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補6 浪淘沙 素約小腰身



補6 浪淘沙   李清照
  (「閨情」とするもある)
素約小腰身、不耐傷春。
疏梅影下晚妝新。
裊裊婷婷何樣似、一樓輕雲。  (婷婷=娉娉)
歌巧動朱唇、字字嬌嗔。
桃花深徑一通津。        (徑=處)
悵望瑤臺清夜月、還照歸輪。 
(照=送)


《和訓》
(もと)より約(つづま)やかなる小腰の身、春を傷むに耐へず。
(まば)らなる梅の影の下に 晩の妝(よそほひ)を新たにす。
裊裊(しなしな)と婷婷(しなやか)に何に似たる樣か、一楼の軽き雲。
歌巧みに朱唇動き、字字の嬌(なま)めき嗔(こえたか)し。
桃花の深き径は一に津に通ずるも、
悵望すれば瑶台に清夜の月、還(また)帰輪を照らせり。



《語釈》
・約:つづまやか。ひかえめなさま。つつしみ深いさま。
・小腰身:ウエストが細い姿。華奢な体つき。
・晚妝:夕方婦女は再度化粧して、着替える。
・裊(にゅう):しなやか。しとやか。
・婷(ちょう):うつくしい。しとやか。
・字字:それぞれの字(語)は全部。(あるいは、いつくしむ。)
・嬌嗔(きょうしん):美人のなまめかしい怒り。また、そのように怒ること。
・嗔:盛んな声。いかる。
・津:渡し場、渡船場。桃源郷への入り口。
 ※晉の陶潛の「桃花源記」で、武陵の人が桃花の林の奥の水源に桃源郷への入り口を見出した所と記されている。
・悵望:悲しく眺める。うらめしげに見やる。心をいためて思いやること。
・瑤臺:玉で飾った美しい御殿。玉のうてな。螺鈿などで飾った高楼。西王母の居るところ。仙境。また転じて月世界。
・清夜:涼しくさわやかな夜。
・還:やはり。なお、依然として。さらに、その上。(程度が)まずまず。
・歸輪:帰る車。婦人が家に帰るとき乗る轎車。

 ※この詞は女性のしなやかな美しさが歌われているが、そこにある艶やかな愁いの奥に幸せな世を願う想いが感じられる。
連想される陶淵明の「桃花源詩」の結びを記す。
奇蹤隱五百, 奇しき蹤(あと)隱ること五百、
一朝敞神界。 一朝 神界敞(あらは)る。
淳薄既異源, 淳薄 既に源を異にし、
旋復還幽蔽。 旋(たちま)ち復(ま)た還(なほまた)幽蔽(いうへい)す。
借問游方士, 借問す 方(はう)に游ぶの士、
焉測塵囂外。 焉ぞ測らん 塵囂(ぢんがう)の外を。
願言躡輕風, 願くは輕風を躡(ふ)み、
高舉尋吾契。 高舉して吾が契を尋ねん。
 乱世を避けた人々が桃花源に隠れてから五百年が経って、
 ある日、神秘な桃花源があらわれました。
 人情の厚薄の違いは全く異なったものでしたが、
 たちまちに再び、なおもまた覆い隠されてしまいました。
 俗世間に住む人におたずねしますが、 
 いったい、この俗世間の外(桃花源)を想像してみたことはありますか。
 できることならば、軽やかな風に乗って、
 高らかに舞い上がって、わたしの理想に合ったあの桃源郷を尋ねたいものです。 


《詞意》
もともとほっそりとした私には虚しく春の過ぎていくのは耐えられないこと。
散ってまばらな梅花の影の下に 宵の化粧を新たにします。
しとやかにしなしなと美しい姿は何に似ていることでしょうか、それは高殿にかかる軽い雲でしょうか。
歌うたえば巧みに朱い唇が動き、発せられる一つ一つの言葉はなまめかしくも怨みに声高くなります。
桃花のもとの深い小道は一つにユートピアへの入り口に通ずるといいますが、
御殿にかかるさわやかな月をうらめしげに見あげ、その光がまた帰り行く車を照らしているのを嘆き怨んで眺めやっています。




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