宋詞鑑賞・李清照・朱淑真
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宋詞について
宋詞鑑賞・目次
(それぞれの目次にリンクしています)
・李清照全詞集(四九首)
・李清照詞補遺(一四首)
・追補 李清照漢詩(五首)
・朱淑真の詞(二五首)
・呉淑姫詞(五首)
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宋詞鑑賞・目次
(それぞれの目次にリンクしています)
・李清照全詞集(四九首)
・李清照詞補遺(一四首)
・追補 李清照漢詩(五首)
・朱淑真の詞(二五首)
・呉淑姫詞(五首)
宋詞について
詞は宋代を代表する文学として、極めて重要な中国韻文の一ジャンルに位置しています。
「漢文・唐詩・宋詞・元曲」という言葉があります。これは、それぞれの時代を代表する文学のジャンルを示す言葉です。
では、詩と詞は何が違うのでしょう。
現代日本でもこの二つの言葉は日常的に使い分けています。
作詞作曲とか歌詞という語があります。一般に読むのが詩で、メロディが付いて歌われるのが詞という具合です。
詞は、宋の詞といわれますが、その作品は、晩唐五代両宋はもちろん、元明代にも続き、さらに清代には再び活況を呈して、近現代に及んでいます。
ですから詞は、歴代中国文人の創作活動や教養にとって、欠くべからざる分野として確固たる地歩を占めているのでした。
宋詞の詞風は大きく8種類(北宋5、南宋3)の類型に分けられ、そのなかで最も影響力があったのは豪放詞と婉約詞といわれます。豪放詞の代表的な詞人は蘇軾・辛棄疾で、また劉過・陳亮・劉克荘がいます。婉約詞の代表的な詞人は柳永・秦観・晏殊・李清照で、また欧陽脩・周邦彦・姜夔・晏幾道らがいます。
「詞(宋詞)」は、普通は「填詞」、或いは単に「詞」ともと呼びます。
その形を見てみますと、唐詩に比べ一句の文字数が一定でなく、長短不揃いであり、句数も色々。この多様で、複雑な形をしているのは、一つには、形式の上から、更には詠い込む対象・内容の違いから、また詞の社会的な地位(詩は科挙の課題であった)から来ています。また、初期には歌として歌われ、歌詞として発達してきたという側面もあり、曲調にあわせて、長短入り混じった句で出来ています。
詩の形式は五言と七言の絶句・律詩・排律で、その調べは十数種類ですが、それに対して宋詞の形式(詞調)では、長短句入り混じり、平仄、押韻の形式も数多く作られ、その種類は八百二十五調、千百八十余体、或いは千六百七十余体があると言われています。そしてそれら各形式(詞調)毎に、形式の題名=「詞牌」が冠せられています。詞牌とは本来は詞の題名ではなくて、形式名、音曲名と謂えるものです。
実際の詞を見てみると、詩とは全く違った趣を持っているのが解りますが、長短句の入り混じった複雑なリズム、平仄の韻律も近体詩に比べ格段に複雑・多様です。このように表現が極めて多彩で、それに伴い制約も極めて多いというわけで、日本人にはお手上げ状態となって、読んだり作ったりをあまりしないので、宋詞は高校までの漢文学習では現れません。
あまり親しみのない部分ですが、中国の人は、より現代語に近く、より繊細な感情を表している分、詞に親しみを感じているようです。
このブログで取り上げるのは宋代の女流詞人による詞です。
その代表的女流詩人で「第一女詞人」と呼ばれる李清照は、その波乱に富んだ人生から生まれた詞ゆえにか、唐詩には見られない女心の憂悶や沸き上がる情熱を詠っていて心惹かれます。
彼女の生涯については別にまとめるつもりですが、彼女自身で記した「金石錄後序」をご覧ください。
この李清照と並んで宋代女性作家の双子星座と称されるのが朱淑眞です。「断腸詞人」と呼ばれています。
李清照と朱淑真は全詞を挙げました。(補遺として李清照の詞と思われる一四首も挙げています)
もう一人は「薄命詞人」と呼ばれる呉淑姫。ここでは代表作とされる、四首を掲載しています。
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宋詞について
2009-03-26T22:13:58+09:00
杉篁庵庵主
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追補 李清照漢詩(五首)
追補 李清照漢詩(五首)
李清照の漢詩は断句も含めて二十首ほどある。
ここでは五首を揚げる。
なお、原詩と詩論の原文を一覧としてまとめてある。
目次
・絶句(夏日絶句・烏江)
・春殘
・題八詠樓
・偶成
・曉夢
・一覧・李清照の漢詩と...
追補 李清照漢詩(五首)
李清照の漢詩は断句も含めて二十首ほどある。
ここでは五首を揚げる。
なお、原詩と詩論の原文を一覧としてまとめてある。
目次
・絶句(夏日絶句・烏江)
・春殘
・題八詠樓
・偶成
・曉夢
・一覧・李清照の漢詩と詩論
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(李清照漢詩)
2009-03-26T22:13:43+09:00
杉篁庵庵主
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一覧・李清照の漢詩と詩論
詩
?溪中興頌詩和張文潛二首
五十年功如電掃,華清宮柳咸陽草。
五坊供奉斗雞兒,酒肉堆中不知老。
胡兵忽自天上來,逆胡亦是好雄才。
勤政樓前走胡馬,珠翠踏盡香塵埃。
何為出戰輒披靡,傳置荔枝多馬死。
堯功舜?本如天,安用區區紀文字。...
詩
?溪中興頌詩和張文潛二首
五十年功如電掃,華清宮柳咸陽草。
五坊供奉斗雞兒,酒肉堆中不知老。
胡兵忽自天上來,逆胡亦是好雄才。
勤政樓前走胡馬,珠翠踏盡香塵埃。
何為出戰輒披靡,傳置荔枝多馬死。
堯功舜?本如天,安用區區紀文字。
著碑銘?真陋哉,乃令神鬼磨山崖。
子儀光粥不自猜,天心悔禍人心開。
夏商有鑒當深戒,簡策汗青今俱在。
君不見當時張說最多機,雖生已被姚崇賣。
君不見驚人廢興傳天寶,中興碑上今生草。
不知負國有姦雄,但說成功尊國老。
誰令妃子天上來,虢秦韓國皆天才。
花桑羯鼓玉方響,春風不敢生塵埃。
姓名誰復知安史,健兒猛將安眠死。
去天尺五抱甕峰,峰頭鑿出開元字。
時移勢去真可哀,姦人心醜深如崖。
西蜀萬里尚能返,南內一閉何時開。
可憐孝?如天大,反使將軍稱好在。
嗚呼,奴輩乃不能道:「輔國用事張后尊」,乃能念:「春薺長安作斤賣。」
感懷
宣和辛丑八月十日到萊,獨坐一室,生所見皆不在目前。几上有《禮韻》,因信手開之,約以所開為韻作詩。偶得「子」字,因以為韻,作感懷詩云:
寒窗敗几無書史,公路生平何至此。
青州從事孔方兄,終日紛紛喜生事。
作詩謝絕聊閉門,虛室生香有佳思。
靜中吾乃得至交,烏有先生子虛子。
分得知字韻
學詩三十年,緘口不求知。
誰遣好騎士,相逢說項斯。
偶成
十五年前花月底,相從曾賦賞花詩。
今看花月渾相似,安得情懷似昔時。
詠史
兩漢本繼紹,新室如贅疣。
所以嵇中散,至死薄殷周。
烏江
生當作人傑,死亦為鬼雄。
至今思項羽,不肯過江東。
曉夢
曉夢隨疏鐘,飄然躋雲霞。
因緣安期生,邂逅萼?華。
秋風正無?,吹盡玉井花。
共看藕如船,同食棗如瓜。
翩翩座上客,意妙語亦佳。
嘲辭斗詭辯,活火分新茶。
雖非助帝功,其樂何莫涯。
人生能如此,何必歸故家。
起來斂衣坐,掩耳厭喧嘩。
心知不可見,唸唸猶咨嗟。
春殘
春殘何事苦思鄉,病裡梳妝恨髮長。
樑燕語多終日伴,薔薇風細一簾香。
夜發嚴灘
巨艦只緣因利往,扁舟亦是為名來。
往來有媿先生?,特地通宵過釣台。
題八詠樓
千古風流八詠樓,江山留與後人愁。
水通南國三千里,氣壓江城十四州。
上樞密韓公工部尚書胡公三首並序
紹興癸丑五月,樞密韓公、工部尚書胡公使虜,通兩宮也。有易安室者,父祖皆出韓公門下。今家世淪替,子姓寒微,不敢望公之車塵;又貧病,但神明未衰落,見此大號令,不能忘言。作古律詩各一章,以寄區區之意,以待採詩者云。
其一
三年夏六月,天子視朝久。
凝旒望南雲,垂衣思北狩。
如聞帝若曰,岳牧與群後。
賢寧無半千,運已遇陽九。
勿勒燕然銘,勿種金城柳。
豈無純孝臣,識此霜露悲。
何必羹捨肉,便可車載脂。
土地非所惜,玉帛如塵泥。
誰當可將命,幣厚詞益卑。
四岳僉曰俞,臣下帝所知。
中朝第一人,春官有昌黎。
身為百夫特,行足萬人師。
嘉佑與建中,為政有皋夔。
匈奴畏王商,吐蕃尊子儀。
夷狄已破膽,將命公所宜。
公拜手稽首,受命白玉犀。
曰臣敢辭難,此亦何等時。
家人安足謀,妻子不必辭。
願奉天地靈,願奉宗廟威。
徑持紫泥詔,直入黃龍城。
單于定稽顙,侍子當來迎。
仁君方恃信,狂生休請纓。
或取犬馬血,與結天地盟。
其二
胡公清?人所難,謀同?協心志安。
脫衣已被漢恩暖,離歌不道易水寒。
皇天久陰后土濕,雨勢未回風勢急。
車聲轔轔馬蕭蕭,壯士懦夫俱感泣。
閭閻嫠婦亦何知,瀝血投書干記室。
夷虜從來性虎狼,不虞預備庸何傷。
衷甲昔時聞楚幕,乘城前日記平涼。
葵丘踐土非荒城,勿輕談士棄儒生。
露布詞成馬猶倚,崤函關出雞未鳴。
巧匠何曾棄樗櫟,芻蕘之言或有益。
不乞隋珠與和壁,只乞鄉關新信息。
靈光雖在應蕭蕭,殘虜如聞保城郭。
嫠家父祖生齊魯,位下名高人比數。
當時稷下縱談時,猶記人揮汗如雨。
子孫南渡今幾年,漂流逐與流人伍。
欲將血淚寄山河,去灑青州一坯土。
其三
想見皇華過二京,壺漿夾道萬人迎。
連昌宮裡桃應在,華萼樓頭鵲定驚。
但說帝心憐赤子,須知天意念蒼生。
聖君大信明如日,長亂何須在屢盟。
詞論
樂府聲詩並著,最盛於唐。開元、天寶間,有李八郎者,能歌擅天下。時新及第進士開宴曲江,榜中一名士,先召李,使易服隱姓名,衣冠故敝,精神慘沮,與同之宴所。曰:「表弟願與坐末。」眾皆不顧。既酒行樂作,歌者進,時曹元謙、念奴為冠,歌罷,眾皆咨嗟稱賞。名士忽指李曰:「請表弟歌。」眾皆哂,或有怒者。及轉喉發聲,歌一曲,眾皆泣下。羅拜曰:此李八郎也。」
自後鄭、衛之聲日熾,流糜之變日煩。已有《菩薩蠻》、《春光好》、《莎雞子》、《更漏子》、《浣溪沙》、《夢江南》、《漁父》等詞,不可遍舉。五代干戈,四海瓜分豆剖,斯文道息。獨江南李氏君臣尚文雅,故有「小樓吹徹玉笙寒」、「吹皺一池春水」之詞。語雖甚奇,所謂「亡國之音哀以思」也。逮至本朝,禮樂文武大備。又涵養百餘年,始有柳屯田永者,變舊聲作新聲,出《樂章集》,大得聲稱於世;雖協音律,而詞語塵下。又有張子野、宋子京兄弟,沈唐、元絳、晁次膺輩繼出,雖時時有妙語,而破碎何足名家!至晏元獻、歐陽永叔、蘇子瞻,學際天人,作為小歌詞,直如酌蠡水於大海,然皆句讀不茸之詩爾。又往往不協音律,何耶?蓋詩文分平側,而歌詞分五音,又分五聲,又分六律,又分清濁輕重。且如近世所謂《聲聲慢》、《雨中花》、《喜遷鶯》,既押平聲韻,又押入聲韻;《玉樓春》本押平聲韻,有押去聲,又押入聲。本押仄聲韻,如押上聲則協;如押入聲,則不可歌矣。
王介甫、曾子固,文章似西漢,若作一小歌詞,則人必絕倒,不可讀也。乃知詞別是一家,知之者少。後晏叔原、賀方回、秦少游、黃魯直出,始能知之。又晏苦無鋪敘。賀苦少重典。秦即專主情致,而少故實。譬如貧家美女,雖極妍麗豐逸,而終乏富貴態。黃即尚故實而多疵病,譬如良玉有瑕,價自減矣。
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(李清照漢詩)
2009-03-26T21:49:26+09:00
杉篁庵庵主
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杉篁庵庵主
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五 曉夢
曉夢 李清照
曉夢隨疏鐘, 飄然躡雲霞。
因緣安期生, 邂逅萼?華。
秋風正無頼, 吹盡玉井花。 (元績=無頼)
共看藕如船, 同食棗如瓜。
翩翩坐上客, 意妙語亦佳。 (坐=座)
嘲辭鬥詭辯, 活火分新茶。 (鬥=闘)
雖非助帝功, ...
曉夢 李清照
曉夢隨疏鐘, 飄然躡雲霞。
因緣安期生, 邂逅萼?華。
秋風正無頼, 吹盡玉井花。 (元績=無頼)
共看藕如船, 同食棗如瓜。
翩翩坐上客, 意妙語亦佳。 (坐=座)
嘲辭鬥詭辯, 活火分新茶。 (鬥=闘)
雖非助帝功, 其楽莫可涯 (莫可=何莫)
人生能如此, 何必歸故家。
起來斂衣坐, 掩耳厭喧嘩。
心如不可見, 念念猶咨嗟。 (如=知)
( )内は異本
暁の夢 疎鐘に随ひ
飄然として雲霞を躡み、
安期生に因縁して
萼緑華に邂逅す。
秋風は正に頼る無く
玉井の花を吹き尽くす。
共に看る藕は船の如く
同じく食する棗は瓜の如し。
翩翩たり坐上の客
意は妙にして語も亦た佳なり。
嘲辞 詭弁を闘はし
火を活かして新茶を分かつ。
帝功を助けざると雖も
其の楽みは涯る可く莫く、
人生 能く此くの如くなれば
何ぞ必ずしも故家に帰らん。
起き来って衣を斂めて坐し
耳を掩ひて喧嘩を厭ふに
心は見るべからさる如く
念念 猶咨嗟す。
・疏鍾・・まばらな鍾の声。
・飄然・・ふらりとやって来るさま。こだわらないさま。
・躡・・そっと足を運ぶ。
・因緣・・由来。
・安期生・・千歳の長生を得たという、秦時代の仙人。秦の始皇帝が長生の教えをこうために謁見したが、蓬莱山に捜しにくるようにといい、姿をけしてしまった。金液の服用により長寿を得たと伝えられる。李少君(安期生の弟子)は安期生に瓜のような大きなナツメをもらって食べて長寿を得たという。
・萼緑華・・古代の伝説中の南山の美少女、仙女。
・邂逅・・思いがけなく出会うこと。めぐりあい。
・無頼・・頼みにするところのないこと。
・玉井花・・韓愈の詩「玉井蓮詩」に「太華峰頭玉井蓮、開花十丈藕如船」"の句がある。
・藕・・蓮(はす)。ここは蓮の葉。「如船」は韓愈の詩による。
・棗・・ナツメの実。李少君の故事による。
・翩翩・・軽やかにひるがえるさま。ひらひら。かるがるしいさま。
・嘲辞・・あざけりの言葉。お茶比べの言葉であろう。
・詭弁・・間違っていることを、正しいと思わせるようにしむけた議論。
・活火・・「茶須緩火炙、活火煎」
・分新茶・・宋代の分茶という遊び。抹茶にお湯を注ぎ、茶筅で泡を立て花や動物などを図案を作り出す遊び。宋では新茶の季節に必ず「斗茶(闘茶)」が行われ、范仲淹の詩では「勝者登仙不可攀、輸同降将無窮恥」(勝てば、仙人になったように偉くなり、近よりがたい。負ければ、投降した将のようにその恥は窮まりない。)と詠われている。
・斂・・おさめる。斂衣は装いを整えるの意。
・喧嘩・・騒がしさ。
・猶・・なお、いまだに。
・咨嗟・・なげき嘆息すること。
【詩意】
(喧騒の時代にあって幻想的な中に身を置く冥想的詩篇。目覚めれば国家についても身の上についても辛く悲惨な状況にある。)
明け方に見た夢は まばらな鍾の音に乗って
ふらりと雲霞の中に入り込み、
千歳の長生を得た安期生に因み
美少女の仙女萼緑華に巡り逢いました。
秋風がちょうど無法にも
玉井の蓮の花を吹き尽くしています。
共に看る蓮の葉は大きくまるで船のよう
同じく二人で食べる棗も瓜の如くに大きいのです。
軽やかな坐上の客は
気持ちは言葉で表せないほどすばらしく言葉もまた美しいのです。
茶の善し悪しをあれこれと論じ比べ合い
湧かしたお湯を注いで新茶を楽しみます。
こんな楽しみが帝の功を助けることはないといっても
終わるはずはなく、
人生も都合よくこのようであれば
どうして必ず故郷に帰ろうと思うでしょうか。
目覚めた後、起きなおって装いを整えて坐ってみますが
世の中の喧騒は耳をおおうばかりでいやになります。
心の中は実際には見ることもできないのですが
その思いにただただため息をつくばかりです。
参考
玉井蓮詩 韓愈
太華峰頭玉井蓮,
開花十丈藕如船。
冷比雪霜甘比蜜,
一片入口沈痾痊。
我欲求之不憚遠,
青壁無路難夤緣。
安得長梯上摘實,
下種七澤根株連。
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(李清照漢詩)
2009-03-26T21:09:15+09:00
杉篁庵庵主
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四 偶成
偶成 李清照
十五年前花月底,
相從曾賦賞花詩。
今看花月渾相似、
安得情懷似往時。
十五年の前 花月の底(もと)、
相ひ従ひて曾(かつ)て花を賞(たた)ふる詩を賦しき。
今 花月を看るに渾(あたか)も相ひ似たるも、
安(いづく)んぞ往時に似たる情...
偶成 李清照
十五年前花月底,
相從曾賦賞花詩。
今看花月渾相似、
安得情懷似往時。
十五年の前 花月の底、
相ひ従ひて曾て花を賞ふる詩を賦しき。
今 花月を看るに渾も相ひ似たるも、
安んぞ往時に似たる情懐を得んや。
・底・・下。「花底、はなのもと」
・相從・・(いっしょ)に寄り添う。 ・從・・したがう。附き添う。
・曾(かつて)・・以前。前に。
・賦・・(詩を)作る、吟ずる。
・渾(すべて・あたかも)・・すっかり、まるで、ほとんど。すべて、まったく。ほとんど…ばかり。
・安・・怎。(疑問・反語を表す語を下に伴って)どうして。なんで。
【詩意】
花と月の美しかった十五年も前の春の宵、その花と月の光のもとで、
夫と二人共に花を愛でて詩を創ったことがありました。
夫亡き今 花も月もまるで以前のままに美しいのですが
どうしてあの時の心浮き立つ想いを蘇らすことができましょう。
この詩は夫趙明誠が亡くなった後のものであるが、具体的な時ははっきりしない。
目の前の景色が以前夫といっしょにいた幸福だった生活を呼び覚まし、感慨深く思い、今の辛さが更に増幅される心情を詠っている。
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(李清照漢詩)
2009-03-26T21:01:34+09:00
杉篁庵庵主
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三 題八詠樓
題八詠樓 李清照
千古風流八詠樓,
江山留與後人愁。
水通南國三千里,
氣壓江城十四州。
千古の風流 八詠楼、
江山 留め与ふるは 後人の愁ひ。
水は通ず 南国 三千里、
気は圧す 江城 十四州。
五十二歳のとき(紹興五年・11...
題八詠樓 李清照
千古風流八詠樓,
江山留與後人愁。
水通南國三千里,
氣壓江城十四州。
千古の風流 八詠楼、
江山 留め与ふるは 後人の愁ひ。
水は通ず 南国 三千里、
気は圧す 江城 十四州。
五十二歳のとき(紹興五年・1134年)、金軍が臨安に迫り、臨安の西南にある金華に避難したときの作。
・八詠樓・・玄暢楼のこと。南朝斉の東陽太守沈約が立てた建築物で、玄暢楼を詠んだ詩作八首に基づく名。浙省金華。
・後人愁・・後人はこの詩の場合、作者とその同じ時代の人を指す。愁は、八詠楼から見える国土が金の敵に侵略された憂い。
・水通・・川は流れている。
・三千里・・極めて広い範囲ことをいう。
・十四州・・ここは、江南一帯。広い地域の意。
【詩意】
千古の昔から、風格高く風雅なたたずまいの玄暢楼。
この楼閣から眺める景色の美しいさは、却って、私の憂いを増すばかり。
川や運河は江南の広い地域を通って、南の各都市へ繋がり、
憂国の気が川沿いの広大な江南一帯の十四州までも圧している。
夫・趙明誠に死なれて後は、金の中原への侵略によって、南国の江南の地を逃げまわる生活を強いられた。その時の心境を表した詩のひとつである。
国破れ、北から南へ逃げる惑う戦乱の中で、八詠楼の景色のすばらしさを詠うことによって、南宋の皇帝や南宋官僚の腐敗を批判している。第2句の「江山」「留与」「後人愁」の言葉には、強烈な批判が含められている。
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(李清照漢詩)
2009-03-26T20:57:22+09:00
杉篁庵庵主
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杉篁庵庵主
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二 春殘
春殘 李清照
春殘何事苦思郷
病裡梳頭恨髪長
梁燕語多終日在
薔薇風細一簾香
春残(しゅんざん)何事ぞ苦(はなは)だ郷(きょう)を思ふ
病裏(へいり)頭(こうべ)を梳(くしけず)りて髪の長きを恨む
梁燕(りょうえん)語(ご)多くして終日(しゅう...
春殘 李清照
春殘何事苦思郷
病裡梳頭恨髪長
梁燕語多終日在
薔薇風細一簾香
春残何事ぞ苦だ郷を思ふ
病裏頭を梳りて髪の長きを恨む
梁燕語多くして終日在り
薔薇風細やかにして一簾香し
春殘・・晩春
苦・・しきりに、とても
梁燕・・梁の上に巣をかけている燕
語多・・燕がしきりにさえずり交わしている
【詩意】
春もゆこうとしているいま、何故かとても故郷が懐かしく思われます。
病床にあって、髪をすくと、あまりに長さが煩わしく思えます。
梁の上の燕は日がな一日さえずり続け、
庭の薔薇がそよ風に乗って簾ごしに薫っています。
堀辰雄は好きな本のひとつに『歴朝名媛詩詞』をあげ、そのなかでも一番好きな詩人は、李清照で、この「春残」を、「そのうたの意味はね、病み上がりの美人が、窓辺に頬杖でもついて、何かもの思いに耽っているとかすかな、ちょっと簾を動かすだけの風が吹いてきて、薔薇の匂いがかすかにしてきた、というようなものだけど──風ほそくして、なんて言うのはいい言葉でしょう、」と言ったという。(中里恒子の随筆「石榴を持つ聖母の手」)
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(李清照漢詩)
2009-03-26T20:51:48+09:00
杉篁庵庵主
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一 絶句 (夏日絶句・烏江)
絶句 (夏日絶句・烏江)
李清照
生當作人傑,
死亦爲鬼雄。
至今思項?,
不肯過江東。
生きて、当に、人傑と作(な)り、
死して、亦、鬼雄と為(な)るべし。
至今(いま)、項羽を思ふ、
江東過(わ)たるを肯せんせざるを。
・烏江・...
絶句 (夏日絶句・烏江)
李清照
生當作人傑,
死亦爲鬼雄。
至今思項?,
不肯過江東。
生きて、当に、人傑と作り、
死して、亦、鬼雄と為るべし。
至今、項羽を思ふ、
江東過たるを肯せんせざるを。
・烏江・・安徽省を流れる川。項羽が劉邦によって滅ぼされた地。
・人傑・・衆に抜きんでて優れた人物。
・鬼雄・・幽鬼の中でぬきんでている者。殉国の英雄。
・至今・・今に至って。今なお。
【詩意】
人間は生きている間、人傑になるべきである。
たとえいつか死ぬ時になっても、鬼中の英雄になるべきのである。
今になっても、私は昔の項羽のことを懐かしく思ったのだ
彼はすくなくでも、死んでも、江東へ戻らないという気迫があったのだ。
生きては豪傑となり
死してまた英雄となれ。
いま項羽を思う、
逃げずに自刎した彼を。
この詩は、秦(前221-前206)末の武将、項羽(前232-前202)の物語を借用して、異民族の金に侵略され南方に逃れる皇帝と官僚たちの腐敗と不甲斐無さを批判諷刺するもの。
項羽は秦の暴政に対し立ちあがり、その強力な戦闘力により勝利し続けたが、最後に垓下で劉邦に敗れる。その際、追い詰められた項羽は逃げようと思えば逃げられたが、逃げては決起した時に江南から連れてきた8000人の若者の父母に会わせる顔がないといい自刎する。詩の、死してなお英雄となった、とはこの行為を指す。こうした歴史を表に出して、憤慨する気持ちを強く表現した詩であろう。
この時の項羽の詩。
垓下歌 項羽
力拔山兮氣蓋世,
時不利兮騅不逝。
騅不逝兮可奈何,
虞兮虞兮柰若何。
力 山を抜き 気 世を蓋う
時 利あらずして 騅 逝かず
騅の逝かざる 奈何すべき
虞や虞や 若を奈何せん
(自分の力は山を抜き、覇気は世を覆うほどであるというのに、時勢は不利であり、騅(すい)も前に進もうとはしない。騅が進まないのはどうしたらよいのだろうか。虞(ぐ)や、虞や、お前の事もどうしたらよいのだろうか)騅は名馬、虞は項羽の愛妾で、自殺した虞美人の伝説はヒナゲシに「虞美人草」という異名がつく由来となっている。
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(李清照漢詩)
2009-03-26T20:46:51+09:00
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2009-02-06T22:36:55+09:00
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李清照詞補遺14首・目次・
李清照詞補遺一四首
李清照全詞集に採られているのは四九首です。
しかしその他、李清照作品として伝わるものも多いのです。李清照全詞集に採られていない作品は、清照作が疑われた作品ですが、ここに掲載する詞は、その中でも李清照の作としてもいいのでは...
李清照詞補遺一四首
李清照全詞集に採られているのは四九首です。
しかしその他、李清照作品として伝わるものも多いのです。李清照全詞集に採られていない作品は、清照作が疑われた作品ですが、ここに掲載する詞は、その中でも李清照の作としてもいいのではないかと思われるものを、補遺として挙げています。
各番号の後は、「詞牌(=詞の形式名)」次に「題(副題)」のある場合は記し〔( )内にあるのは異本による〕、次に「初句」を記しています。(08-5-15より順次アップ、以後修正更新します)
・目次・(各詞のページにリンク)
補1 怨王孫 (「春暮」) 夢斷漏悄
補2 怨王孫 (「春暮」) 帝裡春晚
補3 浪淘沙 (「閨情」) 簾外五更風
補4 青玉案 (「送別」) 征鞍不見邯鄲路
補5 采桑子 (「夏意」) 晚來一陣風兼雨
補6 浪淘沙 (「閨情」) 素約小腰身
補7 如夢令 誰伴明窗獨坐
補8 品令 零落殘紅
補9 品令 急雨驚秋曉
補10 鷓鴣天 「春閨」 枝上流鶯和淚聞
補11 青玉案 (「春日懷舊」) 一年春事都來幾
補12 新荷葉 薄露初零
補13 憶少年 疏疏整整
補14 菩薩蠻 ?雲鬢上飛金雀
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目次・清照補遺
2008-09-01T11:08:49+09:00
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補14 菩薩蠻 ?雲鬢上飛金雀
菩薩蠻 李清照
?雲鬢上飛金雀、悉眉翠歛春煙薄。
香閣掩芙蓉、畫屏山幾重。
窗寒天欲曙、猶結同心苣。
啼粉污羅衣、問郎何日歸?
《和訓》
緑なす雲鬢の上に金雀を飛ばし、悉(ふつ)に眉翠の春煙の薄きを歛(あつ)む。
香閣芙蓉に掩(お...
菩薩蠻 李清照
?雲鬢上飛金雀、悉眉翠歛春煙薄。
香閣掩芙蓉、畫屏山幾重。
窗寒天欲曙、猶結同心苣。
啼粉污羅衣、問郎何日歸?
《和訓》
緑なす雲鬢の上に金雀を飛ばし、悉(ふつ)に眉翠の春煙の薄きを歛(あつ)む。
香閣芙蓉に掩(おほ)はれ、画屏の山 幾重なり。
窓の寒く天曙(あ)けんと欲し、猶ほ同心の苣を結ぶ。
啼きて粉の羅衣を汚し、郎に問ふ何日帰るやと。
《語釈》
・?:女性の髪をほめていう。つやつやとした美しい。
・雲鬢:女の鬢の美しさを雲にたとえた語。また、美しい女のこと。
・金雀:かんざしの首に金の雀をつけたもの。
・悉:すっかり。ことごとく。ふつに。
・眉翠:黛。
・歛:おもう、ねがう、欲する。あたう(予)。古くは“斂”と同じく、聚集の意。
・香閣:女性の住む建物。
・芙蓉:ハスの花(【同】[荷花])
・掩:閉ざす。
・畫屏:絵が描かれている屏風。
・欲:…しそうである。
・同心苣:連鎖するたいまつ状のデザインの花紋様。古く心を一つにするという愛情の象徴として用いる。
・苣:たいまつ。
・粉:白粉(おしろい)。
・羅衣:薄絹(うすぎぬ)で仕立てた着物。
・郎:女性から夫や恋人に対する旧時の呼称。
《詞意》
豊かな黒髪に金雀の簪を揺らし、眉には残らず春霞を薄く集めました。
私の部屋は芙蓉の花に覆われ、屏風が山のよう幾重にも囲んでいます。
窓辺は寒くなって間もなく夜が明けようとしていますが、さらになお契りを結びます。
泣いては白粉で薄絹を汚し、貴方に今度はいつお帰りと問うばかりです。
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(清照補遺)
2008-09-01T11:06:41+09:00
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補13 憶少年 疏疏整整
憶少年 李清照
疏疏整整、斜斜淡淡、盈盈脈脈。
徒憐暗香句、笑梨花顏色。
羈馬蕭蕭行又急。
空回首、水寒沙白。
天涯倦牢落、忍一聲羌笛。
《和訓》
疏疏整整、斜斜淡淡、盈盈脈脈。
徒らに暗香の句を憐れみ、梨花の顏色を笑ふ。
羈馬...
憶少年 李清照
疏疏整整、斜斜淡淡、盈盈脈脈。
徒憐暗香句、笑梨花顏色。
羈馬蕭蕭行又急。
空回首、水寒沙白。
天涯倦牢落、忍一聲羌笛。
《和訓》
疏疏整整、斜斜淡淡、盈盈脈脈。
徒らに暗香の句を憐れみ、梨花の顏色を笑ふ。
羈馬蕭蕭として行くに又た急なり。
空しく首を回らすに、水寒く沙白し。
天涯に牢落を倦みて、一声の羌笛に忍ぶ。
《語釈》
・疏疏:まばら、密接でない。服装が鮮かで整っいてる様子。ぼんやりした様子。
・整:きちんとしている、整っている。・整整:まるまる、きっちり。整然として厳格な様子。
・斜:斜めの、傾いた。十分に身構える。
・淡淡:静かに水をたたえるさま。水が静かにたゆたうさま。
・盈盈(えいえい):水の満ちるさま。(水が)澄みきった。(姿や態度が)上品な。軽やかな。
・脈脈:途絶えずに力強く続くさま。
・徒:むなしい、何もない、ただ…だけ。
・暗香:どこからともなくただよってくる芳香。やみにただよう花などの香。
・羈馬:旅に出る馬。
・蕭蕭:風雨・落葉などの音のものさびしいさま。ものさびしいさま。
・天涯:世界中。 空のはて。また、非常に遠い所。
・倦:飽きる、倦(う)む。
・牢落:心がうつろなさま。さびしいさま。
・忍:つらいことを我慢する。気持ちが外に表れそうになるのをじっとこらえる。
・羌笛(きょうてき):青海地方にいた西方異民族(チベット系の人)の吹く笛。
《詞意》
時は水の流れのように疏疏と整整と、斜斜と淡淡と、満ち満ちて脈脈と流れます。
ただ漂う芳香を詠んだ句を憐れみ、梨の花のような顔色を笑ふばかり。
旅の馬は寂しげに急ぎ行きます。
虚しく首を回らせますと、水は寒く砂の道が白く続いています。
天涯にひとり虚ろな寂しさにも倦み、一声の羌笛に忍んでいます。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:58:29+09:00
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補12 新荷葉 薄露初零
新荷葉 李清照
薄露初零、長宵共、永晝分停。 (晝=盡・書)
繞水樓臺、高聳萬丈蓬瀛。
芝蘭為壽、相輝映、簪笏盈庭。
花柔玉淨、捧觴別有娉婷。
鶴瘦松青、精神與、秋月爭明。
?行文章、素馳日下聲名。
東山高蹈、雖卿相、不足為榮。
...
新荷葉 李清照
薄露初零、長宵共、永晝分停。 (晝=盡・書)
繞水樓臺、高聳萬丈蓬瀛。
芝蘭為壽、相輝映、簪笏盈庭。
花柔玉淨、捧觴別有娉婷。
鶴瘦松青、精神與、秋月爭明。
?行文章、素馳日下聲名。
東山高蹈、雖卿相、不足為榮。
安石須起、要蘇天下蒼生。
《和訓》
薄き露初めて零(こぼ)れ、長き宵と永き昼とを共に分停す。
水を繞(ま)く楼台、高く聳ゆ万丈の蓬(よもぎ)の瀛(うみ)。
芝蘭寿を為し、相ひ輝き映えて、簪笏の庭に盈(み)つ。
花柔らかく玉淨(きよ)く、觴を捧げて別に娉婷(うるはし)き有り。
鶴痩せ松青く、精神と、秋月明を争ふ。
徳行の文章、素より日下に声名を馳す。
東山の高蹈、卿相と雖ども、栄為すに足らず。
安石須らく起ちて、天下の蒼生を蘇らすを要す。
《語釈》
・分停:平等に分ける。秋分の日。
・繞:巻く。めぐる。
・聳:そびえる。
・萬丈:万丈の高さ(深さ)の、まことに高い(深い)。
・蓬:よもぎ。蓬莱(ほうらい)は中国の神仙思想で説かれる想像上の仙境。東方の海上にあって、仙人が住む、不老不死の地と信じられた。蓬莱山。蓬莱島。よもぎがしま。
・瀛:大海。
・芝蘭:霊芝と蘭(ふじばかま)。めでたい草とかおりのよい草。すぐれたものや人にたとえる。ここは長寿を祝われる人。
・簪笏:かんざし・しゃく。祝いに来た高官・官女を指す。
・盈:満ちる。
・觴:酒盃。
・娉婷(へいてい):(婦人の姿や振舞いが)優雅な、美しい。美女。
・鶴瘦松青:仙鶴と常緑と共に長寿を祝う言葉。
・精神:神態、玉精神。神のような姿。女たちのすばらしい表情と態度を言う。
・徳行:修行によって得られる優れた状態や能力である徳と、それを実現する方法である行。功徳と行法。
・素:もとより。いうまでもなく。もちろん。
・馳:伝播する、広く伝わる。
・日下:首都。京都。
・聲名:よい評判。ほまれ。名声。
・高蹈:世俗の欲望を超越して、気位を高く保つ人。
・卿相:天子をたすけて政治をとる人々。公卿(くぎよう)。
・安石:謝安(しゃ あん320年 - 385年)中国東晋の政治家。東晋の危機を幾度と無く救った。詞はこの謝安の故事によっている。40歳になっても宮仕えせず、会稽の東山で気ままに暮らしていたので「東山高臥(とうざんこうが)」=世を離れ気ままに暮らす、という四字熟語がある。「悠悠自適」と近いが、大人物が風流な遊びを楽しむ、というニュアンスが強い。また「東山再起(退いた者が再び世に現れること。元の地位に復帰する。捲土重来)」という熟語も彼の故事による。
・須:…すべきである、…しなければならない
・蒼生:多くの人々。庶民。国民。あおひとぐさ。
《詞意》
初めて露がおりて、夜と昼とが等しく分けられる秋分の祝いの日を迎えています。
水に囲まれた楼台は、深い海の中に高く聳える不老不死の蓬莱島のようです。
優れたお方の長寿を祝い、輝くばかりの高官・官女が庭に集っています。
飾られる花や玉はしなやかに美しく、婦人たちは優雅なしぐさで盃を捧げ持っています。
鶴や松の長寿にあわせ、婦人たちの美と、秋の月が明るさを争っているようです。
貴方の徳を積んだ文章は、いうまでもなく天下に名声を馳せています。
世俗を超越しておられる方には、大臣の地位もそのほまれには十分ではありません。
どうぞ再び復帰なされて、世の人々を蘇らせてください。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:54:35+09:00
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補11 青玉案 「春日懷舊」一年春事都來幾
青玉案 李清照
(「春日懷舊」)
一年春事都來幾、早過了、三之二。
?暗紅嫣渾可事。
?楊庭院、暖風簾幕、有個人憔悴。 (幕=莫)(個=箇)
買花載酒長安市、又爭似、家山見桃李。
不枉東風吹客淚。
相思難表、夢魂無據、惟有歸來是。
(...
青玉案 李清照
(「春日懷舊」)
一年春事都來幾、早過了、三之二。
?暗紅嫣渾可事。
?楊庭院、暖風簾幕、有個人憔悴。 (幕=莫)(個=箇)
買花載酒長安市、又爭似、家山見桃李。
不枉東風吹客淚。
相思難表、夢魂無據、惟有歸來是。
(一説に歐陽修作)
《和訓》
一年の春事 都(すべ)て幾(いか)ほど来たるや、早や三のうちの二を過ぎぬ。
緑暗く紅嫣(あざ)やかに、渾(すべ)て可(よ)き事なり。
緑楊の庭院、暖風の簾幕、しかして個人には憔悴の有り。
花を買ひ酒を載する長安の市、又争(いかで)か家山の桃李を見るに似(し)かむ。
枉(むなし)からず東風(こち)客の涙を吹く。
相思表すに難く、夢魂據(よるべ)の無く、惟だ帰り来たりて是に有り。
《語釈》
・都:すべて。一般的にいって。大体。総じて。都はよせ合せる義。
・嫣:(容貌が)美しい、器量のよい。色彩が鮮やか。
・渾可事:自然によく合ったこと。・渾:すべて。天然の、自然のままの。
・庭院:中庭。
・簾幕:スダレと幕。帷幕。
・個人:(自称として)私。
・載酒:酒席を設ける。酒宴の用意をする。
・爭:なぜ、どうして。
・似:しく。匹敵する。かなう。およぶ。
・家山:ふるさと。故郷。
・枉:曲がる、歪める。無駄に。いたずらに。むなしく。しいたげる。
・東風:春、東から吹く風。こち。
・客:旅客。異郷に滞在あるいは寄留する(人)。ここは自身のこと。
・相思:(離ればなれで)思うにまかせぬ切なさ。
・據:よる。…に従って。依存する、頼みとする。よるべ。
《詞意》
今年の春も早くも半ばを過ぎてしまいました。
緑はいよいよ濃く花の紅も鮮やかで時の移ろいは自然のままに変わり有りません。
柳の新緑に包まれた中庭、暖かい風が揺らすカーテン、その中で私にはやつれ果てています。
宴席の華やかな都で花を買っても、どうして故郷で桃の花を見るのに敵いましょう。
いたずらに風が異郷にある私の涙に濡れた頬を吹きすぎます。
この切なさは現し難く、夢見る魂は頼りにするところも無く、ただここに一人帰るしかありません。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:50:13+09:00
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補10 鷓鴣天 「春閨」枝上流鶯和涙聞
鷓鴣天 李清照
春閨
枝上流鶯和淚聞、新啼痕間舊啼痕。
一春魚雁無消息、千裡關山勞夢魂。 (雁=鳥)
無一語、對芳尊、安排腸斷到黃昏。
甫能炙得燈兒了、雨打梨花深閉門。
(一說に秦觀作、無名氏作。)
《和訓》
枝上...
鷓鴣天 李清照
春閨
枝上流鶯和淚聞、新啼痕間舊啼痕。
一春魚雁無消息、千裡關山勞夢魂。 (雁=鳥)
無一語、對芳尊、安排腸斷到黃昏。
甫能炙得燈兒了、雨打梨花深閉門。
(一說に秦觀作、無名氏作。)
《和訓》
枝上の流鶯 涙に和して聞く、新らたに啼く痕は旧に啼きし痕の間にあり。
一春の魚雁 消息無く、千裡の関山 夢魂を労す。
一語も無く、芳尊に対し、安(いづく)んぞ腸断を排せむや 黄昏に到る。
甫(まさ)に能(よ)く炙(あぶ)り得て灯児(ともし)了(をは)り、雨梨花を打ちて深く門を閉ざせり。
《語釈》
・流鶯:晩春にここかしこと飛び移って乱れ鳴くうぐひす。
・和:動作や比較の対象を示す。他のものととけ合った状態にする。声を合わせる。混ぜ合わせる。
・痕:痕跡(こんせき)、あと。
・一春:この春。春たけなわ。
・魚雁:(比喩表現で)手紙。書簡を送り届ける人。
・消息:知らせ。便り。
・千裡:千里。遠く離れていることにいう。
・關山:郷里。
・勞:はたらかせる。疲れさせる。(あるいは、いたわる。同情の気持ちをもってやさしく接する。)
・尊:樽と通用。酒器、杯。「對芳尊」で、酒を前に、呑みながら。
・安:(疑問・反語を表す語を下に伴って)どうして。なんで。
・排:しりぞける。押しのける。
・腸斷:はらわたが断れるような悲しみ。断腸の思い。
・甫:今しがた…したばかり、やっと。
・炙:あぶる。
・兒
:接尾辞(音を整える)。
・梨花:白い梨の花。ここの「梨花雨」は女の泣き続ける姿を形容する表現であろう。
《詞意》
枝のここかしこに啼く鶯の声を涙と共に聞いています。啼き終わる間に新たな声が重なり、涙のすじもまた新たに流れ付きます。
この春、誰も便りを届けてくれる人は居りません。ただ遠い故郷に思いを馳せて気に病むばかり。
語ることも無くひとり、お酒を飲んでも、どうしてこの悲しみを祓うことが出来ましょう。はやくも夕暮れを迎えました。
今しがた灯火に火をいれました。雨に打たれる梨の花のように泣きつづけ、私の部屋はひっそり閉ざされたままです。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:44:37+09:00
杉篁庵庵主
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補9 品令 急雨驚秋晩
品令 李清照
急雨驚秋晚、今歲較秋風早。 (晚=曉)
一觴一詠、更須莫負、晚風殘照。
可惜蓮花已謝、蓮房尚小。
汀蘋岸草、怎稱得人情好。
有些言語、也待醉折、荷花向道。
道與荷花、人比去年總老。
...
品令 李清照
急雨驚秋晚、今歲較秋風早。 (晚=曉)
一觴一詠、更須莫負、晚風殘照。
可惜蓮花已謝、蓮房尚小。
汀蘋岸草、怎稱得人情好。
有些言語、也待醉折、荷花向道。
道與荷花、人比去年總老。
《和訓》
急なる雨の秋晩を驚かす、今歳較ぶるに、秋風の早し。
一觴に一詠し、更に須(すべから)く晩風残照に負くる莫(な)かるべし。
蓮花已に謝(しぼ)みしを惜しむべし、蓮房は尚(なほ)小さし。
汀(なぎさ)の蘋(うきくさ) 岸の草、怎(いか)に人情の好ろしきに稱し得む。
些(わづ)かの言語有り、也(ま)た待ちて荷花を酔ひ折りて、向道(した)ふ。
荷花に道(い)ひ与(あた)ふ、人は去年(こぞ)に比して総(おしな)べて老ひぬと。
《語釈》
・急雨:急に降り出す雨。にわか雨。驟雨(しゆうう)。
・驚:驚かす。目をさまさせる。
・晚:日暮れ。夕方。
・觴:古代の杯。
・觴詠:酒を飲み詩歌を吟ずること。
・更:(下に打ち消しの語を伴って)全く。全然。決して。
・須:…すべきである、…しなければならない。
・莫: …するなかれ。
・負:敗れる、負ける。
・殘照:日没の輝き。
・蓮花:ハスの花。
・蓮房:ハスの実の入っている花托(かたく)。
・謝:(花や葉が)散る、しぼむ。
・汀蘋:水辺のうきくさ。
・怎:どうして、どのように。「如何」の口語。
・稱:讃える。称讃する。ぴったり合う、マッチする。
・人情:気持ち。人間としての感情。
・些:すこし、いささか。
・言語:「げんぎょ」「ごんご」。ことば。ここは詩句の意か。
・也:また。「亦」
・荷花:ハスの花。はす・はちすは、葉を荷といい、実を蓮といい、根を藕という。
・向道:向往と同じか? あこがれる。想い慕う。「道」は、思う、思い込む。言う。
・道與:言い与える。
・總:すべて、みな。
《詞意》
秋の夕暮れ 突然に降り出した雨に驚かされましました。
その涼しさ! 今年はいつもより秋風の訪れが早いようです。
お酒を一杯飲んでは歌をまた吟じています、決して暮れ方の風や夕日の影に負けまいと。
惜しいことにハスの花はすでにしぼんでしまいましたが、ハスの実はまだ小さいままです。
水際に浮かぶ浮き草や岸辺の草がどうして心地よく心に寄り添い得るでしょう。
出来た詞はわずかなもの。待っても酔うしかなく、ハスの花を折って想い慕うしかありません。
ハスの花を手に想うことといえば、私が去年に比べて只ただ老いたということばかりです。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:38:12+09:00
杉篁庵庵主
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http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=840363
補8 品令 零落殘紅
品令 李清照
零落殘紅、恰渾似胭脂色。
(恰渾=此の二字無し・以臙脂色、似胭脂顏色)
一年春事、柳飛輕絮、筍添新竹。
寂寞幽閨、坐對小園嫩?。 (=閨・坐の二字無し)
登臨未足、悵遊子歸期促。
他年魂夢千里、猶到城陰溪...
品令 李清照
零落殘紅、恰渾似胭脂色。
(恰渾=此の二字無し・以臙脂色、似胭脂顏色)
一年春事、柳飛輕絮、筍添新竹。
寂寞幽閨、坐對小園嫩?。 (=閨・坐の二字無し)
登臨未足、悵遊子歸期促。
他年魂夢千里、猶到城陰溪曲。 (魂夢=夢魂)
應有凌波、時為故人留目。 (留=凝)
(一説に曾紆の作)
《和訓》
零落して残れる紅は、
恰(あたか)も、胭脂の色に似て渾(にご)れり。
一年の春事、
柳は軽ろき絮を飛ばし、筍は新しき竹に添ふ。
寂寞として幽(かす)かなる閨(へや)に、
坐して小園の嫩(わか)き緑に対す。
登り臨むも未だ足らずして、
帰期促して遊子を悵(なげ)く。
他年 魂夢の千里ゆき、
猶ほ城陰の溪曲に到る。
応に凌波有りて、
時に故人と為(な)して目に留むべし。
《語釈》
・零落:花や葉が枯れ落ちる。また、落下する涙を指す。
・恰:ちょうど。まるで。
・渾:濁った、混濁した。
・胭脂:(ほお紅・口紅などの)化粧品のべに。臙脂。赤色。
・春事:春景色。春らしさ。
・絮:草木の種子についているわた毛。
・筍:たけのこ。
・寂寞:ひっそりとしてさびしいさま。
・幽:奥深い。ひっそりした。物寂しいさま。人けのないさま。
・閨:婦人の寝屋。
・嫩?(どんりょく):新芽の緑。若緑。新緑。
・登臨:高い所に登って下を眺めわたす。
・悵:うれいなげく。
・遊子:旅人。家を離れて他郷にある人。
・歸期:還ってくる時期。
・他年:他の年。往年、以前。
・猶:やはり。たしかに。
・溪曲:谷川の湾曲した所。
・應:まさに‥‥べし。おそらく‥であろう。
・凌波(りょうは):急速に激しく流れる波。女子の足どりがしなやかなことの形容。美人の歩みが青い波に乗るように軽やかである比喩。または、美人の脚を指す。(「溪曲」と呼応するイメージであろう)。「凌」は迫る。威圧する。押しわけて進む。
・為:…とみなす。
・故人:古くからの知り合い。旧友。旧知。前妻或いは前夫の古称。ここは夫から遠く離れている自身を指す。
・時:時あたかも。その時。
《詞意》
悲しみの涙がこぼれるなか 散り残っている花は、
まるで頬に残る化粧の紅が涙に濁っているよう。
今まさに春の只中、
柳は軽ろやかに綿毛を飛ばし、筍は新しい竹に添い生えています。
ひっそりとさびしい人けない部屋に、
ひとり座って小さな庭の若々しい緑に向かっています。
あなたを偲んで高殿に登り遠く眺めやっても、心満たされることなく、
あなたのお帰りを促すしかなく 遠く他の地にあるあなたを愁うるばかり。
かつて 私の魂は夢に千里を飛び行き、
たしかにあなたのいらっしゃる街をめぐる川岸に到りました。
きっとあなたは女のしなやかに歩く姿を見出して、
まさになじみの私とみとめて目に留めたことでしょう。
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(清照補遺)
2008-09-01T10:30:03+09:00
杉篁庵庵主
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補7 如夢令 誰伴明窗獨坐
如夢令 李清照
誰伴明窗獨坐、 (窗=月)
我共影兒兩個。 (共=金)
燈盡欲眠時、 (眠=暝)
影也把人拋躲。
無那、
無那、
好個棲惶的我。
(一説に向滈の作)
《和訓》
誰を伴ふや 明るき窓に...
如夢令 李清照
誰伴明窗獨坐、 (窗=月)
我共影兒兩個。 (共=金)
燈盡欲眠時、 (眠=暝)
影也把人拋躲。
無那、
無那、
好個棲惶的我。
(一説に向滈の作)
《和訓》
誰を伴ふや 明るき窓に独り坐りて、
我は影と共に両個(ふたり)なり。
灯の尽きて眠らんと欲する時、
影や人を把へて抛(なげう)ち躱(かく)る。
無那(いかん)ぞ、
無那、
好(よし)や個(ひと)り棲みて惶(おそ)るる我を。
《語釈》
・兒:物の名の下に添へる接尾辞。
・欲:…しようとする、…しそうだ。
・拋(ほう):抛。なげうつ。すてる。
・躲(た):躱。かわす。隠れる、避ける。かはす、身をかわしてにげる。
・無那:どうしようもない。どうにもならない。いたしかたない。いかんともするなし。=無奈。
・好:《反語として》不満の語気を示す。
・惶:恐れる、不安がる。
※参考・同趣の孤独を詠った詩に、李白の「月下獨酌」がある。
花間一壼酒, 花間 一壺の酒
獨酌無相親。 獨酌 相親しむ無し
舉杯邀明月, 杯を擧げて明月を邀(むか)へ
對影成三人。 影に對して三人を成す
月既不解飮, 月既に飮を解せず
影徒隨我身。 影徒(いたづら)に我が身に隨ふ
暫伴月將影, 暫く月と影とを伴ひて
行樂須及春。 行樂須(すべか)らく春に及ぶべし
我歌月徘徊, 我歌へば月徘徊し
我舞影零亂。 我舞へば影零亂す
醒時同交歡, 醒時同じく交歡し
醉後各分散。 醉後各(おのおの)分散す
永結無情遊, 永く無情の遊を結び
相期邈雲漢。 相期して雲漢邈(はる)かなり
《詞意》
明月の差し込む窓辺に一人座って、誰が伴うというのでしょう。
私に私の影さんが伴って--私たち二人。
やがて灯火は絶え、眠りにつこうとする時、
月も沈んで影は私をひとりを残しするり身をかわし隠れてしまいました。
あぁ、どうしたらいいのでしょう。どうすることもできないのでしょうか。
私は、夫から離れただ一人寂しさにうち震え、悲しくうめくしかありません。
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(清照補遺)
2008-05-18T23:20:21+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
杉篁庵庵主
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http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=772085
補6 浪淘沙 素約小腰身
補6 浪淘沙 李清照
(「閨情」とするもある)
素約小腰身、不耐傷春。
疏梅影下晚妝新。
裊裊婷婷何樣似、一樓輕雲。 (婷婷=娉娉)
歌巧動朱唇、字字嬌嗔。
桃花深徑一通津。 (徑...
補6 浪淘沙 李清照
(「閨情」とするもある)
素約小腰身、不耐傷春。
疏梅影下晚妝新。
裊裊婷婷何樣似、一樓輕雲。 (婷婷=娉娉)
歌巧動朱唇、字字嬌嗔。
桃花深徑一通津。 (徑=處)
悵望瑤臺清夜月、還照歸輪。 (照=送)
《和訓》
素(もと)より約(つづま)やかなる小腰の身、春を傷むに耐へず。
疏(まば)らなる梅の影の下に 晩の妝(よそほひ)を新たにす。
裊裊(しなしな)と婷婷(しなやか)に何に似たる樣か、一楼の軽き雲。
歌巧みに朱唇動き、字字の嬌(なま)めき嗔(こえたか)し。
桃花の深き径は一に津に通ずるも、
悵望すれば瑶台に清夜の月、還(また)帰輪を照らせり。
《語釈》
・約:つづまやか。ひかえめなさま。つつしみ深いさま。
・小腰身:ウエストが細い姿。華奢な体つき。
・晚妝:夕方婦女は再度化粧して、着替える。
・裊(にゅう):しなやか。しとやか。
・婷(ちょう):うつくしい。しとやか。
・字字:それぞれの字(語)は全部。(あるいは、いつくしむ。)
・嬌嗔(きょうしん):美人のなまめかしい怒り。また、そのように怒ること。
・嗔:盛んな声。いかる。
・津:渡し場、渡船場。桃源郷への入り口。
※晉の陶潛の「桃花源記」で、武陵の人が桃花の林の奥の水源に桃源郷への入り口を見出した所と記されている。
・悵望:悲しく眺める。うらめしげに見やる。心をいためて思いやること。
・瑤臺:玉で飾った美しい御殿。玉のうてな。螺鈿などで飾った高楼。西王母の居るところ。仙境。また転じて月世界。
・清夜:涼しくさわやかな夜。
・還:やはり。なお、依然として。さらに、その上。(程度が)まずまず。
・歸輪:帰る車。婦人が家に帰るとき乗る轎車。
※この詞は女性のしなやかな美しさが歌われているが、そこにある艶やかな愁いの奥に幸せな世を願う想いが感じられる。
連想される陶淵明の「桃花源詩」の結びを記す。
奇蹤隱五百, 奇しき蹤(あと)隱ること五百、
一朝敞神界。 一朝 神界敞(あらは)る。
淳薄既異源, 淳薄 既に源を異にし、
旋復還幽蔽。 旋(たちま)ち復(ま)た還(なほまた)幽蔽(いうへい)す。
借問游方士, 借問す 方(はう)に游ぶの士、
焉測塵囂外。 焉ぞ測らん 塵囂(ぢんがう)の外を。
願言躡輕風, 願くは輕風を躡(ふ)み、
高舉尋吾契。 高舉して吾が契を尋ねん。
乱世を避けた人々が桃花源に隠れてから五百年が経って、
ある日、神秘な桃花源があらわれました。
人情の厚薄の違いは全く異なったものでしたが、
たちまちに再び、なおもまた覆い隠されてしまいました。
俗世間に住む人におたずねしますが、
いったい、この俗世間の外(桃花源)を想像してみたことはありますか。
できることならば、軽やかな風に乗って、
高らかに舞い上がって、わたしの理想に合ったあの桃源郷を尋ねたいものです。
《詞意》
もともとほっそりとした私には虚しく春の過ぎていくのは耐えられないこと。
散ってまばらな梅花の影の下に 宵の化粧を新たにします。
しとやかにしなしなと美しい姿は何に似ていることでしょうか、それは高殿にかかる軽い雲でしょうか。
歌うたえば巧みに朱い唇が動き、発せられる一つ一つの言葉はなまめかしくも怨みに声高くなります。
桃花のもとの深い小道は一つにユートピアへの入り口に通ずるといいますが、
御殿にかかるさわやかな月をうらめしげに見あげ、その光がまた帰り行く車を照らしているのを嘆き怨んで眺めやっています。
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(清照補遺)
2008-05-18T17:06:32+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
杉篁庵庵主
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http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=771433
補5 采桑子 晩來一陣風兼雨
補5 采桑子 李清照
(「夏意」「新凉」と題するもある)
晚來一陣風兼雨、洗盡炎光。 (晚=曉)(陣=霎)
理罷笙簧、卻對菱花淡淡妝。
絳綃縷薄冰肌瑩、雪膩酥香。
笑語檀郎、今夜紗幮枕簟涼。 (幮=櫥...
補5 采桑子 李清照
(「夏意」「新凉」と題するもある)
晚來一陣風兼雨、洗盡炎光。 (晚=曉)(陣=霎)
理罷笙簧、卻對菱花淡淡妝。
絳綃縷薄冰肌瑩、雪膩酥香。
笑語檀郎、今夜紗幮枕簟涼。 (幮=櫥)
(一説に康與之の作とする・全宋詞)
《和訓》
晩来の一陣の風は雨を兼ね、炎(あつ)き光を洗ひ尽くせり。
笙簧を理(をさ)め罷(や)めて、却つて菱花に対し淡淡と妝す。
絳(あか)き綃縷(いと)の薄く、氷の肌を瑩じ、雪は膩にして酥と香る。
笑ひ語れる檀郎、「今夜紗幮枕簟の涼し」と。
《語釈》
・陣:風や雨や拍手を数えるの数詞(‘一’か‘幾’にしか付かない)。(日本では「一陣の風」としてしか使わない。)
・理:ととのえる。処置する。さばく。整理する。
・罷:やめる、停止する。
・笙簧(しようこう):笙(しよう)の 簧(した)。楽器の発音源となる舌状の小薄片。リード。笛吹くこと。
・菱花(りょうか):ヒシの花。一年生水草。水面に浮き、夏、白色四弁の花を開く。
・淡淡:うすくほのかなさま。あっさりと好ましいさま。
・妝:化粧する、装う。
・絳(こう):濃い赤。
・綃縷(しょうる):生糸と糸。
・冰:氷。氷のように透き通る肌。後の「雪」も同じく、雪のような艶やかな白い肌をいう。
・瑩:瑩(やう)ず。瑩貝で絹をみがき、光沢を出す。
・膩(に):つるつる、すべすべしている。
・酥(そ):さくさくして柔らかい、砕けやすい。
・檀郎:檀越。檀那(だんな)。妻が夫をいう語。
・紗(さ):紗うすぎぬ。うすもの。紗織り。夏の衣服地。
・幮(ちゅう):とばり、かや。
・枕簟:まくらと夏物の竹製の敷物。枕にかぶせた夏物の竹製の敷物。・簟(てん):たかむしろ。細く割った竹をむしろのように編んだ夏季用の敷物。
※紗幮枕簟:蚊帳と夏枕。李清照の醉花陰には「玉枕紗廚 半夜涼初透」とあり、南歌子には「涼生枕簟」とある。・紗廚:紗のカーテン。
《詞意》
夕刻になって雨を伴った涼やかな風が吹き、昼の暑さをさっぱりと洗い拭ってくれました。
笛を吹くのを止め収め、むしろ水面のヒシの花に向かい薄化粧を施しましょう。
赤い絹の薄い衣が透きとおる肌をみがくように撫ぜ、雪の肌はすべすべとやわらかいく香ります。
だんな様が「今夜の寝所はことのほか涼しいようだ」と笑って語りかけます。
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(清照補遺)
2008-05-17T15:37:28+09:00
杉篁庵庵主
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杉篁庵庵主
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補4 青玉案 征鞍不見邯鄲路
青玉案 李清照
(「送別」と題するもある)
征鞍不見邯鄲路、莫便匆匆歸去。 (鄲=戰)(「歸」の字なし)
秋正蕭條何以度。 (正=風)
明窗小酌、暗燈清話、最好流連處。
相逢各自傷遲暮。 (逢=蓬)
猶把新詩...
青玉案 李清照
(「送別」と題するもある)
征鞍不見邯鄲路、莫便匆匆歸去。 (鄲=戰)(「歸」の字なし)
秋正蕭條何以度。 (正=風)
明窗小酌、暗燈清話、最好流連處。
相逢各自傷遲暮。 (逢=蓬)
猶把新詩誦奇句。 (猶=獨)(詩=詞)
鹽絮家風人所許。
如今憔悴、但餘雙淚,一似黃梅雨。 (雙=衰)
( )内は異本
《和訓》
征鞍邯鄲の路を見ず、便(すなは)ち匆匆に帰り去る莫し。
秋正(まさ)に蕭条として何を以って度(すご)さむ。
明るき窓に小酌し、暗らき灯に清話するは、流れ連なれる処を最も好しとす。
相逢ひて各自遅暮を傷み。
猶新詩を把(と)り奇句を誦(ず)する。
塩絮の家風は人の許せる所。
如今憔悴し、但だ双涙を余すや、一に黄梅の雨に似る。
《語釈》
・征鞍:旅の馬上。
・邯鄲(かんたん):?河北省南部の都市。古来、山東・山西を結ぶ交通の要衝に当たり交易が盛ん。趙(ちょう)の都。?スズムシに似る昆虫。雄はルルルルと美しく鳴く。「こときれてなほかんたんのうすみどり/富安風生」
(故事に「邯鄲の夢」や「邯鄲の歩(あゆ)み」〔=邯鄲に都風の歩き方を習いに行った燕の若者が、会得できないうちに自分の国の歩き方をも忘れ、はって帰ったという「荘子」の故事から自分の本分を忘れて他人をまねるものは、両方とも失うことのたとえ。〕などがある。)ここは「都」の意であろうか。
・便:即ち。そのまま、たやすく。「即」よりは軽い。(・やすんず、くつろぎ休む。)
・匆匆(そうそう):気ぜわしい、慌ただしい。
・蕭條:ひっそりとしてもの寂しいさま。
・何以:どうして、何をもって、何ゆえ、なにによって。
・度:過ごす。
・清話:俗をはなれたるきよきはなし。
・遲暮:だんだんととしよる。むなしく老ゆく。晩年。暮年·晚歲。
・猶:なお、いまだに。
・把:握る、手に持つ。
・誦:ずする。(経・詩歌などを)声を出し、節をつけて読む。
・鹽絮:詩の才能・美好の詩句をいう。
・如今:(過去に対して)今、今どき、近ごろ。
・双涙:両眼から流れる涙。
・黃梅雨:梅の実が黄熟する頃に降る雨。梅雨(ばいう)。
《詞意》
「別れにあたって」
旅にあって都への道は見えません。すぐさま慌ただしく帰り去ることはありません。
秋は今将にひっそりともの寂しく、どのように過ごせばいいのでしょうか。
明るい窓辺でちょっと酒を酌み、ぼんやりした灯火の内におしゃべりして、この流れに身をゆだね帰らないでつきあう方がよいのです。
互いにめぐり会いそれぞれにだんだんと年寄るのを悲しみ、
いまだに新しい詩を手にし奇句を節をつけて読んでいます。
詩の才を持つ我が家の気風はあなたも許してくれるでしょう。
今、心痛にやつれて、ただただ両眼から涙が梅雨の如く流れてやみません。
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(清照補遺)
2008-05-16T16:47:47+09:00
杉篁庵庵主
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杉篁庵庵主
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http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=770636
補3 浪淘沙 簾外五更風
浪淘沙 李清照
(「閨情」と題するもある)
簾外五更風、吹夢無蹤。
畫樓重上與誰同。
記得玉釵斜撥火、寶篆成空。
回首紫金峰、雨潤煙濃。 (煙=雲)
一江春水醉醒中。 (水=浪)
留得羅襟前日淚、彈與征鴻。
...
浪淘沙 李清照
(「閨情」と題するもある)
簾外五更風、吹夢無蹤。
畫樓重上與誰同。
記得玉釵斜撥火、寶篆成空。
回首紫金峰、雨潤煙濃。 (煙=雲)
一江春水醉醒中。 (水=浪)
留得羅襟前日淚、彈與征鴻。
( )内は異本
《和訓》
簾の外に五更の風、吹きて夢の蹤(あと)無し。
画楼の重ねて上るは誰と同じくせむ。
記し得たり 玉釵の斜めに火を撥(か)きて、宝篆空しく成れるを。
首を回らすに紫金峰、雨に潤ひて煙濃く、
一江の春水は酔ひ醒めし中にあり。
留め得たる羅襟の前日の涙は、弾きて征(かへりゆ)く鴻(おほかり)に与えむ。
《語釈》
・五更:五更(午後7時から午前5時までを5等分する計時法)の五番目、五更(午前3時から5時頃)
・無蹤:形がない。
・畫樓:紅・緑や金色に塗られ、草・鳥・竜などの絵の描かれた楼。楼は妝樓、化粧部屋、婦人の部屋。閨閣。青楼。
・玉釵:玉のかんざし。(・玉:美称の接頭辞。)
・記得:おぼえている。
・撥火:火掻き、火をかき出す。
・寶篆:熏香の美稱。焚く時の煙が篆書(てんしよ)のようなことからいう。
・紫金峰:湖南省衡山県の西郊の奇峰。杜甫、韓愈も遊ぶという。紫金峰は安徽省の淮南市、福建省の上杭県、湖南省の炎陵県などこれ以外にも紫金山と称する山が多くある。
・江:湘江の流れ。
・羅襟:うすものの着物のえり。
・彈:はじく。
《詞意》
夜明け前御簾を揺るがして春の風が吹きすぎました。目覚めれば何の夢を見ていたことか、風に吹かれてしまったのでしょうか。
彩り鮮やかな館に私は誰と共にいればいいのでしょう。
思い出すのは灯火をかきたてて二人で、その香が燃え尽きるまで語り合っていたこと。
外に目をやりますと紫金峰の聳える奇峰は雨にけぶり雲も垂れ込め、
春の湘江の流れも酔いの醒めた目にぼんやり映るばかり。
昨夜の涙が春着の襟に留っています、あなたを偲び北へ帰る雁に弾き与えたいものです。
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(清照補遺)
2008-05-16T12:12:33+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=770329
補2 怨王孫 帝裡春晩
怨王孫 李清照
(「春暮」と題するもある)
帝裡春晚、重門深院。
草?階前、暮天雁斷。
樓上遠信誰傳、恨綿綿。
多情自是多沾惹。
難拚舍、又是寒食也。
秋千巷陌、人靜皎月初斜、浸梨花。
《和訓》
帝裡、重門の深院に春晩く、
...
怨王孫 李清照
(「春暮」と題するもある)
帝裡春晚、重門深院。
草?階前、暮天雁斷。
樓上遠信誰傳、恨綿綿。
多情自是多沾惹。
難拚舍、又是寒食也。
秋千巷陌、人靜皎月初斜、浸梨花。
《和訓》
帝裡、重門の深院に春晩く、
草緑なる階前、暮るる天に雁断たれ、
楼に上れど遠信は誰の伝ふるや、恨み綿綿たり。
多き情けの自づと是れ多く沾(ひ)じ惹きて、
拚舍(すてさ)るに難く、又是れ寒食のとき也。
秋千巷陌、人静かにして皎(しろ)き月初めて斜むきて、梨花に浸(ひた)れり。
《語釈》
・帝裡:帝裏。禁裏。宮殿。みやこ。京城開封。
・深院:奥庭。中庭。・院は、塀や建物で囲まれた中庭。中国の伝統的な御殿は、塀と門で幾重にも区切られた庭園がある。
・階前:きざはしの前の。階段の前。庭先。
・遠信:遠方の手紙。消息。
・綿綿:途絶えることなく続くさま。
・沾惹:招引。激惹。引き付ける、誘う。 ・沾:しみる、ぬれる。・惹:ひく。誘いこむ。
・拚舍:捨て去る。
・寒食:寒食節。旧暦三月三日。翌日は春分から15日後の「清明節」。陽暦の4月3日から5日頃。仲春の最後の日。熟食節、禁煙節、冷節とも呼ばれる禁火の時期。火を使わず既に出来上がりの食べ物や、生のものしか食べないという祭日。介子推が己を貫き焼死した故事によるという。
・秋千:中庭にあるぶらんこ。太陽のよみがえりをねがう儀式として寒食節にブランコに乗ったという。ぶらんこは、春を感じさせるものであった。寒食節にはお墓参り、ピクニックが行なわれるが、その他に闘鶏子(卵のぶつけ合い)、蕩秋千(ブランコ遊び)、打毯(ポロのようなスポーツ)、拔河(綱引き)などの風習がある。
・巷陌:通り、横町。・「秋千巷陌」で「庭も街も辺り一帯」の意であろう。
・皎:白い。
・浸梨花:白居易の『長恨歌』に「玉容寂寞涙闌干,梨花一枝春帶雨。」とある。美しい女が涙を流すさま。
・[詞牌の怨王孫について=補1と2は同形であるが、全詞集(49首)の22(湖上風來波浩渺)とは異なる。他の詞人の作形を見ると補1・2の詩形を言うようである。]
《詞意》
御所の幾重もの門の奥、その中庭に春が暮れていこうとしています。
庭先の草は緑を増し、暮れなずむ空に北へ帰る雁ももう見えなくなりました。
高殿に登ってみますが、遠方からの便りは誰が伝えてくれるのでしょう。怨みは途絶えることなく続いているのです。
溢れ出る想いは更に多くの愁いを誘いますが、
それを捨て去るのも難しいうちに、季節は仲春もおわる寒食節を迎えています。
ブランコの揺れる庭も街も辺り一帯、昼の賑わいから一転静かになって、白い三日月が西の空に傾き、白い梨の花に心浸されるように涙を流しています。
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(清照補遺)
2008-05-15T22:49:47+09:00
杉篁庵庵主
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-
http://kansi.sankouan.sub.jp/?eid=769826
補1 怨王孫
怨王孫 李清照
(「春暮」と題するもある)
夢斷漏悄、愁濃酒惱。
寶枕生寒、翠屏向曉。
門外誰掃殘紅、夜來風。
玉簫聲斷人何處。
春又去、忍把歸期負。
此情此恨、此際擬托行雲、問東君。
《和訓》
夢断たれ漏るるは悄たるに、愁ひ濃くし...
怨王孫 李清照
(「春暮」と題するもある)
夢斷漏悄、愁濃酒惱。
寶枕生寒、翠屏向曉。
門外誰掃殘紅、夜來風。
玉簫聲斷人何處。
春又去、忍把歸期負。
此情此恨、此際擬托行雲、問東君。
《和訓》
夢断たれ漏るるは悄たるに、愁ひ濃くして酒の悩まし。
宝枕寒を生み、翠屏暁に向かふ。
門外誰ぞ残紅を掃きしや、夜来の風なるや。
玉簫の声断つ 人は何処(いづこ)ならむ。
春も又去りて、忍び把(と)るは帰期の負(たのみ)。
此の情け此の恨み、此の際(きは)み行く雲に擬(なぞら)へ托(たの)みて、東君に問ふ。
《語釈》
・漏:ある感情にもとづいて声・表情などが思わず出る。
・悄:静まりかえった、音のない。物悲しい、憂うつな。
・惱:気持ちがはれない。
・寶枕:玉の枕。唐の李賀《春懷引》に“寶枕垂雲選春夢,鈿合碧寒龍腦凍。”の句がある。
・翠屏:翡翠をはめ込んだ衝立。
・夜來:昨夜以来。
・玉簫:玉で飾られた簫(縦笛を十数本並べた楽器)。
・把:握る。見張る、番をする。
・歸期:還ってくる時期。
・負:たのむ。
・東君:日の異名。春の神。
《詞意》
春の夜の夢は途切れ、物悲しい想いばかりが溢れ出て、愁いは増すばかり。お酒でも気持ちは晴れることなく、宝玉の枕も寒々と冷たく、ヒスイの屏風に暁の色が映っています。庭に残る花びらを誰が掃き清めたのでしょう。昨夜来の風でしょうか。
笙の笛も聞こえなくなりました。あの人はいま何処にいらっしゃるのでしょう。
春はまた過ぎていきます。お帰りの日を恃みに忍び待つしかありませんが、この想いこの恨みこの窮まりを流れ行く雲にたのみまかせて、春の神に語りかけています。
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(清照補遺)
2008-05-15T10:24:32+09:00
杉篁庵庵主
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杉篁庵庵主
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[附]李清照詞補遺14首・原詩一覧
李清照全詞集に採られているのは49首です。
しかしその他、李清照作品として伝わるものも多いのです。李清照全詞集に採られていない作品は、清照作が疑われた作品ですが、ここに掲載する詞は、その中でも李清照の作としてもいいのではないかと思われるものを、補遺...
李清照全詞集に採られているのは49首です。
しかしその他、李清照作品として伝わるものも多いのです。李清照全詞集に採られていない作品は、清照作が疑われた作品ですが、ここに掲載する詞は、その中でも李清照の作としてもいいのではないかと思われるものを、補遺として挙げています。
補1 怨王孫
(「春暮」)
夢斷漏悄,愁濃酒惱。
寶枕生寒,翠屏向曉。
門外誰掃殘紅,夜來風。
玉簫聲斷人何處。
春又去,忍把歸期負。
此情此恨,此際擬托行雲,問東君。
補2 怨王孫
(「春暮」)
帝裡春晚,重門深院。
草?階前,暮天雁斷。
樓上遠信誰傳,恨綿綿。
多情自是多沾惹。
難拚舍,又是寒食也。
秋千巷陌,人靜皎月初斜,浸梨花。
補3 浪淘沙
(「閨情」)
簾外五更風,吹夢無蹤。
畫樓重上與誰同。
記得玉釵斜撥火,寶篆成空。
回首紫金峰,雨潤煙(一作雲)濃。
一江春水(一作浪)醉醒中。
留得羅襟前日淚,彈與征鴻。
補4 青玉案
(「送別」)
征鞍不見邯鄲路,莫便匆匆歸(一無歸字)去。
秋正(一作風)蕭條何以度。
明窗小酌,暗燈清話,最好流連處。
相逢各自傷遲暮。
獨(一作猶)把新詩(一作詞)誦奇句。
鹽絮家風人所許。
如今憔悴,但餘雙(一作衰)淚,一似黃梅雨。
補5 采桑子
(「夏意」)
晚來一陣(一作霎)風兼雨,洗盡炎光。
理罷笙簧,卻對菱花淡淡妝。
絳綃縷薄冰肌瑩,雪膩酥眅。
笑語檀郎,今夜紗幮(櫥)枕簟涼
補6 浪淘沙
(「閨情」)
素約小腰身,不耐傷春。
疏梅影下晚妝新。
裊裊婷婷(一作娉娉)何樣似,一樓輕雲。
歌巧動朱唇,字字嬌嗔。
桃花深徑(一作處)一通津。
悵望瑤臺清夜月,還照(一作送)歸輪。
補7 如夢令
誰伴明窗(月)獨坐,我共(金)影兒兩個。
燈盡欲暝(眠)時,影也把人拋躲。
無那,無那,好個棲惶的我。
補8 品令
零落殘紅,恰渾(一無此二字)似、胭脂色。
一年春事,柳飛輕絮,筍添新竹。
寂寞幽閨(一無閨字),坐(一無坐字)對小園嫩?。
登臨未足,悵遊子、歸期促。
他年魂夢(一作夢魂),千裡猶到,城陰溪曲。
應有凌波,時為故人留(一作凝)目。
補9 品令 李清照
急雨驚秋曉、今歲較、秋風早。
一觴一詠、更須莫負、晚風殘照。
可惜蓮花已謝、蓮房尚小。
汀蘋岸草、怎稱得、人情好。
有些言語、也待醉折、荷花向道。
道與荷花、人比去年總老。
補10 鷓鴣天
春閨
枝上流鶯和淚聞,新啼痕間舊啼痕。
一春魚雁(一作鳥)無消息,千裡關山勞夢魂。
無一語,對芳尊,安排腸斷到黃昏。
甫能炙得燈兒了,雨打梨花深閉門。
補11 青玉案
(「春日懷舊」)
一年春事都來幾,早過了、三之二。?暗紅嫣渾可事。
?楊庭院,暖風簾莫,有個人憔悴。
買花載酒長安市,又爭似、家山見桃李。
不枉東風吹客淚。
相思難表,夢魂無據,惟有歸來是。
補12 新荷葉
薄露初零,長宵共、永盡分停。
繞水樓臺,高聳萬丈蓬瀛。
芝蘭為壽,相輝映、簪笏盈庭。
花柔玉淨,捧觴別有娉婷。
鶴瘦松青,精神與、秋月爭明。
?行文章,素馳日下聲名。
東山高蹈,雖卿相、不足為榮。
安石須起,要蘇天下蒼生。
補13 憶少年
疏疏整整,斜斜淡淡,盈盈脈脈。
徒憐暗香句,笑梨花顏色。
羈馬蕭蕭行又急。
空回首,水寒沙白。
天涯倦牢落,忍一聲羌笛。
補14 菩薩蠻
?雲鬢上飛金雀,悉眉翠歛春煙薄。
香閣掩芙蓉,畫屏山幾重。
窗寒天欲曙,猶結同心苣。
啼粉污羅衣,問郎何日歸?
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清照詞補遺一覧
2008-05-15T10:17:50+09:00
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呉淑姫詞・目次・
呉淑姫の詞
《呉淑姫について》
「吳淑姬,北宋末期の女流詩人。生卒不詳。浙江の人(山西萬榮縣西南の人とするものもある)。《陽春白雪詞》五卷がある。「薄命詞人」と呼ばれる。
父は早死し、結婚生活は順調でなく、一生、苦労して、屈辱の...
呉淑姫の詞
《呉淑姫について》
「吳淑姬,北宋末期の女流詩人。生卒不詳。浙江の人(山西萬榮縣西南の人とするものもある)。《陽春白雪詞》五卷がある。「薄命詞人」と呼ばれる。
父は早死し、結婚生活は順調でなく、一生、苦労して、屈辱の中にその人生を終わったという。文人の楊子治の妻。
ここでは代表作とされる、四首を掲載。
・目次・
和訓・語釈・詞意はここよりリンクする各ページにあります。
1.小重山(春愁)
2.惜分飛(送別)
3.祝英台近(春恨)
4.長相思令
《原詩一覧》
・小重山(春愁)
謝了荼蘼春事休。無多花片子,綴枝頭。庭槐影碎被風揉。鶯雖老,聲尚帶嬌羞。
獨自倚妝樓。一川煙草浪,襯雲浮。不如歸去下簾鉤。心兒小,難著許多愁。
・惜分飛(送別)
岸柳依依拖金縷。是我朝來別處。惟有多情絮。故來衣上留人住。兩眼啼紅空彈與。未見桃花又去。一片征帆舉。斷腸遙指苕溪路。
・祝英台近(春恨)
粉痕銷,芳信斷,好夢又無據。病酒無聊,欹枕聽春雨。斷腸曲曲屏山,溫溫沉水,都是舊、看承人處。
久離阻。應念一點芳心,?愁知幾許。偷照菱花,清瘦自羞覷。可堪梅子酸時,楊花飛絮,亂鶯鬧、催將春去。
・長相思令
煙霏霏。雪霏霏。雪向梅花枝上堆。春從何處回。醉眼開。睡眼開。疏影?斜安在哉。從教塞管催。
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目次・呉淑姫詞
2008-02-18T11:17:51+09:00
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1.小重山(春愁)
小重山(春愁) 吳淑姬
謝了荼蘼春事休。無多花片子,綴枝頭。
庭槐影碎被風揉。鶯雖老,聲尚帶嬌羞。
獨自倚妝樓。一川煙草浪,襯雲浮。
不如歸去下簾鉤。心兒小,難著許多愁。
《和訓》
荼蘼の謝(しぼ)みて春事休(お...
小重山(春愁) 吳淑姬
謝了荼蘼春事休。無多花片子,綴枝頭。
庭槐影碎被風揉。鶯雖老,聲尚帶嬌羞。
獨自倚妝樓。一川煙草浪,襯雲浮。
不如歸去下簾鉤。心兒小,難著許多愁。
《和訓》
荼蘼の謝(しぼ)みて春事休(おは)る。
花片子の多く無く、枝頭に綴(かざ)る。
庭の槐は影砕け風に揉まる。
鶯老ゆと雖も、声尚ほ嬌羞を帯ぶ。
独り妝楼に倚(よ)る。
一川煙り草浪ゆらぎ、襯雲浮ぶ。
帰り去りて簾の鉤(かぎ)を下ろすに如かず。
心小さくして、許多(あまた)の愁ひを著(あらは)し難し。
《語釈》
・荼蘼(せんび):トキンイバラ(頭巾薔薇・牡丹薔薇)。バラ科の落葉低木。花は白色、香気。朱淑真の鷓鴣天に「千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。」(千鐘の尚ほ偕(とも)に春に酔はんと欲せば、幸ひに荼蘼と海棠も有り。)の句がある。
・謝:(花や葉が)散る、しぼむ。・謝了:散ってしまった。
・春事:春の節日。春。
・花片子:花びらの一枚一枚。子は接尾辞。
・無多:多くない。少ない。
・綴:飾る。
・槐(ゑんじゆ):アカシア。マメ科の落葉高木。夏、枝頂に淡緑白色の花がつく。花が散ったあとは木の下が真っ白になる。
・被:…に…される。
・嬌羞:女性のなまめかしい恥じらい。
・獨自:自分ひとり。単独。
・倚:もたれる、よりかかる。ぼんやり待ちわびる姿をいう。
・妝樓(さうろう):化粧部屋。婦人の部屋。
・草浪:くさの波。草が風にゆらぐさまを波にたとえていう。
・襯雲:覆う雲。重なる雲。
・不如:…する方がよい。
・歸去:去り行く。故郷に帰る。(去り行くのは、春か、はたまた人か若さか。)
(・不如歸去:「去り行くがいい」(行かないで。帰って来てください。)ホトトギスは血を吐きながら、帛を裂くような高い声で悲しげに「不如歸去・ブールーグイチュー」と啼くという。)
・下簾鉤:簾の鉤をはずし簾を下ろす。
・兒:小さいものであることを示す接尾辞。
・著:著作する。明らかな、顕著な。
・許多:あまた。程度のはなはだしいさま。非常に。はなはだしく。
《詞意》
白い頭巾薔薇の花がしぼみ、春が終わろうとしています。
花びらもすくなくなって枝の先についているばかりです。
庭のアカシアの茂り始めた影が揺れ 風に揉まれています。
鶯は春を啼き続けて老いたといっても、声はまたまだなまめかしい恥じらいを帯びています。
独り部屋にぼんやりもたれて外を眺めますと、
川はもやり 草が波のようにゆらぎ、空覆う雲が浮んでいます。
春もまた去り行くしかないと 部屋にはいり簾を下ろしますが、
心細く、言葉にも出来ず 愁いに沈むばかりです。
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目次・呉淑姫詞
2008-02-18T11:15:52+09:00
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2.惜分飛(送別)
惜分飛(送別) 吳淑姬
岸柳依依拖金縷。是我朝來別處。
惟有多情絮。故來衣上留人住。
兩眼啼紅空彈與。未見桃花又去。
一片征帆舉。斷腸遙指苕溪路。
《和訓》
別れ行く人を送る
岸の柳は依依として金縷を...
惜分飛(送別) 吳淑姬
岸柳依依拖金縷。是我朝來別處。
惟有多情絮。故來衣上留人住。
兩眼啼紅空彈與。未見桃花又去。
一片征帆舉。斷腸遙指苕溪路。
《和訓》
別れ行く人を送る
岸の柳は依依として金縷を拖(ひ)く、是れ我れ朝来たりて別るる処なり。
惟(おもんみ)るに絮に多情有り、故に衣上に来て人に留りて住む。
両眼紅に啼きて空しく弾き与(くみ)し、未だ桃花を見ずして又去る。
一片の征帆挙がり、断腸す 遥かに指すは苕溪の路。
《語釈》
・依依:木の枝が柔らかく風にゆれるさま。
・拖:引く、引きずる。
・金縷:金の糸。柳のしなやかな枝のさま。
・惟:おもんみる。よくよく考えてみる。
・絮柳絮。柳の種子の綿毛。
・兩眼啼紅:目を真っ赤にして泣く。・啼:(人が声を出して)泣く。
・彈:(楽器を)弾く。
・與:交際する、親しくする。
・征帆:旅立つ舟の帆。
・斷腸:はなはだしく悲しみ苦しむこと。また、そのような悲しみや苦しみ。
・苕溪:川の名、一名苕水。東苕·西苕の二源あり、合して一となり、太湖に入る、岸をはさんで苕花(アシノハナ)多く、秋に水上に飄散すること飛雪の如しという。
《詞意》
別れ行く人を送る
岸の柳は風にゆれ金色に細く糸をたらして、別れの朝にここに来ています。
よくよく考えてみれば柳綿毛はずいぶんと多情、だからでしょう衣に着いて離れようとしません。
両眼を赤くして泣きながら空しく琴を爪弾きます、桃の花を見ないままあなたは又去っていくのです。
旅立つ舟の帆が挙がり、遥か遠くあなたの目指す苕溪の路を思うと悲しみはいや増のです。
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目次・呉淑姫詞
2008-02-18T11:13:45+09:00
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3. 祝英台近(春恨)
祝英台近(春恨) 吳淑姬
粉痕銷,芳信斷,好夢又無據。
病酒無聊,欹枕聽春雨。
斷腸曲曲屏山,溫溫沉水,都是舊、看承人處。
久離阻。應念一點芳心,?愁知幾許。
偷照菱花,清瘦自羞覷。
可堪梅...
祝英台近(春恨) 吳淑姬
粉痕銷,芳信斷,好夢又無據。
病酒無聊,欹枕聽春雨。
斷腸曲曲屏山,溫溫沉水,都是舊、看承人處。
久離阻。應念一點芳心,?愁知幾許。
偷照菱花,清瘦自羞覷。
可堪梅子酸時,楊花飛絮,亂鶯鬧、催將春去。
《和訓》
春の恨み
粉(おしろい)の痕(あと)銷(き)え、芳信断ち、好夢も又據(たのみ)無し。
酒(ささ)に病みて無聊、枕を欹てて春雨を聞く。
曲曲の屏山、温温の沈水、都(すべて)是れ旧、人に承(う)くる処を看(みまも)り断腸す。
久しく離れて阻(くる)しむ。応に一点の芳心を念(おも)ひて、?愁の幾許(いくばく)かを知る。
偸(ぬす)みて菱花を照らし、清瘦の羞(はじら)ひて覷(うかが)ふ。
梅子の酸時を堪ふべし、楊花絮を飛ばし、乱るる鶯の鬧(さわが)しく、将に春去るを催す。
《語釈》
・粉:おしろい。
・痕:痕跡(こんせき)、あと。
・銷:無効にする、取り消す。金属を溶かす。
・芳信:花のたより。花信。他人の手紙を敬っていう語。芳翰。
・據:拠り所依存する、頼みとする
・病酒:酒で体をこわすこと。酒にやられたこと。二日酔い。
・無聊:わだかまりがあって、心楽しまないこと。退屈なこと。気が晴れないこと。
・欹枕:枕をかたむける。まくらをそばだてる。・欹:そばだてる。一方に傾ける。
・斷腸:腸が断たれるほどに辛い。
・曲曲:まがりくねっているさま。こまごまといりくんでいるさま。
・屏:(息を)ひそめる。屏風(びようぶ)、衝立(ついたて)。さえぎる。
・溫溫:温温。ぬくぬく。暖かく心地良いさま。
・沉水:沈水香。沈水香は、東南アジアなどで採れるジンチョウゲ科の常緑高木の枯れ木や倒れた木に細菌がついて樹脂化して固まったもの。 水に入れると沈むことから沈水香と呼ばれる。
・都:すべて、みな。 《‘〜是’の形で》ほかならぬ…のせいで、…であればこそ。
・是:…である。
・承:うける。うけ頂く。
・處:すむ。とどむ。とどまる。おもむく。
・阻:へだたる。なやむ、くるしむ。
・應:当然…すべきだ。
・芳心:芳志。相手の親切な心遣い。気持ちを敬っていう語。親切を尽くすこと。
・?愁:憂愁の思いが激しいこと。?≒閑。
・幾許:どのくらい。どれほど。
・偷:偸(とう)ぬすむ。こっそり。ごまかす。ひそかに。うすい。かりそめ。
・照:(鏡に)映す、映る。
・菱花:ヒシの花。ヒシ科の一年生水草。各地の沼や池に群生。夏、白色四弁の花が咲く。
・清瘦:やせこける。乏しい。
・羞:恥ずかしがる。
・覷:うかがう。じっとみる。
・堪:耐える。我慢する。こらえる。
・酸:酸っぱい。
・楊花:やなぎ、かはやなぎ(ねこやなぎ)の花。
・絮:柳絮(りゆうじよ)、柳絮(じよ)、柳の種子の綿毛。
・鬧:さわがしい。騒ぐ
・催:促す、急(せ)きたてる。
・將:はた。はたして。まさに。ちょうど今。
《詞意》
春の恨み
おしろいのあと消えて、花のたよりはなく、よい夢も頼みにはなりません。
昨夜のお酒がまだ残っていて気も晴れず、枕を欹てて春の雨の音を聞いています。
枕もとを遮る屏風、心地よい香、全て昔のままに、あの方に戴いたと見ていますと心痛みます
久しく離れ離れなのを苦しむばかり。あの方の心遣いを想うと、愁いの深さのどれほどかが知られます。
鏡にそっと菱の花を映し、愁いに痩せた姿を恥じらいながらうかがうしかありません。
梅の実が青くつくこの時は忍ぶしかありません、柳は絮を飛ばし、乱れ啼く鶯の声がさわがしく、まさに春が去っていくのをせきたてています。
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目次・呉淑姫詞
2008-02-18T11:11:50+09:00
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4. 長相思令
長相思令 吳淑姬
煙霏霏。雪霏霏。
雪向梅花枝上堆。春從何處回。
醉眼開。睡眼開。
疏影?斜安在哉。從教塞管催。
《和訓》
煙(かすみ) 霏霏(たなび)き。
雪 霏霏(しきりにふ)る。
雪は梅花に向かひ枝上に堆(つ)む。
春...
長相思令 吳淑姬
煙霏霏。雪霏霏。
雪向梅花枝上堆。春從何處回。
醉眼開。睡眼開。
疏影?斜安在哉。從教塞管催。
《和訓》
煙(かすみ) 霏霏(たなび)き。
雪 霏霏(しきりにふ)る。
雪は梅花に向かひ枝上に堆(つ)む。
春は何処(いづこ)従(よ)り回りきたる。
酔眼開き。
睡眼開く。
疎影斜めに?たはり安くにか在らん哉(や)。
塞管の催すに従教(まか)す。
《語釈》
・煙:かすみ、もやの類。雲。
・霏霏(ひひ):雲の浮かぶさま。雪や雨が降りしきるさま。 細かなものが飛び散るさま。
・堆:積む。
・疏影:疎影。まばらな影。梅の疎らな枝振り。林逋(967−1028)の梅を詠んだ名吟「山園小梅」に「疎影?斜水?淺、暗香浮動月黄昏」がある。
・安:いずくにか、いづくんか。どこに。
・哉:疑問や反問を表わす。
・從教:…に任せる。
・塞管:羌笛。胡人の管楽器。蘆(あし)で作る。
・催:(春を)促す、せきたてる。
《詞意》
雲が空を覆って、
雪がしんしんと降りしきっています。
雪は咲きだした梅の花に向かうように降って枝の上に降り積みます。
春は何処へ行ってしまったのでしょう。
酔いの残る目を開き、
眠り覚めやらぬ目を開き、外に目をやりますと
まばらな梅の枝が斜めにのびているばかり、春は何処にあるのでしょう。
寂しい胡笛の音に早く春が来るよう急かせましょう。
「楊柳枝詞九首」第一首 劉禹錫(772-842)
塞北梅花羌笛吹,淮南桂樹小山詞。
請君莫奏前朝曲,聽唱新翻楊柳枝。
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目次・呉淑姫詞
2008-02-18T11:09:05+09:00
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李清照全詞集(49首) ・目次・
李清照全詞集(四九首)
「詞」には本来「題」はなく、歌の曲を示す「詞牌(=詞の形式名)」で呼ばれている。
「題(副題)」のある場合は( )内に記すが、詞牌だけでは何の詞か判然としないので「初句」を記している。
(07-10-26第一次アップ完了...
李清照全詞集(四九首)
「詞」には本来「題」はなく、歌の曲を示す「詞牌(=詞の形式名)」で呼ばれている。
「題(副題)」のある場合は( )内に記すが、詞牌だけでは何の詞か判然としないので「初句」を記している。
(07-10-26第一次アップ完了、以後修正更新します)
・目次・(各詞のページにリンク)
番号 詩牌 (題) 初句 の順
1 如夢令 常記溪亭日暮
2 如夢令 昨夜雨疏風驟
3 點絳脣 寂寞深閨
4 點絳脣 蹴罷鞦韆
5 浣溪沙 莫許杯深琥珀濃
6 浣溪沙 小院閑窗春己深
7 浣溪沙 淡蕩春光寒食天
8 浣溪沙 髻子傷春慵更梳
9 浣溪沙 繡幕芙蓉一笑開
10 菩薩蠻 風柔日薄春猶早
11 菩薩蠻 歸鴻聲斷殘雲碧
12 訴衷情 夜來沈醉卸妝遲
13 好事近 風定落花深
14 清平樂 年年雪裡
15 憶秦娥 臨高閣
16 攤破浣溪沙 揉破黃金萬點輕
17 攤破浣溪沙 病起蕭蕭兩鬢華
18 添字採桑子 窗前誰種芭蕉樹
19 武陵春 風住塵香花已盡
20 醉花陰 薄霧濃雲愁永晝
21 南歌子 天上星河轉
22 怨王孫 湖上風來波浩渺
23 鷓鴣天 寒日蕭蕭上鎖窗
24 鷓鴣天 暗淡輕黃體性柔
25 玉樓春(紅梅) 紅酥肯放瓊苞碎
26 小重山 春到長門春草青
27 一剪梅 紅藕香殘玉簟秋
28 臨江仙 庭院深深深幾許
29 臨江仙(梅) 庭院深深深幾許
30 蝶戀花 暖日晴風初破凍
31 蝶戀花(昌樂館寄渚姊妹) 淚濕羅衣脂粉滿
32 蝶戀花(上巳召親族) 永夜懨懨歡意少
33 漁家傲 天接雲濤連曉霧
34 漁家傲 雪裡已知春信至
35 殢人嬌(後亭梅開有感) 玉瘦香濃
36 行香子(七夕) 草際鳴蛩
37 行香子 天與秋光
38 孤雁兒 藤床紙帳朝眠起
39 滿庭芳 小閣藏春
40 滿庭芳 芳草池塘
41 鳳凰臺上憶吹簫 香冷金猊
42 聲聲慢 尋尋覓覓
43 慶清朝慢 禁幄低張
44 念奴嬌(春情) 蕭條庭院
45 永遇樂 落日熔金
46 多麗(詠白菊) 小樓寒
47 長壽樂(南昌生日) 微寒應候
48 減字木蘭花 賣花擔上
49 瑞鷓鴣(雙銀杏) 風韻雍容未甚都
李清照の生涯(HP杉篁庵の一ページに飛びます)
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目次・李清照詞
2008-02-14T21:14:28+09:00
杉篁庵庵主
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補遺
1
浣溪沙(春夜) 朱淑眞
玉體金釵一樣嬌。背燈初解繡裙腰。衾寒枕冷夜香消。
深院重關春寂寂,落花和雨夜迢迢。恨情和夢更無聊。
玉體金釵一樣嬌。(玉体の金釵は一様に嬌なり)
背燈初解繡裙腰。(灯を背に初めて解く繡裙腰...
1
浣溪沙(春夜) 朱淑眞
玉體金釵一樣嬌。背燈初解繡裙腰。衾寒枕冷夜香消。
深院重關春寂寂,落花和雨夜迢迢。恨情和夢更無聊。
玉體金釵一樣嬌。(玉体の金釵は一様に嬌なり)
背燈初解繡裙腰。(灯を背に初めて解く繡裙腰)
衾寒枕冷夜香消。(衾寒く枕冷たく夜の香消ゆ)
深院重關春寂寂,(深院の重關に春寂寂として)
落花和雨夜迢迢。(落花雨に和し夜迢迢たり)
恨情和夢更無聊。(恨情夢に和し更に無聊なり)
・玉體:お体。真っ白で美しい身体。
・金釵(きんさい):金でつくったかんざし。
・一樣:すべておなじさま。
・嬌:愛くるしい。うつくしい、なまめかしい。
・繡裙腰:腰にまとった美しい刺繡のあるスカート。・裙:もすそ。スカート。
・衾(ふすま):掛けぶとん。
・夜香:夜に焚かれた香。夜香木は夜になると強い芳香を放つ花、夜香花。
・深院重關:貴婦人の部屋。
・深院:奥庭。中庭。
・重關:幾重にも閉じられた門。
・寂寂:静かでさびしいさま。
・和:仲よくする。調和する。
・迢迢:遠くへだたるさま。 ここは夜の静かな深まりをもいうか。
・無聊:わだかまりがあって、心楽しまないこと。退屈なこと。気が晴れないこと。
2
自責 二首 朱淑眞
女子弄文誠可罪,那堪詠月更吟風。
磨穿鐵硯非吾事,繡折金針卻有功。
悶無消遣只看詩,不見詩中話別離。
添得情懷轉蕭索,始知伶俐不如痴。
女子弄文誠可罪,(女子の文を弄ぶは誠に罪なるべし)
那堪詠月更吟風。(那(なん)ぞ堪へんや月を詠じ更に風を吟ずるを)
磨穿鐵硯非吾事,(鉄の硯を磨き穿つは吾事にあらず)
繡折金針卻有功。(金の針を繡(ぬ)い折るに却って功有り)
・那堪:どうして堪えられようか。なんぞ…に堪えん。
・磨穿鐵硯:詩文を推敲、研鑽すること。
・非吾事:私の関心事ではない。
・繡折金針:家庭婦人の仕事。
悶無消遣只看詩,(悶へ無く消遣に只だ詩を看る)
不見詩中話別離。(詩中に別離を話するは見ず)
添得情懷轉蕭索,(添へ得たり情懐転(うたた)蕭索)
始知伶俐不如痴。(始めて知る 伶俐は痴に如かずと)
・消遣:気をはらすこと。気ばらし。暇をつぶす。
・情懷:心の中に思うこと。所懐。
・轉:転(うたた)、状態がどんどん進行してはなはだしくなるさまをいう。いよいよ。ますます。一層。
・蕭索:もの寂しいさま。うらぶれた感じのするさま。蕭条。
・伶俐:頭のはたらきがすぐれていて、かしこい・こと(さま)。聡明。
・不如:及ばない。かなわない。…に越したことはない。
・痴:愚かなこと。
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(朱淑眞詞)
2008-02-13T15:12:01+09:00
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25.月華清 梨花
25.月華清 梨花 朱淑眞
月華清
梨花
雪壓庭春、香浮花月、攬衣還怯單薄。
欹枕裴回、又聽一聲干鵲。
粉淚共宿雨闌干、清夢與寒雲寂寞。
除卻、是江梅曾許、詩人吟作。
長恨曉風漂泊、且莫遣香肌、瘦減如削。
深杏夭桃...
25.月華清 梨花 朱淑眞
月華清
梨花
雪壓庭春、香浮花月、攬衣還怯單薄。
欹枕裴回、又聽一聲干鵲。
粉淚共宿雨闌干、清夢與寒雲寂寞。
除卻、是江梅曾許、詩人吟作。
長恨曉風漂泊、且莫遣香肌、瘦減如削。
深杏夭桃、端的為誰零落。
況天氣、妝點清明、對美景、不妨行樂。
拌著、向花時取、一杯獨酌。
※この詞、テキストは三行目が、
「粉淚共、宿雨闌干,清夢與、寒雲寂寞。」である。
ここでは「粉淚共宿、雨闌干,清夢與寒、雲寂寞。」と読んでいる。
《和訓》
雪は庭の春を圧し、香りて浮かぶ花と月、
衣を攬(と)りて還(なほ)単(ひとへ)の薄きに怯(おび)ゆ。
枕 欹(そばだ)て裴回(たもとほ)り、又聞くは一声の干鵲。
粉涙の共に宿して雨闌干、清夢寒さに与(くみ)し 雲の寂寞たり。
除却す、是れ江梅の曾(かつ)て詩人に吟じ作るを許せしを。
長く恨みて暁風の漂泊し、
且(か)つは香肌に遣(つかは)す莫(なか)れ、痩せ減りて削る如し。
深き杏 夭(わか)き桃、端的誰が為に零落せる。
況してや天気、清明に妝(よそほ)い点じ、美景に対し、行楽を妨げず。
拌著して、花に向かひ時に取りて、一杯独り酌(く)む。
《語釈》
・壓:動きを押さえる、静かにさせる。制圧する、鎮圧する。
・攬:とる。抱き寄せる。掌握する、独占する。
・還:なお,依然として
・怯:おびえる。ひるむ。恐れて気力が弱まる。気持ちがくじける。
・單:ひとへ。
・欹枕:枕をかたむける。まくらをそばだてる。寒さのために、蒲団に寝たままで聴く姿勢のこと。・欹:そばだてる。一方に傾ける。「遺愛寺鐘欹枕聴」(白居易)
・裴回:=俳佪·徘徊。同じ場所を行ったり来たりする。行き廻る。もとおる。
・干鵲:水辺のカササギ。アオサギのことか。・干:たに(澗)みぎは(水涯)ほとり。
・闌干:涙のとめどなく流れるさま。・雨闌干:雨のように涙を流すさま。
・粉淚:おしろいと涙と
・與:与。与(くみ)する。味方する。
・寂寞:ひっそりとしてさびしいさま。
・長恨:長く忘れることのできない恨み。終生の恨み。一生の恨み。
・漂泊:あてもなくさまよい歩く。流れただよう。
・除卻:除く。・卻=却:…し去る。強調の助辞。滅却、忘却と同様の用法。
・曾:かつて、以前。(動作や状況が過去に属することを示す)
・許:許す、許可する。約束する。
・且莫(しょばく):しばらく……避けられたし。しばらく……するなかれ。・且:かつ。一方では。次々に。しばらく。しばし。同時に。また。その上。・莫:…なかれ。
・遣:派遣する、送り出す。にがす。(憂いなどを)追い散らす、発散する。
・瘦減:痩せ減る。痩せ細る。
・深:色が濃い。
・夭:(草木が)よく茂った、緑つややかな。・夭桃:美しく咲いた桃の花。若く美しい女性の形容。
・端的:はたして、果然。はっきりと。確定。明白。たちどころに。
・零落:おちぶれる。
・況:いわんや。まして、さらにいっそう。なおさら。
・清明:清明節。二十四節気の1つ。4月5日ごろ。
・妝點:粧点。よそおいかざる。化粧する、装う。
・行樂:たのしみをなす。遊び楽しむこと。
・拌著:拌着。酒をかき混ぜて。
・拌:攪拌(かくはん)する。かき混ぜる。わる。なげうつ。口論する。・着:…している、…しつつある。
・時:その時。時には。
《詞意》
雪は庭の春を圧するように降り積もり、香りのなかに花と月が浮かび上がります、
衣を上に纏ってもなほ単(ひとえ)の着物の薄さに気持ちも萎えます。
枕をそばだて寝返り打って、また水辺で一声高く啼く青鷺の声を聞きます。
白粉と涙とは一緒なって雨のように流れます、清らかな夢は寒さに溶けいり、雲はひっそりとさびしいかぎり。
以前詩人が川辺の梅を詠うほどの春の暖かさでしたが、それもこのところの寒さに退けられてしまいました。
忘れえぬ恨みを思わせる暁の風が冷たく流れます、
しばらくは香りある(梨の花の)肌に吹き付けないでください、削る如くに痩せ細ってしまいます。
色濃い杏の花や美しい桃の花(のような若い私)を、はたして誰が色褪せさせたのでしょう。
ましてやこの天気、清明節にお化粧を新たにし、きれいな景色を前に、楽しみを妨げるものはありません。
濁り酒をかき混ぜつつ、梨の花に向かい時に手に取って、ただ独り一杯の酒を酌みます。
梨の花ほのけく白く月の夜に
かげして散りぬ また一つ散る 立原道造
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(朱淑眞詞)
2008-02-13T12:14:43+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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24.西江月 春半
西江月 朱淑眞
春半
辦取舞裙歌扇、賞春只怕春寒。
卷簾無語對南山、已覺?肥紅淺。
去去惜花心懶、踏青?步江干。
恰如飛鳥倦知還、澹蕩梨花深院。
《和訓》
春半ば
舞ひの裙(もすそ)に歌の扇を辦(あがな...
西江月 朱淑眞
春半
辦取舞裙歌扇、賞春只怕春寒。
卷簾無語對南山、已覺?肥紅淺。
去去惜花心懶、踏青?步江干。
恰如飛鳥倦知還、澹蕩梨花深院。
《和訓》
春半ば
舞ひの裙(もすそ)に歌の扇を辦(あがな)ひ取りて、
春を賞(め)でつつ只だ春の寒きを怕(おそ)る。
簾(すだれ)を巻きて語る無く南山に対(むか)ふや、
已に覚めて緑肥ゆるに紅(くれなゐ)の浅し。
去り去るに花を惜しみ心懶(ものう)く、
青きを踏みて江干(かはべ)を?歩(そぞろあゆ)む。
恰(あたかも)飛ぶ鳥の倦(う)みて還るを知る如くに(還るや)、
澹蕩たり梨花の深院。
《語釈》
・辦:買い備える。する、処理する。
・裙:もすそ。スカート。
・怕:心配する,案じる
・南山:陶潛の「飮酒二十首 其五」に「采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕佳,飛鳥相與還。」がある。
・?肥紅淺:緑の葉が濃くなったが、花の赤い色はまだ薄い。
・去去:去っていく。
・懶:だるい、ものうい。おっくうだ。大儀である。気分がすぐれない。
・踏青:清明節(二十四節気の1つ。4月5日ごろ)の頃に山野を散策する。萌(も)え出た草を踏んで野に遊ぶこと。野遊び。
・?步:しづかにあゆむ。
・江干:川岸。岸辺、川べり。
・鳥倦知還:「鳥倦飛而知還」(歸去來辭・陶潛)による。鳥が終日飛んで、倦めば、帰ることを知る。(普通、人の出処の自然なのに喩える。)
・澹蕩(たんたう):ゆったりしてのどかなさま。
・深院:奥庭。中庭。院は、塀や建物で囲まれた中庭。塀で幾重にも区切られた庭園。
※李清照の「如夢令」に「應是?肥紅痩」がある。この「緑肥紅痩」は「緑の葉が茂り、花びらが散って花の赤い色が減った」ことを詠った擬人的な表現が有名な一節だが、ここでは、春浅き頃を詠っている。
※前連で春のはじめを、後連で春半ばを詠う。
《詞意》
春の用意に舞いの衣に歌扇を買いますが、
春を愛でつつもやはり春の寒さに心痛めます。
すだれを巻いて言葉も無く語る人も無く南の山に向かいます、
春はすでに覚めて緑の葉が濃くなってはいても花の紅はまだ薄いままです。
花を惜しみ心はものういままに、春が過ぎていきます、
清明節には青い草を踏んで川辺をそぞろ歩きします。
野遊びの後まるで飛ぶ鳥が飽きて帰るのを知っているように家に帰りますと、
梨の花の咲く奥庭はゆったりとのどかな春の只中です。
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(朱淑眞詞)
2008-02-11T18:13:05+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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23.卜算子 (竹裡一枝斜)
卜算子 朱淑眞
竹裏一枝斜、映帶林逾靜。
雨後清奇畫不成、淺水?疏影。
吹徹小單于、心事思重省。
拂拂風前度暗香、月色侵花冷。
《和訓》
竹裏一枝斜き、映を帶びて林 逾(いよいよ)静かなり。
雨の後 清奇にして画成らず、浅水に...
卜算子 朱淑眞
竹裏一枝斜、映帶林逾靜。
雨後清奇畫不成、淺水?疏影。
吹徹小單于、心事思重省。
拂拂風前度暗香、月色侵花冷。
《和訓》
竹裏一枝斜き、映を帶びて林 逾(いよいよ)静かなり。
雨の後 清奇にして画成らず、浅水に横たはるは疏(まば)らなる影。
吹き徹るは小単于( しょうぜんう )、心事の思ひ重ねて省る。
拂拂たる風前 暗(ひそや)かなる香の度(わた)りて、月の色は花を侵して冷たし。
《語釈》
・竹裏:竹藪の中。裏は中。
唐の王維の「竹里?」「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」がある。
・映:光の反射。夕映え。
更に王維の「鹿柴」「空山不見人,但聞人語響。返景入深林,復照青苔上。」が思い浮かぶ。
・逾:いよいよ。いっそう、更に。
・清奇:清新で珍しい。清らかで珍しい。
・畫不成:絵にも描けない美しさ。
・疏影:まばらな影。
・心事:心に思い惑う心配事。
・小單于:ここは風がさわさわと吹き通る様をいう。・小:形や規模が小さい、すこし。・單于:めぐる。善于。
「聴暁角」(李益)
邊霜昨夜墮關楡 (辺霜昨夜関楡に堕つ )
吹角當城片月孤 (吹角 城に当って片月孤なり)
無限塞鴻飛不度 (無限の塞鴻 飛び度(わた)らず )
秋風吹入小單于 (秋風吹き入る 小単于(しょうぜんう))
・拂拂:風がそよそよ吹くさま。
・風前:風の当たる所。
・侵:次第に入りこんでかすめる。
《詞意》
竹林の中に竹が一枝斜むいて、夕日の光が差込み、いよいよ林は静かです。
雨のあがった後のあまりの清らかさは絵にもかけないほど、浅く流れる水に日の影がまばらに散っています。
風は心地よくさわさわと吹き過ぎますが、愁いの思ひを更に重ねて振り返っています。
風そよぐ中 ひそやかな香があたりを覆い、月の色は冷たく花に染み入っています。
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(朱淑眞詞)
2008-02-11T14:00:14+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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22.念奴嬌 二首催雪(その二)
念奴嬌 朱淑眞
催雪(その二)
鵝毛細翦、是瓊珠密灑、一時堆積。
斜倚東風渾漫漫、頃刻也須盈尺。
玉作樓臺、鉛溶天地、不見遙岑碧。
佳人作戲、碎揉些子拋擲。
爭奈好景難留、風僝雨僽、打碎光凝色。
總有十...
念奴嬌 朱淑眞
催雪(その二)
鵝毛細翦、是瓊珠密灑、一時堆積。
斜倚東風渾漫漫、頃刻也須盈尺。
玉作樓臺、鉛溶天地、不見遙岑碧。
佳人作戲、碎揉些子拋擲。
爭奈好景難留、風僝雨僽、打碎光凝色。
總有十分輕妙態、誰似舊時憐惜。
擔閣梁吟、寂寥楚舞、笑捏獅兒只。
梅花依舊、歲寒松竹三益。
《和訓》
鵝毛細く翦(き)れ、是れ瓊珠の密に灑(ま)きて、一時に堆積す。
斜めに東風倚りて渾漫漫、頃刻(しばらく)や須(すべから)く尺に盈(み)ちるべし。
玉作の楼台、鉛溶くる天地、遥かなる岑(みね)の碧(みどり)を見ず。
佳人戯れて、碎き揉み些子(いささか)抛擲(なげう)つ。
争奈(いかで)か好景留め難し、風僝(おこ)り雨僽(そぼふ)り、光凝らす色を打ち碎く。
総(すべ)て十分に軽妙の態有り、誰ぞ旧時に似て憐惜せん。
梁(はし)に担閣して吟じ、寂寥たる楚舞、また、獅兒只(しし)を笑ひ捏(こ)ぬ。
梅花旧に依り、歳寒くも松竹は三益なり。
《語釈》
・鵝毛:鵝鳥(がちよう)の羽毛。また、きわめて軽いもののたとえ。ここは雪の比喩。
・翦:剪。きる、たつ。風が寒さを帯びている様。
・瓊珠(けいしゅ):玉。 ・瓊:美しい玉(ぎよく)、たま。赤色の玉。・珠:玉。真珠。
・密:みつに、すき間もないほどにぎっしりと。ひそかに、人に知られないようにこっそりと。
・灑:まく、ばらまく。
・一時:一時に、ある時期に集中して起こるさま。
・堆積:積み重なる。
・斜倚:そっと立っている位置を斜めに移る。
・倚:もたれる、よりかかる。恃(たの)む、頼りとする。
・東風:春風。
・渾:渾然、いくつかのものがとけ合って区別できないさま。入り乱れるさま。自然のままの。
・漫漫:(時間、空間が)果てしなく広がるさま。
・頃刻:しばらくの時間。わずかの間。
・須:…すべきである,…しなければならない。
・盈:満ちる。
・玉:相手の身体・言行を美化する
・樓臺:高殿(たかどの)と台(うてな)。屋根のあるうてな。また、高い建物。
・玉作樓臺:雪積もるうてな。あるいは七宝楼台のことか。それなら、月、嫦娥の居所をいう。
・鉛:なまり。鉛色、鉛のような青みがかった灰色。
・岑:みね。 ・碧:あお、きよし、たま、みどり。
・作戯:ふざける。たわむれる。打ち解ける。くだけた態度をとる。
・碎:くだく、くだける。・揉:もむ、もめる。
・些子:少し、いくらか。
・抛擲:投げる。
・爭奈:どうして…になろうか。いかんせん。いかでか。
・僝:しめす、あらわす。そなえる。ののしる。
・僽:うれうるさま。(そぼふる。)
(・風僝雨僽:苦しみを経験し尽くすことの形容。憔悴する。)
・總:ともあれ。およそ、大体。総じて。
・軽妙:すっきりしていてうまみのある
・憐惜:あわれみおしむ。
・擔閣:担擱。滞在する、留まる。遅れる、長びく。
・梁:はり。橋。
・寂寥:ものさびしいさま。ひっそりしているさま。寂寞(せきばく)。せきりょう。
・楚舞:楚の国の舞。「呉歌楚舞」
・捏:こねる、つくねる。
・獅兒:獅子の子。獅子舞。通常2人で獅子に扮して、別の1人が刺繍入りの絹のまりを持って、獅子の舞踊をからかう。
・只:動物・鳥・虫を数える。
・三益:詩語で「良友」をさす。
《詞意》
雪は細かく冷たく、美しい玉がぎっしりとばらまかれるようにして、瞬く間に降り積もります。
春風はそっと引き下がり冬と春がとけ合って果てしなく広がるよう、しばらくは雪が高く積もるでしょう。
雪が高殿をお作りになり、空も地も鉛色に溶けて、遥かな青い嶺は見えません。
私は戯れに、雪を掬い丸めてちょっと投げ上げてみます。
なんとこの好い景色は留め難いことでしょう、風が吹き雨がそぼふり憔悴するうちに、美しい色の雪は打ち碎かれてしまいます。
ともあれ、それはそれでとてもすっきりしたもの、誰が以前のように憐み惜しむでしょう。
春になれば、橋に留まり詩を吟じ、ものさびしい楚の舞を見、獅子舞に笑いこけます。
梅花は昔のままに咲き、寒くはあっても松も竹も良い友なのです。
《参考》
・樓臺
「春宵」 蘇東坡
春宵一刻値千金
花有清香月有陰
歌管樓臺聲細細
鞦韆院落夜沈沈
・楚舞
楽府「烏棲曲」 李白
姑蘇臺上烏棲時 (姑蘇の台上、烏棲む時)
呉王宮裏酔西施 (呉王の宮裏に、西施を酔はしむ)
呉歌楚舞歓未畢 (呉歌楚舞、歓び未だ畢らず)
青山欲銜半邊日 (青山銜(ふく)まむと欲す、半辺の日)
銀箭金壺漏水多 (銀箭金壷、漏水多し)
起看秋月墜江波 (起って看る、秋月の江波に墜つるを)
東方漸高奈楽何 (東方漸く高く、楽しみを奈何せん)
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(朱淑眞詞)
2008-02-10T21:45:52+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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21.念奴嬌 二首催雪 その一
念奴嬌 朱淑眞
二首催雪
(その一)
冬晴無雪、是天心未肯、化工非拙。
不放玉花飛墮地、留在廣寒宮闕。
雲欲同時、霰將集處、紅日三竿揭。
六花翦就、不知何處施設。
應念隴首寒梅、花開無伴、對景真愁絕。
待出...
念奴嬌 朱淑眞
二首催雪
(その一)
冬晴無雪、是天心未肯、化工非拙。
不放玉花飛墮地、留在廣寒宮闕。
雲欲同時、霰將集處、紅日三竿揭。
六花翦就、不知何處施設。
應念隴首寒梅、花開無伴、對景真愁絕。
待出和羹金鼎手、為把玉鹽飄撒。
溝壑皆平、乾坤如畫、更吐冰輪潔。
梁園燕客、夜明不怕燈滅。
この詞はうまく読めない。和訓も詞意も覚束無いままである。
《和訓》
「雪を催(うなが)す」(きざせる雪)
冬晴れて雪無く、是れ天心未だ肯へんぜずも、化(造化)の工(たく)みにして拙(つたな)きにあらず。
玉花地に飛び墮ちて放たれず、留め在るは広寒宮の闕。
雲の同時に欲するは、霰の将(はた)集まる処なれど、紅日は三竿掲(かか)ぐ。
六花の翦り就くは、何処の施設なるかを知らず。
応に隴首の寒梅を念ひ、花開くも伴ふ無きに、景に対し真に愁絶す。
待ち出づるは和羹の金鼎の手、為(まさ)に玉塩を把りて飄撒せんとす。
溝壑皆平らかに、乾坤画の如くして、更に吐くは冰輪の潔。
梁園の燕客、夜明けて灯の滅するを怕(おそ)れず。
《語釈》
・催:催促する。もよおす。きざす。
・天心:空のまんなか。空の中心。天の心。天子の心。
・化:自然が万物を育てる力。化育。造化。[花]。
・工:技術、技能。…に巧みだ、長じる。上手なさま。巧妙。
・化工:自然の造化。
・玉花:美しい花。雪。
・留在:留め置く。
・広寒宮:月の中にあるという宮殿。月宮殿。広寒府。
・闕:宮門の両わきに築いた台。その上を物見とした。
・霰:あられ。雪と雹(ひよう)との中間の状態のもの。
・將:はた。また。あるいはまた。もしくは。 (ひきいる。ひきつれる。伴う。)
・紅日:真っ赤な太陽。多く朝日をいう。
・三竿:〔竹竿(ざお)三本つなぎあわせた程度の高さの意〕日月が空のかなり高い所にあること。
・揭:掲(かか)げる。高く上げる。かざす。
・六花:〔六弁の花の意から〕雪の異名。りっか。
・翦就:(翦裁と同様に)美しい様をいうか。・翦 きる。はさむ。・就 つく。つける。
・施設:建造物。ほどこし、しつらえる。
・應:当然…すべきだ。
・隴首:丘の上。隴山(甘肅省と陝西省の境の大きな山)のほとり。隴頭。辺境にあるとりでで、蒼茫・悲涼の感情をもたらす。
・真:確かに、本当に。
・愁絕:ひどく愁える。
・和:なごむ。やわらぐ。引き分ける。
・羹:スープ。あつもの。
・鼎:食物を煮るのに用いた金属の器。煮炊き用の器スープ。あつもの。
・為:まさに‥んとす。
・把:握る、手に持つ。
・鹽:塩。
・飄:上よりひるがへり落ちる。
・撒:まく。ばらばらに散るように落とす。
・溝:みぞ。せせらぎ。
・壑:谷間、山あいの池。
・乾坤:天と地、宇宙。
・冰輪:冰=氷。月の異名。冰鏡。北宋の詩人の孔平仲(1044?〜?))の詩に「團團冰鏡吐?輝」(円き月は?き輝きを吐く)とある。
・吐:はく。ひらく。
・潔:きよい。心が?廉である。
・梁園:河南省東部、商丘の東にある、漢代に梁の孝王が築いた園。修竹園。
・燕客:宴客。・燕:さかもり。さかもりする。やすむ、くつろぐ。
・怕:恐れる、心配する、案じる。
《詞意》
冬空は晴れていて雪の気配は無いですが、
天の心がまだ雪を降らす気はなくとも、自然の営みが拙いわけではありません。
雪は放たれることなく、月の宮殿の門に留め置かれています。
雲は、また霰を集まめようとしていますが、日は空高く上がっています。
雪が美しくふっているのは、何処のあたりなのでしょう。
ただ隴山のほとりに咲く寒梅を想い、花開いても誰もいない景に対して愁いに心痛めるばかり。
それはまるで、温かなスープの入った器を持つ手が、まさに美味しい塩をぱらぱら撒く時を待ち受けるよう。
せせらぎも池も静まり、あたり一帯はまるで絵のようで、その上月は清らかな光を放っています。
庭にくつろぐ客は、夜明けて灯が消えるのを案ずる気配もありません。
《参考》
隴首について。
「探春」 戴益(宋・生卒年不詳)
盡日尋春不見春 尽日春を尋ねて春を見ず
芒鞋踏遍隴頭雲 芒鞋踏みて遍(あまね)し隴頭の雲
歸來適過梅花下 帰り来たりて適(たまたま)梅花の下を過ぐ
春在枝頭已十分 春は枝頭に在りて已に十分なり
梁園について。
盛唐の詩人、高適(702?-765)の「宋中十首の其一」
梁王昔全盛、(梁王 昔 全盛にして)
賓客復多才。(賓客 復 多才なりき)
悠悠一千年、(悠悠一千年)
陳迹惟高臺。(陳迹(なごり)には 惟 高台あるのみ)
寂寞向秋草、(寂寞として秋草に向かへば)
悲風千里來。(悲風 千里より来たる)
もう一首。
「梁園吟」 李白(701-762)
我浮黃雲去京闕,掛席欲進波連山。
天長水闊厭遠涉,訪古始及平臺間。
平臺為客憂思多,對酒遂作梁園歌。
卻憶蓬池阮公詠,因吟淥水揚洪波。
洪波浩蕩迷舊國,路遠西歸安可得。
人生達命豈暇愁,且飲美酒登高樓。
平頭奴子搖大扇,五月不熱疑清秋。
玉盤楊梅為君設,吳鹽如花皎白雪。
持鹽把酒但飲之,莫學夷齊事高潔。
昔人豪貴信陵君,今人耕種信陵墳。
荒城虛照碧山月,古木盡入蒼梧雲。
梁王宮闕今安在,枚馬先歸不相待。
舞影歌聲散?池,空餘汴水東流海。
沉吟此事淚滿衣,黃金買醉未能歸。
連呼五白行六博,分曹賭酒酣馳輝。
歌且謠,意方遠。
東山高臥時起來,欲濟蒼生未應晚。
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(朱淑眞詞)
2008-02-08T21:18:49+09:00
杉篁庵庵主
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20.鵲橋仙 七夕
鵲橋仙 朱淑眞
七夕
巧雲妝晚、西風罷暑、小雨翻空月墜。
牽牛織女幾經秋、尚多少、離腸恨淚。
微涼入袂、幽歡生座、天上人間滿意。
何如暮暮與朝朝、更改卻、年年歲歲。
《和訓》
巧みなる雲の妝(か...
鵲橋仙 朱淑眞
七夕
巧雲妝晚、西風罷暑、小雨翻空月墜。
牽牛織女幾經秋、尚多少、離腸恨淚。
微涼入袂、幽歡生座、天上人間滿意。
何如暮暮與朝朝、更改卻、年年歲歲。
《和訓》
巧みなる雲の妝(かざ)れる晩、
西風 暑を罷(しりぞ)け、小雨翻り空しく月墜(お)つ。
牽牛織女幾ら秋を経つるや、
尚ほ多少(いかばかり)、離腸の恨みの涙あらむ。
微(かす)かなる涼しさ袂に入り、幽(かそけ)き歓びて生(あ)れ座して、
天上人間に意(こころ)満つ。
何如(いかん)か暮暮と朝朝、更に改たむるや、年年歳歳。
《語釈》
・巧:巧む。技巧をこらす。たくみな技術。
・妝:かざる。化粧する、装う。ここは夕焼けをいう。
・西風:西から吹く風。にしかぜ。秋風。
・罷:まく。しりぞける。
・翻:ひるがえる。高く上がってひらひらと動く。
・空:うつける。寂しい。人のいない。うつろである。
・墜:おちる。ぶら下がる。衰へる。
・牽牛織女:七月七日の七夕(たなばた)に天の川に隔てられた牽牛と織女が年に一度出逢うという伝説。・牽牛:牛飼い。彦星。・織女:織り姫。・七夕:乞巧奠(きっこうてん)
・幾:いくつ。いくら。どんなに。どれほど。
・尚:なお。ますます。よりいっそう。まだ。
・多少:どれくらい、いくつ。どれだけか。
・離腸:甚だしい別離の悲しみ。断腸の思い。
・袂:たもと。袖。
・幽:かそけし。かすかである。淡い。
・生座:生まれわす。おいでになる。来られる。
・天上人間:天上世界と人間世界。
・滿意:みちあふれる。
・何如:どのようであるか、どうか。どうして及ぼうか。なんぞしかん。
・暮暮與朝朝朝:毎夕毎朝。暮も朝もいつもいつも。
・卻:助字として他の動詞の下に添える。
・年年歳歳:毎年毎年。
劉希夷(651〜678)の「代悲白頭翁」に
年年歳歳花相似 (年年歳歳花相似たり)
歳歳年年人不同 (歳歳年年人同じからず)がある。
《詞意》
美しく彩られた雲がたなびく晩です、
秋風が残暑をしりぞけ、小雨が風に舞うなか空しく月は沈んでいきます。
彦星と織り姫はどれほどの逢瀬の秋を過ごしたでしょう、
さらにまたどれほどに、別離の悲しみに涙ながすのでしょう。
風が袂に入ってほんの少し涼しさが増し、淡い歓びが生まれます、
天上世界も人間世界も秋の気配が満ち、想いも満ちてきます。
暮に朝にいつもいつも、いえいえ、毎年毎年繰り返されるこの喜びと悲しみをどうしたらいいのでしょう。
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(朱淑眞詞)
2008-02-02T18:41:27+09:00
杉篁庵庵主
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19.菩薩蠻 (濕雲不渡溪橋冷)
菩薩蠻 朱淑眞
濕雲不渡溪橋冷、娥寒初破東風影。
溪下水聲長、一枝和月香。
人憐花似舊、花不知人瘦。
獨自倚闌干、夜深花正寒。
《和訓》
湿雲渡らず溪橋冷たきも、娥寒初めて破れ東風の影あり。
渓下の水声長く、一枝月に和して...
菩薩蠻 朱淑眞
濕雲不渡溪橋冷、娥寒初破東風影。
溪下水聲長、一枝和月香。
人憐花似舊、花不知人瘦。
獨自倚闌干、夜深花正寒。
《和訓》
湿雲渡らず溪橋冷たきも、娥寒初めて破れ東風の影あり。
渓下の水声長く、一枝月に和して香る。
人は花の旧に似るを憐れみ、花は人の痩せせたるを知らず。
独り闌干に倚るに、夜深かまりて花正に寒し。
《語釈》
・濕雲:春霞。・濕:ぬれた、湿った。
・溪:渓。谷川、小川。
・娥:美女。美しい。(・嫦娥:月世界に棲むといわれる仙女。月の異名。・娥影:月の異名、嫦娥の影。)
・破:わる、われる。ひらく。
・東風:春、東から吹く風。こち。
・影:存在を暗示するもの。兆候。
・和:なごむ。したしむ。合わせる。調和して一つになる。
・憐:いとおしむ、愛する。賞美する。めでる。惜しむ。
・瘦:痩せる。やつれる。憂愁のために身も心も疲れ果てたさまの比喩。李清照の「醉花陰」に「人比黄花痩(人は黄菊の花よりも痩せたり)」とある。
・獨自:一人で,自分だけで。
・倚:寄る。
・正:ちょうど、正に。動作の進行や状態の持続を表わす。
《詞意》
まだ湿った春霞がたなびくことなく小川にかかる橋は冷たいのですが、
凛とした寒さを破って初めて春風がたつ気配がします。
すると川の下の水音がのどかにひびき、一枝の梅が月に合わせるように香ります。
私は花が昔と同じように咲くのをいとおしんでいますが、
花は私が愁いに疲れ果てているのを知らずげに咲きます。
独り闌干に身を寄せていると、夜の深かまりに花はなんとも寒げです。
《補》
劉希夷(651〜678)の「代悲白頭翁」に
今年花落顏色改 (今年花落ちて顏色改まり)
明年花開復誰在 (明年花開きて復た誰か在る)
‥
年年歳歳花相似 (年年歳歳花相似たり)
歳歳年年人不同 (歳歳年年人同じからず)
人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける 紀貫之
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(朱淑眞詞)
2008-02-01T18:16:36+09:00
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18.菩薩蠻 木[木+犀]
菩薩蠻 朱淑眞
木樨
也無梅柳新標格、也無桃李妖嬈色。
一味惱人香、群花爭敢當。
情知天上種、飄落深岩洞。
不管月宮寒、將枝比並看。
《和訓》
「木犀」
(比ぶるに)梅柳の新しき標格も無く、桃李の妖...
菩薩蠻 朱淑眞
木樨
也無梅柳新標格、也無桃李妖嬈色。
一味惱人香、群花爭敢當。
情知天上種、飄落深岩洞。
不管月宮寒、將枝比並看。
《和訓》
「木犀」
(比ぶるに)梅柳の新しき標格も無く、桃李の妖嬈の色も無し。
一味(ひたすら)人を悩まして香り、群れし花は争ひて敢へて当たれり。
情(まこと)に知るは天上の種、深き岩洞に飄落するを。
月宮の寒きに管(かかは)らず、枝を将(と)りて比並して看る。
《語釈》
・木樨:木犀。モクセイ科の常緑小高木、キンモクセイ・ギンモクセイ・ウスギモクセイの総称。秋なかばに甘い芳香を放つ星のような小さな花を無数に咲かせる。「桂花」。普通にはギンモクセイをさす。中国では「香りの無い花は心の無い花」と、香りのある花が重んじられ、桂花(木犀)のほか、梅、菊、百合、茉莉花(マツリカ・ジャスミン)、水仙、梔子(くちなし)を七香(しちこう)として好んだ。桂(木犀)は月に生えるといわれる木である(日本で言う落葉樹のカツラとは別物)。
・也無〜、也無〜:〜も無く〜も無し。・也:重ねて用いて、並列関係を強調する。重ねて用いて、条件のいかんにかかわらず…であることを示す。
・新:生き生きとしている。新鮮だ。
・標格:品格。風采。
・妖嬈(ようじょう):うつくしくなまめかしい。・妖:なまめかしい。人を惑わせる、妖(あや)しい。・嬈:あでやかでなまめかしい。
・一味:向う見ずに、ひたすら、やたら。
・群花:群れ咲く花。
・敢當:強いて立ち向かう。・敢:(しなくてもよいことを)強いてするさま。わざわざ。無理に。・當:手ごわい相手に立ち向かう。
・情知:あきらかにしる。・情:まことに。多く詩に用いる助辞。
・深:奥深い。静かな。人のあまりいない。
・飄落:おちること。風に吹かれてひるがえり落ちる。舞い落ちる。ただよい落ちる。
・岩洞:岩窟。
・天上種、飄落深岩洞:この句は何かの伝説か詩によるとも思うが解からない。月世界でも同じようにモクセイが散っている様か、あるいは月世界に生えるという桂の花(木犀)の種が地上に降る様を詠うか。秦の始皇帝によって名づけられたという「桂林」の奇岩連なる景観が思い浮かんだりするが‥‥。
・不管:かまわない。意に介さない。管(かかは)らず。
・將:…をもって。従う。とる(取)。もつ(持)。
・月宮:月。月宮殿〔げっきゅうでん、がっくうでん、がっくでん。月の中にあるという月天子の宮殿。清浄で美しく月天子が夫人とともに住み、月世界を治めているという〕。月宮。月の都。月の宮。
・比並:対比する。
《詞意》
「木犀」
モクセイは梅や柳に比べますとみずみずしい気品も無く、桃や李のあでやかな色もありません。
ただただ人を悩ますほどに香り強く、群れ咲く花は争うように咲き満ちています。
まことに月世界でも同じようにモクセイが静かに舞い散っていると知るばかりです。
月は秋の空に寒々と照っていますが、モクセイの枝をとって並べ見て月世界に思いを馳せています。
《参考》
高啓(1336-1374)の「題桂花美人」という七言絶句に
桂花庭院月紛紛、(桂花の庭院 月紛紛たり)
按罷霓裳酒半醺。(霓裳を按(あん)じ罷(や)みて酒半ば醺ず)
折得一枝攜滿袖、(一枝を折り得て携(たづさ)へれば袖に満ちて)
羅衣今夜不須熏。(羅衣今夜熏ずるを 須(もち)ゐず)
手をふれて金木犀の夜の匂ひ 中村汀女
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(朱淑眞詞)
2008-01-31T15:54:18+09:00
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17.菩薩蠻 秋
菩薩蠻 朱淑眞
秋
秋聲乍起梧桐落、蛩吟唧唧添蕭索。
欹枕背燈眠、月和殘夢圓。
起來鉤翠箔、何處寒砧作。
獨倚小闌干、逼人風露寒。
《和訓》
「秋」
秋声起きし乍(なが)らに梧桐の落ち、蛩(こおろぎ)...
菩薩蠻 朱淑眞
秋
秋聲乍起梧桐落、蛩吟唧唧添蕭索。
欹枕背燈眠、月和殘夢圓。
起來鉤翠箔、何處寒砧作。
獨倚小闌干、逼人風露寒。
《和訓》
「秋」
秋声起きし乍(なが)らに梧桐の落ち、蛩(こおろぎ)喞喞と吟じて蕭索を添ふ。
枕を欹(そばだ)て灯を背にして眠るに、月は和(おだ)やかに夢残して円(まどか)なり。
起き来たって翠箔を鉤(とど)むれば、何処(いずこ)ならむ砧打つ音の寒し。
独り小さき闌干(おばしま)に倚(もた)れしに、人を逼(せ)むるは風と露の寒さなり。
《語釈》
・秋聲:秋の声。秋の近づく気配。
・乍:…したばかり。…したかと思うと急に。
・梧桐:アオギリ。落葉高木。鳳凰は、この木にしか止まらないと言われる。・「梧桐一葉」「梧桐一葉落つ」は、あおぎりの一葉が落ちたことで秋の到来を知ることができるという意から、ものの衰えのきざしの意。また、些細な出来事から、全体の動きを予知することの例えでもある。また、朱熹(1130-1200)の「偶成」に「未だ覚めず池塘春草の夢、階前の梧葉 已に秋声」がある。
・蛩吟:こおろぎが鳴く。・蛩:こおろぎ。蟋蟀 。・吟:歌う。
・唧唧:喞喞(ショクショク)虫や小鳥などの細く小さい声が入り混じった声を表わす。・喞:なくすだく、おおくの小さき声がやかましい。
・蕭索:ものさびしいさま。蕭条。
・欹枕:マクラをそばだてて。マクラを斜めにして。椅子に坐るのではなくて、寝ころんで肩肘を立てているようにしているさま。白居易(772-846)の「香爐峯下新卜山居草堂初成偶題東壁」に「遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聽き、香爐峰の雪は簾を撥(かか)げて 看る」がある。
・和:なごやか。にこやか。おだやか。やわらか。
・殘夢:見残した夢。目覚めてからも、なお心に残る夢。また、明け方近くにうとうとしながら見る夢。
・鉤:簾をとめるかぎ。かぎで引っ掛ける。
・翠箔:翡翠の簾。緑色のカーテン。緑色のカーテンは女性の部屋。
・砧:麻・楮(こうぞ)・葛(くず)などで織った布や絹を槌(つち)で打って柔らかくし、つやを出すのに用いる木または石の台。また、それを打つことや打つ音。
・作:行う、する。
・何處寒砧作:何処から聞こえるのか砧打つ音が寒々しい。
・倚:もたれる、よりかかる。
・闌干:おばしま。廊下や橋などの側辺に、縦横に材木を渡して人の落ちるのを防ぎまた装飾とするもの。てすり。
・逼:追い詰める。迫る。無理矢理…させる、強いる。
・風露:寒い風と、屋外の露。
《詞意》
「秋」
秋の近づく気配がしたかと思うと急に梧桐の葉が落ち、
こおろぎがり〜り〜り〜とすだいて、ものさびしさを添えています。
枕をそばだて灯を背にして眠ります、
目覚めると月はおだやかにまんまるに照っていて 心にはなお夢が残っているのでした。
起きあがって緑色のカーテンを巻き上げますと、
何処からともなく砧を打つ音が寒々しく聞こえてきます。
独り小さな闌干(おばしま)にもたれますと、
寒い風や露が更に私を攻めたてるのでした。
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(朱淑眞詞)
2008-01-29T15:36:34+09:00
杉篁庵庵主
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16.菩薩蠻 (山亭水[木+射]秋方半)
菩薩蠻 朱淑眞
山亭水榭秋方半、鳳帷寂寞無人伴。
愁悶一番新、雙蛾只舊顰。
起來臨繡戶、時有疏螢度。
多謝月相憐、今宵不忍圓。
《和訓》
山亭水榭は秋方(あき)半ば、鳳帷の寂寞として人の伴ふ無し。
愁...
菩薩蠻 朱淑眞
山亭水榭秋方半、鳳帷寂寞無人伴。
愁悶一番新、雙蛾只舊顰。
起來臨繡戶、時有疏螢度。
多謝月相憐、今宵不忍圓。
《和訓》
山亭水榭は秋方(あき)半ば、鳳帷の寂寞として人の伴ふ無し。
愁悶は一番新たに、双蛾(まゆ)は只だ旧に顰(ひそ)む。
起き来たって繡戸に臨み、時有りて疏(まれ)に螢の度(わた)る。
月の相ひ憐むを多謝し、今宵の円(まどか)なるに忍びず。
《語釈》
・山亭:山中のあずまや。山荘。
・水榭:水辺のあずまや。水ぎわの亭。・榭:屋根のあるうてな、あずまや。
・秋方:秋。・方 場所・方向・時間を漠然と示す。…のあたり。…の方(ほう)。ころ。
・鳳帷:鳳凰の縫い取りをしている帷(とばり)・鳳:鳳凰(ほうおう) 。 ・帷:垂れ幕。たれぎぬ。とばり。
・寂寞:ひっそりとしてさびしいさま。
・愁悶:うれえ、もだえること。
・一番:最も。この上なく。景色や味わいなどの種類をいう。
・双蛾:美人の眉(まゆ)。
・只:何事もないこと。無事。取り立てるほどのことのないさま。むなしいさま。
・舊:旧。時を経た、古い。時代遅れの。
・顰:ひそむ。顔つきなどがゆがむ。 泣き顔になる。
・起來:起きあがる。
・繡:刺繡(ししゆう)する、縫い込む。・繡戶:縫い取りのあるドア。
・有時:時折。時には。時々。時たま。
・疏:まばらにする、密接でない。
・度:渡る。
・多謝:深く感謝する。ありがとう。
・相憐:憐れみあう。・相:互いに、ともに。・憐:あわれむ。賞美する。めでる。惜しむ。
・不忍:忍びない、がまんならない。たえられない。見ていられない。
・圓:まるくて欠けたところのないさま。
《詞意》
山辺水辺の東屋ははやくも秋半ばとなりました、
おおとりの縫い取りのあるカーテンの内はひっそりとして誰もいません。
独り憂え悶えてこの上なくその想いを新たにして、
美しく描いた眉をむなしく昔の想いにひそませています。
起きあがり縫い取りのあるドアをあけ、その傍らで
時折まばらに螢が飛びわたるのを見ています。
月がともに憐れんでくれるのに深く感謝しますが、
今宵の月はあまりに円く明く、見てはいられません(悲愁にたえられません)。
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(朱淑眞詞)
2008-01-29T11:12:21+09:00
杉篁庵庵主
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15.蝶戀花 送春
蝶戀花 朱淑眞
送春
樓外垂楊千萬縷、
欲系青春、少住春還去。
猶自風前飄柳絮、隨春且看歸何處。
?滿山川聞杜宇。
便做無情、莫也愁人苦。
把酒送春春不語、黃昏卻下瀟瀟雨。
《和訓》
「春を送る」
楼外の垂楊は千...
蝶戀花 朱淑眞
送春
樓外垂楊千萬縷、
欲系青春、少住春還去。
猶自風前飄柳絮、隨春且看歸何處。
?滿山川聞杜宇。
便做無情、莫也愁人苦。
把酒送春春不語、黃昏卻下瀟瀟雨。
《和訓》
「春を送る」
楼外の垂楊は千万の縷をたれ、
青春(はる)を系せんと欲し、少(いささ)か春の還へり去るを住(とど)めん。
猶自(なほ)風前に柳絮を飄(ひるがへ)すも、春に隨ひ且(しば)し何処へ帰るかを看ん。
緑山川に満ち杜宇を聞く。
便做(たと)ひ無情なるも、なほ愁人の苦しむ莫れ。
酒を把りて春を送るに春は語らず、黄昏に却って下(ふ)るは瀟瀟たる雨。
《語釈》
・送春:春を送る。過ぎゆく人生の春を見送る。
・垂楊:「垂柳(すいりゆう)」に同じ。シダレヤナギ。
・縷:糸。柳の細い枝。
・欲系:繋ごうとして。春を繋ぎ止めようとして。・系:繋(つな)ぐ、結ぶ。
・青春:季節を示す「青春、朱夏、白秋、玄冬」のはる。青年時代。
・少:少し。僅か。
・住:留まる。
・還去:さらに行く。やはり過ぎていく。
・猶自:いまだに。よりいっそう。…でさえ、なおかつ。
・風前:風の前。風のあたる所。風前之燭で人生のはかなさをいう。
・飄:ひるがえる。ひらひらと吹かれて飛ぶ。柳絮が飛ぶこと。
・柳絮:柳の綿毛。
・隨春:春に従う。春と一緒になって。
・且看:しばし見る。暫く見る。
・歸何處:どこへ戻っていくのか。
・杜宇:ホトトギス。
・便做:たとえ…でも。よしんば…しても。
・無常:思いやりに欠けること。
・便:すでにもう、早くも。まさしく、ほかでもない。
・做: …になる、担当する。装う。
・莫:なかれ。・也:判断を示す助詞。
・把酒:酒を持つ。酒杯を取る。
・黄昏:たそがれ。
・卻:かえって。意に反して。
・下雨:雨が降る。降雨。
・瀟瀟:雨が寂しく降るさま。しとしとと。
《詞意》
街には薄緑に染まった枝垂れ柳の枝が繁り続いています。
春(吾が青春)をつなぎ止めようと願い、ほんの少し春が過ぎ行くのを留めたいと思います。
春風にはかなく柳絮が吹かれ飛んでいますが、春とともに暫くは何処へ帰っていくのか見ていましょう。
山河には新緑が満ち溢れ、不如帰(ホトトギス)の声が聞こえます。
その鳴き声がたとえ思いやりに欠けるとしても、春を愁うる人が苦しむことはありませんでしょう。
過ぎゆく春を見送り惜別の杯を持ちますが、春は何も語ってくれず、ただ黙って過ぎ去っていくのを見送るばかりです。
たそがれ時になるや思いがけず、雨がしとしとと寂しげに降り出しています。
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(朱淑眞詞)
2008-01-25T12:37:49+09:00
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朱淑真の詞・目次・
朱淑真の詞
歌の曲を示す「詞牌(=詞の形式名)」の次に、「題(副題)」のある場合は記し、詞牌だけでは何の詞か判然としないものは(初句)を記す。
・朱淑真詞目次・(各詞のページにリンク)
・朱淑真について
1.憶秦娥 正月初六日夜月
2.浣...
朱淑真の詞
歌の曲を示す「詞牌(=詞の形式名)」の次に、「題(副題)」のある場合は記し、詞牌だけでは何の詞か判然としないものは(初句)を記す。
・朱淑真詞目次・(各詞のページにリンク)
・朱淑真について
1.憶秦娥 正月初六日夜月
2.浣溪沙 清明
3.生查子 元夕
4.生查子 (寒食不多時)
5.生査子 (年年玉鏡台)
6.謁金門 春半
7.江城子 賞春
8.減字木蘭花 春怨
9.眼兒媚 (遲遲春日弄輕柔)
10.鷓鴣天 (獨倚闌干晝日長)
11.清平樂 夏日游湖
12.清平樂 (風光緊急)
13.點絳唇 (黃鳥嚶嚶)
14.點降唇 (風勁雲濃)
15.蝶戀花 送春
16.菩薩蠻 (山亭水榭秋方半)
17.菩薩蠻 秋
18.菩薩蠻 木樨
19.菩薩蠻 (濕雲不渡溪橋冷)
20.鵲橋仙 七夕
21.念奴嬌 二首催雪 その一
22.念奴嬌 二首催雪(その二)
23.卜算子 (竹裡一枝斜)
24.西江月 春半
25.月華清 梨花
・補遺 浣溪沙(春夜)・自責二首
2008/2/13 第一次アップ完了。
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目次・朱淑眞詞
2008-01-24T17:00:47+09:00
杉篁庵庵主
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14.點降唇 (風勁雲濃)
點降唇 朱淑眞
風勁雲濃、暮寒無奈侵羅幕。
髻鬟斜掠、呵手梅妝薄。
少飲清歡、銀燭花頻落。
恁蕭索。
春工已覺、點破香梅萼。
《和訓》
風勁(つよ)く雲濃く、暮るるに寒くして羅幕を侵すをいかんせん。
髻鬟(もとどり)の斜めに...
點降唇 朱淑眞
風勁雲濃、暮寒無奈侵羅幕。
髻鬟斜掠、呵手梅妝薄。
少飲清歡、銀燭花頻落。
恁蕭索。
春工已覺、點破香梅萼。
《和訓》
風勁(つよ)く雲濃く、暮るるに寒くして羅幕を侵すをいかんせん。
髻鬟(もとどり)の斜めに掠(かす)め、手を呵(しか)りて梅妝の薄し。
少(いささ)か飲みて清(さや)に歓べば、銀燭の花頻(しき)りに落とせり。
恁(なん)と蕭索たり。
春の工(たくみ)已に覚め、香梅の萼(がく)を点破せん。
《語釈》
・勁:力強い、頑強な。
・無奈:=無可奈何。いかんせん。どうしようもない。いかんともするなし。
・羅幕(らまく):薄絹のカーテン。 ・羅:絽(ろ)、うす絹。・幕:カーテン。
・侵:侵(おか)す、侵入する。
・斜掠:髪を斜めに掻きあげる。・斜:ななめ。かたむく。・掠:かする、すれちがう。かすめとる。
・髻鬟(けいかん):もとどり。女性が頭上に束ねた髪。髪型。もとどりとみずら。まるく結い束ねたまげ髪。
・呵手:手に息を吹き掛ける。
・梅妝:梅花粧。梅の花びらをかたどった化粧。・薄:薄化粧する。
・清:静まり返った、静寂の。
・歡:喜ぶ、楽しむ。
・銀燭:白いロウソク。精製された蝋によって作られた明かり。
・燭花:蝋燭(ろうそく)の焔。灯火の芯(ろうそくなどの中央にある火をつける糸)。
・頻:しきりに、頻繁に。
・落:燭花(芯)を切り落とす。「燭花頻剪欲三更」と同趣。《補》参照。
・恁:おもふ。かくのごとし。そんなに、あんなに。どのよう。いかよう。
・蕭索:ものさびしいさま。蕭条。
・工:美しいものを作り出すわざ。「自然の―」「造化の―」の用例。意匠。趣向。
・点破:点じ破る。蕾を開く。
・萼:花のがく。
《詞意》
風が強く雲が濃くたれ、どうにも日暮れの寒さが薄絹のカーテンから染みいります。
髷の乱れた髪をかきあげ、手に息を吹きかけて軽くお化粧に手を入れます。
少しばかりお酒を飲み独り静かに楽しんで、銀の燭火の芯をしきりに切り落としています。
なんと静かで淋しいことでしょう。
春の工夫ははや覚めて、香り高く梅の蕾を開かせているでしょうか。
《補》
朱淑真の詩
「秋夜」
夜久無眠秋気清 (夜久うして眠るなく秋気清し
燭花頻剪欲三更 (燭花頻に剪りて三更ならんと欲す
鋪床涼満梧桐月 (鋪床に涼満ちて梧桐の月あり
月在梧桐欠処明 (月は梧桐の欠けたる処に在りて明かなり
秋の夜長に眠れぬままにいますと、秋の気配がすがすがしく、
灯火の芯をしきりに切っているうちに、真夜中になってしまいました。
ベットには梧桐にかかる月のもと涼気がみなぎっています。
月が葉の隙間にみえて、いっそう明るく照らしています。
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(朱淑眞詞)
2008-01-24T13:11:20+09:00
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13.點絳唇 (黄鳥嚶嚶)
點絳唇 朱淑眞
黃鳥嚶嚶、曉來卻聽丁丁木。
芳心已逐、淚眼傾珠斛。
見自無心、更調離情曲。 心(一作聊)
鴛帷獨。
望休窮目、回首溪山?。
《和訓》
黄鳥嚶嚶と鳴き、暁来却(かへ)って丁丁木を聞く...
點絳唇 朱淑眞
黃鳥嚶嚶、曉來卻聽丁丁木。
芳心已逐、淚眼傾珠斛。
見自無心、更調離情曲。 心(一作聊)
鴛帷獨。
望休窮目、回首溪山?。
《和訓》
黄鳥嚶嚶と鳴き、暁来却(かへ)って丁丁木を聞く。
芳心已(すで)に逐ひ、涙眼珠斛を傾くる。
見るは無心にして、更に離情の曲を調(しら)む。
鴛の帷に独りなり。
窮むる目を休ませて望むに、首を回らせば渓も山も緑なり。
《語釈》
・黄鳥:ウグイスの異名。
・嚶嚶:鳥が互いに鳴きあうさま。鳥の鳴き声の擬声語。友を求める声。
・曉:夜明け。・曉來:明け方になって。
・卻:逆接の関係を示す。かえって。(予想などとは)反対に。逆に。
・丁丁木:木を切る音木を打つ音などが響きわたるさま。
・(補)『詩經・小雅』の「伐木丁丁、鳥鳴嚶嚶。」は「鳥の友を求むるを以て、人の友無かる可からざるに喩う。人能く朋友の好を篤くすれば、則ち?の之を聽いて、終に和らぎ且つ平らかならん。」とつづく。
・芳心:芳志。気持ちを敬っていう語。美しいたましい。
・已:早くも。すっかり。終わる。
・逐:追う。捕らえるために急いで行く。せき立てて先へ進ませる。
・涙眼:涙にぬれた目。
・斛:枡(ます)。・珠斛:玉盃(たまのさかずき)。
・無心:心が何にもとらわれていないこと。・見自無心:無心に見る。何の気なしに見る。
・更:いっそう。あらためて。それに加えて。
・調:しらむ。演奏する。
・離情:別離の情。
・鴛帷:麗しいとばりの垂れた婦人の部屋。
・鴛:鴛鴦(えんおう)=オシドリは雌雄相親みて離れず、故に夫婦の和睦するに喩える。
・帷:室内に垂れ下げて隔てとする布。たれぬの。たれぎぬ。とばり。婦人の部屋。
・獨:その人しかいないこと。相手や仲間がいないこと。
・窮:極限に達する。徹底的に、とことん ・窮目 じっと見る。
・溪山:谷と山と。隠棲の地。隠棲することの暗示?。
《詞意》
鶯が嚶嚶と鳴き交わし、明け方になると丁丁と木を打つ音が響ききこえます。
心は早くもせき立て、寂しく涙で潤む目で珠の斛(ます)の酒を傾けています。
春の過ぎ行くのを無心に見、こと新しく離情(わかれ)の曲を演奏してみます。
麗しいとばりの垂れた部屋には私ただ独り。
じっと見るのはやめにして外に目をやりますと渓も山も緑に染まっているのです。
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(朱淑眞詞)
2008-01-23T15:36:52+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
杉篁庵庵主
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12.清平樂 (風光緊急)
清平樂 朱淑眞
風光緊急、三月俄三十。
擬欲留連計無及、?野煙愁露泣。
倩誰寄語春宵、城頭畫鼓輕敲。
繾綣臨歧囑付、來年早到梅梢。
《和訓》
風光の緊急にして、三月も俄(にはか)に三十なり。
擬として留めんと欲すも...
清平樂 朱淑眞
風光緊急、三月俄三十。
擬欲留連計無及、?野煙愁露泣。
倩誰寄語春宵、城頭畫鼓輕敲。
繾綣臨歧囑付、來年早到梅梢。
《和訓》
風光の緊急にして、三月も俄(にはか)に三十なり。
擬として留めんと欲すも連なり計りて及ぶ無く、緑の野に煙愁ひて露の泣く。
倩(うるはし)く誰れに寄りて春宵を語らん、城頭の画鼓 軽く敲く。
繾綣として歧(わかれ)に臨み嘱付す、来年早く梅の梢の到らんを。
《語釈》
・風光:自然の美しいながめ。景色。
・緊急:絃をきびしく張る。せまる、急ぐ。きびしい。せわしくすぎる。
・俄:にわかに。すぐさま。急に。
・三月三十日:陰暦の春最後の日。翌四月一日は、陰暦では夏。
・擬:欲する、爲さんとする勢を示す。なぞらえる。比べる。
・連計:次々に連なり数えられる。
・無及:追いつくことがない。
・倩:うるはしい、みづみづしい。口もとあいらしい。代わってやってもらう。やとう。
・城頭:城壁上。また、城壁のあたり。
・畫鼓:絵の鼓。
・敲:叩いて音を出す
・繾綣:ねんごろに。反覆する。人情厚くしてつきまとふ。
・歧:分かれ道。ふたまたみち。
・囑:言い付ける、頼む。望みをかける。
《詞意》
春の美しい時はせわしく過ぎて、三月もはやくも末になり、春が終わります。
この春を留めようと想っても、時は連なって追いつくことがなく、靄が愁い深く漂い露が泣くように置かれて野は夏の気配の緑を濃くしていくのです。
口もとあいらしく誰れに寄って春宵を語りましょう、城に出で絵に描いた鼓を軽く敲いてみます。
そして、懇ろに別れに際し望みをかけます、来年早く梅の梢に春が来ますようにと。
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(朱淑眞詞)
2008-01-21T21:09:00+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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11.清平樂 夏日游湖
清平樂 朱淑眞
夏日游湖
惱煙撩露、留我須臾住。
攜手藕花湖上路、一霎黃梅細雨。
嬌痴不怕人猜、和衣睡倒人懷。
最是分攜時候、歸來懶傍妝台。
(“和衣睡倒人懷”を“隨群暫遣愁懷”とする本もある)
《和訓》
夏...
清平樂 朱淑眞
夏日游湖
惱煙撩露、留我須臾住。
攜手藕花湖上路、一霎黃梅細雨。
嬌痴不怕人猜、和衣睡倒人懷。
最是分攜時候、歸來懶傍妝台。
(“和衣睡倒人懷”を“隨群暫遣愁懷”とする本もある)
《和訓》
夏日湖に游ぶ
悩ます煙 撩せる露、我に留まりて須臾(しばし)住めり。
手を攜(つな)ぐ藕花湖上の路に、一霎(しばらく)は黄梅の細雨。
嬌痴にして人の猜を怕れず、衣に和して人の懐に睡倒す。
最も是れ分攜(わかれ)の時候(とき)、帰り来り懶(ものう)く妝台に傍(そ)へり。
《語釈》
・湖:西湖であろうか。
・惱:なやます。苦慮する。うらむ、恨みわずらう。
・煙:けむり。かすみ、もやの類。
・撩:おさめる。なぶる、からかう。かすめとる。置く。
・須臾:少しの間。しばし。
・攜:携。手を取る、手をつなぐ。
・藕:蓮。はちす。
・霎:極めて短い時間。霎時。ほんの少しの間。こさめ(小雨)。
・黃梅雨:梅の実が黄熟する頃に降る雨。梅雨。つゆ。
・嬌痴:嬌癡。あいぐるしくて未だ情事を解さない。
・怕:恐れる、怖がる。心配する、案じる。
・人:ここは特定の関係にある人。恋人。
・猜:猜疑(さいぎ)心をいだく、疑う。
・和:…もろとも、…ごと。[〜衣]服を着たまま。
・最是:もっとも。そうはいうものの。
・分攜:分携。わかれはなれる。手を握って別れる。
・懶:ものうし。ものぐさし。にくむ、きらふ。
・傍:よる、よりそふ。近づく。添う。
・妝台:化粧台。嫁入り道具。
《詞意》
夏の日に湖に游ぶ
漂う靄と結ぶ露が、しばらくは私の周りに留まるかのよう。
私たちは手をつないで蓮の花の美しく咲く湖にでて、しばらくはつゆの細い雨の中にいました。
かわいくも痴れてその方の疑わしい目も恐れず、衣のままその方の胸に倒れ眠りました。
それでもそれがわかれのときでした。帰って来て私はものうく化粧台に寄り添い物思いにふけっています。
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(朱淑眞詞)
2008-01-21T12:29:24+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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10.鷓鴣天 (獨倚闌干晝日長)
鷓鴣天 朱淑眞
獨倚闌干晝日長、紛紛蜂蝶斗輕狂。
一天飛絮東風惡、滿路桃花春水香。
當此際、意偏長、萋萋芳草傍池塘。
千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。
《和訓》
独り欄干に倚りて昼日長く、紛紛たる蜂と蝶は斗(たちまち)...
鷓鴣天 朱淑眞
獨倚闌干晝日長、紛紛蜂蝶斗輕狂。
一天飛絮東風惡、滿路桃花春水香。
當此際、意偏長、萋萋芳草傍池塘。
千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。
《和訓》
独り欄干に倚りて昼日長く、紛紛たる蜂と蝶は斗(たちまち)に軽く狂へり。
一天に絮を飛ばして東風の悪しく、路に桃花の満ちて春の水香る。
此の際に当たり、意(こころ)偏(ひとへ)に長く、萋萋たる芳草傍(かたへ)には池塘あり。
千鐘の尚ほ偕(とも)に春に酔はんと欲せば、幸ひに荼蘼と海棠も有り。
《語釈》
・紛紛:入りまじって乱れるさま。
・斗:たちまち(忽)に。
・輕狂:さわぐ。落ち着きがない。
・一天:空一面。満天。
・絮:草木の種子についているわた毛。
・飛絮:飛んでくる柳の綿毛。飛ぶ柳絮。春の一時期の象徴。
・東風:春風。
・滿路桃花春水香:王維(699-759)の「桃源行」に「春來遍是桃花水、不辨仙源何處尋」の句がある。「春来つては遍く是れ桃花の水、仙源を弁(わきま)へず何れの処か尋ねむ(春が来るとどの流れも桃の花びらを浮かべて流れる。これでは桃源郷を辿ろうにもどの流れをさかのぼればよいのだろう)」
・偏:一方に寄る。かたよる。ただそれだけで他のものがないさま。
・長:気持ちなどがのどかでのんびりしているさま。
・萋萋:草ぼうぼうの、生い茂った。
・芳草:萌(も)え出たばかりの、香るばかりの若草。
・池塘:池のつつみ。後日になるが朱熹(1130年-1200年)の「偶成詩」に「未覺池塘春草夢」の句がある。
・千鐘:大量。大量の酒。「蓋聞、千鐘百觚、尭舜之飲也。唯酒無量、仲尼之能也」(抱朴子)
・尚:ますます。よりいっそう。
・偕:一緒に、共に。
・幸:幸いに、幸運にも。
・荼蘼:バラ科の落葉低木。花は白色、香気。
・海棠:バラ科の落葉低木。紅色の五弁花。
《詞意》
春の日永にひとり欄干に身をよせていると、蜂と蝶が落ち着きなく入り混じって飛んでいる。
空一面に柳の綿毛を飛ばして春風は激しく吹き、路には桃の花びらが散り満ちて春の川も香っている。
この春の只中にあって、こころはただのどかで、生い茂った若草のかたわらには春の池がひろがる。
充分な酒にますます一緒に春に酔おうと思うと、好いことに荼蘼と海棠も咲いている。
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(朱淑眞詞)
2008-01-20T17:26:49+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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9.眼兒媚 (遲遲春日弄輕柔)
眼兒媚 朱淑眞
遲遲春日弄輕柔、花徑暗香流。
清明過了、不堪回首、雲鎖朱樓。
午窗睡起鶯聲巧、何處喚春愁。
?楊影裡、海棠亭畔、紅杏梢頭。
《和訓》
遅々たる春日軽柔を弄び、花の径に暗に香の流る。
清明過ぎ了へ、首を回らすに堪...
眼兒媚 朱淑眞
遲遲春日弄輕柔、花徑暗香流。
清明過了、不堪回首、雲鎖朱樓。
午窗睡起鶯聲巧、何處喚春愁。
?楊影裡、海棠亭畔、紅杏梢頭。
《和訓》
遅々たる春日軽柔を弄び、花の径に暗に香の流る。
清明過ぎ了へ、首を回らすに堪えず、雲の朱楼を鎖せり。
午の窓は睡(ねむり)より起き 鶯の声巧みなり、何れの処より春の愁いの喚ばふや。
そは緑楊の影の裡(うち)、海棠の亭の畔(ほとり)、紅き杏の梢の頭(さき)。
《語釈》
・遲遲:春日が長くのどかなさま。
・弄:もてあそぶ。思うままにあやつる。弄(ろう)する。
・輕柔:春風が軽く柔らかに吹くさま。
・徑:小道
・暗:あんに。ひそかな(に)、ぼんやりした。かかすかにかくれる。
・清明:清明節。二十四節気の一、新暦4月4〜6日ころ。
・了:動作あるいは変化がすでに完了したことをしめす助詞。
・不堪:堪えられない。春の愁いに堪えられないが、振り返らずにはいられない。
・回首:こうべをめぐらす。ふりかえる、思い起こす、回想する。
・鎖:とざす。外部から切り離す。
・朱樓:朱塗りの楼台。(女官の部屋。)
・喚:よばう。呼びつづける。
・?楊:新緑の柳。
・海棠:バラ科の落葉低木。海棠の花は美人のなまめかしさにたとえられる。
・亭:庭に設けた、眺望や休息のための小形の建物。あずまや。
・梢頭:こずえの先端。
《詞意》
春の日はのどかに、春風が軽く柔らかに吹いて、花の小道にほのかに香が流れます。
清明節も過ぎましたが、春の愁いに堪えず、雲に朱楼は閉ざされたまま。
遅くねむりよりさめると ひるの窓には 鶯の声が心地よく響いています、一体どこから春の愁いを呼び続けているのでしょう。
それは薄緑に染まる柳の陰から、海棠の咲くあずまやの横から、それとも紅い杏の花を付ける梢の先あたりからでしょうか。
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(朱淑眞詞)
2008-01-19T11:43:11+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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8.減字木蘭花 春怨
減字木蘭花 朱淑眞
春怨
獨行獨坐、獨唱獨酬還獨臥。
佇立傷神,無奈輕寒著摸人。
此情誰見、淚洗殘妝無一半。
愁病相仍,剔盡寒燈夢不成。
《和訓》
独り行き独り坐り、独り唱い独り酬(の)み還(また)独り臥す。
佇...
減字木蘭花 朱淑眞
春怨
獨行獨坐、獨唱獨酬還獨臥。
佇立傷神,無奈輕寒著摸人。
此情誰見、淚洗殘妝無一半。
愁病相仍,剔盡寒燈夢不成。
《和訓》
独り行き独り坐り、独り唱い独り酬(の)み還(また)独り臥す。
佇み立てば神(こころ)傷み、軽ろき寒さも著(しる)く人を摸(なづ)るを無奈(いかん)せん。
此の情(こころ)誰ぞ見む、涙の残妝を洗ひて一半も無し。
愁病相仍(よ)り、剔(えぐ)り尽くして寒灯に夢も成さず。
《語釈》
・獨:独(ひと)りだけで…する。
・酬:酒を酌み交わす、互いに献盃する。
・佇立:しばらくの間立ち止まっている。「佇」はたたずむ。
・神:心、精神。
・無奈:いかんせん。どうしようもない。=無可奈何。
・著:しるし。顕著な。きわだっている。
・摸:触る、なでる。 手さぐりする。
・妝:化粧。
・一半:半分。
・愁病:うれいのやまい。愁病(うれいやまい)。
・仍:やはり、依然として。そういうわけで。それゆえ。従って。
・剔:灯心を引き出して燈火を明るくすること。えぐる(人の心に激しい苦痛・動揺などを与える)、ほじる、そぎ取る。
・寒燈:さびしげな灯火。寒い冬の夜のともしび。心情を反映した語。高適(唐代の詩人)の「除夜作」に「旅?寒燈獨不眠」の句がある。
《詞意》
私は行住坐臥唯独り、唱うのも呑むのもまた寝るのも唯独りです。
佇み立てばこころ傷み、少しの寒さも私を包んでどうしようもありません。
この思いを誰が知るでしょう、涙が化粧の半分を洗い流しています。
愁いによる病は相変わらずで、灯心を引き出し、悲しみをえぐり尽くして寒灯のもとに夢見ることもありません。
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(朱淑眞詞)
2008-01-17T16:27:40+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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7.江城子 賞春
江城子 朱淑眞
賞春
斜風細雨作春寒。
對尊前、憶前歡、曾把梨花、寂寞淚闌干。
芳草斷煙南浦路、和別淚、看青山。
昨宵結得夢夤緣。
水雲間、俏無言、爭奈醒來、愁恨又依然。
展轉衾裯空懊惱...
江城子 朱淑眞
賞春
斜風細雨作春寒。
對尊前、憶前歡、曾把梨花、寂寞淚闌干。
芳草斷煙南浦路、和別淚、看青山。
昨宵結得夢夤緣。
水雲間、俏無言、爭奈醒來、愁恨又依然。
展轉衾裯空懊惱、天易見、見伊難。
《和訓》
春を賞(め)でて
斜めの風に細き雨ふり 春寒を作(な)す。
尊前に対し、前の歓を憶ふ、曾(かつ)て梨花を把りしに、寂寞として涙闌干たり。
芳草断煙南浦の路、別れの涙に和して、青山を看る。
昨宵 結び得たるは夤(ふか)き縁(えにし)の夢。
水雲の間、俏として言無く、爭奈(いかん)せん 醒め来たり、愁恨又依然たり。
衾裯に展轉として空しく懊悩し、天の見るは易く、伊(かれ)に見ゆるは難し。
《語釈》
・春寒:春の寒さ。余寒。
・作:…とする、…にする。起きる、起こす。催す。
・對尊前:酒盃を前にして。飲むとき。・尊前:酒樽(さかだる)の前。樽前。
・憶:思い出す。
・闌干:涙などがぽたぽたと多量に滴り落ちるさま。 長恨歌の一節に「玉容寂寞涙闌干、梨花一枝春帶雨」がある。
・芳草:春の草。
・斷煙:ちぎれちぎれに立つ煙。靄。
・和: ‥ながらに。‥とともに。
・南浦、青山:地名ではなく、しみじみ心に沁みる自然の姿であろう。
・夤:敬い恐れる。深い。・縁:えにし。つながり。特に、男女の間のえん。
・水雲間:水と雲の間。天地の間。
・悄:ひそやか。静まりかえった、音のない。 物悲しい、憂うつな。
・爭奈:いかんせん。
・依然:前と変わらないさま。もとのとおりであるさま。
・衾裯:布団。布団とかけ布。・衾:ふとん。・裯:ベットのおおい。
・展轉:展転、寝返りを打つ。
・懊惱:悩みもだえる。 憂え悶える。憂える。
・天:空。季節。気候。
・易:たやすい、平易な。
・見:会う。
・伊:彼、彼女。
《詞意》
「春をいとおしむ」
斜めの風に細い雨がまじり 春の寒さを増しています。
盃を前にして、昔二人で梨の花を把って楽しかったを思い出し、
ひとりひっそりさびくしていると涙がぽたぽたと滴り落ちます。
春の草とちぎれる雲の南浦の路に、別れの涙ともに、青山を看ます。
昨日の宵 二人の深い契りの夢を見ました。
目覚めると、この世界は、ひそやかに静まりかえって、前と変わることなく、愁いに満ちていました。
ベットで寝返りを打って虚しく憂え悶えています。春の空を見るはたやすいのに、夫に会うことのなんと難しことでしょう。
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(朱淑眞詞)
2008-01-17T13:22:07+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
杉篁庵庵主
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6.謁金門 春半
謁金門 朱淑眞
春半
春已半、觸目此情無限。
十二闌干?倚遍、愁來天不管。
好是風和日暖、輸與鶯鶯燕燕。
滿院落花簾不卷、斷腸芳草遠。
《和訓》
春は已に半ば、目に触るる此の情限り無し。
十二の闌干に?として倚り遍(あま...
謁金門 朱淑眞
春半
春已半、觸目此情無限。
十二闌干?倚遍、愁來天不管。
好是風和日暖、輸與鶯鶯燕燕。
滿院落花簾不卷、斷腸芳草遠。
《和訓》
春は已に半ば、目に触るる此の情限り無し。
十二の闌干に?として倚り遍(あまね)くも、
愁ひ来りて 天は管(かかは)らず。
好ろしきは是れ風和やかに日暖かく、鶯鶯燕燕に輸与す。
満院に花落ちて簾卷かず、芳草の遠かるを断腸す。
《語釈》
・春半:春の半ば。仲春。
・觸目:目に触れる物すべて。
・十二闌干:曲がりくねった欄干。九曲の欄干。
・欄干:てすり。高殿の窓辺に寄り添っている。
・?:安。あいだ、すきま。やすんず、しづか、ゆるやか。へだたり。
・倚遍:じっくりと寄りかかると。高殿の手すりに寄りかかって、遙か彼方を眺めやりながら物思いに耽るさま。・遍:満、完。
・愁來:愁いが起こってきた。「來」は、動詞の後に附く趨勢を表す補助動詞。
・不管:かまわない。意に介さない。
・輸:送る。移す。致す。引き渡す。ゆずる。まける。
・輸與:譲り与える。負ける。
・滿院:庭一杯。庭一面。「院」中庭。周りに建物がある庭。
・落花:花びらが散っている。落花(の跡)。
・斷腸:腸が断たれるほどに辛い。春が過ぎ素晴らしい気節が過ぎ去る辛さ。
・芳草:春の草。詞では女性を指す場合もある。
《詞意》
春はすでに半ばを過ぎ、目に触れる情景は限りなく趣き深いのです。
幾重にも曲がる欄干のもとに ゆるらかに寄りかかって思いにふけりますと、
愁いが起こってきましたが、天はそんな愁いを意に介しません。
春風は和やかで日差しは暖かく、訪れる鶯や燕たちを包み込んでいます。
庭の一面には花びらが散り敷いていて 簾は巻かれることなく、
春の過ぎ行く辛さを感じるばかりです。
《補》
李?(りいく)(937年〜978年)の詞に同種のものがある。これを踏まえた詞であろう。
清平楽
李?
別來春半、
觸目愁腸斷。
砌下落梅如雪亂、
拂了一身還滿。
雁來音信無凭。
路遙歸夢難成。
離恨恰似春草、
更行更遠還生。
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(朱淑眞詞)
2008-01-16T21:04:20+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
杉篁庵庵主
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5.生査子(年年玉鏡台)
生查子 朱淑眞
年年玉鏡台、梅蕊宮妝困。
今歲未還家、怕見江南信。
酒從別後疏、淚向愁中盡。
遙想楚雲深、人遠天涯近。
《和訓》
年年の玉の鏡台、梅蕊に宮妝の困(こう)ず。
今歳未だ家に還らず、怕れ見るは江南の信...
生查子 朱淑眞
年年玉鏡台、梅蕊宮妝困。
今歲未還家、怕見江南信。
酒從別後疏、淚向愁中盡。
遙想楚雲深、人遠天涯近。
《和訓》
年年の玉の鏡台、梅蕊に宮妝の困(こう)ず。
今歳未だ家に還らず、怕れ見るは江南の信。
酒は別れし従(よ)り後は疏(まれ)にして、涙は愁ひに向ふ中に尽くせり。
遥かに想ふ楚雲の深きを、人は遠くして天涯の近からむ。
《語釈》
・年年:毎年。年毎に。年がたつにつれて。
・玉鏡台:玉の鏡台。玉は美称。
・梅蕊:梅のしべ。
・宮妝:宮廷化粧。妝=粧。
・困:こうずる。どうしてよいかわからず悩む。疲れる。苦しめる。窮する。
・怕:心配する、案じる。怖がる。
・江南:中国の淮河以南の主として長江中・下流域を指す。
・疏:まれである。遠ざかる。おそい。おろそか。遠い。うとい。まばらである。
・楚雲:長江中流域、湖北、湖南一帯の雲。洞庭湖周辺。戦国七雄の一つとしての楚の国がある。
・天涯:空の涯(はて)。極めて遠いところ。天のきわ。
《詞意》
年がたつにつれて玉の鏡台に向かうと、梅の咲き出す頃どう化粧すべきか悩むことです。
今年夫はまだ家に還ってきません、案じ見るのは江南からの夫の便り。
お酒を呑むことは別れてから後はまれになり、涙は愁ひに向ふ中で尽きてしまいました。
遥かに楚雲の深い景を偲びます、夫は遥か遠くむしろ天の涯(きわ)に近かいのでしょう。
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(朱淑眞詞)
2008-01-15T13:24:35+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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4.生査子(寒食不多時)
生查子 朱淑眞
寒食不多時、幾日東風惡。
無緒倦尋芳、?卻秋千索。
玉減翠裙交、病怯羅衣薄。
不忍卷簾看、寂寞梨花落。
《和訓》
寒食は多からぬ時、幾日か東風の悪(にく)し。
緒無く芳を尋ぬるに倦む、?なるは卻って秋千の索。...
生查子 朱淑眞
寒食不多時、幾日東風惡。
無緒倦尋芳、?卻秋千索。
玉減翠裙交、病怯羅衣薄。
不忍卷簾看、寂寞梨花落。
《和訓》
寒食は多からぬ時、幾日か東風の悪(にく)し。
緒無く芳を尋ぬるに倦む、?なるは卻って秋千の索。
玉減じて翠裙交り、病み怯(ひる)みて羅衣の薄し。
簾を巻きて看るには忍びず、寂寞として梨花の落つるを。
《語釈》
・寒食:冷食。かんしょく。冬至の翌日からかぞえて百五日目は風雨が激しいとして、昔、中国でこの日には火を断って煮たきしない物を食べた風習があった。その日が「寒食節」。旧暦三月三日。翌日は春分から15日後の「清明節」。
・不多時:もうすぐ。長い間でない。
・東風:春風。
・惡:(気分・心理状態について)不快だ。不機嫌だ。苦しい。気に入らない。(自然的状況について)荒れている。
・無緒:情緒が無い。趣がない。
・倦尋芳:詞牌の一。
・倦:同じ状態が長く続いていやになる。あきる。うむ。
・芳:春。
・?:安(忙の反)。(部屋,機械などが)空いている、使われていない。しづか、ひま。
・卻:助字として他の動詞の下に添へる。かへりて、反対に。
・秋千索:ブランコ(秋千=鞦韆)の紐。(思考が)おなじ所を行ったり来たりしているさまの表現。
・玉:美しい石。宝石。硬玉・軟玉の類、翡翠(ひすい)・碧玉(へきぎょく)など。
・減:へる、へらす。かろし、すくなし、うすし。
・翠裙:着物のみどり色のすそ。
・交:いりみだれる。
・病:憂い、くるしみ。
・怯:いくじがない。臆病である。臆病な、おずおずした。恐れて気力が弱まる。気持ちがくじける。
・羅衣:うすもので仕立てた衣服。うすぎぬ。
・不忍:たえられない。忍ぶことができない。
・寂寞:ひっそりしていてさびしいこと。
《詞意》
寒食節はもうまもなくで、ここ幾日か春風が吹き荒れています。
心動くことなく春を尋ねるのにも飽き、中庭のブランコの紐も使われることがありません。
宝石も着けずみどりの着物のすそを乱し、春のうすぎぬを着ても憂いに気持ちがくじけてしまい、
寂しく梨の花が散るのを簾を巻きあげて看るのにはたえられません。
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(朱淑眞詞)
2008-01-15T12:11:54+09:00
杉篁庵庵主
JUGEM
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3.生査子 元夕
生查子 朱淑眞
元夕
去年元夜時,花市燈如晝。
月上柳梢頭,人約黃昏後。
今年元夜時,月與燈依舊。
不見去年人,淚濕春衫袖。
《和訓》
去年 元夜の時
花市の灯は昼の如くなりき。
月は柳の梢頭に上(のぼ)り
人...
生查子 朱淑眞
元夕
去年元夜時,花市燈如晝。
月上柳梢頭,人約黃昏後。
今年元夜時,月與燈依舊。
不見去年人,淚濕春衫袖。
《和訓》
去年 元夜の時
花市の灯は昼の如くなりき。
月は柳の梢頭に上(のぼ)り
人は黄昏(たそがれ)の後を約せり。
今年 元夜の時
月と灯は旧じ依れど
去年の人見えずして
涙の春衫の袖を湿(ぬら)せり。
《語釈》
・元夜:元宵節の夜。旧暦正月十五日の夜で、その年の最初の満月の夜。灯会、看灯の催しが行われる。その年の最初の日の出である元旦に対応する。
・花市:春になって、花を売買するために立ついち。
・燈如畫:多くの提灯のあかりで昼のようであるさま。
・月上:月が…にのぼる。
・梢頭:こずえ。 ・頭:名詞の後に附く接尾辞。…の上。
・約:時間を決めて会う約束をする。
・黄昏:たそがれ。
・與:…と。
・依舊:むかしのままである。月と灯火は、去年と変わらないということ。
・不見:逢わない。出会えない。
・去年人:去年ともに逢い、語り合った、異性。
・涙濕:涙は…をうるおしている。
・春衫:新春の衣裳。
《詞意》
去年の元宵節の夜には、
花の市は灯篭で昼のように明るかった。
月は柳の梢にのぼり、
あの人はたそがれの後の出逢いを約束しました。
今年の元宵節の夜は、
月と灯火は、去年と変わることがないのに、
去年出逢った人には会えなくて、
悲しみの涙が春着の袖をしとどに濡らしています。
《補》
(この詞は一説に欧陽修作とする。)
朱淑真の七言律詩に
「元夜」という詩がある。
火燭銀花觸目紅,揭天吹鼓斗春風。
新歡入手愁忙裡,舊事驚心憶夢中。
但願暫成人繾綣,不妨常任月朦朧。
賞燈那待工夫醉,未必明年此會同。
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(朱淑眞詞)
2008-01-15T10:29:38+09:00
杉篁庵庵主
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2.浣溪沙 清明
浣溪沙 朱淑眞
清明
春巷夭桃吐絳英,春衣初試薄羅輕。
風和煙暖燕巢成。
小院湘簾?不卷,曲房朱戶悶長扃。
惱人光景又清明。
《和訓》
春の巷に夭たる桃の絳英を吐くに、
春の衣を初めて試みしに薄羅の軽ろき。
...
浣溪沙 朱淑眞
清明
春巷夭桃吐絳英,春衣初試薄羅輕。
風和煙暖燕巢成。
小院湘簾?不卷,曲房朱戶悶長扃。
惱人光景又清明。
《和訓》
春の巷に夭たる桃の絳英を吐くに、
春の衣を初めて試みしに薄羅の軽ろき。
風和やかに煙り暖るくして燕の巣成る。
小院の湘簾?として卷かず、
曲房の朱戸悶として長く扃(とざ)せり。
悩める人の光景又も清明なり。
《語釈》
・清明:清明節。二十四節気の一。三月節気。新暦4月4〜6日ころに当たり、この日人々は墓参りをする。万物清く陽気になる時期という意。
・春巷:春の路地、横町。春のまちなか。
・夭桃:美しく咲いた桃の花。若く美しい女性の形容。
・絳英:濃い赤、深紅(しんく)のはなびら。
・薄羅:薄く織った織物。薄く、透けて見えるような布地。うすもの。羅。薄絹(うすぎぬ)で仕立てた着物。
・煙: かすみ、もやの類。
・小院:小さな奥庭。
・湘簾:竹製の簾。
・曲房:曲がりくねった女房(女官)のへや。
・朱戸:朱漆で塗った大門。天子が使用する朱ぬりの戸をいうが、ここは奥庭の朱の戸。
・?:安なり、忙の反。
・悶:(部屋に)閉じこもる。気がふさぐ、くさくさする。
・扃:門を閉ざす。
・光景: 生活状態。
《詞意》
春の街に若々しい桃が赤いはなびらを美しく咲かせて、
今年初めて試みに春の衣を着てみますが、そのうすもののなんと軽るいこと。
風が和やかに吹き、春霞が暖かくたなびく中、燕が巣を造っています。
小さな奥庭の竹の簾はひっそりと下がったまま卷かれることも無く、
奥の部屋の朱い戸も部屋に閉じこもったままなので長く閉ざされています。
陽気になる時期というのに、悩み続ける私の生活は変わることなく、今年も又清明節を迎えています。
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(朱淑眞詞)
2008-01-14T22:46:11+09:00
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1.正月初六日夜月
憶秦娥 朱淑眞
正月初六日夜月
彎彎曲、新年新月鉤寒玉。
鉤寒玉、鳳鞋兒小、翠眉兒蹙。
鬧蛾雪柳添妝束、燭龍火樹爭馳逐。
爭馳逐、元宵三五、不如初六。
《和訓》
正月の初六日、夜の月
湾湾と曲りて、新年の新月は鉤なる寒玉。
...
憶秦娥 朱淑眞
正月初六日夜月
彎彎曲、新年新月鉤寒玉。
鉤寒玉、鳳鞋兒小、翠眉兒蹙。
鬧蛾雪柳添妝束、燭龍火樹爭馳逐。
爭馳逐、元宵三五、不如初六。
《和訓》
正月の初六日、夜の月
湾湾と曲りて、新年の新月は鉤なる寒玉。
鉤なる寒玉は、鳳の鞋小さくして、翠の眉の蹙(しじか)まる。
鬧蛾雪柳は妝に添へて束ねて、燭龍の火樹争ひて馳せ逐(お)ふ。
争ひて馳せ逐ふ、元宵三五も、初六に如かず。
《語釈》
・鉤(かぎ):新月のさま。
・寒玉:冷ややかに澄んだ美しい玉。竹や水、月などの形容。
・鳳鞋:おおとりの形の靴。弓なりの靴。
・翠眉:みどり色のつややかなまゆ。美人のまゆ。柳の葉の細く青々としていること。また、山が遠く青くかすんで見えること。
・蹙:ちぢまる。ちぢかむ。 ちぢこまる。なえる。
・鬧蛾:騒がしい蛾(が)。ここは宋代の婦人が元宵節につけた髪飾り(首飾り)。
・雪柳:バラ科の落葉低木。これも元宵節につけた金糸と絹紙で作る髪飾り(首飾り)。
・妝束:妝=粧、よそおい。 装束に通ずるか。
・燭龍:=燭陰。人面竜身の神で、1000里にもおよぶ赤い身体をしているという。自然の化身。風の神。息を吐くと風となり、大地を吹き抜ける。強く息を吐くと冬が訪れ、ゆっくりと吐くと夏になるという。
・火樹:灯火。篝火。
・燭龍火樹:孟浩然(689年-740年)の詩に「薊門看火樹、疑是燭龍燃。」の句がある。
・元宵:元宵節 春節から数えて15日目で、最初の満月の日。旧暦のお正月の締めくくりの日。 灯籠節とか上元節とも。その年の初めての満月の夜。元夕。元夜。元宵節には、豊年を祈願して、提灯や飾りを掲げるという。月夜の祭りなので、宵に外出する。
・初六:農暦正月6日。新春の五日間(「火」を点けず、「鋏み」に触れず、「包丁」にも触らない生活)を終えた旧正月6日目本当に新しい春を迎え、新しい年が始まる。
・不如: …に及ばない、劣る。やはり…方がよい。
《詞意》
ぐぐっと曲って、新年の新月は澄んだ美しい玉が細い鉤のよう。
その鉤のような寒玉は、鳳の細い弓なりの靴のようで、
また、みどり色のつややかな眉がちぢこまっているようでもあります。
元宵節には髪飾りの鬧蛾や雪柳を装束に合うように添へて束ねて、
燭龍のような赤く続く篝火を人々は争って走り回ります。
その争って走り回る15日の元宵節も、この6日の月の清清しい姿には及びません。
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(朱淑眞詞)
2008-01-14T21:53:03+09:00
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朱淑眞について
李清照(1084年 - 1153年)と同時代に生き、李清照と並んで宋代女性作家の双子星座と称されるのが朱淑眞です。
朱淑眞【朱淑真しゅしゅくしん。「朱淑貞」とするものもある】は、幽棲居士と号した女流の詩人です。祖籍は歙州(州治今安徽歙縣)ですが、生活したのは...
李清照(1084年 - 1153年)と同時代に生き、李清照と並んで宋代女性作家の双子星座と称されるのが朱淑眞です。
朱淑眞【朱淑真しゅしゅくしん。「朱淑貞」とするものもある】は、幽棲居士と号した女流の詩人です。祖籍は歙州(州治今安徽歙縣)ですが、生活したのは銭塘(今の浙江省杭州)の西湖の湖畔(涌金門付近)とされます。詩画音律に通じ、詩は風格宛約、「断腸詩集」十巻、「補遺」一巻、「断腸詩集後集」七巻、「断腸詞」一巻があり、斷腸詞人」と呼ばれています。
北宋末から南宋初にかけて生きた詩人ですが、彼女の生前の事跡について、詳しいことは分かりません。生卒年も確定できないようです。一説に、北宋神宗元豊二〜三年(1079〜1080)に生まれ、南宋高宗紹興初め(1131〜1133)に卒し、五十一〜五十二歳で生涯を終えたとされます。
一一八二年に朱淑真の作品を最初に編纂した南宋の魏仲恭は、序文で「武林(今の浙江省杭州)へ行くと、旅の宿で好事家がしばしば朱淑真のうたを歌い伝え謡っていた。ひそかにこれを聞くたびに、一唱して三嘆しないものはない。私は嘆息するだけではたらず、筆をとってこれを写し、いささかでも九泉(死後の世界)の寂寞のほとりにある可憐な魂を慰めようとした」と書いています。
さらに、「若い頃から不幸で、両親が慎重にふさわしい配偶者を選ぶことをせず、市井の民の妻となった。一生鬱々として本志を得なかったので、詩には「憂愁怨恨」のことばが多い。風月に対するるに、またものに触れるたびに、いつも詩に寄せ、胸中の満たされない気持ちを表現した。しかし、ついに才能を認めてくれる人を得ず、心ふさいで楽しまず恨みを抱いたまま世を去った」と記し、悲愁のうちに過ごした人生だったといいます。
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(朱淑眞詞)
2008-01-14T10:01:13+09:00
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朱淑真・詞・一覧
朱淑真斷腸詞全集(25首)
朱淑真﹕宋女作家。號幽棲居士,錢塘(今浙江杭州)人。祖籍歙州(州治今安徽歙縣),南宋初年時在世。生於仕宦家庭,相傳因婚嫁不滿,抑鬱而終。能畫,通音律。詞多幽怨,流於感傷。也能詩。有詩集《斷腸集》、詞集《斷腸詞...
朱淑真斷腸詞全集(25首)
朱淑真﹕宋女作家。號幽棲居士,錢塘(今浙江杭州)人。祖籍歙州(州治今安徽歙縣),南宋初年時在世。生於仕宦家庭,相傳因婚嫁不滿,抑鬱而終。能畫,通音律。詞多幽怨,流於感傷。也能詩。有詩集《斷腸集》、詞集《斷腸詞》。《斷腸集》有宋鄭元佐注本。(《辭海》1989年版)
斷腸詞﹕詞集名。南宋朱淑真作。一卷。淑真為錢塘(今浙江杭州)女子,因自傷身世,故以“斷腸”名其詞。有明毛晉汲古閣課《詩詞雜俎》本、清王鵬運《四印齋所刻詞》本等。(同上書)
淑真錢塘人,幼警惠,善讀書,工詩,風流蘊藉。早年,父母無識,嫁市井民家。淑真抑鬱不得誌,抱恚而死。父母複以佛法並其平生著作荼毗之。臨安王唐佐為之立傳。宛陵魏端禮輯其詩詞,名曰《斷腸集》。(明‧田汝成《西湖游覽誌》)
順治辛卯,有雲間客扶乩於片石居。一士以休咎問,乩書曰﹕“非余所知。”士問仙來何處,書曰﹕“兒家原住古錢塘,曾有詩篇號斷腸。”士問仙為何氏,書曰﹕“猶傳小字在詞場。”士不知《斷腸集》誰氏作也,見曰“兒家”,意其女郎也,曰﹕“仙得非蘇小小乎?”書曰﹕“漫把若蘭方淑士,”曰﹕“然則李易安乎?”書曰﹕“須知清照易貞娘,朱顏說與任君詳。”士方悟為朱淑真,故隨問隨答,即成浣溪沙一闋。隨又拜祝,再求珠玉。乩又書曰﹕“轉眼已無桃李,又見荼蘼綻蕊。偶爾話三生,不覺日移階晷。去矣去矣,嘆惜春光似水。”乩遂不動。或疑客所為,知之者謂客只知扶乩,非知文者。(《湖壖雜記》)
憶秦娥
正月初六日夜月
彎彎曲,新年新月鉤寒玉。
鉤寒玉,鳳鞋兒小,翠眉兒蹙。
鬧蛾雪柳添妝束,燭龍火樹爭馳逐。
爭馳逐,元宵三五,不如初六。
浣溪沙
清明
春巷夭桃吐絳英,春衣初試薄羅輕。
風和煙暖燕巢成。
小院湘簾?不卷,曲房朱戶悶長扃。
惱人光景又清明。
生查子
元夕
去年元夜時,花市燈如晝。
月上柳梢頭,人約黃昏後。
今年元夜時,月與燈依舊。
不見去年人,淚濕春衫袖。
(方按﹕此詞一說歐陽修作,但《六一詞》與其它詞集互雜極多,不足為憑。力辯此詞非朱淑真所作者如《四庫提要》,乃出於保全淑真“名節”,衛道士心態,何足道哉!細賞此詞,似非六一居士手筆,實乃斷腸之聲。淑真另有一首《元夜詩》,可與此詞互看﹕“火燭銀花觸目紅,揭天吹鼓斗春風。新歡入手愁忙裡,舊事驚心憶夢中。但願暫成人繾綣,不妨常任月朦朧。賞燈那待工夫醉,未必明年此會同。”)
生查子
寒食不多時,幾日東風惡。
無緒倦尋芳,?卻秋千索。
玉減翠裙交,病怯羅衣薄。
不忍卷簾看,寂寞梨花落。
生查子
年年玉鏡台,梅蕊宮妝困。
今歲未還家,怕見江南信。
酒從別後疏,淚向愁中盡。
遙想楚雲深,人遠天涯近。
(此首或誤作朱敦儒詞、李清照詞。)
謁金門
春半
春已半,觸目此情無限。
十二闌干?倚遍,愁來天不管。
好是風和日暖,輸與鶯鶯燕燕。
滿院落花簾不卷,斷腸芳草遠。
江城子
賞春
斜風細雨作春寒。
對尊前,憶前歡,曾把梨花,寂寞淚闌干。
芳草斷煙南浦路,和別淚,看青山。
昨宵結得夢夤緣。
水雲間,俏無言,爭奈醒來,愁恨又依然。
展轉衾裯空懊惱,天易見,見伊難。
減字木蘭花
春怨
獨行獨坐,獨唱獨酬還獨臥。
佇立傷神,無奈輕寒著摸人。
此情誰見,淚洗殘妝無一半。
愁病相仍,剔盡寒燈夢不成。
眼兒媚
遲遲春日弄輕柔,花徑暗香流。
清明過了,不堪回首,雲鎖朱樓。
午窗睡起鶯聲巧,何處喚春愁。
?楊影裡,海棠亭畔,紅杏梢頭。
鷓鴣天
獨倚闌干晝日長,紛紛蜂蝶斗輕狂。
一天飛絮東風惡,滿路桃花春水香。
當此際,意偏長,萋萋芳草傍池塘。
千鐘尚欲偕春醉,幸有荼蘼與海棠。
清平樂
夏日游湖
惱煙撩露,留我須臾住。
攜手藕花湖上路,一霎黃梅細雨。
嬌痴不怕人猜,和衣睡倒人懷。
最是分攜時候,歸來懶傍妝台。
(方按﹕“和衣睡倒人懷”一作“隨群暫遣愁懷”,疑為腐儒擅改。此詞乃寫與情人游湖,非隨眾友游湖,“嬌痴不怕人猜”等句可證。)
清平樂
風光緊急,三月俄三十。
擬欲留連計無及,?野煙愁露泣。
倩誰寄語春宵,城頭畫鼓輕敲。
繾綣臨歧囑付,來年早到梅梢。
點絳唇
黃鳥嚶嚶,曉來卻聽丁丁木。
芳心已逐,淚眼傾珠斛。
見自無心,更調離情曲。
鴛帷獨。
望休窮目,回首溪山?。
點降唇
風勁雲濃,暮寒無奈侵羅幕。
髻鬟斜掠,呵手梅妝薄。
少飲清歡,銀燭花頻落。
恁蕭索。
春工已覺,點破香梅萼。
蝶戀花
送春
樓外垂楊千萬縷,
欲系青春,少住春還去。
猶自風前飄柳絮,隨春且看歸何處。
?滿山川聞杜宇。
便做無情,莫也愁人苦。
把酒送春春不語,黃昏卻下瀟瀟雨。
菩薩蠻
山亭水榭秋方半,鳳帷寂寞無人伴。
愁悶一番新,雙蛾只舊顰。
起來臨繡戶,時有疏螢度。
多謝月相憐,今宵不忍圓。
菩薩蠻
秋
秋聲乍起梧桐落,蛩吟唧唧添蕭索。
欹枕背燈眠,月和殘夢圓。
起來鉤翠箔,何處寒砧作。
獨倚小闌干,逼人風露寒。
(此首或誤作朱敦儒詞、朱希真(秋娘)詞。)
菩薩蠻
木樨
也無梅柳新標格,也無桃李妖嬈色。
一味惱人香,群花爭敢當。
情知天上種,飄落深岩洞。
不管月宮寒,將枝比並看。
菩薩蠻
濕雲不渡溪橋冷,娥寒初破東風影。
溪下水聲長,一枝和月香。
人憐花似舊,花不知人瘦。
獨自倚闌干,夜深花正寒。
(此首一作蘇東坡詞。)
鵲橋仙
七夕
巧雲妝晚,西風罷暑,小雨翻空月墜。
牽牛織女幾經秋,尚多少、離腸恨淚。
微涼入袂,幽歡生座,天上人間滿意。
何如暮暮與朝朝,更改卻、年年歲歲。
念奴嬌
二首催雪
冬晴無雪,是天心未肯,化工非拙。
不放玉花飛墮地,留在廣寒宮闕。
雲欲同時,霰將集處,紅日三竿揭。
六花翦就,不知何處施設。
應念隴首寒梅,花開無伴,對景真愁絕。
待出和羹金鼎手,為把玉鹽飄撒。
溝壑皆平,乾坤如畫,更吐冰輪潔。
梁園燕客,夜明不怕燈滅。
又
鵝毛細翦,是瓊珠密灑,一時堆積。
斜倚東風渾漫漫,頃刻也須盈尺。
玉作樓台,鉛溶天地,不見遙岑碧。
佳人作戲,碎揉些子拋擲。
爭奈好景難留,風僝雨僽,打碎光凝色。
總有十分輕妙態,誰似舊時憐惜。
擔閣梁吟,寂寥楚舞,笑捏獅兒只。
梅花依舊,歲寒松竹三益。
卜算子
竹裡一枝斜,映帶林逾靜。
雨後清奇畫不成,淺水?疏影。
吹徹小單於,心事思重省。
拂拂風前度暗香,月色侵花冷。
西江月
春半
辦取舞裙歌扇,賞春只怕春寒。
卷簾無語對南山,已覺?肥紅淺。
去去惜花心懶,踏青?步江干。
恰如飛鳥倦知還,澹蕩梨花深院。
月華清
梨花
雪壓庭春,香浮花月,攬衣還怯單薄。
欹枕裴回,又聽一聲干鵲。
粉淚共、宿雨闌干,清夢與、寒雲寂寞。
除卻,是江梅曾許,詩人吟作。
長恨曉風漂泊,且莫遣香肌,瘦減如削。
深杏夭桃,端的為誰零落。
況天氣、妝點清明,對美景、不妨行樂。
拌著,向花時取,一杯獨酌。
【附】他人詞竄入斷腸詞者﹕
《浣溪沙》“玉體金釵一樣嬌”,韓偓詞,見《香奩集》。
《柳梢青》“玉骨冰肌”,楊無咎詞,見《逃禪詞》。
《柳梢青》“凍合疏離”,楊無咎詞,見《逃禪詞》。
《柳梢青》“雪舞霜飛”,楊無咎詞,見《逃禪詞》。
(方按﹕は編者方舟子の注。)
編輯﹑輸入﹕方舟子
城鄉台灣 /www.folkdoc.idv.tw/ による
補遺
浣溪沙(春夜)
玉體金釵一樣嬌。背燈初解繡裙腰。衾寒枕冷夜香消。
深院重關春寂寂,落花和雨夜迢迢。恨情和夢更無聊。
自責 二首
女子弄文誠可罪,那堪詠月更吟風。磨穿鐵硯非吾事,繡折金針卻有功。
悶無消遣只看詩,不見詩中話別離。添得情懷轉蕭索,始知伶俐不如痴。
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朱淑眞詞一覧
2008-01-04T14:34:13+09:00
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