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31-蝶戀花・四疊陽關



  蝶戀花   李清照

 昌樂館寄姊妹  (姊=姐)
      (晚止昌樂館寄姊妹)
淚濕羅衣脂粉滿  (=泪揾征衣脂粉暖)
四疊陽關     (四=三)
唱到千千遍。   (唱=聽)(到=了)
人道山長山又斷  (山又斷=水又斷)
瀟瀟微雨聞孤館。

惜別傷離方寸亂
忘了臨行
酒醆深和淺。   (醆=盞)
好把音書憑過雁   (好=若)(把=有)
東萊不似蓬萊遠。

      ( )内は異本

《和訓》   
 「昌樂館にて姉妹に寄す」
涙 羅衣(うすぎぬ)を湿(ぬら)して 脂粉(べにおしろい)に満つ。
四畳の「陽関(わかれうた)
唱ひて千々遍に到る。
人の道(い)ふなり 山長く山又た断(へだ)てて
蕭々たる微雨 孤館に聞く、と。

別るるを惜しみ離るるを傷みて方寸(こころ)乱る。
(たびゆく)に臨みては
酒盞(さかずき)の深きも浅きも忘れたりき。
(よろ)しく音書を把りて過雁に憑(たの)めば
東莱は蓬莱のごとくは遠からざらめ。


《語釈》・濕:ぬらす。しめらす。水気を帯びる。
・羅衣:薄絹(うすぎぬ)で仕立てた着物。
・脂粉:紅(べに)と白粉(おしろい)。
・四疊陽關:別れの歌を繰り返す。参考参照。・疊:繰り返すこと。
・陽関:中国甘粛省西部、敦煌の南西にあった関所。前漢時代に設けられ、北にある玉門関とともに西域に通じる交通の要地をなした。
・道:言う、話す。
・瀟瀟:うらさびれた、蕭(しよう)条たる。ひっそりともの寂しく。
・微雨:小降りの雨。小雨。
・方寸:心。心の中。心中。胸中。
・了:動詞や形容詞の後について、動作なり変化なりの完了を表わす。
・行:旅、遠出すること。
・障蛛Fさかずき。
・音書(いんしょ):便り。手紙。音信。
・憑:頼る、すがる。寄りかかる、もたれる。
・好:よし、そうしよう。
・東萊:山東省莱州。
・蓬萊:古代中国で渤海湾に面した山東半島のはるか東方の海(渤海とも言われる)にあり、不老不死の仙人が住むと伝えられる。 

《詩意》
「姉妹との別れの際に」

別れを惜しむ涙は流れ止まず、薄絹の衣を濡らし化粧を崩してしまいました。
送別の歌を繰り返し繰り返し唱って、もう数え切れないほど。
別れて青洲に向かえばそこは連なる山の果て、そこは山を隔ててあまりに遠く、
しとしと小雨の降る音を物淋しく独り聞き入ることになるのですとあなたは言いますが‥‥

別れを惜しみ離れ離れになることの痛みに、心は千千に乱れます。
旅立つに臨んで
その辛さに杯を重ね、どれほど飲みましたものやら。
きっと手紙は書きます。季節に渡り行く雁にすがれば、
私がこれから向かう山東の莱州とても仙人の住む蓬莱山ほどに遠いということはないでしょう。
(李清照が独り莱州に赴く時、姉妹のいる昌楽県に寄って別れを惜しんだ時の詞)

《参考》四疊陽關。これは、王維の詩「送元二使安西(元二の安西に使いするを送る)」による。惜別の情をよく歌ったている詩として現代でも送別の宴で「送元二使安西」を歌うことがある。その際、結句の「西出陽関無故人」を三回繰り返して歌うことで「陽関三畳」といわれる。日本では、「西のかた陽関を出づれば故人なからん。なからん、なからん、故人なからん」というように繰り返している。ここでは、四回繰り返し別れを惜しむ気持ちを詠っていると思われる。
 渭城朝雨浥輕塵  客舍青青柳色新  
 勸君更盡一杯酒  西出陽關無故人  
 渭城(いじょう)朝雨(ちょうう) 軽塵(けいじん)(うるほ)
 客舎(かくしゃ) 青青(せいせい) 柳色(りゅうしょく)(あら)たなり
 (きみ)(すす)(さら)()くせ一杯(いっぱい)(さけ)
 西(にし)のかた陽関(ようかん)()づれば故人(こじん)なからん
友人の元二が安西に赴くとき、「渭城」の街まで見送りにきて送別の宴を開いたその翌朝、いよいよ出発という時を詠んだもの。
 渭城の朝の雨は道の埃を落ち着かせ
 旅館の柳も青々と生き返ったようだ
 さあ君、もう一杯やりたまえ
 西方の陽関を出てしまえばもう酒を交わす友もいないのだから


《訳詩》
ソネット(十四行詩)にしてみました。

  別れる昼に
袖を濡らす涙が流れやまないまま
数えきれないほどに別れ歌を唱います
独り行くのは連なる山の果て
いくつの河が隔てるでしょう

しとしとと降る雨の音を独り聞くのは
さびしいものとあなたは言いますが
別れを惜しみ離れ離れになる痛みに
心は今も千千に乱れています

この別れに臨んで
杯をどれほど重ねようと
辛い思いが消えるわけでなくとも

これから行く先はあの世ほどに遠くはなく
過ぎ行く雁に手紙を託せば
きっときっとあなたに届くでしょう


(追加更新09/10/2)
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