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45-永遇樂・春意


 永遇樂    李清照
落日熔金
暮雲合璧
人在何處?
染柳煙濃     (濃=輕)
吹梅笛怨
春意知幾許?
元宵佳節
融和天氣
次第豈無風雨?
來相召 香車寶馬  (香車=眅車)
謝他酒朋詩侶。

中州盛日
閨門多暇
記得偏重三五。
鋪翠冠兒
拈金雪柳     (拈=捻、撚)
簇帶爭濟楚。
如今憔悴
風鬟霜鬢     (霜=霧)
怕見夜間出去。  (見=向)(=怕向花間重去)
不如向 帘兒底下
聽人笑語。

       ( )内は異本
       (「元宵」と題するもある)

《和訓》

落つる日の 金を熔かし
暮るる雲は 璧を合はすも
人 何処(いづく)にや在る。
柳を染むる(かすみ)濃く
「梅」を吹く笛を怨みて
春の(おもひ) 知るは幾許(いくばく)か。
元宵の佳節
天気 融和すれど
次第(たちまち)に (あに)風雨の無からんや
来りて相ひ召くは
香車 宝馬なれど
()の酒朋詩侶を謝したり。


中州の盛んなる日
閨門 (いとま)多く
記し得たるは 三五を(ひと)へに重んぜしこと。
(かわせみ)()きし冠兒(かんむり)
()りし雪柳
()ぶる(かざり)濟楚(うるはし)きを争ひき。
如今(いま) 憔悴(やつれ)はてて
風の(まげ) 霜の(びん)となりては
夜さりに出去(いづ)るを怕見(ためら)ふ。
簾兒(みす)底下(もと)()りて
人の笑ひ語れるを聴くに()かざり。


《語釈》
・熔金:金を溶かしたように。夕陽が、金を溶かしたように美しいさま。
・合璧:璧を合わせたような美しい味わい。第一句と第二句は対句。
・人:李清照自身のこと。自然に比べ変わってしまった我が身。
・染柳:柳が色づき、夕日に染まるっている。
・煙:もや、霞んでいるさま。また、柳の枝の茂るさまの形容。
・梅笛:笛による「落梅花」という曲。漢代の「横笛曲」にある「梅花落」。
・怨:女性の心の奥に秘められた、愛情に関する恨み。・「吹梅笛怨」と「染柳煙濃」とは、対。
・春意:春の気配。春情(夫の肌を求める心)の意も含まれようか。 
・幾許:いくばく。いかばかりか。どれほど。少し。
・元宵:上元(陰暦正月十五日)の夜。その年の初めての満月の夜。元夕。元夜。元宵節には、豊年を祈願して、提灯や飾りを掲げるという。月夜の祭りなので、宵に外出する。
・融和:気候が穏和になる。 
・次第:たちまちのうちに。だんだんと。
・豈無:どうして…ないだろうか。いや、絶対に…である。反語。
・風雨:風と雨。また、好ましくない状況。ここは、身に降りかかった災難、あるいは亡国の難を指す。
・來相召:(友人が)招待にやって来る。
・香車寶馬:すばらしい車と立派な馬。人の車馬への美称。お車。
・謝:謝絶する。お断りする。 
・他:その。 
・酒朋詩侶:風雅交際の友人。
・中州:汴州(べんしゅう)。北宋の首都汴京(開封府)は豫州(現・河南省)にあり、九州(中華)の中央に位置していたことにより中州という。
・盛日:(北宋の首都汴京時代の)華やかだった日々。
・閨門:婦人の居室の入り口。また内室。ここでは、李清照の居室。
・多暇:ゆとりがある。暇が十分にある。
・記得:(過去の)…を覚えている。記憶している。
・偏重:もっぱら重視する。
・三五:陰暦正月十五日の元宵節のこと。
・鋪翠冠兒:翠(カワセミ)の羽をあしらった冠。・鋪:ならべる。敷きつめる ・児:接尾辞でかわいい感じのものに付く。
・撚金雪柳:宋代の婦人が元宵節につけた金糸と絹紙で作る髪飾り。
・簇帶:髪に飾った装飾の品々。 ・簇:群がる。一かたまりになる。 ・帯:身に着ける。
・爭:競う。装いの美しさを競う。 
・濟楚:澄んで整った。端正で麗しいこと。
・如今:いま。現在。 ・憔悴:やせおとろえる。やつれる。
・風鬟霜鬢:苦労心痛のために鬟(まげ)は乱れ、鬢(びん)は霜の如き白髪になる。
・怕見:気が進まない。おっくうである。 
・出去:出かける。外出する。
・不如:しかず。…に及ばない。…の方がよい。 
・向:ちかづく(近)。
・簾兒:みす、すだれ。児は、接尾辞。 
・底下:…の下で。…の後ろで。・底:とどまる(止)。いたる(至)。
・聽人笑語:人が楽しげに談笑するのを聴く。

《詩意》
落ちる夕陽が、金を溶かしたように美しく
璧を合わせたような美しい雲が暮れ行く空に浮かんでいます。
昔の私は一体どこへ行ってしまったのでしょう。この自然に比べて変わってしまった我が身を愁うるばかりです。
色づいた柳の濃くたなびく霞に
「梅花の落つる」と怨みの色を奏でる笛の音に
いかほどかの春の気配を感じます。
正月十五日の元宵の節句をむかえ
天気は穏和になりましたが
だんだんと好ましくない状況が迫っているよう。
友人が立派な馬車で元宵のお祭りを観ようと誘いやってきましたが
その酒や詩の友のを招待をお断りいたしました。

かつて都が華やかだった日々
私にはのどかなゆとりがあって
元宵節を特にいとおしみ重んじていたことを好く覚えています。
かわせみの羽をあしらった冠に
金を撚り合わせた髪飾りなど
身にまとった飾りの美しさを競い合ったことでした。
今は やつれはてて
心痛のために鬟(まげ)は乱れ、鬢(びん)は霜のように白くなってしまいました。
夜の提灯の並ぶ華やかな街に出かけるのはためらわれます。
家にいて外と隔てる簾の後に座って
外を行く人々の笑い語る様子を聴くことにいたしましょう。


《鑑賞》
最晩年の作でしょうか。
「人何処(いづく)にや在る」の「人」を清照自身と読みましたが、亡き夫をしのんでいるとも読めます。一説には中年のころの作とし不在の夫を嘆いての詞ともいいます。
 まず目の前の情景を詠い、次いで昔の懐憶に移り、再び過去の思いでの上に立った現在の心境を詠っています。出歩くよりも、むしろ、御簾の後ろにいて、他の人の楽しむ声を聴いていた方がいいとは、この時の李清照の正直な気持ちなのでしょう。
 晩年は臨安(浙江杭州)に住んでいました、当時南宋時代も既に比較的安定し、元宵節の日、臨安の街はにぎわっていて繁栄する光景を呈していたのでしょう。


《訳詩》
  宵の祭りに
燃える夕日に
彩る雲に
あなたはどこにと偲べども
かすむ柳に
笛もかなしく
湧きし思いは知れるほど
新らしき望を讃えて
春の空穏やかなれど
雨風のいつに吹くやら
友の招きの
懇ろなれど
いずる気もなく断りぬ

華やぐ都
のどけき心
昔を今に偲べるは
羽根の冠り
黄金の飾り
競ひしことの懐かしき
今やつれはて
髪白く
外行くこともためらはれ
外と隔つる部屋にいて
外行く笑い聞くばかり


(追加更新09/10/8)

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