみを整える気が起こらないこと。
・日上簾鈎:日が高く簾の鈎よりも昇ってしまった。
・生怕:ひどく恐れる。
・多少事:多くのこと。
・欲…還…:…をしようとしては、なおもまた…だ。
・説:はなす。・休:やめる。
・新來:近来。ちかごろ。
・非干:関係がない。・病酒:酒を飲み過ぎて体を壊す。
・不是:…ではない。
・這回:この回。この度。・去:行く。
・陽關:陽關三畳。王維の「送元二使安西」(「渭城朝雨輕塵,客舎戌慳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人」)。送別の曲として詠われる。
・也則:…も また すなわち。
・難留:とどめがたし。出立を抑えられない。
・念:おもう。念ずる。
・武陵人:陶淵明の「桃花源記」にでてくる、戦乱を避けた別天地を訪れた人。ここは平安をもたらす夫をいう。
・煙:煙霧。霧。 ・鎖:とざす。 
・秦樓:婦人の居住する建物。秦穆公の娘弄玉の住んだ鳳楼をさす。弄玉の夫の蕭史は蕭を吹くことが巧みで、孔雀や白鶴を庭に呼び寄せることが出来、後、鳳凰がやってくると夫婦で鳳凰に乗って昇天したという話が、『列仙伝』に見える。ここは、睦まじく夫婦で蕭を吹いて楽しく過ごした部屋の意。その楼閣がもやに閉ざされていると詠い、一人取り残された寂しさを際立たせる。詞牌では「鳳凰臺」を指す。
・終日:一日中。 ・凝眸:ひとみを凝らす。夫を偲び瞳を凝らして、帰りを待つ姿。

《詩意》
いつしか香炉の火も消えていて
苦しみに悶えて 上掛けの蒲団は紅い浪かとばかりに乱れ
起きあがるにも 髪をくしけずるにも物憂いばかり。
朝の身だしなみをする気も起こらず化粧箱の塵もそのままに
いつのまにか日はのぼって、簾の鈎の上にまで射しこんでいます。
あなたと離れ離れになってしまうことを思いその苦しさをおそれて、
お話しようとして、やはりためらったことも多くございました。
近頃私が痩せ衰えましたのは
お酒のために病んだせいではありません、また
秋が悲しいというせいでもありません。

この度のお出かけは、どうぞお止めください、と
千万遍の別れ歌を唄いましても
なんともあなたをお留めすることは難かしゆうございました。
戦乱のない桃源郷のような穏やかな別天地は手に届かぬものと思い、
私はかつては二人で楽しんだ部屋にひとり霧に閉ざされて取り残されています。
ただただ部屋の前にむなしく水が流れ 時が過ぎてゆきます。
どうぞ私のことを念じてください、
私は一日中流れる水に眸を凝らしてあなたを偲んでおりますので。
あなたを偲んで眸を凝らしていますと、
今より又 
ひときわの新たな愁いが添うばかりです。

(離愁を嘆く名作といわれる詞。早い時期の作品という。)



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
40-滿庭芳・海角天涯に愁う


 滿庭芳    李清照

芳草池塘
儕庭院
晚晴寒透窗紗。
■■金鎖    (■■=玉鉤)
管是客來唦。  (唦=渺)
寂寞尊前席上
惟■■ 海角天涯。 (■■=愁■)
能留否?
酴醾落盡  (酴醾=酴醿)(落盡=已盡)(=酴酴醾已盡)
猶鰺■■。  (■■=梨花)

當年
曾勝賞
生香熏袖
活火分茶。
■■龍嬌馬  (■■=・この句5音)
流水輕車。
不怕風狂雨驟
恰才稱 煮酒殘花  (殘=箋)
如今也
不成懷抱
得似舊時那。 (那=哪)
  (■﹕原缺字)( )内は異本


《和訓》
芳草の池塘
緑陰の庭院
晩くに晴れて寒の窓紗を透す。
玉鉤の金鎖   
管は是れ客来たりて唦たり。  (唦=渺)
寂寞たる尊前の席上
惟だ愁ふ 海角天涯。 
能く留まるや否や?
酴醾落ち尽くして   
猶ほ頼るに梨花有り。  

当年
(かつ)て勝賞す
生香の袖を熏(くゆ)らせ
活火の茶を分かちたるを
(〔思い起こすは〕)龍なる嬌馬
流水の軽車。
風狂雨驟を怕(おそ)れず
(あた)かも才(わづか)に煮酒残花あるを稱す
如今(いま)
懐抱を成さず
旧時に似たるを得んや。
  


《語釈》
・池塘:池。池の堤。《朱熹の偶成詩に「未覺池塘春草夢」の句がある。・池塘春草夢:池の堤に春草の萌える頃、楽しくまどろんだはかない夢。》
・晚晴:夕方、雨が上がって空が晴れること。
・透:(光や液体が)通る、突き抜ける。
・窗紗:窓のカーテン。
・唦=渺:ひろし、はるかなり。ここは、かすかに遠し。
・寂寞:(じゃくまく、せきばく)ひっそりとしてさびしいさま。
・尊前:酒樽(さかだる)の前。樽前。酒盃を前にした。・尊前:身分の高い人の前を敬っていう語。おんまえ。
・海角天涯:地の果て。天の涯。(を放浪し続ける境涯)・海角:海の角。海の彼方。
・酴醾:トキンイバラ(ボタンイバラ)。バラ科の落葉低木。キイチゴの仲間だが花がバラに似て、枝にはとげがある。5月、八重咲の白い花をつける。)
・当年:当時、あの頃。
・曾:かつて、以前。
・勝賞:すぐれていることを讃える。すぐれているところを鑑賞する。
・生香:香気。
・活火:盛んにおこっている火。
・分茶:茶戯の一種。お茶の入れ方の一つ。聞香杯に立ちのぼる香りを楽しむ。
・龍嬌馬:龍の彫り物のある馬車。宮廷の馬車。・嬌:かわいがる。愛くるしい。
・流水輕車:流れ模様の漆塗りの軽やかな車。龍嬌馬とともに華やかだった都の象徴。
・風狂雨驟:風が吹き荒れ、雨が急に降り出す。
・怕:恐れる、心配する、案じる。
・恰才稱:かろうじてやっと言う(褒める)。
・煮酒:湯を入れた鍋に片口の酒を入れ蓋をする燗の仕方で温めた酒。酒の香りが高くなる。・あるいは煮物に使う酒。
・如今:(過去に対して)今、今どき、近ごろ。
・懷抱:胸に抱く。心で思う。ある思いや計画などを心の中に持つこと。また、その思いや計画。抱懐。
・得似:怎似(いかでか似たる)と同じで、どうして昔のままでありましょうの意。
・那:疑問の助字。

《詩意》
池の堤に春の草が萌え
中庭にも新緑の陰が濃くなってきました。
夕方、雨が上がって空が晴れると、寒さが窓のカーテンを抜けてきます。
そのカーテンの美しい留め金には金の鎖がついています。   
笛の音は訪れる人があって、かすかに遠くなりました。
ひっそりとさびしく 盃を前にして(あなた様の前で)
ただ地の果てを放浪し続ける境涯を愁いています。 
長く留まることができますか? できないの?
トキンイバラの花は落ち尽くしてしまいました。  
それでやはり頼るものといえば梨の花ばかり。  

ああ、あの頃
そのすばらしさを愛でて
香気に袖を熏(くゆ)らせ
盛んな火でお茶の入れてその香りを楽しんだことでした。
また更に思い起こすのは華やかな街を走る龍の彫り物のある馬車
流れ模様の漆塗りの軽やかな車。
風が吹き荒れ、雨が急に降り出すのを案じることはありません。
なんとかやっと燗酒(あるいは煮物用の酒)と花がまだ残っているのを讃えましょう。
近ごろは
何の夢ある思いも抱けなくなりました。
どうして昔のままの華やかな楽しい思いを抱き得ましょうか。



| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
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