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16.菩薩蠻 (山亭水[木+射]秋方半)


 菩薩蠻      朱淑眞

山亭水榭秋方半、鳳帷寂寞無人伴。
愁悶一番新、雙蛾只舊顰。

起來臨繡戶、時有疏螢度。
多謝月相憐、今宵不忍圓。



《和訓》
山亭水榭は秋方(あき)半ば、鳳帷の寂寞として人の伴ふ無し。
愁悶は一番新たに、双蛾(まゆ)は只だ旧に顰(ひそ)む。

起き来たって繡戸に臨み、時有りて疏(まれ)に螢の度(わた)る。
月の相ひ憐むを多謝し、今宵の円(まどか)なるに忍びず。


《語釈》
・山亭:山中のあずまや。山荘。
・水榭:水辺のあずまや。水ぎわの亭。・榭:屋根のあるうてな、あずまや。
・秋方:秋。・方 場所・方向・時間を漠然と示す。…のあたり。…の方(ほう)。ころ。
・鳳帷:鳳凰の縫い取りをしている帷(とばり)・鳳:鳳凰(ほうおう) 。 ・帷:垂れ幕。たれぎぬ。とばり。
・寂寞:ひっそりとしてさびしいさま。
・愁悶:うれえ、もだえること。
・一番:最も。この上なく。景色や味わいなどの種類をいう。
・双蛾:美人の眉(まゆ)。
・只:何事もないこと。無事。取り立てるほどのことのないさま。むなしいさま。
・舊:旧。時を経た、古い。時代遅れの。
・顰:ひそむ。顔つきなどがゆがむ。 泣き顔になる。
・起來:起きあがる。
・繡:刺繡(ししゆう)する、縫い込む。・繡戶:縫い取りのあるドア。
・有時:時折。時には。時々。時たま。
・疏:まばらにする、密接でない。
・度:渡る。
・多謝:深く感謝する。ありがとう。
・相憐:憐れみあう。・相:互いに、ともに。・憐:あわれむ。賞美する。めでる。惜しむ。
・不忍:忍びない、がまんならない。たえられない。見ていられない。
・圓:まるくて欠けたところのないさま。


《詞意》
山辺水辺の東屋ははやくも秋半ばとなりました、
おおとりの縫い取りのあるカーテンの内はひっそりとして誰もいません。
独り憂え悶えてこの上なくその想いを新たにして、
美しく描いた眉をむなしく昔の想いにひそませています。

起きあがり縫い取りのあるドアをあけ、その傍らで
時折まばらに螢が飛びわたるのを見ています。
月がともに憐れんでくれるのに深く感謝しますが、
今宵の月はあまりに円く明く、見てはいられません(悲愁にたえられません)。



| (朱淑眞詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
15.蝶戀花 送春


 蝶戀花     朱淑眞
  送春

樓外垂楊千萬縷、
欲系青春、少住春還去。
猶自風前飄柳絮、隨春且看歸何處。

凩犹垣酳硬留А
便做無情、莫也愁人苦。
把酒送春春不語、黃昏卻下瀟瀟雨。


《和訓》
  「春を送る」
楼外の垂楊は千万の縷をたれ、
青春(はる)を系せんと欲し、少(いささ)か春の還へり去るを住(とど)めん。
猶自(なほ)風前に柳絮を飄(ひるがへ)すも、春に隨ひ且(しば)し何処へ帰るかを看ん。

緑山川に満ち杜宇を聞く。
便做(たと)ひ無情なるも、なほ愁人の苦しむ莫れ。
酒を把りて春を送るに春は語らず、黄昏に却って下(ふ)るは瀟瀟たる雨。


《語釈》
・送春:春を送る。過ぎゆく人生の春を見送る。
・垂楊:「垂柳(すいりゆう)」に同じ。シダレヤナギ。
・縷:糸。柳の細い枝。
・欲系:繋ごうとして。春を繋ぎ止めようとして。・系:繋(つな)ぐ、結ぶ。
・青春:季節を示す「青春、朱夏、白秋、玄冬」のはる。青年時代。
・少:少し。僅か。
・住:留まる。
・還去:さらに行く。やはり過ぎていく。
・猶自:いまだに。よりいっそう。…でさえ、なおかつ。
・風前:風の前。風のあたる所。風前之燭で人生のはかなさをいう。
・飄:ひるがえる。ひらひらと吹かれて飛ぶ。柳絮が飛ぶこと。
・柳絮:柳の綿毛。
・隨春:春に従う。春と一緒になって。
・且看:しばし見る。暫く見る。
・歸何處:どこへ戻っていくのか。
・杜宇:ホトトギス。
・便做:たとえ…でも。よしんば…しても。
・無常:思いやりに欠けること。
・便:すでにもう、早くも。まさしく、ほかでもない。
・做: …になる、担当する。装う。
・莫:なかれ。・也:判断を示す助詞。
・把酒:酒を持つ。酒杯を取る。
・黄昏:たそがれ。
・卻:かえって。意に反して。
・下雨:雨が降る。降雨。
・瀟瀟:雨が寂しく降るさま。しとしとと。


《詞意》
街には薄緑に染まった枝垂れ柳の枝が繁り続いています。
春(吾が青春)をつなぎ止めようと願い、ほんの少し春が過ぎ行くのを留めたいと思います。
春風にはかなく柳絮が吹かれ飛んでいますが、春とともに暫くは何処へ帰っていくのか見ていましょう。

山河には新緑が満ち溢れ、不如帰(ホトトギス)の声が聞こえます。
その鳴き声がたとえ思いやりに欠けるとしても、春を愁うる人が苦しむことはありませんでしょう。
過ぎゆく春を見送り惜別の杯を持ちますが、春は何も語ってくれず、ただ黙って過ぎ去っていくのを見送るばかりです。
たそがれ時になるや思いがけず、雨がしとしとと寂しげに降り出しています。



| (朱淑眞詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
14.點降唇 (風勁雲濃)

 
 點降唇     朱淑眞

風勁雲濃、暮寒無奈侵羅幕。
髻鬟斜掠、呵手梅妝薄。

少飲清歡、銀燭花頻落。
恁蕭索。
春工已覺、點破香梅萼。



《和訓》
風勁(つよ)く雲濃く、暮るるに寒くして羅幕を侵すをいかんせん。
髻鬟(もとどり)の斜めに掠(かす)め、手を呵(しか)りて梅妝の薄し。

少(いささ)か飲みて清(さや)に歓べば、銀燭の花頻(しき)りに落とせり。
恁(なん)と蕭索たり。
春の工(たくみ)已に覚め、香梅の萼(がく)を点破せん。


《語釈》
・勁:力強い、頑強な。
・無奈:=無可奈何。いかんせん。どうしようもない。いかんともするなし。
・羅幕(らまく):薄絹のカーテン。 ・羅:絽(ろ)、うす絹。・幕:カーテン。
・侵:侵(おか)す、侵入する。
・斜掠:髪を斜めに掻きあげる。・斜:ななめ。かたむく。・掠:かする、すれちがう。かすめとる。
・髻鬟(けいかん):もとどり。女性が頭上に束ねた髪。髪型。もとどりとみずら。まるく結い束ねたまげ髪。
・呵手:手に息を吹き掛ける。
・梅妝:梅花粧。梅の花びらをかたどった化粧。・薄:薄化粧する。
・清:静まり返った、静寂の。
・歡:喜ぶ、楽しむ。
・銀燭:白いロウソク。精製された蝋によって作られた明かり。
・燭花:蝋燭(ろうそく)の焔。灯火の芯(ろうそくなどの中央にある火をつける糸)。
・頻:しきりに、頻繁に。
・落:燭花(芯)を切り落とす。「燭花頻剪欲三更」と同趣。《補》参照。
・恁:おもふ。かくのごとし。そんなに、あんなに。どのよう。いかよう。
・蕭索:ものさびしいさま。蕭条。
・工:美しいものを作り出すわざ。「自然の―」「造化の―」の用例。意匠。趣向。
・点破:点じ破る。蕾を開く。
・萼:花のがく。


《詞意》
風が強く雲が濃くたれ、どうにも日暮れの寒さが薄絹のカーテンから染みいります。
髷の乱れた髪をかきあげ、手に息を吹きかけて軽くお化粧に手を入れます。

少しばかりお酒を飲み独り静かに楽しんで、銀の燭火の芯をしきりに切り落としています。
なんと静かで淋しいことでしょう。
春の工夫ははや覚めて、香り高く梅の蕾を開かせているでしょうか。


《補》
朱淑真の詩
 「秋夜」
 夜久無眠秋気清 (夜久うして眠るなく秋気清し
 燭花頻剪欲三更 (燭花頻に剪りて三更ならんと欲す
 鋪床涼満梧桐月 (鋪床に涼満ちて梧桐の月あり
 月在梧桐欠処明 (月は梧桐の欠けたる処に在りて明かなり

秋の夜長に眠れぬままにいますと、秋の気配がすがすがしく、
灯火の芯をしきりに切っているうちに、真夜中になってしまいました。
ベットには梧桐にかかる月のもと涼気がみなぎっています。
月が葉の隙間にみえて、いっそう明るく照らしています。


| (朱淑眞詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
13.點絳唇 (黄鳥嚶嚶)


 點絳唇     朱淑眞

黃鳥嚶嚶、曉來卻聽丁丁木。
芳心已逐、淚眼傾珠斛。     

見自無心、更調離情曲。      心(一作聊)
鴛帷獨。
望休窮目、回首溪山僉



《和訓》
黄鳥嚶嚶と鳴き、暁来却(かへ)って丁丁木を聞く。
芳心已(すで)に逐ひ、涙眼珠斛を傾くる。

見るは無心にして、更に離情の曲を調(しら)む。
鴛の帷に独りなり。
窮むる目を休ませて望むに、首を回らせば渓も山も緑なり。


《語釈》
・黄鳥:ウグイスの異名。
・嚶嚶:鳥が互いに鳴きあうさま。鳥の鳴き声の擬声語。友を求める声。
・曉:夜明け。・曉來:明け方になって。
・卻:逆接の関係を示す。かえって。(予想などとは)反対に。逆に。
・丁丁木:木を切る音木を打つ音などが響きわたるさま。
・(補)『詩經・小雅』の「伐木丁丁、鳥鳴嚶嚶。」は「鳥の友を求むるを以て、人の友無かる可からざるに喩う。人能く朋友の好を篤くすれば、則ち辰稜靴鱠紊い董⊇に和らぎ且つ平らかならん。」とつづく。
・芳心:芳志。気持ちを敬っていう語。美しいたましい。
・已:早くも。すっかり。終わる。
・逐:追う。捕らえるために急いで行く。せき立てて先へ進ませる。
・涙眼:涙にぬれた目。
・斛:枡(ます)。・珠斛:玉盃(たまのさかずき)。
・無心:心が何にもとらわれていないこと。・見自無心:無心に見る。何の気なしに見る。
・更:いっそう。あらためて。それに加えて。
・調:しらむ。演奏する。
・離情:別離の情。
・鴛帷:麗しいとばりの垂れた婦人の部屋。
・鴛:鴛鴦(えんおう)=オシドリは雌雄相親みて離れず、故に夫婦の和睦するに喩える。
・帷:室内に垂れ下げて隔てとする布。たれぬの。たれぎぬ。とばり。婦人の部屋。
・獨:その人しかいないこと。相手や仲間がいないこと。
・窮:極限に達する。徹底的に、とことん ・窮目 じっと見る。
・溪山:谷と山と。隠棲の地。隠棲することの暗示?。

《詞意》
鶯が嚶嚶と鳴き交わし、明け方になると丁丁と木を打つ音が響ききこえます。
心は早くもせき立て、寂しく涙で潤む目で珠の斛(ます)の酒を傾けています。

春の過ぎ行くのを無心に見、こと新しく離情(わかれ)の曲を演奏してみます。
麗しいとばりの垂れた部屋には私ただ独り。
じっと見るのはやめにして外に目をやりますと渓も山も緑に染まっているのです。



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12.清平樂 (風光緊急)


 清平樂     朱淑眞

風光緊急、三月俄三十。
擬欲留連計無及、冖遽貊ハ泣。

倩誰寄語春宵、城頭畫鼓輕敲。
繾綣臨歧囑付、來年早到梅梢。



《和訓》
風光の緊急にして、三月も俄(にはか)に三十なり。
擬として留めんと欲すも連なり計りて及ぶ無く、緑の野に煙愁ひて露の泣く。

倩(うるはし)く誰れに寄りて春宵を語らん、城頭の画鼓 軽く敲く。
繾綣として歧(わかれ)に臨み嘱付す、来年早く梅の梢の到らんを。


《語釈》
・風光:自然の美しいながめ。景色。
・緊急:絃をきびしく張る。せまる、急ぐ。きびしい。せわしくすぎる。
・俄:にわかに。すぐさま。急に。
・三月三十日:陰暦の春最後の日。翌四月一日は、陰暦では夏。
・擬:欲する、爲さんとする勢を示す。なぞらえる。比べる。
・連計:次々に連なり数えられる。
・無及:追いつくことがない。
・倩:うるはしい、みづみづしい。口もとあいらしい。代わってやってもらう。やとう。
・城頭:城壁上。また、城壁のあたり。
・畫鼓:絵の鼓。
・敲:叩いて音を出す
・繾綣:ねんごろに。反覆する。人情厚くしてつきまとふ。
・歧:分かれ道。ふたまたみち。
・囑:言い付ける、頼む。望みをかける。


《詞意》
春の美しい時はせわしく過ぎて、三月もはやくも末になり、春が終わります。
この春を留めようと想っても、時は連なって追いつくことがなく、靄が愁い深く漂い露が泣くように置かれて野は夏の気配の緑を濃くしていくのです。

口もとあいらしく誰れに寄って春宵を語りましょう、城に出で絵に描いた鼓を軽く敲いてみます。
そして、懇ろに別れに際し望みをかけます、来年早く梅の梢に春が来ますようにと。



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11.清平樂 夏日游湖



 清平樂      朱淑眞
  夏日游湖

惱煙撩露、留我須臾住。
攜手藕花湖上路、一霎黃梅細雨。

嬌痴不怕人猜、和衣睡倒人懷。
最是分攜時候、歸來懶傍妝台。


(“和衣睡倒人懷”を“隨群暫遣愁懷”とする本もある)


《和訓》
  夏日湖に游ぶ
悩ます煙 撩せる露、我に留まりて須臾(しばし)住めり。
手を攜(つな)ぐ藕花湖上の路に、一霎(しばらく)は黄梅の細雨。

嬌痴にして人の猜を怕れず、衣に和して人の懐に睡倒す。
最も是れ分攜(わかれ)の時候(とき)、帰り来り懶(ものう)く妝台に傍(そ)へり。


《語釈》
・湖:西湖であろうか。
・惱:なやます。苦慮する。うらむ、恨みわずらう。
・煙:けむり。かすみ、もやの類。
・撩:おさめる。なぶる、からかう。かすめとる。置く。
・須臾:少しの間。しばし。
・攜:携。手を取る、手をつなぐ。
・藕:蓮。はちす。
・霎:極めて短い時間。霎時。ほんの少しの間。こさめ(小雨)。
・黃梅雨:梅の実が黄熟する頃に降る雨。梅雨。つゆ。
・嬌痴:嬌癡。あいぐるしくて未だ情事を解さない。
・怕:恐れる、怖がる。心配する、案じる。
・人:ここは特定の関係にある人。恋人。
・猜:猜疑(さいぎ)心をいだく、疑う。
・和:…もろとも、…ごと。[〜衣]服を着たまま。
・最是:もっとも。そうはいうものの。
・分攜:分携。わかれはなれる。手を握って別れる。
・懶:ものうし。ものぐさし。にくむ、きらふ。
・傍:よる、よりそふ。近づく。添う。
・妝台:化粧台。嫁入り道具。


《詞意》
  夏の日に湖に游ぶ
漂う靄と結ぶ露が、しばらくは私の周りに留まるかのよう。
私たちは手をつないで蓮の花の美しく咲く湖にでて、しばらくはつゆの細い雨の中にいました。

かわいくも痴れてその方の疑わしい目も恐れず、衣のままその方の胸に倒れ眠りました。
それでもそれがわかれのときでした。帰って来て私はものうく化粧台に寄り添い物思いにふけっています。



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10.鷓鴣天 (獨倚闌干晝日長)


 鷓鴣天      朱淑眞

獨倚闌干晝日長、紛紛蜂蝶斗輕狂。
一天飛絮東風惡、滿路桃花春水香。

當此際、意偏長、萋萋芳草傍池塘。
千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。



《和訓》
独り欄干に倚りて昼日長く、紛紛たる蜂と蝶は斗(たちまち)に軽く狂へり。
一天に絮を飛ばして東風の悪しく、路に桃花の満ちて春の水香る。

此の際に当たり、意(こころ)偏(ひとへ)に長く、萋萋たる芳草傍(かたへ)には池塘あり。
千鐘の尚ほ偕(とも)に春に酔はんと欲せば、幸ひに荼蘼と海棠も有り。



《語釈》
・紛紛:入りまじって乱れるさま。
・斗:たちまち(忽)に。
・輕狂:さわぐ。落ち着きがない。
・一天:空一面。満天。
・絮:草木の種子についているわた毛。
・飛絮:飛んでくる柳の綿毛。飛ぶ柳絮。春の一時期の象徴。
・東風:春風。
・滿路桃花春水香:王維(699-759)の「桃源行」に「春來遍是桃花水、不辨仙源何處尋」の句がある。「春来つては遍く是れ桃花の水、仙源を弁(わきま)へず何れの処か尋ねむ(春が来るとどの流れも桃の花びらを浮かべて流れる。これでは桃源郷を辿ろうにもどの流れをさかのぼればよいのだろう)」
・偏:一方に寄る。かたよる。ただそれだけで他のものがないさま。
・長:気持ちなどがのどかでのんびりしているさま。
・萋萋:草ぼうぼうの、生い茂った。
・芳草:萌(も)え出たばかりの、香るばかりの若草。
・池塘:池のつつみ。後日になるが朱熹(1130年-1200年)の「偶成詩」に「未覺池塘春草夢」の句がある。
・千鐘:大量。大量の酒。「蓋聞、千鐘百觚、尭舜之飲也。唯酒無量、仲尼之能也」(抱朴子)
・尚:ますます。よりいっそう。
・偕:一緒に、共に。
・幸:幸いに、幸運にも。
・荼蘼:バラ科の落葉低木。花は白色、香気。
・海棠:バラ科の落葉低木。紅色の五弁花。


《詞意》
春の日永にひとり欄干に身をよせていると、蜂と蝶が落ち着きなく入り混じって飛んでいる。
空一面に柳の綿毛を飛ばして春風は激しく吹き、路には桃の花びらが散り満ちて春の川も香っている。

この春の只中にあって、こころはただのどかで、生い茂った若草のかたわらには春の池がひろがる。
充分な酒にますます一緒に春に酔おうと思うと、好いことに荼蘼と海棠も咲いている。



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9.眼兒媚 (遲遲春日弄輕柔)


  眼兒媚     朱淑眞

遲遲春日弄輕柔、花徑暗香流。
清明過了、不堪回首、雲鎖朱樓。

午窗睡起鶯聲巧、何處喚春愁。
冤民椴、海棠亭畔、紅杏梢頭。



《和訓》
遅々たる春日軽柔を弄び、花の径に暗に香の流る。
清明過ぎ了へ、首を回らすに堪えず、雲の朱楼を鎖せり。

午の窓は睡(ねむり)より起き 鶯の声巧みなり、何れの処より春の愁いの喚ばふや。
そは緑楊の影の裡(うち)、海棠の亭の畔(ほとり)、紅き杏の梢の頭(さき)。


《語釈》
・遲遲:春日が長くのどかなさま。
・弄:もてあそぶ。思うままにあやつる。弄(ろう)する。
・輕柔:春風が軽く柔らかに吹くさま。
・徑:小道
・暗:あんに。ひそかな(に)、ぼんやりした。かかすかにかくれる。
・清明:清明節。二十四節気の一、新暦4月4〜6日ころ。
・了:動作あるいは変化がすでに完了したことをしめす助詞。
・不堪:堪えられない。春の愁いに堪えられないが、振り返らずにはいられない。
・回首:こうべをめぐらす。ふりかえる、思い起こす、回想する。
・鎖:とざす。外部から切り離す。
・朱樓:朱塗りの楼台。(女官の部屋。)
・喚:よばう。呼びつづける。
・冤漫Э稽个量。
・海棠:バラ科の落葉低木。海棠の花は美人のなまめかしさにたとえられる。
・亭:庭に設けた、眺望や休息のための小形の建物。あずまや。
・梢頭:こずえの先端。


《詞意》
春の日はのどかに、春風が軽く柔らかに吹いて、花の小道にほのかに香が流れます。
清明節も過ぎましたが、春の愁いに堪えず、雲に朱楼は閉ざされたまま。

遅くねむりよりさめると ひるの窓には 鶯の声が心地よく響いています、一体どこから春の愁いを呼び続けているのでしょう。
それは薄緑に染まる柳の陰から、海棠の咲くあずまやの横から、それとも紅い杏の花を付ける梢の先あたりからでしょうか。



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8.減字木蘭花 春怨


 減字木蘭花     朱淑眞
  春怨

獨行獨坐、獨唱獨酬還獨臥。
佇立傷神,無奈輕寒著摸人。

此情誰見、淚洗殘妝無一半。
愁病相仍,剔盡寒燈夢不成。



《和訓》

独り行き独り坐り、独り唱い独り酬(の)み還(また)独り臥す。
佇み立てば神(こころ)傷み、軽ろき寒さも著(しる)く人を摸(なづ)るを無奈(いかん)せん。

此の情(こころ)誰ぞ見む、涙の残妝を洗ひて一半も無し。
愁病相仍(よ)り、剔(えぐ)り尽くして寒灯に夢も成さず。



《語釈》
・獨:独(ひと)りだけで…する。
・酬:酒を酌み交わす、互いに献盃する。
・佇立:しばらくの間立ち止まっている。「佇」はたたずむ。
・神:心、精神。
・無奈:いかんせん。どうしようもない。=無可奈何。
・著:しるし。顕著な。きわだっている。
・摸:触る、なでる。 手さぐりする。
・妝:化粧。
・一半:半分。
・愁病:うれいのやまい。愁病(うれいやまい)。
・仍:やはり、依然として。そういうわけで。それゆえ。従って。
・剔:灯心を引き出して燈火を明るくすること。えぐる(人の心に激しい苦痛・動揺などを与える)、ほじる、そぎ取る。
・寒燈:さびしげな灯火。寒い冬の夜のともしび。心情を反映した語。高適(唐代の詩人)の「除夜作」に「旅澳燈獨不眠」の句がある。


《詞意》

私は行住坐臥唯独り、唱うのも呑むのもまた寝るのも唯独りです。
佇み立てばこころ傷み、少しの寒さも私を包んでどうしようもありません。

この思いを誰が知るでしょう、涙が化粧の半分を洗い流しています。
愁いによる病は相変わらずで、灯心を引き出し、悲しみをえぐり尽くして寒灯のもとに夢見ることもありません。



| (朱淑眞詞) | - | - | posted by 杉篁庵庵主 - -
7.江城子 賞春


 江城子      朱淑眞
   賞春

斜風細雨作春寒。
對尊前、憶前歡、曾把梨花、寂寞淚闌干。
芳草斷煙南浦路、和別淚、看青山。

昨宵結得夢夤緣。
水雲間、俏無言、爭奈醒來、愁恨又依然。
展轉衾裯空懊惱、天易見、見伊難。



《和訓》
  春を賞(め)でて
斜めの風に細き雨ふり 春寒を作(な)す。
尊前に対し、前の歓を憶ふ、曾(かつ)て梨花を把りしに、寂寞として涙闌干たり。
芳草断煙南浦の路、別れの涙に和して、青山を看る。

昨宵 結び得たるは夤(ふか)き縁(えにし)の夢。
水雲の間、俏として言無く、爭奈(いかん)せん 醒め来たり、愁恨又依然たり。
衾裯に展轉として空しく懊悩し、天の見るは易く、伊(かれ)に見ゆるは難し。



《語釈》
・春寒:春の寒さ。余寒。
・作:…とする、…にする。起きる、起こす。催す。
・對尊前:酒盃を前にして。飲むとき。・尊前:酒樽(さかだる)の前。樽前。
・憶:思い出す。
・闌干:涙などがぽたぽたと多量に滴り落ちるさま。 長恨歌の一節に「玉容寂寞涙闌干、梨花一枝春帶雨」がある。
・芳草:春の草。
・斷煙:ちぎれちぎれに立つ煙。靄。
・和: ‥ながらに。‥とともに。
・南浦、青山:地名ではなく、しみじみ心に沁みる自然の姿であろう。
・夤:敬い恐れる。深い。・縁:えにし。つながり。特に、男女の間のえん。
・水雲間:水と雲の間。天地の間。
・悄:ひそやか。静まりかえった、音のない。 物悲しい、憂うつな。
・爭奈:いかんせん。
・依然:前と変わらないさま。もとのとおりであるさま。
・衾裯:布団。布団とかけ布。・衾:ふとん。・裯:ベットのおおい。
・展轉:展転、寝返りを打つ。
・懊惱:悩みもだえる。 憂え悶える。憂える。
・天:空。季節。気候。
・易:たやすい、平易な。
・見:会う。 
・伊:彼、彼女。


《詞意》
  「春をいとおしむ」
斜めの風に細い雨がまじり 春の寒さを増しています。
盃を前にして、昔二人で梨の花を把って楽しかったを思い出し、
ひとりひっそりさびくしていると涙がぽたぽたと滴り落ちます。
春の草とちぎれる雲の南浦の路に、別れの涙ともに、青山を看ます。

昨日の宵 二人の深い契りの夢を見ました。
目覚めると、この世界は、ひそやかに静まりかえって、前と変わることなく、愁いに満ちていました。
ベットで寝返りを打って虚しく憂え悶えています。春の空を見るはたやすいのに、夫に会うことのなんと難しことでしょう。



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