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32-蝶戀花・やつれしおれて

  蝶戀花

   上巳召親族    李清照

永夜懨懨歡意少
空夢長安
認取長安道。
為報今年春色好
花光月影宜相照。

隨意杯盤雖草草
酒美梅酸
恰稱人懷抱。
醉裡插花花莫笑
可憐人似春將老。


《和訓》   
  上巳に親族を召して
永き夜を懨懨(やつれしおれ)て 歓意(たのしきこころ)少なし。
空しくも夢にみたるは長安(みやこ)なりて、
長安道(みやこおおじ)を認め取る。
今年の春の色好ましきを報ぜらるるに
花の光 月の影 宜しく相照らすべし。

意に随ひし杯盤の 草草と雖も
酒美(うま)く 梅酸(す)きに
(あたか)も人の懐かしみて抱けると称せり。
酔ひの裡(うち)に花を挿すも、花笑ふ莫(なか)れ。
憐れむべしぞ、人 春の将に老いたるに似るを。
 

《語釈》・上巳(じょうし):五節句の一。上巳の節供旧暦(陰暦)三月三日、重三(ちょうさん)の節供。中国古代では、上巳の節句に河で禊ぎを行い、汚れを落とし(「上巳の祓(はらえ)」)、その後に宴を張る習慣があった。
・懨懨:病み衰えている、憔悴しきったさま。げっそり。
・歡:勢い盛んな、元気な。喜ぶ、楽しむ。 
・歡意:喜び好む気持ち。
・認取:認得。 
・長安:ここは都の意。北宋の都汴京(べんけい・現開封)。
・春色:春の景色。春景。春の気配。 ・花光:花の輝くほどの美しさ。
・杯盤:酒食、宴席。 ・草草:いい加減。簡略。粗末。そそくさとした。
・梅酸:梅が酸っぱくおいしい。酸梅(=干していぶした梅の実)で醸造した酒。
 故事成語に「梅酸渇を休む」(代用の物でも一時はまにあわせの役にたつこと。魏の武帝(曹操)が軍隊を引き連れて道に迷い、水がなくてかわきに苦しんだ際に、前進すれば実のなった梅林があってかわきをいやすことができると励ますと、士卒は梅と聞いて口中につばが出て進むことができた故事による)がある。
・恰(あたかも):ちょうど。まるで。ちょうどその時。
・稱:ぴったり合う。酒はつらい苦しみの胸のうち(=懐抱)にぴったり合う。
・人:自分、ここは夫をも想起しているか。
・懐:懐(なつか)しむ。・懐抱:胸中にいだく思い。
・醉裡:酔ったままに。 ・裡:「そのような状態のうちに」の意
・插花:生け花をいける。花を髪飾りとして挿す。 
・憐:哀れむ、いとおしむ、愛する。
・人:ここは自分。 
・將:将(まさ)に。ちょうど今。疑いもなく。確実に。  

《詩意》
  上巳の節句に親族を呼び招く
春の永い夜、都を遠く離れやつれ萎れていて たのしいこころも湧きませんが、
空しいながらも長安(みやこ)を夢にみました。
夢で都大路の様子を懐かしく見ることができたのでした。
今年の春景色がとても素晴らしいと知らせがあります。
花のまばゆいばかりの美しさ 月の影 それぞれが照らしあってとても宜しいのでしょう(私は見ることも出来ませんのに)。

節句の宴席は 粗末ではありましても、私の思いのままですから
お酒もおいしく、梅の酸っぱさもちょうど好く
私のつらい苦しい胸のうちにぴったりで、まるで懐かしいあの人の包まれているよう。
酔うままに花を髪に挿してみますが、花よ笑うことはありません。
私はまるで老いてしまった春のようだと、どうぞいとおしんでください。


・建炎三年(1129年)の作で、「春将老」を「国将亡」の暗喻とし、南渡の恨みを詠う力作との解説があります。
 国の滅亡が日に日に顕著な中、前年夫の建康(南京)赴任に従い、迎えた春は確かに彼女にとって、「不愉、歓意甚少」の世情でした。この年はここから→池陽5月→衛→洪州と逃げ、洪州で蔵書のほとんどを失い、8月には夫をなくし、葬儀の後、病むという大変な年でした。
 こうした政治的状況にあわせて読むのではなく、もっと後の夫亡き後の作(1135年)として読む人もいます。ここではこちらによって読んでいます。




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