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11-菩薩蠻・冬を留める風


  菩薩蠻   李清照


 歸鴻聲斷殘雲碧
 背窗雪落爐煙直
 燭底鳳釵明
 釵頭人勝輕


 角聲催曉漏
 曙色回牛斗  (曙=霽)(斗=鬥)
 春意看花難
 西風留舊寒

     ( )内は異本

《和訓》
帰る(おおかり)()えて 残雲(あお)
(せな)(まどべ)の雪落ちて 爐煙の(なお)
(ともしび)(もと) (とり)(かざし)(きらめ)
(かざし)(かしら) 人勝に軽し。

角声(つのぶえ) 曉漏(あかとき)を催し
曙の色は牛斗に(もど)るも
春意 花看るには難く
西風 旧を留めて寒し。

《語釈》
・歸鴻:春になって北へ帰る鴻。
・鴻(おおかり):ひしくい。大形のガン。
・聲斷:鳴き声が聞こえなくなったこと。
・殘雲:残りの雲。わずかな雲。
・雲碧:雲が青い。蒼雲。漢詩では使われるが、夜(宵や明け方)の雲の色か。
・背窗:後ろ側の窓。北側の窓。裏窓。
・雪落:雪が溶けて落ち(その音が静寂の中に響く)。
・爐煙直:炉(香炉あるいは囲炉裏)の煙が真っ直ぐに上っている。(風もなく、静かな様子)
・燭底:ともしびの下で。
・鳳釵:鳳(おおとり)の飾りのある(二股の)かんざし。簪。
・明:きらきらとしている。
・釵頭:かんざしの飾りの部分。
・人勝:正月七日は人勝節、人日。金箔などで、吉祥を願うひとがたの飾りを作り、髪につけた。(七日には人を占ってその日が晴天ならば吉、雨天ならば凶の兆しであるとされた)七種粥の風習が残る。本来は羮(あつもの。汁)だった。
・角聲:角笛の音。(時を告げる角笛の音がもの悲しく響いてくる。)あるいは軍隊の楽器。
「角聲」を軍隊の楽器ととれば、彼女のいた建康に金が迫り、軍事的な緊張が高まった時の詞とも解釈できるが、静かな夜明けで、聞こえてくるわずかな音が時を告げる角笛の音だったのだろう。
・催:うながす。もよおす。
・曉漏:あかつきの時。漏は漏刻で、水時計をいうがここは時刻の意。
・曙色:あけぼのの色。明るくなってきた空のようす。
・牛斗:二十八宿の牛宿と斗宿の間。方位でいうと北東か。=斗牛、斗牛之間。【斗宿〈射手座の二等星〉北斗七星・牛宿(山羊座の一等星)牛の首/七夕の彦星】
・春意:春の気配。
・看花:花見。
・西風:西からの風。宋詞では、西や北は、異民族を暗示する言葉でもあるという。
・留舊寒:以前(冬)の寒さを留める。

《詞意》

帰って行く鴻の鳴き声もやみ、わずかな雲が深い緑色に空に漂っています。
裏窓にも雪が溶け落ち、香炉の煙は静かに真っ直ぐ上っています。
ともしびのもと、鳳の簪(かんざし)が灯の光にきらきらと輝いて、
簪につけた春を迎えた人日の飾りはあまりに軽やかです。
静けさの中に、今しも角笛の音が朝方の時の移ろいを急きたて、
朝明けの色が北東の空にもどってきます。
しかし、春の気配はまだお花見をするという気分にはほど遠く、
西から吹いてくる風は冬を留めていて寒いままです。


早春の朝まだき。
「朝まだき起きてぞ見つる梅花
夜の間の風のうしろめたさに」元良親王・拾遺和歌集



《訳詞》
雲間に鳥の声もせず
雪消の窓に風もなし
煌めくかざし
春迎え

明くるを告げし角笛に
茜に染まる空の色
花いまだしに
風寒し



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