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38-孤雁兒・梅花三弄

 孤雁兒    李清照
  世人作梅詞、下筆便俗。予試作一篇、乃知前言不妄耳。

藤床紙帳朝眠起
說不盡 無佳思。
沈香煙斷玉爐寒   (煙斷=斷續)伴我情懷如水。
笛聲三弄
梅心驚破
多少春情意。

小風疏雨蕭蕭地
又催下 千行淚。
吹簫人去玉樓空
腸斷與誰同倚?   (與=有)
一枝折得
人間天上
沒個人堪寄。 

 (詞牌を「御街行」とするもある) 

《和訓》   
 世の人梅の詞となし、俗に就くと書き記す。予(私)の試みに作りし一篇にして、乃ち前言の妄ならざるを知るのみ。

藤の床 紙の帳 朝眠(ねむり)より起き
説きても尽きず 佳き思ひ無し。
沈香の煙り断ちて玉炉寒く
伴なへる我が情懐は水の如くに。
笛の声 三弄にして
梅心 驚破し
春の情意の多少(いかばかり)ぞ。

小風ふき 疏雨ふりて 蕭蕭たる地
又た催し下す 千行(ちすじ)の涙。
簫吹きし人も去りて玉楼空しく
腸断ちて 誰と同じく倚(よ)らむ?
一枝折り得て
人間(じんかん)天上
没して個人(ひとり)(た)えて寄る。



《語釈》・世人:世間の人。 ・下筆:書き記す。 ・便俗:通俗的。 ・予:私。 ・妄:根拠のない説。でたらめ。 ・耳:のみ。
・藤床:ふぢかづらでつくったベット。 ・紙帳:紙の帳(とばり)。・說不盡:(恨みは)言い尽くせない。不可能を表す。・説:言う。
・沈香:香木の代表とされるもの。沈水香。・情懐:心の中に思うこと。・三弄:「梅花三弄」という笛曲。極めて清楚で癒される曲。琴曲ともなる。曲調の前後を三度重複したので、“三弄”という。梅花の高潔、安穏、寒風と闘う様が奏される。 ・驚破:驚き破る。
・多少:どれほど、どれくらい。いくばく。多少は基本的に三種(どれほど。多くの。少しの。)に使う。ここでは、いったいどれほどか計り知れない、の意。
・疏雨:まばらに降る雨。
・蕭蕭:もの寂しく感じられるさま。雨や風の音などがもの寂しいさま。
・玉樓:立派なたかどの。玉は美称。
・腸斷:非常な苦痛。断腸の思い。「斷腸」と同じ。はらわたがちぎれるほどの、こらえきれないかなしみ。晋の桓温が三峡を過ぎたとき、従者が猿の子を捕まえた。母猿は、悲しみ、百里余もついて来たが、遂に死んだ。腹を割くと、母猿の腸がちぎれて死んでいたという故事からきている。
・倚:もたれる、よりかかる。  ・一枝:梅の一枝。 
・人間(じんかん):人の住む世界。 ・沒:没する。暗い気持ちになる。落ち込む。夫の死も暗示する。

《詩意》(世間の人はこの詞を梅の詞として、通俗的と書き記していますが、これは試みに作った一篇で、私もこの言葉が根拠のないでたらめな批評ではないことを知るばかりです。)

藤蔓のベット 薄紙の帳(とばり)の中で 朝 眠りより覚めましたが
やはり愁いは言い尽くせないほど深く、好い想いはわいてきません。
香木の煙りは消えていて美しい香炉は冷たくなっていますし
それに伴ってか私の心持もは水のように冷めていました。
聞こえてくる笛の音は 「梅花三弄」という笛曲
この曲に梅の心も 驚いたように開くのでしょう
春の想いがいったいどれほどのものか計り知れません。

春風がそっと吹き 春雨もまばらに降って 辺りはもの寂しいかぎり
寂しく辛い想いにまた私は果てることなく涙を流しています。
「梅花三弄」を吹いていた人も去って この高殿は空しいばかり
こらえきれないかなしみに 誰と心同じくして欄に身を倚せましょう?
梅の一枝を折りとって
この人の世と天の世の間にあって
暗い気持ちをただひとりこらえて身を寄せているのです。




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