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16-攤破浣溪沙・卻無情


  攤破浣溪沙   李清照

揉破黃金萬點輕  (黃=黄)(輕=明)
剪成碧玉葉層層
風度精神如彥輔   (彥=彦)
太鮮明

梅蕊重重何俗甚
丁香千結苦粗生  (粗=麤)
熏透愁人千里夢
卻無情

      ( )内は異本

《和訓》   

揉み破れる黄金の万点軽く
剪りて碧玉と成れる葉の層々たり。
風度 精神 彦輔の如く
(はなはだ)鮮明なり。 

梅蕊の重なれるは何ぞ俗の甚だしや
丁香の千に結ぶも苦粗の生ず。
熏透せる千里の夢こそ人を愁いしめて
卻りて無情なれ。


《語釈》・揉:もむ、さする。・揉破:風に吹かれ蕾が開くを言うか。
・黃金:黄金色。木犀の花の色。
・萬點(ばんてん):たくさん、非常に多くの(花)。よろず。
・剪:はさみで切る。 
・碧玉:青い石。翡翠。 ・層層:重なり合う。
・風度:風格。「渡」に通じ、風わたるの読みもあるか。
・彥輔(げんぽ):樂廣。字を彦輔。 ・如彥輔:精錬で尊敬すべき人の比喩か。「沈痾(ちんあ) 頓(とみ)に愈(い)ゆ(=長いこと治らない病気がけろっと治る)」の意か。後述。
・太鮮明:非常にあざやかではっきりしているさま。ここは、大いに気分爽快の意か。・太:いかにも太い、はなはだ。
・梅蕊(ばいずい・うめしべ):梅の花の雄しべと雌しべ。 
・重重:幾重にもかさなっていること。後の千結と共に時の流れを暗示。
・何:なぜ,どうして,なんで。 
・甚:程度のはなはだしいさま。たいへん。
・何俗甚:なんと非常に俗なことか。
・丁香:丁子(チョウジ)の花のつぼみ。漢方で健胃・駆風薬などに用いる。ここは「瑞香(ずいこう)」沈丁花(じんちょうげ)のことか。
・千結:つぼみがたくさん付く。ちぢに思いが絡み合う。
・苦:苦(にが)い、つらい。 
・粗:粗雑、頭が重い。
・熏:(煙で)いぶす、(香りを)たきこむ。 
・透:(補語として)透徹する。
・愁人:うれいに沈む人。 ・千里夢:遥か彼方の夢。遥か昔の夢。
・卻:かえって、にもかかわらず、やはり。

《参考》
「彦輔の如し」について。
「杯中(はいちゅう)の蛇影(だえい)」《杯中に蛇の影があるのを見て、蛇を飲んだと思って病気になったが、後にそれは弓の影であったと知り、病気がたちまち治ったという「風俗通」怪神の故事から》疑い惑う心が生じれば、つまらないことで神経を悩まし苦しむことのたとえ。(大辞泉による)
この故事成語の原典は次のようなもの。
晉書、樂廣字彦輔、南陽淯陽人。遷河南尹。常有親客、久闊不復來。廣問其故。答曰、前在坐蒙賜酒。方飮忽見盃中有蛇、意甚惡之。既飮而疾。于時河南廳事壁上有角弓、漆畫作蛇。廣意盃中蛇即角弓影也。復置酒於前處、謂客曰、盃中復有所見不。答曰、所見如初。廣乃告其所以。客輍然意解、沈痾頓愈。〔蒙求、広客蛇影〕
ここから、「客輍然意解、沈痾頓愈。」の頓愈(長い間治らない病気がけろっと治る)の意にも採れるが、不詳。

この詞は、梅を「何俗甚」と詠うことから「清照の作に非ず」との説もある。
また愁の中でも真の愁いを詠うとも評される。
この詞を「梅蕊」とあるので「梅花」を詠んだものと解釈していたが、これも「木犀」を詠んだもの。そう読んだほうが無理がない。

《詩意》

木犀は一斉に黄金色に咲いて僅かの風に軽く零れ落ちます。
葉は玉のように刈り込まれて重なり繁っています。
その風格といい精気といいまるでその力は敬いたくなるほどものです。

梅の重なり合ている蘂はなんだか俗っぽく、
沈丁花に蕾がたくさん付くのは辛さを増します。
それに対し木犀はその香りが遥か昔の夢を呼び起こし
かえって思いやりなく私を憂いに沈めます。。 

改訂・2012/878
| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
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