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12-訴衷情・夜來沈醉



  訴衷情    李清照

 夜來沈醉卸妝遲
 梅萼插殘枝  (萼=蕊)
 酒醒熏破春睡 (熏=癲
 夢斷不成歸 (=酒醒熏破,惜春夢遠,又不成歸)

 人悄悄
 月依依
 翠簾垂
 更挪殘蕊 (挪=挼)
 更拈餘香 (拈=撚)
 更得些時

      ( )内は異本

夜来沈酔して妝(よそほひ)(おろ)すに遅く、
梅の萼(うてな)の残枝を插(さ)せり。
酒の醒(さ)めしか、熏(かを)りの春睡を破りて、
夢の断たれて帰るを成さず。

人、悄悄(ひそやか)にして、
月、依依(イイ)たるに、
(みどり)の簾(すだれ)を垂らして、
更に残蕊(ザンズイ)を挪(も)み、
更に余香を拈(た)けど、
更に些(いささ)かの時の得(かか)るべし。


《語釈》
・夜來:夜になってから。昨夜来。
・沈醉:泥酔、酩酊する。
・卸妝:妝(よそほい)を卸(おろ)す。(女性が)髪飾りを取り去る。化粧を落とす。
・遲:ゆっくりする。おくれる。手間どる。
・梅萼:梅のガクの髪飾り。花簪。梅の花のかんざし。
・殘:不完全な、欠落のある。
・殘枝:花が散ってしまった枝。かんざしとして挿してそのまま寝入ってしまって、花簪がつぶれてしまったことをいうか。
【「梅花粧」をしていたが、そのまま寝ていたため、花びらが散ってしまった。「梅花粧」=南朝宋の武帝(在位420-422)の女(めすめ)寿陽公主が人日(一月七日)に含章殿の梅の木の下で眠っていたら、梅花が散りその一片が彼女の額について離れなくなった、これを梅花粧として宮人皆額に梅の花びらをかたどった化粧をほどこしこれにならったという。寿陽粧ともいう。
これと同じモチーフの作品に「菩薩蠻」「風柔日薄春猶早、夾衫乍着心情好。睡起覺微寒、梅花鬢上殘。」がある。】 
・酒醒:酔いがさめてきた。
・熏:(香りを)たきこむ。たきこまれた香。(・癲Я隹屬旅瓩蝓熏と通用)
・破春睡:春の夜の眠りから醒める。
・夢斷:夢が途切れる。目が覚めたことをいう。
・不成歸:(夢へ)帰ることができなかった。
・悄悄: ひっそりと、音もなく。こっそりと、内密に。
・依依:名残惜しく離れにくいさま。
・翠簾垂:緑のカーテンを垂らして。(女性の部屋の様子)
・更:さらに。さらにその上。何度も何度もこの動作を繰り返して。ここでは、「更」を「更殘蕊」「更撚餘香」「更得些時」と、繰り返して効果を高める。
・挪:もむ。もてあそぶ。(=挼:皺(しわ)になる)
・殘蕊:つぶれ残っているしべ。「殘蕊」・「殘枝」・「餘香」と、憂いの深さが表現されている。 
・蕊:ズイ。しべ。つぼみ。
・拈:香を焚く。指先ではさむ(・撚:(指で)よる。)
・餘香:残りの香。
・得:要する。かかる。要(い)る。需(い)る。
・些時:いささかの時間。

《詞意》
夜になってから、深く酔って、髪飾りを取り去って化粧落しをすることもせずに寝てしまいましたから、
挿していた花簪は花びらの散った枝だけになってしまいました。
酔いも醒めかかってきたのでしょうか、花飾りの梅が強く香ったのでしょうか、春の夜の眠りは途切れてしまいました。
夢は断たれまま、その夢の世界へは帰ることができなくなてしまいました。
わたしはひとりひそやかに、
月の名残惜しげな光りの下で、
緑のカーテンを垂らし、
さらに重ねて、つぶれ残っている花蘂をもてあそび、
その上さらに、残りの香をたいてみますけれど、
ああ、さらにこの辛い夜が明けるまでは幾らか時間がかかることでしょう。(夜明けの待たれることです。)


《訳詞》
夜深み酔ひていねしに
崩れたる花簪は枕辺に。
強き香りに眠り醒む
断たれし夢のはかなしや。

ひと ひそやかに
つき こひしたひ
すだれのうちに
はなもてあそび
のこりがたてし
このふかきやみいつあくる。

| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
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