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36-行香子・七夕

 行香子 七夕   李清照

草際鳴蛩 驚落梧桐
正人間 天上愁濃。
雲階月地 關鎖千重。 (地=色)
縱浮槎來 
浮槎去
不相逢。


星橋鵲駕 經年纔見 (鵲=鶴)(纔=才)
想離情 別恨難窮。 (別=離)(恨=離)(難窮=無窮)
牽牛織女 莫是離中。
甚霎兒晴
霎兒雨
霎兒風。
 

《和訓》   
(ぎわ)(こおろぎ)鳴き
驚き落つるは梧桐
正に人間(じんかん)天上愁ひ(こまや)かなり。
雲の月と地を階するも
関鎖(とざ)すこと千重(せんちょう)
(たと)い浮かぶる(いかだ)の来るも
浮かぶる槎の去りて
相逢はず。

星の橋 (かささぎ)(かご)
年を経て(わずか)に見るも
離情を想ひて、別れし恨み窮まり難し。
牽牛織女
是れ離れしや、(あひ)しや。
(なん)霎児(しばし)晴れ
霎児(しばし)
霎児(しばし)風。 
 


《語釈》・蛩:いなご、こほろぎ。蟋蟀。
・梧桐落:アオギリやキリの葉が落ちる。凋落を暗示する語。「桐一葉落ちて天下の秋を知る」他の木より早く落葉する桐の葉一枚から秋の来たのを知ること。
・人間(じんかん):人の住む世界。世間。
・天上:天人の世界。天上界。天上にあるという世界。
・天上人間:天上世界と人間世界。あの世とこの世。絶対に行き交うことができない異なった世界。白居易の「長恨歌」に「但教心似金鈿堅 天上人間會相見」とある。また、この詞はこの中の「七月七日長生殿 夜半無人私語時 在天願作比翼鳥 在地願為連理枝」をも踏まえている。
・階:きざはし。はしご、はしごをかける。「雲階月地」は「月と地上を繋ぐ雲のはしごをかける」ことをいうのであろう。
・関鎖:門戸の錠や鍵、そのしまり。・関鎖千重:幾重にも閉ざされている。
・縱:たとえ…でも。よしんば。もし…だとしても。仮に。
・槎:いかだ。『博物志』にある七夕伝説による。海(黄河)と天上を行き来するいかだ。補注参照。
・星橋:天の河。 ・鵲:かささぎ。
・鵲駕:「鵲の橋」「かささぎの渡せる橋」と同様、七夕に、牽牛(けんぎゆう)織女の二星を会わせるためカササギが翼を並べて天の川を渡すという。男女の仲を取り持つものの意にもいう。
・纔:才。わづかに、やっと。かろうじて。やっとのことで。
・莫是:おそらく……だろう、憶測。……あらずや、反問。
・中:あたる。あう。 ・甚:なんぞ。(何)。正に。
・霎兒:「霎時」の通用。・霎時:すこしの間、しばし。瞬間。・霎:こさめ(小雨)。極めて短い時痢 

《詩意》
秋の茂る草の際で、こほろぎが鳴いています。
その声に驚き落ちるように大きな梧桐(あおぎり)の葉がはらと散ります。
人の世も天上の世界も愁ひが深まるばかりです。
雲が月と地の間にはしごをかけるようにかかっていますが、
死後のあなたのいる天上界との間の門は幾重にも堅く鎖されたままです。
よしんばいかだを浮かべて夫が来たとしても
その浮かんだいかだは去りゆくばかり
互いに逢うことはないのです。

天の河にかささぎのつくる駕がかかるのを
年を経てようやくの思いで見ていますが
離されている情を想うと、私の夫と切り離された恨みは果てることはありません。
牽牛と織女は
会えたのでしょうか、それとも離れ離れ?
ああなんとこの七夕は、しばし晴れ
またしばし雨
またしばし風!

《鑑賞》
夫趙明誠は病たおれこの世を去った。一人取り残された心痛を、七夕伝説を借りて怨み、慕い合うせつなさを訴えています。

《補注》
『博物志』にある伝説。海辺にいた張騫が、毎年八月になると流れて来る筏(いかだ)に乗って旅立つと、始めは月や星や太陽が巡るのが見えていたが、そのうち轟々(ごうごう)として昼夜の区別がつかなくなり、やがてとあるほとりに辿り着く。そこには、牽牛と織女という人がいて、牽牛は牛に水を飲ませ、織女は機を織っていた。「ここは何処か」と尋ねると「天の河だ。帰って成都の厳君平という星占いに聞くがよい。」との答えが返ってきた。のちに占い師に聞いてみると、確かに見知らぬ星が牽牛星に近づくのが見えた、という。
(これはまた、西域探検した張騫が黄河源流を探った話として伝わる。『今昔物語』にもある。)


《訳詩》
  七夕に
草の葉陰に蟋蟀(こおろぎ)鳴きて
桐の葉落つる秋となり
かの天国も人の世も愁いの繁く
月に架かれる雲あれど千重(ちへ)に閉ざさる

たとへ小舟を浮かぶるも
漕ぎ行く先も見えぬまま
相会ふことは難からむ

かささぎの渡せる橋の天の川
年に一度の逢瀬なれ
離れし辛さ別るる恨み限りなく
会ひて別るる七夕の夜は

しばし晴るるや
しばし雨降り
しばし風吹く


(追加更新09/10/2)

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