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補遺



1 
  浣溪沙(春夜)  朱淑眞
玉體金釵一樣嬌。背燈初解繡裙腰。衾寒枕冷夜香消。
深院重關春寂寂,落花和雨夜迢迢。恨情和夢更無聊。


玉體金釵一樣嬌。(玉体の金釵は一様に嬌なり)
背燈初解繡裙腰。(灯を背に初めて解く繡裙腰)
衾寒枕冷夜香消。(衾寒く枕冷たく夜の香消ゆ)
深院重關春寂寂,(深院の重關に春寂寂として)
落花和雨夜迢迢。(落花雨に和し夜迢迢たり)
恨情和夢更無聊。(恨情夢に和し更に無聊なり)

・玉體:お体。真っ白で美しい身体。
・金釵(きんさい):金でつくったかんざし。
・一樣:すべておなじさま。
・嬌:愛くるしい。うつくしい、なまめかしい。
・繡裙腰:腰にまとった美しい刺繡のあるスカート。・裙:もすそ。スカート。
・衾(ふすま):掛けぶとん。
・夜香:夜に焚かれた香。夜香木は夜になると強い芳香を放つ花、夜香花。
・深院重關:貴婦人の部屋。
・深院:奥庭。中庭。
・重關:幾重にも閉じられた門。
・寂寂:静かでさびしいさま。
・和:仲よくする。調和する。
・迢迢:遠くへだたるさま。 ここは夜の静かな深まりをもいうか。
・無聊:わだかまりがあって、心楽しまないこと。退屈なこと。気が晴れないこと。



  自責 二首    朱淑眞
女子弄文誠可罪,那堪詠月更吟風。
磨穿鐵硯非吾事,繡折金針卻有功。

悶無消遣只看詩,不見詩中話別離。
添得情懷轉蕭索,始知伶俐不如痴。


女子弄文誠可罪,(女子の文を弄ぶは誠に罪なるべし)
那堪詠月更吟風。(那(なん)ぞ堪へんや月を詠じ更に風を吟ずるを)
磨穿鐵硯非吾事,(鉄の硯を磨き穿つは吾事にあらず)
繡折金針卻有功。(金の針を繡(ぬ)い折るに却って功有り)

・那堪:どうして堪えられようか。なんぞ…に堪えん。
・磨穿鐵硯:詩文を推敲、研鑽すること。
・非吾事:私の関心事ではない。
・繡折金針:家庭婦人の仕事。


悶無消遣只看詩,(悶へ無く消遣に只だ詩を看る)
不見詩中話別離。(詩中に別離を話するは見ず)
添得情懷轉蕭索,(添へ得たり情懐転(うたた)蕭索)
始知伶俐不如痴。(始めて知る 伶俐は痴に如かずと)

・消遣:気をはらすこと。気ばらし。暇をつぶす。
・情懷:心の中に思うこと。所懐。
・轉:転(うたた)、状態がどんどん進行してはなはだしくなるさまをいう。いよいよ。ますます。一層。
・蕭索:もの寂しいさま。うらぶれた感じのするさま。蕭条。
・伶俐:頭のはたらきがすぐれていて、かしこい・こと(さま)。聡明。
・不如:及ばない。かなわない。…に越したことはない。
・痴:愚かなこと。




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25.月華清 梨花



25.月華清 梨花   朱淑眞

 月華清
  梨花

雪壓庭春、香浮花月、攬衣還怯單薄。
欹枕裴回、又聽一聲干鵲。
粉淚共宿雨闌干、清夢與寒雲寂寞。
除卻、是江梅曾許、詩人吟作。

長恨曉風漂泊、且莫遣香肌、瘦減如削。
深杏夭桃、端的為誰零落。
況天氣、妝點清明、對美景、不妨行樂。
拌著、向花時取、一杯獨酌。


※この詞、テキストは三行目が、
「粉淚共、宿雨闌干,清夢與、寒雲寂寞。」である。
ここでは「粉淚共宿、雨闌干,清夢與寒、雲寂寞。」と読んでいる。


《和訓》
雪は庭の春を圧し、香りて浮かぶ花と月、
衣を攬(と)りて還(なほ)単(ひとへ)の薄きに怯(おび)ゆ。
枕 欹(そばだ)て裴回(たもとほ)り、又聞くは一声の干鵲。
粉涙の共に宿して雨闌干、清夢寒さに与(くみ)し 雲の寂寞たり。
除却す、是れ江梅の曾(かつ)て詩人に吟じ作るを許せしを。

長く恨みて暁風の漂泊し、
且(か)つは香肌に遣(つかは)す莫(なか)れ、痩せ減りて削る如し。
深き杏 夭(わか)き桃、端的誰が為に零落せる。
況してや天気、清明に妝(よそほ)い点じ、美景に対し、行楽を妨げず。
拌著して、花に向かひ時に取りて、一杯独り酌(く)む。


《語釈》
・壓:動きを押さえる、静かにさせる。制圧する、鎮圧する。
・攬:とる。抱き寄せる。掌握する、独占する。
・還:なお,依然として
・怯:おびえる。ひるむ。恐れて気力が弱まる。気持ちがくじける。
・單:ひとへ。
・欹枕:枕をかたむける。まくらをそばだてる。寒さのために、蒲団に寝たままで聴く姿勢のこと。・欹:そばだてる。一方に傾ける。「遺愛寺鐘欹枕聴」(白居易) 
・裴回:=俳佪·徘徊。同じ場所を行ったり来たりする。行き廻る。もとおる。
・干鵲:水辺のカササギ。アオサギのことか。・干:たに(澗)みぎは(水涯)ほとり。
・闌干:涙のとめどなく流れるさま。・雨闌干:雨のように涙を流すさま。
・粉淚:おしろいと涙と
・與:与。与(くみ)する。味方する。
・寂寞:ひっそりとしてさびしいさま。
・長恨:長く忘れることのできない恨み。終生の恨み。一生の恨み。
・漂泊:あてもなくさまよい歩く。流れただよう。
・除卻:除く。・卻=却:…し去る。強調の助辞。滅却、忘却と同様の用法。
・曾:かつて、以前。(動作や状況が過去に属することを示す)
・許:許す、許可する。約束する。
・且莫(しょばく):しばらく……避けられたし。しばらく……するなかれ。・且:かつ。一方では。次々に。しばらく。しばし。同時に。また。その上。・莫:…なかれ。
・遣:派遣する、送り出す。にがす。(憂いなどを)追い散らす、発散する。
・瘦減:痩せ減る。痩せ細る。
・深:色が濃い。
・夭:(草木が)よく茂った、緑つややかな。・夭桃:美しく咲いた桃の花。若く美しい女性の形容。
・端的:はたして、果然。はっきりと。確定。明白。たちどころに。
・零落:おちぶれる。
・況:いわんや。まして、さらにいっそう。なおさら。
・清明:清明節。二十四節気の1つ。4月5日ごろ。
・妝點:粧点。よそおいかざる。化粧する、装う。
・行樂:たのしみをなす。遊び楽しむこと。
・拌著:拌着。酒をかき混ぜて。
・拌:攪拌(かくはん)する。かき混ぜる。わる。なげうつ。口論する。・着:…している、…しつつある。
・時:その時。時には。


《詞意》
雪は庭の春を圧するように降り積もり、香りのなかに花と月が浮かび上がります、
衣を上に纏ってもなほ単(ひとえ)の着物の薄さに気持ちも萎えます。
枕をそばだて寝返り打って、また水辺で一声高く啼く青鷺の声を聞きます。
白粉と涙とは一緒なって雨のように流れます、清らかな夢は寒さに溶けいり、雲はひっそりとさびしいかぎり。
以前詩人が川辺の梅を詠うほどの春の暖かさでしたが、それもこのところの寒さに退けられてしまいました。

忘れえぬ恨みを思わせる暁の風が冷たく流れます、
しばらくは香りある(梨の花の)肌に吹き付けないでください、削る如くに痩せ細ってしまいます。
色濃い杏の花や美しい桃の花(のような若い私)を、はたして誰が色褪せさせたのでしょう。
ましてやこの天気、清明節にお化粧を新たにし、きれいな景色を前に、楽しみを妨げるものはありません。
濁り酒をかき混ぜつつ、梨の花に向かい時に手に取って、ただ独り一杯の酒を酌みます。



  梨の花ほのけく白く月の夜に
     かげして散りぬ また一つ散る  立原道造



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24.西江月 春半



 西江月   朱淑眞
  春半

辦取舞裙歌扇、賞春只怕春寒。
卷簾無語對南山、已覺冏邱妃鼻

去去惜花心懶、踏青步江干。
恰如飛鳥倦知還、澹蕩梨花深院。



《和訓》
  春半ば
舞ひの裙(もすそ)に歌の扇を辦(あがな)ひ取りて、
春を賞(め)でつつ只だ春の寒きを怕(おそ)る。
簾(すだれ)を巻きて語る無く南山に対(むか)ふや、
已に覚めて緑肥ゆるに紅(くれなゐ)の浅し。

去り去るに花を惜しみ心懶(ものう)く、
青きを踏みて江干(かはべ)を諒癲覆修召蹐△罅砲燹
恰(あたかも)飛ぶ鳥の倦(う)みて還るを知る如くに(還るや)、
澹蕩たり梨花の深院。


《語釈》
・辦:買い備える。する、処理する。
・裙:もすそ。スカート。
・怕:心配する,案じる
・南山:陶潛の「飮酒二十首 其五」に「采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕佳,飛鳥相與還。」がある。
・冏邱妃鼻緑の葉が濃くなったが、花の赤い色はまだ薄い。
・去去:去っていく。
・懶:だるい、ものうい。おっくうだ。大儀である。気分がすぐれない。
・踏青:清明節(二十四節気の1つ。4月5日ごろ)の頃に山野を散策する。萌(も)え出た草を踏んで野に遊ぶこと。野遊び。
・步:しづかにあゆむ。
・江干:川岸。岸辺、川べり。
・鳥倦知還:「鳥倦飛而知還」(歸去來辭・陶潛)による。鳥が終日飛んで、倦めば、帰ることを知る。(普通、人の出処の自然なのに喩える。)
・澹蕩(たんたう):ゆったりしてのどかなさま。
・深院:奥庭。中庭。院は、塀や建物で囲まれた中庭。塀で幾重にも区切られた庭園。

※李清照の「如夢令」に「應是冏邱帆蕁廚ある。この「緑肥紅痩」は「緑の葉が茂り、花びらが散って花の赤い色が減った」ことを詠った擬人的な表現が有名な一節だが、ここでは、春浅き頃を詠っている。
※前連で春のはじめを、後連で春半ばを詠う。


《詞意》
春の用意に舞いの衣に歌扇を買いますが、
春を愛でつつもやはり春の寒さに心痛めます。
すだれを巻いて言葉も無く語る人も無く南の山に向かいます、
春はすでに覚めて緑の葉が濃くなってはいても花の紅はまだ薄いままです。

花を惜しみ心はものういままに、春が過ぎていきます、
清明節には青い草を踏んで川辺をそぞろ歩きします。
野遊びの後まるで飛ぶ鳥が飽きて帰るのを知っているように家に帰りますと、
梨の花の咲く奥庭はゆったりとのどかな春の只中です。



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23.卜算子 (竹裡一枝斜)



 卜算子    朱淑眞

竹裏一枝斜、映帶林逾靜。
雨後清奇畫不成、淺水堊善董

吹徹小單于、心事思重省。
拂拂風前度暗香、月色侵花冷。



《和訓》
竹裏一枝斜き、映を帶びて林 逾(いよいよ)静かなり。
雨の後 清奇にして画成らず、浅水に横たはるは疏(まば)らなる影。

吹き徹るは小単于( しょうぜんう )、心事の思ひ重ねて省る。
拂拂たる風前 暗(ひそや)かなる香の度(わた)りて、月の色は花を侵して冷たし。


《語釈》
・竹裏:竹藪の中。裏は中。
唐の王維の「竹里漾廖巫弸鼠篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」がある。
・映:光の反射。夕映え。
更に王維の「鹿柴」「空山不見人,但聞人語響。返景入深林,復照青苔上。」が思い浮かぶ。
・逾:いよいよ。いっそう、更に。
・清奇:清新で珍しい。清らかで珍しい。
・畫不成:絵にも描けない美しさ。
・疏影:まばらな影。
・心事:心に思い惑う心配事。
・小單于:ここは風がさわさわと吹き通る様をいう。・小:形や規模が小さい、すこし。・單于:めぐる。善于。
   「聴暁角」(李益)
  邊霜昨夜墮關楡 (辺霜昨夜関楡に堕つ )
  吹角當城片月孤 (吹角 城に当って片月孤なり)
  無限塞鴻飛不度 (無限の塞鴻 飛び度(わた)らず )
  秋風吹入小單于 (秋風吹き入る 小単于(しょうぜんう))
・拂拂:風がそよそよ吹くさま。
・風前:風の当たる所。
・侵:次第に入りこんでかすめる。


《詞意》
竹林の中に竹が一枝斜むいて、夕日の光が差込み、いよいよ林は静かです。
雨のあがった後のあまりの清らかさは絵にもかけないほど、浅く流れる水に日の影がまばらに散っています。

風は心地よくさわさわと吹き過ぎますが、愁いの思ひを更に重ねて振り返っています。
風そよぐ中 ひそやかな香があたりを覆い、月の色は冷たく花に染み入っています。



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22.念奴嬌 二首催雪(その二)



 念奴嬌      朱淑眞
  催雪(その二)

鵝毛細翦、是瓊珠密灑、一時堆積。
斜倚東風渾漫漫、頃刻也須盈尺。
玉作樓臺、鉛溶天地、不見遙岑碧。
佳人作戲、碎揉些子拋擲。

爭奈好景難留、風僝雨僽、打碎光凝色。
總有十分輕妙態、誰似舊時憐惜。
擔閣梁吟、寂寥楚舞、笑捏獅兒只。
梅花依舊、歲寒松竹三益。



《和訓》
鵝毛細く翦(き)れ、是れ瓊珠の密に灑(ま)きて、一時に堆積す。
斜めに東風倚りて渾漫漫、頃刻(しばらく)や須(すべから)く尺に盈(み)ちるべし。
玉作の楼台、鉛溶くる天地、遥かなる岑(みね)の碧(みどり)を見ず。
佳人戯れて、碎き揉み些子(いささか)抛擲(なげう)つ。

争奈(いかで)か好景留め難し、風僝(おこ)り雨僽(そぼふ)り、光凝らす色を打ち碎く。
総(すべ)て十分に軽妙の態有り、誰ぞ旧時に似て憐惜せん。
梁(はし)に担閣して吟じ、寂寥たる楚舞、また、獅兒只(しし)を笑ひ捏(こ)ぬ。
梅花旧に依り、歳寒くも松竹は三益なり。


《語釈》
・鵝毛:鵝鳥(がちよう)の羽毛。また、きわめて軽いもののたとえ。ここは雪の比喩。
・翦:剪。きる、たつ。風が寒さを帯びている様。
・瓊珠(けいしゅ):玉。 ・瓊:美しい玉(ぎよく)、たま。赤色の玉。・珠:玉。真珠。
・密:みつに、すき間もないほどにぎっしりと。ひそかに、人に知られないようにこっそりと。
・灑:まく、ばらまく。
・一時:一時に、ある時期に集中して起こるさま。
・堆積:積み重なる。
・斜倚:そっと立っている位置を斜めに移る。
・倚:もたれる、よりかかる。恃(たの)む、頼りとする。
・東風:春風。
・渾:渾然、いくつかのものがとけ合って区別できないさま。入り乱れるさま。自然のままの。
・漫漫:(時間、空間が)果てしなく広がるさま。
・頃刻:しばらくの時間。わずかの間。
・須:…すべきである,…しなければならない。
・盈:満ちる。
・玉:相手の身体・言行を美化する
・樓臺:高殿(たかどの)と台(うてな)。屋根のあるうてな。また、高い建物。
・玉作樓臺:雪積もるうてな。あるいは七宝楼台のことか。それなら、月、嫦娥の居所をいう。
・鉛:なまり。鉛色、鉛のような青みがかった灰色。
・岑:みね。 ・碧:あお、きよし、たま、みどり。
・作戯:ふざける。たわむれる。打ち解ける。くだけた態度をとる。
・碎:くだく、くだける。・揉:もむ、もめる。
・些子:少し、いくらか。
・抛擲:投げる。
・爭奈:どうして…になろうか。いかんせん。いかでか。
・僝:しめす、あらわす。そなえる。ののしる。
・僽:うれうるさま。(そぼふる。)
(・風僝雨僽:苦しみを経験し尽くすことの形容。憔悴する。)
・總:ともあれ。およそ、大体。総じて。
・軽妙:すっきりしていてうまみのある
・憐惜:あわれみおしむ。
・擔閣:担擱。滞在する、留まる。遅れる、長びく。
・梁:はり。橋。
・寂寥:ものさびしいさま。ひっそりしているさま。寂寞(せきばく)。せきりょう。
・楚舞:楚の国の舞。「呉歌楚舞」
・捏:こねる、つくねる。
・獅兒:獅子の子。獅子舞。通常2人で獅子に扮して、別の1人が刺繍入りの絹のまりを持って、獅子の舞踊をからかう。
・只:動物・鳥・虫を数える。
・三益:詩語で「良友」をさす。


《詞意》
雪は細かく冷たく、美しい玉がぎっしりとばらまかれるようにして、瞬く間に降り積もります。
春風はそっと引き下がり冬と春がとけ合って果てしなく広がるよう、しばらくは雪が高く積もるでしょう。
雪が高殿をお作りになり、空も地も鉛色に溶けて、遥かな青い嶺は見えません。
私は戯れに、雪を掬い丸めてちょっと投げ上げてみます。

なんとこの好い景色は留め難いことでしょう、風が吹き雨がそぼふり憔悴するうちに、美しい色の雪は打ち碎かれてしまいます。
ともあれ、それはそれでとてもすっきりしたもの、誰が以前のように憐み惜しむでしょう。
春になれば、橋に留まり詩を吟じ、ものさびしい楚の舞を見、獅子舞に笑いこけます。
梅花は昔のままに咲き、寒くはあっても松も竹も良い友なのです。


《参考》
・樓臺
   「春宵」 蘇東坡
  春宵一刻値千金
  花有清香月有陰
  歌管樓臺聲細細
  鞦韆院落夜沈沈

・楚舞
   楽府「烏棲曲」  李白
  姑蘇臺上烏棲時 (姑蘇の台上、烏棲む時)
  呉王宮裏酔西施 (呉王の宮裏に、西施を酔はしむ)
  呉歌楚舞歓未畢 (呉歌楚舞、歓び未だ畢らず)
  青山欲銜半邊日 (青山銜(ふく)まむと欲す、半辺の日)
  銀箭金壺漏水多 (銀箭金壷、漏水多し)
  起看秋月墜江波 (起って看る、秋月の江波に墜つるを)
  東方漸高奈楽何 (東方漸く高く、楽しみを奈何せん)


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21.念奴嬌 二首催雪 その一



 念奴嬌     朱淑眞
  二首催雪
  (その一)

冬晴無雪、是天心未肯、化工非拙。
不放玉花飛墮地、留在廣寒宮闕。
雲欲同時、霰將集處、紅日三竿揭。
六花翦就、不知何處施設。

應念隴首寒梅、花開無伴、對景真愁絕。
待出和羹金鼎手、為把玉鹽飄撒。
溝壑皆平、乾坤如畫、更吐冰輪潔。
梁園燕客、夜明不怕燈滅。



この詞はうまく読めない。和訓も詞意も覚束無いままである。


《和訓》
  「雪を催(うなが)す」(きざせる雪)
冬晴れて雪無く、是れ天心未だ肯へんぜずも、化(造化)の工(たく)みにして拙(つたな)きにあらず。
玉花地に飛び墮ちて放たれず、留め在るは広寒宮の闕。
雲の同時に欲するは、霰の将(はた)集まる処なれど、紅日は三竿掲(かか)ぐ。
六花の翦り就くは、何処の施設なるかを知らず。

応に隴首の寒梅を念ひ、花開くも伴ふ無きに、景に対し真に愁絶す。
待ち出づるは和羹の金鼎の手、為(まさ)に玉塩を把りて飄撒せんとす。
溝壑皆平らかに、乾坤画の如くして、更に吐くは冰輪の潔。
梁園の燕客、夜明けて灯の滅するを怕(おそ)れず。


《語釈》
・催:催促する。もよおす。きざす。
・天心:空のまんなか。空の中心。天の心。天子の心。
・化:自然が万物を育てる力。化育。造化。[花]。
・工:技術、技能。…に巧みだ、長じる。上手なさま。巧妙。
・化工:自然の造化。
・玉花:美しい花。雪。
・留在:留め置く。
・広寒宮:月の中にあるという宮殿。月宮殿。広寒府。
・闕:宮門の両わきに築いた台。その上を物見とした。
・霰:あられ。雪と雹(ひよう)との中間の状態のもの。
・將:はた。また。あるいはまた。もしくは。 (ひきいる。ひきつれる。伴う。)
・紅日:真っ赤な太陽。多く朝日をいう。
・三竿:〔竹竿(ざお)三本つなぎあわせた程度の高さの意〕日月が空のかなり高い所にあること。
・揭:掲(かか)げる。高く上げる。かざす。
・六花:〔六弁の花の意から〕雪の異名。りっか。
・翦就:(翦裁と同様に)美しい様をいうか。・翦 きる。はさむ。・就 つく。つける。
・施設:建造物。ほどこし、しつらえる。
・應:当然…すべきだ。
・隴首:丘の上。隴山(甘肅省と陝西省の境の大きな山)のほとり。隴頭。辺境にあるとりでで、蒼茫・悲涼の感情をもたらす。
・真:確かに、本当に。
・愁絕:ひどく愁える。
・和:なごむ。やわらぐ。引き分ける。
・羹:スープ。あつもの。
・鼎:食物を煮るのに用いた金属の器。煮炊き用の器スープ。あつもの。
・為:まさに‥んとす。
・把:握る、手に持つ。
・鹽:塩。
・飄:上よりひるがへり落ちる。
・撒:まく。ばらばらに散るように落とす。
・溝:みぞ。せせらぎ。
・壑:谷間、山あいの池。
・乾坤:天と地、宇宙。
・冰輪:冰=氷。月の異名。冰鏡。北宋の詩人の孔平仲(1044?〜?))の詩に「團團冰鏡吐羌院廖扮澆月は罎輝きを吐く)とある。
・吐:はく。ひらく。
・潔:きよい。心が耄である。
・梁園:河南省東部、商丘の東にある、漢代に梁の孝王が築いた園。修竹園。
・燕客:宴客。・燕:さかもり。さかもりする。やすむ、くつろぐ。
・怕:恐れる、心配する、案じる。


《詞意》
冬空は晴れていて雪の気配は無いですが、
天の心がまだ雪を降らす気はなくとも、自然の営みが拙いわけではありません。
雪は放たれることなく、月の宮殿の門に留め置かれています。
雲は、また霰を集まめようとしていますが、日は空高く上がっています。
雪が美しくふっているのは、何処のあたりなのでしょう。

ただ隴山のほとりに咲く寒梅を想い、花開いても誰もいない景に対して愁いに心痛めるばかり。
それはまるで、温かなスープの入った器を持つ手が、まさに美味しい塩をぱらぱら撒く時を待ち受けるよう。
せせらぎも池も静まり、あたり一帯はまるで絵のようで、その上月は清らかな光を放っています。
庭にくつろぐ客は、夜明けて灯が消えるのを案ずる気配もありません。


《参考》
隴首について。
  「探春」  戴益(宋・生卒年不詳)
 盡日尋春不見春 尽日春を尋ねて春を見ず
 芒鞋踏遍隴頭雲 芒鞋踏みて遍(あまね)し隴頭の雲
 歸來適過梅花下 帰り来たりて適(たまたま)梅花の下を過ぐ
 春在枝頭已十分 春は枝頭に在りて已に十分なり

梁園について。
  盛唐の詩人、高適(702?-765)の「宋中十首の其一」         
 梁王昔全盛、(梁王 昔 全盛にして)
 賓客復多才。(賓客 復 多才なりき)
 悠悠一千年、(悠悠一千年)
 陳迹惟高臺。(陳迹(なごり)には 惟 高台あるのみ)
 寂寞向秋草、(寂寞として秋草に向かへば)
 悲風千里來。(悲風 千里より来たる)
もう一首。
  「梁園吟」  李白(701-762)
 我浮黃雲去京闕,掛席欲進波連山。
 天長水闊厭遠涉,訪古始及平臺間。
 平臺為客憂思多,對酒遂作梁園歌。
 卻憶蓬池阮公詠,因吟淥水揚洪波。
 洪波浩蕩迷舊國,路遠西歸安可得。
 人生達命豈暇愁,且飲美酒登高樓。
 平頭奴子搖大扇,五月不熱疑清秋。
 玉盤楊梅為君設,吳鹽如花皎白雪。
 持鹽把酒但飲之,莫學夷齊事高潔。
 昔人豪貴信陵君,今人耕種信陵墳。
 荒城虛照碧山月,古木盡入蒼梧雲。
 梁王宮闕今安在,枚馬先歸不相待。
 舞影歌聲散冀咫ざ餘汴水東流海。
 沉吟此事淚滿衣,黃金買醉未能歸。
 連呼五白行六博,分曹賭酒酣馳輝。
 歌且謠,意方遠。
 東山高臥時起來,欲濟蒼生未應晚。




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20.鵲橋仙 七夕



鵲橋仙      朱淑眞
   七夕

巧雲妝晚、西風罷暑、小雨翻空月墜。
牽牛織女幾經秋、尚多少、離腸恨淚。

微涼入袂、幽歡生座、天上人間滿意。
何如暮暮與朝朝、更改卻、年年歲歲。



《和訓》
巧みなる雲の妝(かざ)れる晩、
西風 暑を罷(しりぞ)け、小雨翻り空しく月墜(お)つ。
牽牛織女幾ら秋を経つるや、
尚ほ多少(いかばかり)、離腸の恨みの涙あらむ。

微(かす)かなる涼しさ袂に入り、幽(かそけ)き歓びて生(あ)れ座して、
天上人間に意(こころ)満つ。
何如(いかん)か暮暮と朝朝、更に改たむるや、年年歳歳。


《語釈》
・巧:巧む。技巧をこらす。たくみな技術。
・妝:かざる。化粧する、装う。ここは夕焼けをいう。
・西風:西から吹く風。にしかぜ。秋風。
・罷:まく。しりぞける。
・翻:ひるがえる。高く上がってひらひらと動く。
・空:うつける。寂しい。人のいない。うつろである。
・墜:おちる。ぶら下がる。衰へる。
・牽牛織女:七月七日の七夕(たなばた)に天の川に隔てられた牽牛と織女が年に一度出逢うという伝説。・牽牛:牛飼い。彦星。・織女:織り姫。・七夕:乞巧奠(きっこうてん)
・幾:いくつ。いくら。どんなに。どれほど。
・尚:なお。ますます。よりいっそう。まだ。
・多少:どれくらい、いくつ。どれだけか。
・離腸:甚だしい別離の悲しみ。断腸の思い。
・袂:たもと。袖。
・幽:かそけし。かすかである。淡い。
・生座:生まれわす。おいでになる。来られる。
・天上人間:天上世界と人間世界。
・滿意:みちあふれる。
・何如:どのようであるか、どうか。どうして及ぼうか。なんぞしかん。
・暮暮與朝朝朝:毎夕毎朝。暮も朝もいつもいつも。
・卻:助字として他の動詞の下に添える。
・年年歳歳:毎年毎年。
  劉希夷(651〜678)の「代悲白頭翁」に 
  年年歳歳花相似 (年年歳歳花相似たり)
  歳歳年年人不同 (歳歳年年人同じからず)がある。


《詞意》
美しく彩られた雲がたなびく晩です、
秋風が残暑をしりぞけ、小雨が風に舞うなか空しく月は沈んでいきます。
彦星と織り姫はどれほどの逢瀬の秋を過ごしたでしょう、
さらにまたどれほどに、別離の悲しみに涙ながすのでしょう。

風が袂に入ってほんの少し涼しさが増し、淡い歓びが生まれます、
天上世界も人間世界も秋の気配が満ち、想いも満ちてきます。
暮に朝にいつもいつも、いえいえ、毎年毎年繰り返されるこの喜びと悲しみをどうしたらいいのでしょう。



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19.菩薩蠻 (濕雲不渡溪橋冷)



 菩薩蠻    朱淑眞

濕雲不渡溪橋冷、娥寒初破東風影。
溪下水聲長、一枝和月香。

人憐花似舊、花不知人瘦。
獨自倚闌干、夜深花正寒。



《和訓》
湿雲渡らず溪橋冷たきも、娥寒初めて破れ東風の影あり。
渓下の水声長く、一枝月に和して香る。

人は花の旧に似るを憐れみ、花は人の痩せせたるを知らず。
独り闌干に倚るに、夜深かまりて花正に寒し。


《語釈》
・濕雲:春霞。・濕:ぬれた、湿った。
・溪:渓。谷川、小川。
・娥:美女。美しい。(・嫦娥:月世界に棲むといわれる仙女。月の異名。・娥影:月の異名、嫦娥の影。)
・破:わる、われる。ひらく。
・東風:春、東から吹く風。こち。
・影:存在を暗示するもの。兆候。
・和:なごむ。したしむ。合わせる。調和して一つになる。
・憐:いとおしむ、愛する。賞美する。めでる。惜しむ。
・瘦:痩せる。やつれる。憂愁のために身も心も疲れ果てたさまの比喩。李清照の「醉花陰」に「人比黄花痩(人は黄菊の花よりも痩せたり)」とある。
・獨自:一人で,自分だけで。
・倚:寄る。
・正:ちょうど、正に。動作の進行や状態の持続を表わす。


《詞意》
まだ湿った春霞がたなびくことなく小川にかかる橋は冷たいのですが、
凛とした寒さを破って初めて春風がたつ気配がします。
すると川の下の水音がのどかにひびき、一枝の梅が月に合わせるように香ります。

私は花が昔と同じように咲くのをいとおしんでいますが、
花は私が愁いに疲れ果てているのを知らずげに咲きます。
独り闌干に身を寄せていると、夜の深かまりに花はなんとも寒げです。


《補》
劉希夷(651〜678)の「代悲白頭翁」に 
 今年花落顏色改 (今年花落ちて顏色改まり)
 明年花開復誰在 (明年花開きて復た誰か在る)
  ‥
 年年歳歳花相似 (年年歳歳花相似たり)
 歳歳年年人不同 (歳歳年年人同じからず)


人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける 紀貫之



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18.菩薩蠻 木[木+犀] 


 菩薩蠻      朱淑眞
   木樨

也無梅柳新標格、也無桃李妖嬈色。
一味惱人香、群花爭敢當。

情知天上種、飄落深岩洞。
不管月宮寒、將枝比並看。



《和訓》
  「木犀」
(比ぶるに)梅柳の新しき標格も無く、桃李の妖嬈の色も無し。
一味(ひたすら)人を悩まして香り、群れし花は争ひて敢へて当たれり。

情(まこと)に知るは天上の種、深き岩洞に飄落するを。
月宮の寒きに管(かかは)らず、枝を将(と)りて比並して看る。


《語釈》
・木樨:木犀。モクセイ科の常緑小高木、キンモクセイ・ギンモクセイ・ウスギモクセイの総称。秋なかばに甘い芳香を放つ星のような小さな花を無数に咲かせる。「桂花」。普通にはギンモクセイをさす。中国では「香りの無い花は心の無い花」と、香りのある花が重んじられ、桂花(木犀)のほか、梅、菊、百合、茉莉花(マツリカ・ジャスミン)、水仙、梔子(くちなし)を七香(しちこう)として好んだ。桂(木犀)は月に生えるといわれる木である(日本で言う落葉樹のカツラとは別物)。
・也無〜、也無〜:〜も無く〜も無し。・也:重ねて用いて、並列関係を強調する。重ねて用いて、条件のいかんにかかわらず…であることを示す。
・新:生き生きとしている。新鮮だ。
・標格:品格。風采。
・妖嬈(ようじょう):うつくしくなまめかしい。・妖:なまめかしい。人を惑わせる、妖(あや)しい。・嬈:あでやかでなまめかしい。
・一味:向う見ずに、ひたすら、やたら。
・群花:群れ咲く花。
・敢當:強いて立ち向かう。・敢:(しなくてもよいことを)強いてするさま。わざわざ。無理に。・當:手ごわい相手に立ち向かう。
・情知:あきらかにしる。・情:まことに。多く詩に用いる助辞。
・深:奥深い。静かな。人のあまりいない。
・飄落:おちること。風に吹かれてひるがえり落ちる。舞い落ちる。ただよい落ちる。
・岩洞:岩窟。
・天上種、飄落深岩洞:この句は何かの伝説か詩によるとも思うが解からない。月世界でも同じようにモクセイが散っている様か、あるいは月世界に生えるという桂の花(木犀)の種が地上に降る様を詠うか。秦の始皇帝によって名づけられたという「桂林」の奇岩連なる景観が思い浮かんだりするが‥‥。
・不管:かまわない。意に介さない。管(かかは)らず。
・將:…をもって。従う。とる(取)。もつ(持)。
・月宮:月。月宮殿〔げっきゅうでん、がっくうでん、がっくでん。月の中にあるという月天子の宮殿。清浄で美しく月天子が夫人とともに住み、月世界を治めているという〕。月宮。月の都。月の宮。
・比並:対比する。


《詞意》
  「木犀」
モクセイは梅や柳に比べますとみずみずしい気品も無く、桃や李のあでやかな色もありません。
ただただ人を悩ますほどに香り強く、群れ咲く花は争うように咲き満ちています。

まことに月世界でも同じようにモクセイが静かに舞い散っていると知るばかりです。
月は秋の空に寒々と照っていますが、モクセイの枝をとって並べ見て月世界に思いを馳せています。


《参考》
高啓(1336-1374)の「題桂花美人」という七言絶句に 
 桂花庭院月紛紛、(桂花の庭院 月紛紛たり)
 按罷霓裳酒半醺。(霓裳を按(あん)じ罷(や)みて酒半ば醺ず)
 折得一枝攜滿袖、(一枝を折り得て携(たづさ)へれば袖に満ちて)
 羅衣今夜不須熏。(羅衣今夜熏ずるを 須(もち)ゐず)


手をふれて金木犀の夜の匂ひ   中村汀女


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17.菩薩蠻 秋



 菩薩蠻     朱淑眞
   秋

秋聲乍起梧桐落、蛩吟唧唧添蕭索。
欹枕背燈眠、月和殘夢圓。

起來鉤翠箔、何處寒砧作。
獨倚小闌干、逼人風露寒。




《和訓》
  「秋」
秋声起きし乍(なが)らに梧桐の落ち、蛩(こおろぎ)喞喞と吟じて蕭索を添ふ。
枕を欹(そばだ)て灯を背にして眠るに、月は和(おだ)やかに夢残して円(まどか)なり。

起き来たって翠箔を鉤(とど)むれば、何処(いずこ)ならむ砧打つ音の寒し。
独り小さき闌干(おばしま)に倚(もた)れしに、人を逼(せ)むるは風と露の寒さなり。



《語釈》
・秋聲:秋の声。秋の近づく気配。
・乍:…したばかり。…したかと思うと急に。
・梧桐:アオギリ。落葉高木。鳳凰は、この木にしか止まらないと言われる。・「梧桐一葉」「梧桐一葉落つ」は、あおぎりの一葉が落ちたことで秋の到来を知ることができるという意から、ものの衰えのきざしの意。また、些細な出来事から、全体の動きを予知することの例えでもある。また、朱熹(1130-1200)の「偶成」に「未だ覚めず池塘春草の夢、階前の梧葉 已に秋声」がある。
・蛩吟:こおろぎが鳴く。・蛩:こおろぎ。蟋蟀 。・吟:歌う。
・唧唧:喞喞(ショクショク)虫や小鳥などの細く小さい声が入り混じった声を表わす。・喞:なくすだく、おおくの小さき声がやかましい。
・蕭索:ものさびしいさま。蕭条。
・欹枕:マクラをそばだてて。マクラを斜めにして。椅子に坐るのではなくて、寝ころんで肩肘を立てているようにしているさま。白居易(772-846)の「香爐峯下新卜山居草堂初成偶題東壁」に「遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聽き、香爐峰の雪は簾を撥(かか)げて 看る」がある。
・和:なごやか。にこやか。おだやか。やわらか。
・殘夢:見残した夢。目覚めてからも、なお心に残る夢。また、明け方近くにうとうとしながら見る夢。
・鉤:簾をとめるかぎ。かぎで引っ掛ける。
・翠箔:翡翠の簾。緑色のカーテン。緑色のカーテンは女性の部屋。
・砧:麻・楮(こうぞ)・葛(くず)などで織った布や絹を槌(つち)で打って柔らかくし、つやを出すのに用いる木または石の台。また、それを打つことや打つ音。
・作:行う、する。
・何處寒砧作:何処から聞こえるのか砧打つ音が寒々しい。
・倚:もたれる、よりかかる。
・闌干:おばしま。廊下や橋などの側辺に、縦横に材木を渡して人の落ちるのを防ぎまた装飾とするもの。てすり。
・逼:追い詰める。迫る。無理矢理…させる、強いる。
・風露:寒い風と、屋外の露。



《詞意》
  「秋」
秋の近づく気配がしたかと思うと急に梧桐の葉が落ち、
こおろぎがり〜り〜り〜とすだいて、ものさびしさを添えています。
枕をそばだて灯を背にして眠ります、
目覚めると月はおだやかにまんまるに照っていて 心にはなお夢が残っているのでした。

起きあがって緑色のカーテンを巻き上げますと、
何処からともなく砧を打つ音が寒々しく聞こえてきます。
独り小さな闌干(おばしま)にもたれますと、
寒い風や露が更に私を攻めたてるのでした。


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