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41-鳳凰臺上憶吹簫・千万遍の陽関


 鳳凰臺上憶吹簫    李清照

香冷金猊
被翻紅浪
起來慵自梳頭。   (慵自=人未)
任寶奩塵滿     (塵滿=閑掩)
日上帘鉤。
生怕離懷別苦    (離懷別苦=閑愁暗恨)
多少事 欲說還休。
新來瘦       (新來=今年)
非干病酒
不是悲秋。

休休!       (=明朝)
這回去也
千萬遍陽關
也則難留。
念武陵人遠   (人=春)(人遠=春晚)
煙鎖秦樓。     (=雲鎖重樓)
惟有樓前流水    (惟有=記取)(流=僉
應念我 終日凝眸。
凝眸處
從今又添      (又添=更數)
一段新愁。 
   (一段=幾段)
     ( )内は異本
     (「閨情」「離別」と題するもある)

《和訓》
くゆりし香も金猊(ひとり)に冷めて
(しとね)は紅き浪かとばかり翻(ひるが)へり
起きあがるにも 髪梳(くしけず)るをも物憂けり。
宝奩(ほうれん)の塵の満つるもそのままに
日はのぼりて、簾鈎(すだれつりかぎ)の上にあり。
離別の懐(おも)ひに苦しむを怕(おそ)れては、
説かんと欲して、なほ止むこと多し。
近頃の痩せ衰へしは
(ささ)に病みしにはあらず、また
秋を悲しむにしもあらぎりき。

(や)めむ、やめむ、
この度 出で行くは、と
千万遍の陽関(別れ歌)
また則(すなは)ち留め難かかりき。
武陵の人の遠きを念(おも)ひ、
秦楼の 霧に閉ざせる。
惟だあるは 楼前に水の流るるのみ
(まさ)に我を念ふべし、
我は終日(ひねもす)(ひとみ)(こ)らさんに。
眸凝らす処
今従(よ)り又 添ふるは
一段の新たなる愁ひ。


《語釈》
・香:香炉で焚く香。 ・冷:香炉の火が消えて。
・金猊(きんげい・ひとり):黄金づくりの唐獅子の香炉。
・被:掛け布団。・翻:掛け布団が乱れた様子。・紅浪:乱れた掛け布団。金猊の対。
・慵:物憂い。おっくう。 ・梳頭:あたまをすく。
・任:まかせる。塵の積もるがままに放置しておく。・寶奩(ほうれん):化粧箱。
・任寶奩塵滿:夫が側にいないため、身だしなみを整える気が起こらないこと。
・日上簾鈎:日が高く簾の鈎よりも昇ってしまった。
・生怕:ひどく恐れる。
・多少事:多くのこと。
・欲…還…:…をしようとしては、なおもまた…だ。
・説:はなす。・休:やめる。
・新來:近来。ちかごろ。
・非干:関係がない。・病酒:酒を飲み過ぎて体を壊す。
・不是:…ではない。
・這回:この回。この度。・去:行く。
・陽關:陽關三畳。王維の「送元二使安西」(「渭城朝雨輕塵,客舎戌慳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人」)。送別の曲として詠われる。
・也則:…も また すなわち。
・難留:とどめがたし。出立を抑えられない。
・念:おもう。念ずる。
・武陵人:陶淵明の「桃花源記」にでてくる、戦乱を避けた別天地を訪れた人。ここは平安をもたらす夫をいう。
・煙:煙霧。霧。 ・鎖:とざす。 
・秦樓:婦人の居住する建物。秦穆公の娘弄玉の住んだ鳳楼をさす。弄玉の夫の蕭史は蕭を吹くことが巧みで、孔雀や白鶴を庭に呼び寄せることが出来、後、鳳凰がやってくると夫婦で鳳凰に乗って昇天したという話が、『列仙伝』に見える。ここは、睦まじく夫婦で蕭を吹いて楽しく過ごした部屋の意。その楼閣がもやに閉ざされていると詠い、一人取り残された寂しさを際立たせる。詞牌では「鳳凰臺」を指す。
・終日:一日中。 ・凝眸:ひとみを凝らす。夫を偲び瞳を凝らして、帰りを待つ姿。

《詩意》
いつしか香炉の火も消えていて
苦しみに悶えて 上掛けの蒲団は紅い浪かとばかりに乱れ
起きあがるにも 髪をくしけずるにも物憂いばかり。
朝の身だしなみをする気も起こらず化粧箱の塵もそのままに
いつのまにか日はのぼって、簾の鈎の上にまで射しこんでいます。
あなたと離れ離れになってしまうことを思いその苦しさをおそれて、
お話しようとして、やはりためらったことも多くございました。
近頃私が痩せ衰えましたのは
お酒のために病んだせいではありません、また
秋が悲しいというせいでもありません。

この度のお出かけは、どうぞお止めください、と
千万遍の別れ歌を唄いましても
なんともあなたをお留めすることは難かしゆうございました。
戦乱のない桃源郷のような穏やかな別天地は手に届かぬものと思い、
私はかつては二人で楽しんだ部屋にひとり霧に閉ざされて取り残されています。
ただただ部屋の前にむなしく水が流れ 時が過ぎてゆきます。
どうぞ私のことを念じてください、
私は一日中流れる水に眸を凝らしてあなたを偲んでおりますので。
あなたを偲んで眸を凝らしていますと、
今より又 
ひときわの新たな愁いが添うばかりです。

(離愁を嘆く名作といわれる詞。早い時期の作品という。)



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