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呉淑姫詞・目次・

  呉淑姫の詞

《呉淑姫について》
 「吳淑姬,北宋末期の女流詩人。生卒不詳。浙江の人(山西萬榮縣西南の人とするものもある)。《陽春白雪詞》五卷がある。「薄命詞人」と呼ばれる。
 父は早死し、結婚生活は順調でなく、一生、苦労して、屈辱の中にその人生を終わったという。文人の楊子治の妻。
 ここでは代表作とされる、四首を掲載。

  ・目次・
  和訓・語釈・詞意はここよりリンクする各ページにあります。
  1.小重山(春愁
  2.惜分飛(送別)
  3.祝英台近(春恨)
  4.長相思令

《原詩一覧》

・小重山(春愁)
謝了荼蘼春事休。無多花片子,綴枝頭。庭槐影碎被風揉。鶯雖老,聲尚帶嬌羞。
獨自倚妝樓。一川煙草浪,襯雲浮。不如歸去下簾鉤。心兒小,難著許多愁。

・惜分飛(送別)
岸柳依依拖金縷。是我朝來別處。惟有多情絮。故來衣上留人住。兩眼啼紅空彈與。未見桃花又去。一片征帆舉。斷腸遙指苕溪路。

・祝英台近(春恨)
粉痕銷,芳信斷,好夢又無據。病酒無聊,欹枕聽春雨。斷腸曲曲屏山,溫溫沉水,都是舊、看承人處。
久離阻。應念一點芳心,僚ッ隆許。偷照菱花,清瘦自羞覷。可堪梅子酸時,楊花飛絮,亂鶯鬧、催將春去。

・長相思令
煙霏霏。雪霏霏。雪向梅花枝上堆。春從何處回。醉眼開。睡眼開。疏影埃舒尊澪函W篭戯百漂邸


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  1.小重山(春愁)



  小重山(春愁) 吳淑姬

謝了荼蘼春事休。無多花片子,綴枝頭。
庭槐影碎被風揉。鶯雖老,聲尚帶嬌羞。
獨自倚妝樓。一川煙草浪,襯雲浮。
不如歸去下簾鉤。心兒小,難著許多愁。


《和訓》
荼蘼の謝(しぼ)みて春事休(おは)る。
花片子の多く無く、枝頭に綴(かざ)る。
庭の槐は影砕け風に揉まる。
鶯老ゆと雖も、声尚ほ嬌羞を帯ぶ。
独り妝楼に倚(よ)る。
一川煙り草浪ゆらぎ、襯雲浮ぶ。
帰り去りて簾の鉤(かぎ)を下ろすに如かず。
心小さくして、許多(あまた)の愁ひを著(あらは)し難し。


《語釈》
・荼蘼(せんび):トキンイバラ(頭巾薔薇・牡丹薔薇)。バラ科の落葉低木。花は白色、香気。朱淑真の鷓鴣天に「千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。」(千鐘の尚ほ偕(とも)に春に酔はんと欲せば、幸ひに荼蘼と海棠も有り。)の句がある。
・謝:(花や葉が)散る、しぼむ。・謝了:散ってしまった。
・春事:春の節日。春。
・花片子:花びらの一枚一枚。子は接尾辞。
・無多:多くない。少ない。
・綴:飾る。
・槐(ゑんじゆ):アカシア。マメ科の落葉高木。夏、枝頂に淡緑白色の花がつく。花が散ったあとは木の下が真っ白になる。
・被:…に…される。
・嬌羞:女性のなまめかしい恥じらい。
・獨自:自分ひとり。単独。
・倚:もたれる、よりかかる。ぼんやり待ちわびる姿をいう。
・妝樓(さうろう):化粧部屋。婦人の部屋。
・草浪:くさの波。草が風にゆらぐさまを波にたとえていう。
・襯雲:覆う雲。重なる雲。
・不如:…する方がよい。
・歸去:去り行く。故郷に帰る。(去り行くのは、春か、はたまた人か若さか。)
(・不如歸去:「去り行くがいい」(行かないで。帰って来てください。)ホトトギスは血を吐きながら、帛を裂くような高い声で悲しげに「不如歸去・ブールーグイチュー」と啼くという。)
・下簾鉤:簾の鉤をはずし簾を下ろす。
・兒:小さいものであることを示す接尾辞。
・著:著作する。明らかな、顕著な。
・許多:あまた。程度のはなはだしいさま。非常に。はなはだしく。


《詞意》
白い頭巾薔薇の花がしぼみ、春が終わろうとしています。
花びらもすくなくなって枝の先についているばかりです。
庭のアカシアの茂り始めた影が揺れ 風に揉まれています。
鶯は春を啼き続けて老いたといっても、声はまたまだなまめかしい恥じらいを帯びています。
独り部屋にぼんやりもたれて外を眺めますと、
川はもやり 草が波のようにゆらぎ、空覆う雲が浮んでいます。
春もまた去り行くしかないと 部屋にはいり簾を下ろしますが、
心細く、言葉にも出来ず 愁いに沈むばかりです。



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  2.惜分飛(送別)



惜分飛(送別) 吳淑姬

岸柳依依拖金縷。是我朝來別處。
惟有多情絮。故來衣上留人住。
兩眼啼紅空彈與。未見桃花又去。
一片征帆舉。斷腸遙指苕溪路。

  
《和訓》
  別れ行く人を送る
岸の柳は依依として金縷を拖(ひ)く、是れ我れ朝来たりて別るる処なり。
惟(おもんみ)るに絮に多情有り、故に衣上に来て人に留りて住む。
両眼紅に啼きて空しく弾き与(くみ)し、未だ桃花を見ずして又去る。
一片の征帆挙がり、断腸す 遥かに指すは苕溪の路。


《語釈》
・依依:木の枝が柔らかく風にゆれるさま。
・拖:引く、引きずる。
・金縷:金の糸。柳のしなやかな枝のさま。
・惟:おもんみる。よくよく考えてみる。
・絮柳絮。柳の種子の綿毛。
・兩眼啼紅:目を真っ赤にして泣く。・啼:(人が声を出して)泣く。
・彈:(楽器を)弾く。
・與:交際する、親しくする。
・征帆:旅立つ舟の帆。
・斷腸:はなはだしく悲しみ苦しむこと。また、そのような悲しみや苦しみ。
・苕溪:川の名、一名苕水。東苕·西苕の二源あり、合して一となり、太湖に入る、岸をはさんで苕花(アシノハナ)多く、秋に水上に飄散すること飛雪の如しという。


《詞意》
  別れ行く人を送る
岸の柳は風にゆれ金色に細く糸をたらして、別れの朝にここに来ています。
よくよく考えてみれば柳綿毛はずいぶんと多情、だからでしょう衣に着いて離れようとしません。
両眼を赤くして泣きながら空しく琴を爪弾きます、桃の花を見ないままあなたは又去っていくのです。
旅立つ舟の帆が挙がり、遥か遠くあなたの目指す苕溪の路を思うと悲しみはいや増のです。




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  3. 祝英台近(春恨)



  祝英台近(春恨)  吳淑姬

粉痕銷,芳信斷,好夢又無據。
病酒無聊,欹枕聽春雨。
斷腸曲曲屏山,溫溫沉水,都是舊、看承人處。
久離阻。應念一點芳心,僚ッ隆許。
偷照菱花,清瘦自羞覷。
可堪梅子酸時,楊花飛絮,亂鶯鬧、催將春去。


《和訓》
  春の恨み
粉(おしろい)の痕(あと)銷(き)え、芳信断ち、好夢も又據(たのみ)無し。
酒(ささ)に病みて無聊、枕を欹てて春雨を聞く。
曲曲の屏山、温温の沈水、都(すべて)是れ旧、人に承(う)くる処を看(みまも)り断腸す。
久しく離れて阻(くる)しむ。応に一点の芳心を念(おも)ひて、僚イ隆許(いくばく)かを知る。
偸(ぬす)みて菱花を照らし、清瘦の羞(はじら)ひて覷(うかが)ふ。
梅子の酸時を堪ふべし、楊花絮を飛ばし、乱るる鶯の鬧(さわが)しく、将に春去るを催す。


《語釈》
・粉:おしろい。
・痕:痕跡(こんせき)、あと。
・銷:無効にする、取り消す。金属を溶かす。
・芳信:花のたより。花信。他人の手紙を敬っていう語。芳翰。
・據:拠り所依存する、頼みとする
・病酒:酒で体をこわすこと。酒にやられたこと。二日酔い。
・無聊:わだかまりがあって、心楽しまないこと。退屈なこと。気が晴れないこと。
・欹枕:枕をかたむける。まくらをそばだてる。・欹:そばだてる。一方に傾ける。
・斷腸:腸が断たれるほどに辛い。
・曲曲:まがりくねっているさま。こまごまといりくんでいるさま。
・屏:(息を)ひそめる。屏風(びようぶ)、衝立(ついたて)。さえぎる。
・溫溫:温温。ぬくぬく。暖かく心地良いさま。
・沉水:沈水香。沈水香は、東南アジアなどで採れるジンチョウゲ科の常緑高木の枯れ木や倒れた木に細菌がついて樹脂化して固まったもの。 水に入れると沈むことから沈水香と呼ばれる。
・都:すべて、みな。 《‘〜是’の形で》ほかならぬ…のせいで、…であればこそ。
・是:…である。
・承:うける。うけ頂く。
・處:すむ。とどむ。とどまる。おもむく。
・阻:へだたる。なやむ、くるしむ。
・應:当然…すべきだ。
・芳心:芳志。相手の親切な心遣い。気持ちを敬っていう語。親切を尽くすこと。
・僚ァ憂愁の思いが激しいこと。裏盍廖
・幾許:どのくらい。どれほど。
・偷:偸(とう)ぬすむ。こっそり。ごまかす。ひそかに。うすい。かりそめ。
・照:(鏡に)映す、映る。
・菱花:ヒシの花。ヒシ科の一年生水草。各地の沼や池に群生。夏、白色四弁の花が咲く。
・清瘦:やせこける。乏しい。
・羞:恥ずかしがる。
・覷:うかがう。じっとみる。
・堪:耐える。我慢する。こらえる。
・酸:酸っぱい。
・楊花:やなぎ、かはやなぎ(ねこやなぎ)の花。
・絮:柳絮(りゆうじよ)、柳絮(じよ)、柳の種子の綿毛。
・鬧:さわがしい。騒ぐ
・催:促す、急(せ)きたてる。
・將:はた。はたして。まさに。ちょうど今。


《詞意》
  春の恨み
おしろいのあと消えて、花のたよりはなく、よい夢も頼みにはなりません。
昨夜のお酒がまだ残っていて気も晴れず、枕を欹てて春の雨の音を聞いています。
枕もとを遮る屏風、心地よい香、全て昔のままに、あの方に戴いたと見ていますと心痛みます
久しく離れ離れなのを苦しむばかり。あの方の心遣いを想うと、愁いの深さのどれほどかが知られます。
鏡にそっと菱の花を映し、愁いに痩せた姿を恥じらいながらうかがうしかありません。
梅の実が青くつくこの時は忍ぶしかありません、柳は絮を飛ばし、乱れ啼く鶯の声がさわがしく、まさに春が去っていくのをせきたてています。



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  4. 長相思令  



 長相思令  吳淑姬

煙霏霏。雪霏霏。
雪向梅花枝上堆。春從何處回。
醉眼開。睡眼開。
疏影埃舒尊澪函W篭戯百漂邸



《和訓》
煙(かすみ) 霏霏(たなび)き。
雪 霏霏(しきりにふ)る。
雪は梅花に向かひ枝上に堆(つ)む。
春は何処(いづこ)従(よ)り回りきたる。
酔眼開き。
睡眼開く。
疎影斜めに圓燭呂螳造にか在らん哉(や)。
塞管の催すに従教(まか)す。


《語釈》
・煙:かすみ、もやの類。雲。
・霏霏(ひひ):雲の浮かぶさま。雪や雨が降りしきるさま。 細かなものが飛び散るさま。
・堆:積む。
・疏影:疎影。まばらな影。梅の疎らな枝振り。林逋(967−1028)の梅を詠んだ名吟「山園小梅」に「疎影埃仗纎聢鼻暗香浮動月黄昏」がある。
・安:いずくにか、いづくんか。どこに。
・哉:疑問や反問を表わす。
・從教:…に任せる。
・塞管:羌笛。胡人の管楽器。蘆(あし)で作る。
・催:(春を)促す、せきたてる。


《詞意》
雲が空を覆って、
雪がしんしんと降りしきっています。
雪は咲きだした梅の花に向かうように降って枝の上に降り積みます。
春は何処へ行ってしまったのでしょう。
酔いの残る目を開き、
眠り覚めやらぬ目を開き、外に目をやりますと
まばらな梅の枝が斜めにのびているばかり、春は何処にあるのでしょう。
寂しい胡笛の音に早く春が来るよう急かせましょう。



「楊柳枝詞九首」第一首 劉禹錫(772-842)
塞北梅花羌笛吹,淮南桂樹小山詞。
請君莫奏前朝曲,聽唱新翻楊柳枝。



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