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補4 青玉案 征鞍不見邯鄲路



 青玉案   李清照
  (「送別」と題するもある)
征鞍不見邯鄲路、莫便匆匆歸去。 (鄲=戰)(「歸」の字なし)
秋正蕭條何以度。        (正=風)
明窗小酌、暗燈清話、最好流連處。
相逢各自傷遲暮。        (逢=蓬)
猶把新詩誦奇句。        (猶=獨)(詩=詞)
鹽絮家風人所許。
如今憔悴、但餘雙淚,一似黃梅雨。 (雙=衰) 

             ( )内は異本


《和訓》
征鞍邯鄲の路を見ず、便(すなは)ち匆匆に帰り去る莫し。
秋正(まさ)に蕭条として何を以って度(すご)さむ。
明るき窓に小酌し、暗らき灯に清話するは、流れ連なれる処を最も好しとす。
相逢ひて各自遅暮を傷み。
猶新詩を把(と)り奇句を誦(ず)する。
塩絮の家風は人の許せる所。
如今憔悴し、但だ双涙を余すや、一に黄梅の雨に似る。



《語釈》
・征鞍:旅の馬上。
・邯鄲(かんたん):_亘名米酩瑤療垰圈8斗茵∋嚇譟山西を結ぶ交通の要衝に当たり交易が盛ん。趙(ちょう)の都。▲好坤爛靴忙る昆虫。雄はルルルルと美しく鳴く。「こときれてなほかんたんのうすみどり/富安風生」
(故事に「邯鄲の夢」や「邯鄲の歩(あゆ)み」〔=邯鄲に都風の歩き方を習いに行った燕の若者が、会得できないうちに自分の国の歩き方をも忘れ、はって帰ったという「荘子」の故事から自分の本分を忘れて他人をまねるものは、両方とも失うことのたとえ。〕などがある。)ここは「都」の意であろうか。
・便:即ち。そのまま、たやすく。「即」よりは軽い。(・やすんず、くつろぎ休む。)
・匆匆(そうそう):気ぜわしい、慌ただしい。
・蕭條:ひっそりとしてもの寂しいさま。
・何以:どうして、何をもって、何ゆえ、なにによって。
・度:過ごす。
・清話:俗をはなれたるきよきはなし。
・遲暮:だんだんととしよる。むなしく老ゆく。晩年。暮年·晚歲。
・猶:なお、いまだに。
・把:握る、手に持つ。
・誦:ずする。(経・詩歌などを)声を出し、節をつけて読む。
・鹽絮:詩の才能・美好の詩句をいう。
・如今:(過去に対して)今、今どき、近ごろ。
・双涙:両眼から流れる涙。
・黃梅雨:梅の実が黄熟する頃に降る雨。梅雨(ばいう)。


《詞意》
 「別れにあたって」
旅にあって都への道は見えません。すぐさま慌ただしく帰り去ることはありません。
秋は今将にひっそりともの寂しく、どのように過ごせばいいのでしょうか。
明るい窓辺でちょっと酒を酌み、ぼんやりした灯火の内におしゃべりして、この流れに身をゆだね帰らないでつきあう方がよいのです。
互いにめぐり会いそれぞれにだんだんと年寄るのを悲しみ、
いまだに新しい詩を手にし奇句を節をつけて読んでいます。
詩の才を持つ我が家の気風はあなたも許してくれるでしょう。
今、心痛にやつれて、ただただ両眼から涙が梅雨の如く流れてやみません。



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補3 浪淘沙 簾外五更風


 浪淘沙   李清照
  (「閨情」と題するもある)
簾外五更風、吹夢無蹤。
畫樓重上與誰同。
記得玉釵斜撥火、寶篆成空。
回首紫金峰、雨潤煙濃。   (煙=雲)
一江春水醉醒中。       (水=浪)
留得羅襟前日淚、彈與征鴻。

            ( )内は異本


《和訓》
簾の外に五更の風、吹きて夢の蹤(あと)無し。
画楼の重ねて上るは誰と同じくせむ。
記し得たり 玉釵の斜めに火を撥(か)きて、宝篆空しく成れるを。
首を回らすに紫金峰、雨に潤ひて煙濃く、
一江の春水は酔ひ醒めし中にあり。
留め得たる羅襟の前日の涙は、弾きて征(かへりゆ)く鴻(おほかり)に与えむ。



《語釈》
・五更:五更(午後7時から午前5時までを5等分する計時法)の五番目、五更(午前3時から5時頃)
・無蹤:形がない。
・畫樓:紅・緑や金色に塗られ、草・鳥・竜などの絵の描かれた楼。楼は妝樓、化粧部屋、婦人の部屋。閨閣。青楼。
・玉釵:玉のかんざし。(・玉:美称の接頭辞。)
・記得:おぼえている。
・撥火:火掻き、火をかき出す。
・寶篆:熏香の美稱。焚く時の煙が篆書(てんしよ)のようなことからいう。
・紫金峰:湖南省衡山県の西郊の奇峰。杜甫、韓愈も遊ぶという。紫金峰は安徽省の淮南市、福建省の上杭県、湖南省の炎陵県などこれ以外にも紫金山と称する山が多くある。
・江:湘江の流れ。
・羅襟:うすものの着物のえり。
・彈:はじく。


《詞意》
夜明け前御簾を揺るがして春の風が吹きすぎました。目覚めれば何の夢を見ていたことか、風に吹かれてしまったのでしょうか。
彩り鮮やかな館に私は誰と共にいればいいのでしょう。
思い出すのは灯火をかきたてて二人で、その香が燃え尽きるまで語り合っていたこと。
外に目をやりますと紫金峰の聳える奇峰は雨にけぶり雲も垂れ込め、
春の湘江の流れも酔いの醒めた目にぼんやり映るばかり。
昨夜の涙が春着の襟に留っています、あなたを偲び北へ帰る雁に弾き与えたいものです。




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補2 怨王孫  帝裡春晩



 怨王孫 李清照
  (「春暮」と題するもある)
帝裡春晚、重門深院。
草儚前、暮天雁斷。
樓上遠信誰傳、恨綿綿。
多情自是多沾惹。
難拚舍、又是寒食也。
秋千巷陌、人靜皎月初斜、浸梨花。



《和訓》
帝裡、重門の深院に春晩く、
草緑なる階前、暮るる天に雁断たれ、
楼に上れど遠信は誰の伝ふるや、恨み綿綿たり。
多き情けの自づと是れ多く沾(ひ)じ惹きて、
拚舍(すてさ)るに難く、又是れ寒食のとき也。
秋千巷陌、人静かにして皎(しろ)き月初めて斜むきて、梨花に浸(ひた)れり。



《語釈》
・帝裡:帝裏。禁裏。宮殿。みやこ。京城開封。
・深院:奥庭。中庭。・院は、塀や建物で囲まれた中庭。中国の伝統的な御殿は、塀と門で幾重にも区切られた庭園がある。 
・階前:きざはしの前の。階段の前。庭先。
・遠信:遠方の手紙。消息。
・綿綿:途絶えることなく続くさま。
・沾惹:招引。激惹。引き付ける、誘う。 ・沾:しみる、ぬれる。・惹:ひく。誘いこむ。
・拚舍:捨て去る。
・寒食:寒食節。旧暦三月三日。翌日は春分から15日後の「清明節」。陽暦の4月3日から5日頃。仲春の最後の日。熟食節、禁煙節、冷節とも呼ばれる禁火の時期。火を使わず既に出来上がりの食べ物や、生のものしか食べないという祭日。介子推が己を貫き焼死した故事によるという。
・秋千:中庭にあるぶらんこ。太陽のよみがえりをねがう儀式として寒食節にブランコに乗ったという。ぶらんこは、春を感じさせるものであった。寒食節にはお墓参り、ピクニックが行なわれるが、その他に闘鶏子(卵のぶつけ合い)、蕩秋千(ブランコ遊び)、打毯(ポロのようなスポーツ)、拔河(綱引き)などの風習がある。
・巷陌:通り、横町。・「秋千巷陌」で「庭も街も辺り一帯」の意であろう。
・皎:白い。
・浸梨花:白居易の『長恨歌』に「玉容寂寞涙闌干,梨花一枝春帶雨。」とある。美しい女が涙を流すさま。
・[詞牌の怨王孫について=補1と2は同形であるが、全詞集(49首)の22(湖上風來波浩渺)とは異なる。他の詞人の作形を見ると補1・2の詩形を言うようである。]

《詞意》
御所の幾重もの門の奥、その中庭に春が暮れていこうとしています。
庭先の草は緑を増し、暮れなずむ空に北へ帰る雁ももう見えなくなりました。
高殿に登ってみますが、遠方からの便りは誰が伝えてくれるのでしょう。怨みは途絶えることなく続いているのです。
溢れ出る想いは更に多くの愁いを誘いますが、
それを捨て去るのも難しいうちに、季節は仲春もおわる寒食節を迎えています。
ブランコの揺れる庭も街も辺り一帯、昼の賑わいから一転静かになって、白い三日月が西の空に傾き、白い梨の花に心浸されるように涙を流しています。




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補1  怨王孫



  怨王孫  李清照
  (「春暮」と題するもある)
夢斷漏悄、愁濃酒惱。
寶枕生寒、翠屏向曉。
門外誰掃殘紅、夜來風。
玉簫聲斷人何處。
春又去、忍把歸期負。
此情此恨、此際擬托行雲、問東君。



《和訓》
夢断たれ漏るるは悄たるに、愁ひ濃くして酒の悩まし。
宝枕寒を生み、翠屏暁に向かふ。
門外誰ぞ残紅を掃きしや、夜来の風なるや。
玉簫の声断つ 人は何処(いづこ)ならむ。
春も又去りて、忍び把(と)るは帰期の負(たのみ)。
此の情け此の恨み、此の際(きは)み行く雲に擬(なぞら)へ托(たの)みて、東君に問ふ。


《語釈》
・漏:ある感情にもとづいて声・表情などが思わず出る。
・悄:静まりかえった、音のない。物悲しい、憂うつな。
・惱:気持ちがはれない。
・寶枕:玉の枕。唐の李賀《春懷引》に“寶枕垂雲選春夢,鈿合碧寒龍腦凍。”の句がある。
・翠屏:翡翠をはめ込んだ衝立。
・夜來:昨夜以来。
・玉簫:玉で飾られた簫(縦笛を十数本並べた楽器)。
・把:握る。見張る、番をする。
・歸期:還ってくる時期。
・負:たのむ。
・東君:日の異名。春の神。


《詞意》
春の夜の夢は途切れ、物悲しい想いばかりが溢れ出て、愁いは増すばかり。お酒でも気持ちは晴れることなく、宝玉の枕も寒々と冷たく、ヒスイの屏風に暁の色が映っています。庭に残る花びらを誰が掃き清めたのでしょう。昨夜来の風でしょうか。
笙の笛も聞こえなくなりました。あの人はいま何処にいらっしゃるのでしょう。
春はまた過ぎていきます。お帰りの日を恃みに忍び待つしかありませんが、この想いこの恨みこの窮まりを流れ行く雲にたのみまかせて、春の神に語りかけています。




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