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26-小重山・梅と月と

  小重山    李清照

春到長門春草青
紅梅些子破
未開勻。      (勻=諭
碧雲籠碾玉成塵   (籠=龍)
留曉夢       (曉=晚)
驚破一甌春。     (春=雲)
花影壓重門
疏帘鋪淡月    (疏=疎)
好黃昏。
二年三度負東君
歸來也
著意過今春。

      ( )内は異本

《和訓》   
春は長門に到り 春草青く
紅梅 些子(いささ)か破ぶるるも
未だ開(かいいん)せず。
碧雲に 籠れる碾玉(てんぎょく) 塵と成し
留まれる暁の夢の
驚破するは一甌(いちおう)の春。

花影 重門を圧し
疏簾(それん) 淡月を鋪(し)きて
黄昏(たそがれ)の 好し。
二年に三度 東君を負(たの)むも
帰り来れるや
意を著して今春を過ごす。


《語釈》・長門:長門宮。寵を失って長門宮に住んでいた漢の武帝の陳皇后が、辛く悲しい思いを文に表してもらうよう頼んだ司馬相如は「長門賦」を表し、それを武帝に捧げ、結果、再び寵を得たという故事により、「長門」は寵を失った后妃の住居を指す。夫不在の境遇を示す。
・些子(いささか):幾らか。すこしばかり。わずか。(あるいは・子:植物の種。蕾を言う。) 
・破:蕾が綻びる。
・開諭Г爐蕕覆開く。 
・諭分け与える、均等にする。
・碧雲:青みがかった色の雲。青雲。お茶の色。
・籠:かご。覆う、包み込む。ここは茶籠。茶籠にはいっている(茶葉)。
・碾玉:碾茶、蒸し製緑茶の一種。 抹茶の原料。 
・碾:臼でひく挽く。
・塵:ちり、埃(ほこり)。抹茶の粉を言う。
・驚破:驚いて打ち砕かれる。熱湯をかけたとき温度差が激しい過ぎて茶壷にひびが入る現象。
・甌:碗、かめ。ここは茶椀(茶壷)。 
・春:「お茶」であり、春でもある。
・花影:月の光などによってできる花の影。 
・重門:幾重もの扉。
・疏:まばら ・簾:カーテン、すだれ。 
・鋪:しく。寝台の意もある。
・東君:日神。太陽。春。春の女神。 
・負:たのむ。あてにする。享受する。
・二年三度負東君:丸二年が経って三度目の春を迎えあてにする。
・歸來也:夫はいつ帰るのであろうか。
・著意:着意:気をつけること。注意すること。着想。

《詩意》
春はまた夫のいない寂しい私の部屋にもやって来ました。草は青々とし、
紅梅はその膨らんできた蕾をいくつか綻ばせていますが、
まだ咲き揃ってはおりません。
青みがかった色のお茶の葉は滑らかな粉になっており、
朝のうつらうつらした夢心地のまま、
春のお茶を入れる茶壷に熱湯をかけますと驚いたことにひびが入ってしまいました。

夕刻になると月の光に花の影が幾重もの扉に映り、
疎らな簾の隙間から淡い月の光がベットの上にまで差し込んできています。
こんな黄昏時は心地よいものです。
夫と別れ住んで丸二年が過ぎて、三度目の春が訪れています、
この春にはお帰りになるのでしょうか。
夫のおとないを心待ちしてこの春を過ごしています。

《鑑賞》
夫を偲ぶ心が春の朝と夕の情景の中に詠われている。

梅の咲きそうな朝、まだ覚めぬ春の夢の気分のまま、さあ、おいしい春のお茶を飲みましょうと春用の朱泥壷を用意して蓋を取り茶葉を入れて、お湯を注ぎますと「ぱちっ」という音が聞こえて来ました。暫く経して茶壷からはお湯が漏れてきます。あああの音が茶壷が割れた時の音と「驚破」に驚いたことです。寂しい春の朝の驚き。
後半は夕月の淡い光に夫を偲んでいます。

初句は薛昭蘊の小重山も同じである。「春到長門春草青、玉階花露滴、月朧明。‥」これは流行歌(はやりうた)でもあったのだろう。

万葉集から同趣の梅の花を読んだ歌を拾ってみる。
 春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ  山上憶良
 春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに 板氏安麻呂
 我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て  高氏海人


《訳詩》
 春を迎えて
春また到り草青く
梅ほころびて六七分
緑茶の粉の滑らかに
夢を留める
春の一椀

花影(はなかげ)門にしなだれて
簾を透す月の影
三度(みたび)の春に君待てど
いつ帰りなむ
この春も行く

(追加更新09/10/1)

| (李清照詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
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