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30-蝶戀花・春心動

  蝶戀花   李清照

暖日晴風初破凍   (日=雨)(晴=和)
柳眼梅腮    (=柳潤梅輕)
已覺春心動。
酒意詩情誰與共
淚融殘粉花鈿重。 (淚=涙)

乍試夾衫金縷縫  (衫=衣)
山枕斜欹     (斜欹=欹斜)
枕損釵頭鳳。
獨抱濃愁無好夢
夜闌猶翦燈花弄。
    
   ( )内は異本
   (「離情」「春懷」と題するもある)

《和訓》   

  蝶恋花
暖日晴風初めて凍(こほり)を破る。
柳の眼 梅の腮(うなじ)
(すで)に春を覚えて心動かす。
酒意詩情は誰れ与(と)共にせんか
涙 残れる粉(おしろい)を融かせば 花鈿(はなかざり)の重し。

(はじめ)て金縷縫(きんのぬいとり)ある夾衫(はるのうわぎ)を試みしに、
山枕(まくら) 斜(ななめ)に欹(かたよ)すれば、
枕は釵頭(かざし)の鳳(おおとり)を損(か)けり。
独り濃き愁ひを抱きては好しき夢も無く、
夜闌(おそ)くして猶(な)ほ燈花を翦(き)りて弄(もてあそ)ぶ。


《語釈》・凍:凍る、氷。・柳眼:柳の新芽。
・梅腮:梅の蕾のふくらみ。・腮:あご、おとがい(うなじ、頬)。
・已:既に、早くも。・覺:感じる、感知する。
・酒意:ほろ酔い気分、微醺(びくん)。酔気。
・詩情:詩を作りたくなるような気持ち。詩にみられるような趣。
・與: …と、…に。…とともに、…のままに。
・花鈿(かでん):花子花鈿。花子(かし)のごとく蓮花、木葉、雲形などの五色の紙を顔面(額)に貼布する化粧法をいう。「重し」は気分が重く、貼り付けた紙のうっとおしさを言う。また、これを、「螺鈿の花かんざし。婦人の頭の装飾品。」として、そのものが「重し」ともよめる。
・乍:*しばらく*たちまち(忽)*にはかに(猝)*はじめて(初)。
・夾衫(きょうさん):あわせの長上着。合い着。単衣の着物をあわせきる。
・金縷縫(きんるしゅう):金の糸、また金色の糸でしたぬいとり。
・山枕(さんしん):両端が高くなっている枕。 ・斜欹(しゃき):ななめにかたよせる。・欹:そばだつ、かたむく、かたよせる。 ・損:そこなう。こわす。 ・釵頭鳳(さとうほう):簪の頭部に彫られた鳳凰の飾り。
・闌:(1日などの区切りの)終わりに近い、遅い。夜更けに。疲れ果てた。
・猶:なお。さらに。やはり。まだ。 ・翦:きる。鋏で切る。
・燈花:「丁子頭(ちようじがしら)」灯心の燃えさしの頭にできる、チョウジの実のような丸いかたまり。 ・弄:もてあそぶ。 

《詩意》

温かい日の雲のない晴れ渡った風がこの春初めて氷を融かしました。
柳の新芽、梅の蕾のふくらみ、
この様子に早くも春の気配を覚えて心動かしています。
春を喜ぶお酒に酔う気分や詞を作りたくなる気持ちを誰と共にしたらいいでしょう。
一人寂しく流す涙は残った化粧のおしろいを流し、顔に貼る花子も濡れて気分を損なうのでした。

春の気配に早速金糸の刺繍のある春らしい着物を出して着てみましたが、
斜めに片寄せた枕が転がって
抜いていた簪の飾りの鳳凰の彫像を欠いてしまいました。
取り残されて独り、濃い憂いを抱いて眠れぬまま、夢見ることもなく、
夜更けに疲れ果ててなお、灯心を切って物思いにふけるばかりです。

(結婚して間もない頃、夫と遠く離れることとなった寂しさを詠ったもの)




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