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29-臨江仙・梅



  臨江仙   李清照

 梅

庭院深深深幾許
雲窗霧閣春遲
為誰憔悴損芳姿。   (損=瘦)
夜來清夢好
應是發南枝。

玉瘦檀輕無限恨
南樓羌管休吹。
濃香吹盡有誰知    (吹=開)
暖風遲日也
別到杏花肥。
   (肥=時)
    ( )内は異本

《和訓》
庭院(おくにわ)の深深(しんしん)と深きこと幾許(いかばかり)ぞ、
雲かかる窓 霧かすむ閣(たかどの)に春の遅く、
(た)が為に憔悴(やせおとろへ)て芳しき姿を損なうや。
夜来の清き夢の好(よろ)しきは、
(まさ)に是れ南枝より発すべし。

玉檀の痩せて軽く 恨みの限りなければ、
南楼に羌(きよう)の管(ふえ)吹くを休(や)めむ。
濃き香り吹き尽くるは誰ぞ知るらむ、
暖き風ふく遅日(ひなが)なればや
別到(おもむきふか)く杏(あんず)の花肥ゆ。
 

《語釈》・副題に「梅」とある。前聯に梅の香を詠み、後聯に栴檀の香と、杏梅を梅そのものとして詠んでいる。
・憔悴:病気や心痛のために、やせおとろえること。やつれること。
・損:損なう、傷つける。 ・芳姿 :美しい姿。若くかぐわしい姿。 
・夜来:昨夜以来。 また、数夜このかた。
・玉瘦檀輕:玉檀瘦輕。・玉檀:(玉は美称)。檀は栴檀(せんだん)、楝(おうち)。香木。暖地に自生、また庭木・街路樹とする。枝先付近に大形の羽状複葉を互生。初夏、紫青色の小花を円錐状につけ、晩秋、黄色い楕円形の実がなる。「栴檀は双葉より芳し」というように栴檀は発芽したばかりの二葉の頃から早くも香気を放つ。ここでは「梅の木」をさすか。
・南楼:南にある高殿。
・羌(きよう):青海を中心に住む中国西北辺境の遊牧民。五胡の一。
・管:管楽器。笛。・羌管:羌の曲(胡歌)を奏でる羌笛。胡笳羌笛。
・休:休む、休息する。停止する、やめる。…するな、…してはいけない。
・暖風:暖かい風。春風。 ・遅日:容易に暮れない春の日。日永。
・別到:風変わりな趣、おつなおもむき。
・杏花:アンズの花。春、葉より先に梅に似た花が咲く。花は淡紅色、一重または八重。花が終わるとウメと見分けがつきにくい。ここは中国の梅「杏梅」をさすか。
・肥:(「瘦に対する)蕾を膨らませる。 

《詩意》
庭は幾重にもひっそりと奥深く、このひっそりとした深さは幾許でありましょう。
雲や霧で包まれた窓や高殿には春の景色の移ろいは遅く、
一体誰の為にこんなにもしょんぼりしなくてはならないのでしょう、私は若くかぐわしい姿をすっかり失ってしまいました。
それにしても昨夜来見る夢は清清しく好もしいものでしたが、
これはきっと南の枝に咲き始めた梅の花の香りによるのでしょう。

庭の栴檀(梅)の若葉はまだ痩せて軟らかく、私の物思いはいつ果てるものとも思えぬままです。
南の高殿に流れていたもの寂しい胡歌を奏でる笛の音も止みました。
漂っていた濃い梅の香を春風が吹きつくしたのを誰が知っていましょう。
温かな風は春の日永吹き続いていますが、
よく見れば別の趣を持って杏の花が咲こうとしているのでした。

《参考》古詩「胡笳歌」〔送顔真卿使赴河隴〕岑參
君不聞胡笳聲最悲、紫髯儡禪嫂与瓠
吹之一曲猶未了、愁殺樓蘭征戍兒。
涼秋八月蕭關道、北風吹斷天山艸。
崑崙山南月欲斜、胡人向月吹胡笳。
胡笳怨兮將送君、秦山遙望隴山雲。
邊城夜夜多愁夢、向月胡笳誰喜聞。
 「胡笳の歌」 〔顔真卿の使ひして河隴に赴くを送る〕 
 君聞かずや 胡笳の声 最も悲しきを           
 紫髯 緑眼の 胡人吹く。    
 これを吹きて 一曲 猶ほ未だ了らざるに        
 愁殺す 楼蘭 征戍の児。           
 涼秋八月 蕭関の道           
 北風吹断す 天山の草。        
 崑崙山南 月斜めならんと欲し        
 胡人 月に向かひて 胡笳を吹く。           
 胡笳の怨み 将に君を送らんとす           
 秦山 遥かに望む 隴山の雲。       
 辺城 夜夜 愁夢 多く        
 月に向かひて 胡笳 誰か聞くを喜ばん。





 
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