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42-聲聲慢・秋情


 聲聲慢    李清照

尋尋覓覓
冷冷清清
淒悽慘慘戚戚。
乍暖還寒時候
最難將息。     (最=正)
三杯兩盞淡酒
怎敵他 晚來風急?  (晚=曉)
雁過也
正傷心       (正=縱)
卻是舊時相識。   (卻=却)

滿地黃花堆積。
憔悴損
如今有誰堪摘?
守著窗兒      (守著=守着)
獨自怎生得遏
梧桐更兼細雨
到黃昏 點點滴滴。
這次第
怎一個 愁字了得!

         ( )内は異本
        (「秋情」と題するもある)

《和訓》
尋ね尋ね 覓(もと)め覓めて
冷冷(ひえびえ)と 清清(ひややか)にして
悽悽(いたま)しく 惨惨(むご)かれば 戚戚(うれ)うるばかり。
(あたた)かなれど いまだ寒きに還(かえ)る時候(ころおい)
将息(いこ)うには はなはだ 難(かた)かり。
三杯(さんばい)両盞(にはい)の淡酒(うすざけ)にては
(いか)でか 敵(かな)はむ 
  他(か)の晩来(たそがれ)の風 急(はげ)しきに。
(かり)の飛びゆくや
げに 心 傷(いた)ましむるは
さてこそ 是(こ)れ 旧時(むかし)の相識(なじみ)なればか。

地に満ちし黄菊の花も堆積(つみかさな)りて
憔悴(やつれ)はて 損(そこ)なふなるに
如今(いま)(なん)の 摘(つ)むに堪(た)へうる有(あ)らんや。
窓児(まどべ)にありて 守著(まも)りいて
独自(ひとり) 怎生(いか)でか黒(くる)るを得(まちえ)ん。
梧桐(あおぎり)に更(さら)に細雨(こさめ)の兼(ふりかか)
黄昏(たそがれ)に到(いた)りては
点点滴滴(しとしと ぽつぽつ)しずくしたたる
(こ)の次第(ありさま)
(いかで)(うれひ)の一字(ひともじ)にて了(つく)し得(え)んや。


《語釈》
・この詞は「秋情」と題される本もある。
・尋尋覓覓:「尋覓」(たずね、さがす)を畳字とした表現。以下畳字を多用している。
・冷清:物寂しい。ひっそりしているさま。人けのない、さびれた。
・凄慘:痛ましい。悲痛である。目もあてられないほどむごたらしい。
・戚:憂える。悲しむ。愁い。
・乍:なったと思ったら、…たばかり。 ・還:まだ、なお。
・將息:休息する。休養する。
・盞:小さくて平べったい杯。
・淡酒:手軽な酒。肴もない酒。
・怎敵他:いかんぞ、それに、かなはんや。・怎:=いかでか、如何、何如。どのように。 ・敵:かなう。あたる。
・雁過:雁が北へ帰る。彼女は北へは帰れない状況にある。
・卻是:かえって、どちらかといえば、むしろ、予想などとは反対に、逆に。
・滿地:あたり一面。 ・黄花:菊の花。
・如今:(過去と比べて)いま。現在。 ・有誰:誰が…するか(誰もしない)。反語表現。
・守著窗兒:窓辺にじっと寄り添う。 ・守著:守は見守る。じっと見つめている。著は動詞の後に付き動作の持続を表わす助字。・窗兒:窓。児は接尾辞。かわいいものに付く。
・獨自:一人で、自分だけで。ひとりぼっちで、ただひとりで。
・怎生:どんなにしたら=如何。
・遏夜になる。暗くなる。
・更兼:更にその上。 ・細雨:しとしとと降る雨。こまかい雨。
・點點滴滴:ぽつぽつ ぽたぽた(雨音)。擬声語。
・這:これ、この。「此」と似た働き。 ・次第:しだい。なりゆき。事情。
・怎一個、愁字了得:どうして「愁」の一字だけで表現しつくせようか。
・了得:納得することが出来る。 ・了:《可能補語として》動作、状態が完成段階まで達しうるか否かを表わす。

《詩意》
どんなに尋ねもとめても 失ったものは戻らず
ひえびえとした ひややかな境涯にあって
いたましく むごい想いばかりが蘇って 愁いを深くするばかりです。
暖かくはなってきたものの いまだ寒さの戻る時候でもあって
なかなかに安らいだ気持ちにはなれないのです。
お酒で憂さを紛らすにも 三杯二杯の淡いお酒では
どうして安らげましよう
その上 たそがれに吹き始めた風は激しさをましているのです。
雁が北へ飛びゆくのでしょうか
その声にまた 心 傷みます
雁も昔を偲ばせるなじみあるものだからこそでしようか。

あたり一面に咲き乱れた黄菊の花も
やつれはて そこなわれて
今は 摘むにたえるものもなく 贈る人もいないのです。
窓べにすわり じっと物思いにふけるしかありません。
ただひとり どのようにして暗くなるのを待てばいいのでしょう。
梧桐(あおぎり)にまた小雨が降りかかり 
夕暮れの中 しとしと ぽつぽつと 雫くが滴り落ちています。
この景色心情を
どうして「愁」の一字で言い尽くせましょう。

 (建炎三年(1129)八月十八日、病の夫明誠が亡くなり、李清照も病を得、また金兵の南下がいよいよ迫まるなか、独り建康に留まっていた折の作。この詞にはその悲傷愁苦の心情がせつせつと詠まれています。)


《付録》



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